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小売DXを実現する、デジタル組織構築とリスキリング

株式会社カインズ 執行役員 CDO兼CIO兼デジタル戦略本部長兼イノベーション推進本部長 池照直樹 氏

生成AIの普及により、デジタル人材育成の再考が迫られる現在。小売領域におけるDX推進の第一人者・カインズの池照氏に、デジタル組織構築とリスキリングの要諦をインタビューしました。

株式会社カインズ
執行役員 CDO 兼 CIO 兼 デジタル戦略本部長 兼 イノベーション推進本部長
池照直樹 氏

※※本記事は、セールスフォースの動画シリーズ「 Reskilling for Transformation 」での収録内容を、2023年11月にインタビュー形式で再構成いたしました。

1. デジタル内製化の背景と、新たな組織づくり

カインズ DX戦略の取り組み

カインズでは、2019年にデジタル戦略本部を立ち上げて、そこからデジタル人材の採用を開始しました。当時のカインズは、売り場のオペレーションを軸に事業を回す伝統的な小売業でしたので、DXを推進する上では、「デジタルを活用してどう進化をしていくのか」という成長ビジョンをきちんと打ち出す必要がありました。

そこでまず私が作ったのは、顧客戦略であり成長戦略です。元々、小売業界の傾向として、店舗運営のなかで商品と向き合う商品戦略には積極的なものの、お客様に向き合う顧客戦略の側はあまり重視されていませんでした。

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カインズ デジタル内製化の背景、追求したベネフィット

私自身、2019年にカインズにジョインする前からIT業界での経験が長く、企業のIT活用において共通する課題を見出していました。たとえば、SIerに「アジャイル開発をして欲しい」とお願いしたとしても、彼らとしてはそのやり方では動きにくい。要件定義で最初のスコープを定めて、さらに詳細設計を重ねてまたスコープを決めて、と順繰りにやっていかなければ、発注者と受注者の間で齟齬が起きてくる。こうした伝統的なやり方では、実験的な開発が難しいため、開発プロセスそのものを変えていく必要があると、常々強く感じていました。

システム開発の現場では、発注側と開発側の間で、契約関係のあるなしというのはとても大きなポイントです。仮に発注者側の社内で「完成度5割でデリバリーしていいよ、とりあえず作っちゃいなよ」といったことができたとしても、外部のSIerさんの側では当然そういう風には動くことはできません。きっちりとお互いに「ここまでだ」と詳細を合意しておかないと、契約上の齟齬が生じる。すると当然、開発の前段階の準備とコミュニケーションコストがとても高くなる。

そこで、カインズでは、内製化の戦略を採用することにしたわけですが、そこではあまり受発注のようなカチっとした関係でない方が、開発のプロセスも柔軟に変わり、いいアウトプットが素早く構築できるようになってきます。

また以前は、ハードウェアの調達は1年半くらい待つこともあり、とても大変な業務でした。そこではサイジングも先に全て完了する必要があったのが、今ではクラウドでポチッとやるだけでいい。小さい単位でつくったのちに、サイジングしていこうという時代になっていますよね。そうした環境の変化が、内製化を後押ししている側面もあります。

デジタル内製化の推進では、採用活動に最大の時間を投じる

ただし、いざ内製化を開始すると言っても、2019年当時のカインズのような小売企業は、エンジニアからすると遠い存在で、採用の募集をかけてもあまり来てくれませんでした。

それでも採用を進めるなかで、面接での時間配分にはこだわりました。1名あたり1時間のうち、30分は私から成長戦略とビジネスプランを話す時間、15分は候補者のキャリアプランを2人で相談する時間にしていました。いま何ができるのか、候補者がやりたいことのなかで、カインズとして用意できるポジションがあるのかどうか、それをお互いに語り合います。

