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リーディングカンパニーHITACHIに学ぶ大規模リスキリングの実践

グローバルに躍進を遂げる日立グループの成長は、全世界での緻密な社員教育プログラムに支えられています。日立アカデミーのトップ・迫田雷蔵氏が、大規模なデジタル人財育成とリスキリングの全容を語ります。

※本記事は、セールスフォースの動画シリーズ「 Reskilling for Transformation 」での収録内容を、インタビュー形式で再構成いたしました。

今回、株式会社日立アカデミー取締役社長の迫田雷蔵氏をお招きし、日立グループの人財戦略と、いま企業が取り組むべきリスキリングのあり方について語っていただきました。

「日立アカデミー」設立の経緯

日立では、2011年に社会イノベーション事業のグローバル展開と人財マネジメント体制のプロジェクトがスタートしました。私自身、日立では人事畑一筋で国内外でキャリアを積んできましたが、このプロジェクトで制度作りと実装に取り組み、日本での働き方改革と新しいマネジメントスタイルの導入を推進しています。

2017年には、日立総合経営研修所の社長に就任。その後、グローバル展開とデジタル化のニーズに応えるため、2019年に3つの研修機関を統合して日立アカデミーを設立しました。日立アカデミーは、日立グループの人財育成を担当し、500名以上の従業員が所属しています。特に、一貫した人財戦略の策定から研修までを手掛け、グローバルリーダーの育成とデジタル対応力の強化を重視していることが特徴です。

グローバル統一での人財マネジメント基盤の構築

2011年当時は、日本の企業でグローバルな人財育成を経営戦略として扱うことは一般的ではありませんでした。我々がまず推進したのはグローバルな人財データベースの構築ですが、日立は世界でグループ会社が1,000社ほどある分権化された会社で、グループのトップの意向で全てが決まるわけではなく、各社に世界共通での人財マネジメントのメリットを伝えて理解を求めるプロセスは、非常に大変でした。

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どのような体制を目指したかというと、「グループ全体の共通方針」「各国の特色を反映した方針」「各社の独自性を維持する方針」、これら3つの層への分類を行いました。たとえば、旅費・年金・健康保険などは国ごとに異なるため、それぞれの国の実情に合わせますが、一方で、人財データベースやグレードなどはグループ・グローバル共通での人財マネジメント基盤を設けて、統一化を進めてきました。

その結果、以前はグループ内の異なる事業会社間で共通の話題や課題について議論することは少なかったのですが、新しい制度の導入に伴い、たとえば家電部門と建設機械部門が一緒にパフォーマンスマネジメントについて議論するような機会が増えてきています。

日立グループのデジタル人財育成

我々のデジタル人材育成のヒストリーを、ここで紹介したいと思います。

2011年に社会イノベーション事業のグローバル展開がスタートしましたが、2016年時点でも社会イノベーション事業の具体的な内容に対して、日立グループ全体で共通の理解がないことが課題でした。そこで、社会イノベーション事業の実案件を持ち寄って、どこをどう変えれば良いのか、幹部や経営層含めみんなで議論し、そのエッセンスを抽出してケーススタディにすることで、教育に役立てました。2017年にはそのエッセンスを基に、フロントラインの人財育成プログラムを開始し、2018年からはハンドブックやeラーニングを通じてより多くの人に理解を深めてもらう活動を展開しています。

私たちのアプローチの特徴は、仕事の経験からエッセンスを抽出し、それを形式知としての教育に落とし込む点です。これにより、経営層と従業員の共通の理解と方向性を持つことができ、順調に人財育成を進めることができました。

3つの研修機関を統合した「日立アカデミー」 OT×IT×プロダクトで生まれる相乗効果

2019年の日立アカデミー設立に際しては、日立総合経営研修所、日立総合技術研修所、日立インフォメーションアカデミーの3つの研修機関が統合されました。日立総合経営研修所は、1961年に日本初のコーポレートユニバーシティとして誕生し、経営やビジネスを主に担当しています。日立総合技術研修所はプロダクトやオペレーショナルテクノロジー(OT)の研修を中心にしており、情報教育は日立インフォメーションアカデミーが主導しています。我々が目指すのは、OT、IT、プロダクトの3つを組み合わせた新しいビジネスモデルの育成です。3つの研修所が協力することで、より質の高い研修を実現できると感じています。

