今回は、年次シリーズ「Salesforce Predicts (英語) 」の第6回となります。世界中のSalesforceエキスパートが小売業とコマースの今後1年間の動向を予測します。
これまでの12か月間、組織の活動はまさに壊滅的でしたが、ここに来てようやくオートメーション、拡張性、効率アップに取り組み、梱包ワイヤーとマスキングテープで封印されていた多くのイノベーションを強化する機運が高まっています。2020年は、小売業における多くのトレンドや予測 (英語) がことごとく外れた一方で、小売業者のレジリエンス(回復力)の重要性を学ぶことができた1年でした。
パンデミックの直接的な結果として発生した多くの驚くべき事実の1つとして、年末商戦でデジタルショッピングの売上高が前年比50%増というかつてない伸びを記録しています。さらに、カーブサイド、店頭、ドライブスルーなど、独自の商品受け取りオプションに対応した小売業者は、クリスマス直前の5日間で、受け取りオプションに対応しなかった店舗より60%以上高い成長率を達成しています。一方、買い物客は、ソーシャルメディアで商品のイメージを得るだけでなく、ソーシャルチャネルの参照元から商品を購入するようになり、104%増という圧倒的な成長率 (英語) を記録しています。しかしこれは変化の序章にすぎません。
新型コロナウイルスによる大規模な混乱と変化する消費者の期待を受けて、小売業者はデジタル変革の加速を検討しています。実際に、500人の小売業のリーダーを対象として昨年の夏に実施したSalesforceの調査によると (英語) 、76%はテクノロジー支出の増額を計画しており、44%は増員を予定しています。
私は、Salesforceのソートリーダー(思想的リーダー)たちに、あらゆる期待が打ち砕かれた昨年の観測結果の総括と、小売業の究極のトレンドについてのコメントを求めました。共通のテーマとして、今後も続くデジタル化の傾向、実店舗の役割の変化、ロイヤリティの向上、経験の価値などを挙げています。以下、リーダーたちのコメントをご覧ください。
1. エッジでのショッピングの持続と拡大
アンナ・ローゼンマン、マーケティング/Commerce Cloud/Experience Cloud担当バイスプレジデント
『Eコマース最新事情』では、小売分野におけるパフォーマンスの高いチームの66%が物理的なショッピング体験のさまざまな側面をデジタル化している現状をお伝えしました。また70%以上がライブチャット、ビデオ、ライブストリーミング、ソーシャルショッピングの実験的な取り組みを行っていました。Salesforceでは、この現象を「エッジでのショッピング (英語) 」と呼んでいます。
今後は、パフォーマンスが高いチームの88%がデジタル体験への投資をさらに増額すると答えていることからも、オンラインゲームなどの新たなチャネルでEコマースが普及していくと予想されます。対面販売を重視していたビジネスも、既存顧客や新規の見込み客への販売窓口としてデジタルの導入を進めると思われます。
さらに、2021年には、便利な決算サービスや組み込みサービス、ロイヤリティなどの購入後のデジタル体験 (英語) が、顧客を保持するための優先事項になると考えられます。また、購入ボタン以外で取得したデータも、カスタマージャーニーを広い範囲で強化することになります。こうしたファーストパーティデータ (英語) は、小売業者によるセグメント化の改善とパーソナライズされたマーケティング提供に役立ち、新たな見込み客の獲得、より合理的なEコマース体験の提供、顧客生涯価値の向上に貢献するはずです。
2. 一貫したストーリーテリングが左右するソーシャルコマースの勝敗
ビノッド・クマール、コマースインテリジェンス担当製品管理ディレクター
アンナ・ローゼンマンが上で述べたように、2020年の最大の収穫は、ほぼあらゆる分野で快適なオンラインショッピングが可能になったことです。ほんの数か月前までは「あると便利」だった機能が、生き残るために「なくてはならない」ものになりました。「非接触」と「カーブサイド・ピックアップ(オンラインで注文した商品を店舗の駐車場で受け取るサービス)」がキーワードです。
ソーシャルコマースは大いなる啓示でした。TikTok投稿者が30秒フレームのシャッフルダンスやサイレンジャムを追い求める一方で、すべての主要ソーシャルが「囲い込み (英語) 」を行い、一種のコマース機能を果たしています。2021年にはソーシャルコマースが真価を発揮します。これはもはや予測ではありません。CivicScience (英語) によると、ソーシャルメディアから製品を直接購入したことがある米国成人の割合は、2018年第4四半期の13%から2020年第3四半期には25%に増加し、この2年間でほぼ2倍になっています。