そうして採用活用を始めて最初の3カ月ぐらいは、ほぼ毎日、1日5名ずつほど採用面接に、私自身の業務時間を充てていました。成長戦略とビジョンはもう固まっている自負はありましたが、それが実現に向けて動かない理由は「人」のみ。そうした状況のなかでやるべきこととして、一部システムの要件定義などはありましたが、それは1日1,2時間もあれば充分で、それ以外の私の時間はすべて、採用です。合計で300人くらいは会っていると思います。

2. 既存人材へのリスキリングの実践

小売の現場で活躍してきた人材へ、デジタル/戦略/コミュニケーションを徹底教育

採用活動を積極的に進める一方で、私がデジタル戦略本部をつくったときには、販売本部から3名、来てもらいました。販売本部とは、店舗のエリアマネージャーといった、まさに小売の現場のど真ん中の属性の人たちです。

当時は、会社自体がデジタルへのアレルギー傾向もあったのですが、来てくれた3人も、皆がデジタルアレルギーでした。

また、顧客戦略やお客様のためのサービスを磨いていこうとなったときに、そもそもの「プランニング」の経験がありませんでした。どちらかというと脊椎反射で動くのが小売の現場です。何かあったらすぐに動く、それが美徳ですので、あまり座って仕事をしたことがない。長期で計画して、順序立てて進めていくことがおそらく苦手だろうと思い、その3人を徹底的に鍛えました。先に触れたように私は当時、採用面接を1日5時間こなしていましたが、残りの3時間は、ほぼその3人のために充てていました。「プランニングとは」「ストーリーとは」「成長戦略とは」、そうしうたものを、3〜4カ月間、叩き込む。

そうしていくうちに、採用活動によりエンジニアも入社してきて、そのエンジニアと相談しながら、成長に向けた新たなソリューションが出てくるようになりました。

これらの変化により、社内で円滑なコミュニケーションが取れるようになったり、またとても短いサイクルでモノができるようになっていきました。

そこからまた、一部の人員を他部署にも出しているので、アメーバ状に周囲に新しいノウハウを伝えていくこともできます。私の部署で培った考え方やプロセスを、そのメンバーがそれぞれまた別の部署で布教してくれる。

そこでは、社内のことでもあるので、ビジネスサイドとエンジニアとの関係性において、一般的な受注・発注関係は存在しません。

ビジネスサイドが社内に発注して、社内のベンダーコントローラーが、外部に発注して、そして元請けのシステム会社がさらに下請けに出して、と続く「丸投げの無限ループ」が起きている企業も数多いですが、そのループは、食い止める必要がある。

まず初めに、発注・受注の関係では、たとえ社内でも、必ず「上」と「下」ができてしまう。私たちが向き合うべきは会社の収益を上げるための1つのベクトルで、会社のためになるアクションには上下などないはず。そうした気運を演出することも、内製化の組織づくりにとって、とても大事なポイントです。

私も以前、SAエンジニアだったのですが、理不尽なビジネスの在り方を経験することがありました。何も知らない人がとんでもないことを言っていることも多いですし、そうしたものはエンジニア側からしてみれば理不尽なものでしかありません。

開発者側が「こうやったほうがいい」と思っているのに、発注者側から「いやいやこれだよ」と言われて、「あなたは現場を知っているんですか?」と反論したいケースが絶対にあるはずです。こうした理不尽さを、現場から取り除いていくことが重要なのです。

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3. ビジネスサイドをリスキリングし、開発者サイドと一体化する

ビジネス人材をデジタル人材へとリスキリングすることのインパクト

通常、外部のSIerとの業務では、発注者側であるビジネスサイドは、要件定義の締切までに「想定できる要件をすべて漏れなく網羅しておかなければ、あとから問題が生じる」というようなプレッシャーに追われています。

それが内製化を経て、ビジネスサイドの人材にデジタルやシステム開発を学んでもらうことによって、ビジネス側と開発側が同じ目線で、業務を進められるようになってきます。仮に、要件定義の一部が漏れたとしても「大切な仕様なら、あとから3日くらいでやってくれる」というような安心感が、相互に生まれてくるのです。