2019年には、DXに関する研修体系を整え、約100のコースをリリースしました。2020年には、多くの人々にDXに関する知識を持ってもらうための「デジタルリタラシーエクササイズ」という研修を提供し、述べ16万人以上の受講者が利用しました。さらに、2021年にはデジタルエンジアニングのグローバル企業、GlobalLogicが加わりました。これにより、私たちはより多様なメンバーとの連携を強化しています。現在は、デジタルリテラシーエクササイズに続く形で、DXをリードする人財の育成に注力しています。

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グローバル展開を重視した人財育成

現在、日立グループの従業員の約4割は日本人、残りの6割は海外の社員で構成されています。製造のみならず、海外には多くのエンジニアやビジネスを推進する人財が在籍しています。以前は日本中心の人財育成が主でしたが、現在はグローバルな活動に注力しています。特に、DXリーダー向けの研修など、多くのプログラムが海外で立ち上げられています。これらの研修やプログラムは主に英語で行われ、日本人メンバーも海外の同僚とディスカッションを重ね、相互に学びあっています。

日立が目指すジョブ型人財マネジメントとは

重要視しているのは、ジョブ型の人財マネジメントの取り組みです。海外ではこれが一般的ですが、日本でも経験者採用やベンチャー企業などではジョブ型採用が一般的です。大企業でもそうした採用が増えてきており、新卒入社後のローテーション人事によるメンバーシップ型人事の時代は終わったと感じます。

ジョブ型人財マネジメントに取り組む際に重要なことは、個人の能力強化にあります。キャリアは会社ではなく個人が主導するべきであり、それに必要なスキルやキャリアの方向性を自ら考え、自分を成長させていく、そんな時代に今は変化してきているのです。

リスキリング推進のための4つのポイント

私たちは従業員のリスキリングを推進する際、4つの主要な課題を特定しています。

1つ目の課題は、従業員自身の意欲を引き出すこと。本人が自発的に行動を起こさない限り、成功は難しいです。本人の背中を押すことが、ジョブ型人財マネジメントでの重要な取り組みです。

2つ目は、上長への支援です。従業員へのキャリアドバイザーやカウンセラーとしての役割を上長が果たせるように、マネージャー・トレーニングを行う必要があります。

3つ目は、従業員が学びたい内容を即座に学べる学習コンテンツを豊富に提供することです。

4つ目が、そうした学びを継続的に行う習慣を育てることが必要で、そこで導入したのが「LXP」です。

AIについて気軽に学ぼう!6つの学習コースをご紹介

生成AIの登場は、たちまち人々の関心を集め、さまざまな用途が取りざたされています。Salesforceの無料オンライン学習プラットフォームであるTrailheadでAIについて学び、必要なスキルを習得するためのコンテンツを紹介します!

学習体験プラットフォーム「LXP」とは

LXPとは”Learning Experience Platform”の略で、従業員が自らの現在のスキルレベルや希望する職種を登録すると、AIが適切な学習コンテンツをレコメンドしてくれるシステムです。さらに、プラットフォームのなかにコミュニティ機能があり、学びをシェアすることが可能です。

具体的には、世界で高く評価されているDegreedのLXPを採用しました。また、学びたいときにすぐに学べるように、LinkedIn LearningやgoFLUENTといったプラットフォームとも提携しており、LinkedInには20,000以上のコースが提供されています。また、複数言語の学習もサポートしており、スマートフォンからでも利用可能です。

ただ多くのコースやプログラムのなかからコンテンツを選びきれない懸念点も考慮し、日立アカデミーのメンバーが「パスウェイ」を設計することで、学びの継続をサポートしています。