私は、ソーシャルという名の金脈を求める小売業界において、「一貫性」こそがゴールドラッシュの勝者と敗者を決め、流行を生み出す者と流行を追う者を分ける重要な要素になると予想しています。
優れた製品を優れたソーシャル体験で提供し、それを支える一貫したストーリーテリングと物語のあるブランドが勝利を収めます。一貫性のない雑多なコンテンツで参入しても、勝利は得られません。
3. 物理的な体験が元の状態に復帰しても、状況は変わらずデジタル優先
マット・マルコット、インダストリー部門ゴー・トゥ・マーケット担当シニアバイス・プレジデント
「2020年は、変化を余儀なくされた1年でした。新たな分野を強化し、新しいチャネルを試し、物理的な接点をデジタルの接点に切り替える必要がありました。すでに兆しが見えていた変化の流れが加速しましたが、世界が元の状態に戻れば、人工的に作られたものには急速な揺れ戻しがあるでしょう。さらに、生活を容易で便利にし、スムーズにするために、テクノロジーに対する依存がますます大きくなると思われます。しかし、物理的な体験もなくてはならないものです。人と人との触れ合いは、感情的なつながりを生み出す力強い要因であり、パンデミック下でもっとも抑制されてきた感覚でもあります。
ブランドは、店舗戦略を「効率」と「体験」という2つのレーンに分けて考える必要があります。「効率」とは、オンラインで購入した商品を店頭で受け取るサービス(BOPIS)やカーブサイドのミニ流通サイトとして店舗を使用する考え方です。これは「ラストワンマイル(商品を顧客へ届ける物流の最後の区間) (英語) 」を容易にし、デジタル世界の買い物客を製品やサービスとつなぐものです。一方、「体験」とは、顧客を刺激し、興奮させ、マルチセンサリー(多感覚型)ジャーニーへと導き、ブランドアフィニティ(ブランドへの親近感)やアドボカシー(熱心なブランド支持)、ブランド意識を増幅させる考え方です。既存の店舗、ポップアップ、ブランドコラボレーション、イベントは、際立って感情的な体験を構築するためにブランドが注力できる分野の一例です。
このように店舗でのショッピングが元の状態に戻ったとしても、「デジタル化」への流れは止まりません。平均すると、私たちは1日のうち12時間、特に起きている時間帯の大部分はテクノロジーに接続しています (英語) 。つまり、私たちはあらゆる場所でコンピューター、デジタル画面、モバイルデバイスの影響を常に受けているということです。ブランドはこの現実を受け止めて、すべてのタッチポイントをつなぎ、互いに競合することなく補完し合う体験を構築する必要があります。
商品に関するオンライン情報を携帯電話で確認しながら、店舗でショッピンする場面を想像してください。画面を見ながら商品の陳列場所に迷わず向かい、目的の商品を労することなく購入できます。ゲーム『Fortnite』で、アバターに現実世界のデザイナーの衣装を着せてプレイしたり、ゲーム内でデザイナーからその衣装を自分用に購入できたりしたらどうでしょうか。今後の体験に求められるのは、こうしたシナジー効果です。そして、テクノロジーを駆使して顧客体験をつなぐ方法を見つけることができるブランドと小売業者が勝利を手にすることになります。
4. パーソナライズが基本の新たな時代
アレックス・ドリンカー、リテール部門ゴー・トゥ・マーケット担当グローバルリーダー
2020年は、小売業が変貌を遂げました。デジタル化が大規模に加速したことで、サプライチェーンから顧客エンゲージメントのテクノロジースタックまで、業界全体ですべてを見直す必要が生じました。ほとんどのケースで、小売業者は、この新しいデジタル化した消費者 (英語) の要望に応えるために必要な要素に気付き、現実との間にあるギャップを感じることになりました。この消費者行動の変化は、あらゆる分野でカスタマージャーニーを改善し、今後も改善していくきっかけとなります。さらに、一部のリーダーは従来のビジネスモデルの再評価を余儀なくされています。
しかし、2021年は、単なるデジタル消費者の年にはならないでしょう。2021年は、豊富な情報を獲得したコネクテッドカスタマー、すなわちパーソナライズ、サービス、あらゆるチャネルで取引できることに対して高い期待 (英語) を抱く消費者の年になるでしょう。79%の消費者は、企業が提供する顧客体験はその企業の製品やサービスと同じくらい重要だと答えています。
こうした点を踏まえて、2021年には、実店舗がほとんどの小売業者にとって最も重要なチャネルになると予想します。逆に、デジタルネイティブのブランドにとっては、店舗が新たな成長チャネルになるでしょう。
この年末商戦では、全注文の3分の1弱がデジタル経由でした。これは2019年の2倍以上の数字です。しかし、全注文の3分の2はオフラインチャネル経由のままでした。この割合は、今後すぐに変化することはないと思われます。