また、内製化によってアジャイルにプロトタイプを生み出せるようになると、現物を見ている安心感があるので、機能や要件を過剰に想定した「あれもこれも付け加えて欲しい」という依頼が減ります。ビジネスサイドが「一番欲しい機能から順番に欲しい」と言うようになってくるので、10個くらいの開発が終わると「これで充分」となってきて、不必要な機能を追い求めることもなくなります。

あとは例えば「一見すると簡単そうに見える仕様なものの、開発にはとても工数がかかる」とエンジニアが判断した場合、ビジネスサイドの人が「そしたら店舗の現場を調整してくる」と打ち返す。無理やりシステム開発側に仕様を投入することがなくなってくる。

お互いに健全にプッシュバックしあえるラリーのような関係性が生まれ、日々、小さなプロダクトをつくり、それが徐々に育成されていく感じですね。

現在のカインズは、開発が早い方だと思うのですが、その理由は作っている量が少ない、不要なものを作っていないことに理由があります。

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「リソースシフト」による成果を生み続けるリスキリング

メンバーの1人が店舗の生産性改革を行なっていて、彼とエンジニアの関係の中で、ここ2、3年で、数十万人時はコストが減っているのではないかと思います。

無駄な作業が店舗からそぎ落とされるので、その浮いたリソースを違うものに充てる。目に見えるキャッシュに変えている部分は少ないのですが、業務に投じるリソースのシフトという意味では、大きな成果が出ています。

内製全体でいうと、開発能力を同じコストで2倍ほどに引き上げていると思います。これまでは、伝言ゲームで二次外注・三次外注となっていたものが、すべて自分たちの組織の内部に入ってくるのは、大変有意義です。

ビジネス人材をリスキリングすることで、風通し良く、ビジネスサイドと開発者サイドを融合するようなことが起こっています。これはとても大事なポイントですね。

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リスキリングに際する留意点

リスキリングはこのように効果が大きいのですが、あまりに大きなギャップを設けたり、ターゲットを高くしすぎると、やる気をなくすことがあります。「私にはできない」となってしまうのですね。

自分が成果を出せていないのは、実は本人が一番よくわかっているので、成果を出せないときに、出せるように改善していくためには、どういう仕事をさせたらいいのか、という点は、私自身すごく考えます。

コーディングができるとして入ってきたものの、大してできない人もいます。もしそうであれば、その人はローコードでの業務をこなしてもらう、あるいは、UXに近いフロントエンドのエンジニアとして入ってきたものの、実はそうした柔軟なものが苦手で、よりカチッとしたものが得意だったりする人材には、APIを担当してもらう、等々。誰でも「できること・できないこと」があるので、あまりジャンプさせすぎず、各自にフィットしたタスクを割り当てることが大切です。

プロ技術者へのリスキリング

プロフェッショナルのリスキリングも必要です。中途採用の開発側のメンバーは、受発注の契約関係に慣れているため。どうしてもビジネスサイドからの依頼を「待ってしまう」場合もある。そういった人たちを、いつでも前に出していくための力学が必要になります。

例えば発注システムの開発では、「何を、何個、いつまでに、ここに収めてください」と与件はシンプル。会社によっては違う枝葉の機能はついているものの、世の中の発注システムの9割5分は、エンジニアならどのようにできているのかわかっているはずです。そうしたものは、開発側が自発的に作れるようになって欲しい。まずはある程度は先に作っておいてもらって、そこからビジネスサイドの要望を汲み上げる質問として「何を付け加えますか?」と、開発側から問いかけるようになるのが理想です。

リスキリングした人材の外部流出へのスタンス

研修を続けてきた社員が、辞めてしまう怖さはありません。カインズで立派になって辞めていくのであれば、それはしょうがない。

会社側が、そこで働きたいと思える、いわば「おもちゃ」としての事業環境を提供できていないと、人は辞めていきます。そのため日々、新しい勉強ができている状態などを演出していくことがとても大事だと思います。