マネージャートレーニングの実際

これらの取り組みのなかでも一番大きな課題として感じたのは、マネージャー層の役割の変化です。従来型のマネージャーは、入社1年目・2年目などの年次、あるいは主任や課長などの役職ごとに一律で人財の管理を行うことが中心でした。ところが、現在では、個々人が異なるニーズやゴールを持つようになったため、マネージャーがキャリアアドバイザーとして関わることが必要となってきました。この変化は非常に大きいです。 

この結果、中間管理職の負担や責任が増しているため、日立アカデミーではそうした層をサポートするためのトレーニングプログラムを導入しました。2022年には「ピープルマネジメント力 評価研修」を実施し、日立製作所の部長クラス約1,600名が受講しました。2023年には課長やグループ会社の部課長層を対象としたトレーニングを展開しています。 

具体的には、ジョブ型の職務やキャリアアドバイザーの役割を、実際の演習を交えて学びます。 トレーニングを受けた中間管理職は、年に何度か行うパフォーマンスマネジメント面談時に、部下の希望を確認し、上長がそこにアドバイスをすることで、部下本人が自分自身の育成計画を練っていけるようなサポートを行います。

学び合いのカルチャーが生む成長の好循環

2022年、私たちはLXPを導入し、その活用を促進する取り組みを行いました。現在の課題は、ユーザーに継続的に利用してもらうことです。さらに、組織内で学び合うコミュニティを形成し、組織を越えた学びの場を作ることを目指しています。語学など一般的なものとは異なり、私たちが取り扱う高度な技術に関しては、その技術を持つ人たち同士の学びが非常に重要だと考えています。

具体的には、データサイエンス部会やプロジェクトマネジメント部会など、お互いに学び合う場や情報をシェアする場がLXP内で形成されています。業務を通じての出会いだけでなく、特定のスキルを学びたいという共通の目的で、組織内の様々な人たちが繋がり、学びが加速しています。

リスキリングは全社員が対象

リスキリングでは全員が学びの対象です。部長や課長も、自らのキャリアを形成し、必要なスキルを獲得できるような取り組みを進めています。これまで教育というと、若手が主に受けるものとされていましたが、LXP導入により、学び放題の環境が整い、私と同じ世代のメンバーも積極的に学びを深めています。学びは年齢に制限されるものではなく、いつまでも続けることができると確信しています。

こうした一連の取り組みの結果として、経営戦略における数値目標としては、中期計画で設定したデジタル人財育成の目標はクリアしてきています。リスキリングプログラムの方は、ベンチマーク先の2倍程度の活用率で推移しています。

AI時代に持つべきビジネススキル

生成AIについて、現在非常に大きな注目が集まっています。生成AIは、蒸気機関や印刷機の発明に匹敵するほどの革命的な変化をもたらすものとして捉えています。そこで我々は「Generative AIセンター」を立ち上げ、この技術を最大限に活用する方法を模索しているところです。

今後は生成AIをうまく活用し、適切な答えを得るために、どのような問いを立てていくかが非常に重要になります。問いを立てるスキルは、既に経験やノウハウを持つ人々にとって特に有益であり、若手だけではない幅広い層が今後生成AIを学んでいくことで、より高度な回答が得られるようになると期待しています。

リスキリングに向き合う企業担当者と従業員へのメッセージ

企業側の方々には、「人は大事」という掛け声だけでなく、具体的な行動として人への投資を続けることの重要性を強調したいです。日本は他国と比較し、人への投資が減少している傾向があり、これが生産性の違いにも影響しているのではないかと感じます。さらに、現在は人的資本経営の理解が深まってきていますので、人への投資を継続することが不可欠だと思います。

一方、従業員の方々には、キャリアの形成は自分次第という意識を持って欲しいです。現代は「人生100年時代」と言われ、一つの企業に留まるだけではないキャリアの形成が必要です。また、同じ会社にいても必要なスキルは変わってくるため、自ら学び続ける意識を持つことが大切だと思います。

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