つまり、オムニチャネル体験には、さらなるパーソナライズとシームレス化を進める余地があります。さらに、ブランドが新しいエンゲージメントチャネルを構築する際は、そのチャネルで顧客が求めるあらゆる要望に対応することが前提となります。たとえば、買い物客は、SMSの会話を通じて、プロモーションオファーを受け、取引を行うだけでなく、小売業者へのサポートも依頼したいと考えます。顧客はオムニチャンネルの仕組みを知らないまま、自らの自然な行動によって、小売業者にオムニチャネルによる対応を求めているのです。
さらに、こうした要素から、パーソナライズはまったく新しい意味合いを持つようになります。消費者は、キュレーションの行き届いた体験を得るために、自分の個人情報を進んで提供します。10,000人の顧客にお気に入りのブランドの差別化要因について質問したところ、最も多かったのは「自分だけのニーズを満たしてくれること」という回答でした。こうしたニーズを満たすために、より多くの小売業者が十分に検討された人工知能(AI)戦略を導入し、パーソナライズを大規模に推進するようになると予想されます。
5. ラストワンマイルの見直し
JR・リン、リテールインダストリーソリューション担当グローバルディレクター
ラストワンマイルには、さらなる調整が必要です。2020年の年末商戦でラストワンマイルによる制約が表面化した結果、小売業者は商品を顧客の手に届ける方法を見直すことになりました。食品配達の範囲を越えて拡大している (英語) DoorDashやGrubhubなどの宅配サービスやPostmatesを買収したUber (英語) の躍進を見ると、顧客の選択肢が多様化する中で、従来の宅配サービスへの依存が減っていることは明白でしょう。さらに、小売業者は、店舗の人員を自社デリバリー業務に振り向けることで、顧客体験を最後まで確実に管理しようとしています。
これは、2020年の年末商戦で学んだ大きな教訓でした。安全面の配慮や配送業者の過負荷状態により、消費者は小売業者に対してカーブサイド、ドライブスルー、店頭引き取りオプションを求めました。その結果、デジタルでの収益は前年比で平均49%増となり、クリスマス直前の5日間のデジタル収益は前年比で54%増となっています。一方、こうした引き取りオプションを提供しなかった小売業者のデジタル収益は前年比で平均28%増、クリスマス直前の5日間のデジタル収益は34%増 (英語) に留まっています。
6. 今年、効果絶大のロイヤリティ
ヒラリー・エングレルト、プロダクトマーケティング担当ディレクター
新型コロナウイルスに伴う制限が解除される中で、顧客のロイヤリティが見直され、今後はかつてないほど重要になると思われます。McKinseyによると、米国でのパンデミック以来、73%以上の顧客は新たな購買行動を導入し (英語) 、65%以上はそうした変化を今後も継続する (英語) と答えています。
2020年の変化するトレンドに投資したブランドは、世界が次の段階に移行する中で、新たな日常とロイヤリティを構築する必要があります。つまり、2021年には、ロイヤリティの構築が優先課題になります。2020年には、価値、利便性、在庫確保が重要な要素でしたが(トイレットペーパーサーガ (英語) を参照)、今では当たり前のものになりました。消費者は再び、ブランドとのつながり、ブランドの存在理由、そしてブランドの目的を求めるようになると予想されます。ブランドが提供する、顧客にとって有意義かつ関連性の高いコミュニケーション体験は、買い物客が切望する信頼性を育みます。
さらに、結婚式のためのフォーマルウェア、大学構内学習のための学用品といったカテゴリーが再編される中、ブランドが新たな日常生活の一部として消費者の心をつかむうえで、ロイヤリティの重要性はますます高まるでしょう。関連性、一貫性、信頼性を保つブランドが確実に成長します。
Fanatics (英語) は、私の好きなロイヤリティプログラムの1つです。昨年、無観客のライブスポーツイベントに参加しましたが、スタジアムに行けるようになったら、すぐにお気に入りのチームのアパレルを購入するつもりです。Fanaticsは、節約に役立つだけでなく、有意義なファン体験を構築して情熱を刺激してくれます。しかし、Fanaticsは購買や体験を提供するだけではありません。2020年に一貫して社会貢献を行っており、ALL IN Challenge (英語) で食糧不足の根絶に取り組んでいます。ブランドの信頼性と関連性は、ファンが観戦に復帰するにつれてロイヤリティを促進するための土台となります。
7. 小売業の回復は予想より時間がかかる可能性も
ビナイ・バセワニ、Salesforce EMEAリテールインダストリービジネス開発責任者