あと、人材の流出を防ぐためにできることがあるとすれば、良いプロジェクトを与えるとともに、仕事における「理不尽さ」をどれだけ取り除いてあげられるか、といったことも重要ですね。

カインズのデジタル人員体制の現在

2019年にゼロからスタートしたカインズのデジタル組織構築とリスキリングを経て、2023年時点で、カインズでは、国内では、エンジニアを中心として、デジタルマーケティング人材も合わせると、デジタル部隊全体で数百人規模の体制を組んでいます。国内に加えて、インドでのオフショア開発体制も拡充しており、「カインズ・オフショア・デベロップメントセンター」を設立し、現在「スクラムチーム」というものがあり、それはインドチームと日本チームの混成です。いつも日本のお客様にお使いいただいているカインズのアプリは、インドの人と一緒に作っているのです。

AI時代のリスキリングで、未来を再創造する

生成AIの普及により、デジタル人材育成の再考が迫られる現在。AI人材育成の第一人者、日本ディープラーニング協会の岡田氏が考える「AI時代のリスキリング」をご紹介します!

異なる能力を組み合わせて、チームとして大きなケイパビリティをつくる

組織づくりにおいて、最もマネジメントが楽な状態は、大きなスターチャートがバランス良くできているタレントを集めることですが、では、そういう人やチームはどこにいるのかと。そもそも、何かの能力が欠けている個人には、一方で確実に尖っている能力があります。そうした個々人の能力を組み合わせていくのが、マネージャーやリーダーの役割です。

スターチャートがきれいにバランスが取れた完璧な人材が仮にいたとしても、その正六角形を維持したまま、その面積を小さくしたのではあまり意味がない。それはケイパビリティが減るということでもあります。

小さくまとまった個人を育てることを目指すのではなく、どこかが尖っている人たちを相互に組み合わせることで、チームとして大きな正六角形をつくっていく、そのように、私はいつも心がけています。

4. AI時代の組織とマネジメント

生成AIの活用と、新たな組織への変革

当社で生成AIを活用しているコンタクトセンターでは、FAQで受けた質問と答えをChatGPTに読み込ませてみると、きちんと返してくれますので、非常に有用性が高いです。

コンタクトセンターにも人材難があり、採用も大変なのが現状です。さらに、カインズでは扱う商品点数が膨大で、ネジやドリルなどには個別の商品特性があり、またそれぞれの商品サイズ・梱包サイズ・商品説明などへ、さまざまなお問い合わせがあります。そうした質問に、オペレーター個々人が、個別に何度か回答しているはずですが、それをコンタクトセンター全員で共有することは難しいです。そうした状況においては、生成AIが使えるところがたくさんあると考えています。

今後、AIが進化すると人が不要になるのではないかという話もよくあります。もちろん不要になる業務はいくつか出てくるとは思いますが。そもそも人がいなくて困っている部分があるので、そこが楽になると考えています。

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AI時代にマネジメントはどうあるべきか?

AIの時代だからAIを学ぶ、というよりも、こうした時代だからこそ、経営陣やマネジメントは、経営理論という「座学」をもっと学んだほうがいいと考えています。現場からの叩き上げのメンバーでは知り得ないものを知る、ということです。

もちろん、技術トレンドを踏まえて、理屈に合っていないものや時代に合っていないものを自身ですぐに感じられる状態を維持することは非常に大事です。そうなっておけば、新しいものにも感度が高くなっていくでしょうし、「前は良かったけれど、今の時代にはもう違う」と時代遅れになったことにも適切に対処していくことができます。

ただ、いま最新の技術である生成AIが経営陣に対して「売上が低いから、これを売りなさい」と言って、実際に業績が良くなるのであれば嬉しいですが、まだそういう時代にはならないでしょう。技術トレンドへの感度を持ちながら、現場と同じことを学ぶのではなく、経営陣やマネジメントが学ぶべきことを、私たちがきちんと勉強する必要があると考えています。

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