私が担当するヨーロッパからは、グローバルな小売業の視点からトレンドを把握できます。昨年は小売業にとって不満のたまる1年でした。ワクチン開発により、まもなく通常生活に復帰できるという多くの楽観的な見方があります。しかし、小売業の回復には全世界で予想より時間がかかる見込みであり、小売業はその事態に備えるべきだと思います。
現在の小売業の状況は2021年前期いっぱいまで継続し、さらに多くの店舗や企業が閉店や破産申請に追い込まれると予想されます。こうした状況の改善は、ロックダウンの緩和(およびワクチン接種)により、買い物客が店舗に戻ってくる2021年夏以降、あるいは現実的には2021年末以降になる見込みです。一方、収益向上の可能性により、2021年の業績は好転することも考えられます。
デジタルショッピングは2021年も成長を続けるでしょう。これはほぼ既定の事実です。消費者のショッピング行動は完全にシフトしており、特に日用品の分野では顕著です (英語) 。さらに、以下の分野でも躍進が期待されます。
- ソーシャルコマース(投資とインフルエンサーによる効果)
- 消費者キャンペーンによるD2C(直販)
- 拡張現実と仮想現実におけるイノベーション
店舗については、今後も非常に高い関連性を維持するものの、その役割は引き続き変化し、オンラインショッピングのサポート役に移行していくと考えられます。店舗が生き残るには、オンラインショッピングをサポートするテクノロジーやツールをさらに導入したり(オンラインで注文し店頭で受け取る「クリック&コレクト」など)、レイアウトを変えたりするなどの工夫をすることで以前とは異なる店舗体験を模索する必要があります。逆に、デジタルネイティブなブランドは、実店舗による販売拠点を設置する可能性があります。小売業者は、店舗の適応を進めながら、同時にデジタルショッピング機能も拡張する必要があります。
8. 若年層の消費者が求める独自性
アドリアーナ・ブールゴアン、COMMERCE CLOUD担当最高カスタマー責任者
消費者は、今後も独自性、伝統、サステナビリティを求めるでしょう。小売業者は、The North Face X Gucci (英語) などのクリエイティブなコラボレーション、限定生産、リサイクル/再販/サステナビリティに対応することで、ロイヤリティを構築できます。一部のブランドはいち早く行動することで差別化を図っています。特にPatagonia (英語) はこの分野に最も注力しています。1985年から売上の1%を自然環境の保全と回復に寄付しており、2021年にはこの活動にさらに重点的に取り組む予定です。
Z世代 (英語) は、変化を推進する担い手として役割を果たしていくでしょう。デジタルネイティブ世代であるZ世代の影響を受け、その両親と祖父母の世代も新たなショッピング行動に移行し、アルコール (英語) などの新たなカテゴリーのデジタル売上が大幅に増加しています。Z世代の真の消費能力は今後数年では認識できないかもしれませんが、この世代の並外れた影響力は、小売業だけでなく、高等教育、銀行、旅行業など、混乱に直面するあらゆる業界でその真価を発揮するでしょう。
生産者、購入者、販売者を分ける線は、引き続き曖昧になります。カスタマイズのスニーカーは、すでに当たり前のサービスになっています。インフルエンサーは、大手ブランドとのコラボ製品も定期的に発表しています。たとえば、Urban Decay の新しいアイシャドウパレット(英語) は女優のカミラ・メンデスとのコラボ商品です。マーケットプレイスのEtsyは、2020年第3四半期に100% (英語) 以上の成長を達成しており、ソーシャルプラットフォームにEコマースを導入することで、デジタルバザールを世界規模で展開しています。2021年には、さらなる成長とともに、美容アドバイザーやヘアスタイリストなど、プロフェッショナルへの普及が進み、企業スポンサーシップも増加すると予想されます。
Rob Garf
Rob Garfはインダストリー戦略およびインサイトを担当するVice Presidentであり、Salesforceの小売業向けクライアントアドバイザリーボードの議長を務めています。プラクショナー(Lids、Marshalls、Hit or Miss)、業界アナリスト(AMR Research)、戦略コンサルタント(IBM)、ソフトウェアリーダー(Salesforce)としてグローバルな小売業における25年の経験を持ち、業界および小売業が直面する課題を熟知しています。Robのチームは現在、インダストリーリサーチを開発し、世界中のシニアエグゼクティブに統合エンゲージメント戦略に関するアドバイスを提供しています。業界イベントの講演も頻繁に行い、NRF(全米小売業協会)のDigital Councilのメンバーでもあります。