この記事は米国で公開された「How Emotional Intelligence Increases Customer Loyalty」の抄訳です。著者のShonnah Hughes氏は、Getfeedback社のGlobal Product Growth &Innovation Evangelist であり、Salesforceコミュニティにおいて特に貢献した人に贈られる「Salesforce MVP」の一人にも選ばれています。
Leading Through Change – いま、私たちができること。-
SNSなどで最近増えているのが、相手をすぐ拒絶する「キャンセルカルチャー」と呼ばれる行動です。カスタマーサービス担当者やSNS利用者なら、一度は見たことがあるのではないでしょうか。人間は本来、ふれあいや承認を求める生き物です。それなのに、たった1回のネガティブな印象でサービスを拒絶する人が多いのはなぜなのでしょうか?顧客との関係を深め、ロイヤリティを高めるために、感情的知性(EQ)を対話にどう活用すればいいでしょうか。
この記事では、キャンセルカルチャーとは何かを説明しながら、感情的知性の重要性と顧客との関係維持にどう活かすかを、特にカスタマーサービスの視点から解説します。まずは、私自身の体験をご紹介します。
相手の身になって考える効果
以前、医療用品を扱う会社に勤めていたときの話です。双子を産んだばかりの新規のお客様から電話がありました。どちらの赤ちゃんも栄養チューブを使っていて、粉ミルクと医薬品に頼らなければならない状況であるのに、なくなりかけた補給品の追加注文を断られたという不満でした。
背景には、保険に関係する事情があります。保険が適用されるのは処方箋に書かれた数量だけで、追加供給については厳格な基準があります。この女性からの依頼は保険の基準よりも3日早かったため、注文を受理できませんでした。ただ、無理もないことですが、女性は非常に動揺していました。
そこで私は、女性の言葉に耳を傾け、もし自分だったらと考えてみました。医療ケアを必要とする赤ちゃんを2人抱えているのはどんな気持ちでしょうか。おそらく肉体的にも精神的にもかなり疲弊しているでしょう。
私はできる限りの対応をすることを女性に伝えました。手配のためにいったん電話を離れるが、すぐに戻ってくることを約束したうえで、電話を保留にしました。そして、3日分の粉ミルクを当日配達で送り、補給品も最速で届くように手配しました。
電話をかけてきたときは不満を前面に出していた女性も、最後には、感謝とおわびの姿勢に変わっていました。私の対応が素晴らしかったと伝えたいから上司を出してほしいとまで言われたのです。
このときは、感情的知性を活かしてお客様に共感し、最善の解決策を示すことができました。キャンセルカルチャーにつながりかねないカスタマーエクスペリエンスを防ぎ、むしろ顧客ロイヤリティを高めることができました。
「キャンセルカルチャー」とは?
キャンセルカルチャーとは、特定の人やコミュニティをSNS上で糾弾して拒絶しようとする姿勢のことで、コールアウトカルチャーとも呼ばれます。広い意味で捉えれば、エクスペリエンスに不満を覚えた企業、製品、サービスを強く非難して、すぐに関係を絶とうとするのも、キャンセルカルチャーの一種と言えます。
カスタマーサービス担当者の立場で見ても、サービスの退会やサブスクリプションの解約へとお客様が一気に動くようになっている印象は確かにあります。
実際、アメリカン・エキスプレス社の調査結果によると、米国人の半数以上は、サービスが悪かったせいで購入を取りやめたことがあると回答しています。また、質の低いサービスを1回経験しただけでも他社への乗り換えを考えると回答した人は全体の3分の1にも及びます。
カスタマーサービスに感情的知性を活かすには
感情は人に伝染します。あなたが相手にどう接するかで、相手があなた自身やあなたの会社に対してどう感じるかが変わります。あくびが人にうつるのと同じように、熱意も人にうつるのです。
表情や姿勢、しぐさなどのボディランゲージが使えない場面では、声のトーンが特に重要になります。感情は声のトーンに影響を与え、声のトーンから感情を推し量ることができます。
アメリカの心理学専門マガジン、Psychology Todayの記事(英語)では、感情的知性のことを「他人と自分の情動を理解してうまく扱う能力」と説明しています。
感情的知性の主なスキルとして、次の3つが挙げられます。
- 認識 — 自分自身の感情を知覚する
- 統制 — 自分自身の感情をうまく制御し、他者もそうできるようサポートする
- 共感 — 課題解決などのタスクに感情を入れる
幸い、これらのどのスキルも、磨きをかければ伸ばすことができます。
カスタマーサービス担当者における感情的知性の活用例
自己認識
自分では「実務的」や「直截的」なつもりでも、他の人からは「不愛想」や「ぶっきらぼう」と思われているかもしれません。自分の言葉づかいや声のトーンが人に与える印象を、きちんと認識できているでしょうか。お客様にノーを伝えるときでも、丁重な言い方をするかどうかで、結果は変わってきます。こうした自己認識があれば、険悪になりかねない会話も、問題を悪化させることなく対処できます。
次の点を自問してみましょう。
1. 自分が今何をしているか?
2. それについて自分がどう感じているか?
3. その感情がやり取りにどう影響するか?
自己統制
お客様の苦情にきちんと耳を傾け、感情的ではない反応ができるでしょうか。自己統制に磨きをかければ、冷静さを保ち、責任ある行動をとり、初めての状況にも適応できます。
(例)
顧客: 過剰請求じゃないか!
従業員: ご連絡いただきありがとうございます。この件について私の方でもお調べさせていただきますので、詳しくお話しお伺いさせてください。
顧客: 思ってたサービスと違うんだけど。
従業員: 申し訳ありません。どうすればいいか、改善の余地がありそうか、お話しお伺いさせてください。
Empathy共感
他の人の考えや感情に共感できる能力は、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するために必要なこととして、広く認識されています。
共感から生まれる信頼は、顧客とのつながりを確かなものにするための強力な基盤になります。
たとえば、お客様はずっと前から楽しみにしていた旅行をキャンセルすることになって落ち込んでいるかもしれません。また、電話がつながるまで長くお待たせしてしまった後かもしれません。
話し方の例
- 「お問い合わせの内容は、〇〇でございますね?」
- 「ご丁寧に〇〇していただき、ありがとうございます」
すべてを駆使しよう
会話の例
問い合わせ内容の確認: 「サービス担当者が予定時刻に到着しなかった、ということでございますね。」
実際の状況の確認: 「担当者のルートを調べ、遅れがあったことを確認いたしました。」
対応方法の報告: 「今後同じことがないよう、当日対応のルートを変更いたします。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」
対人スキルを次のやり取りに活かす
自分の反応を分析しましょう。人の話にどう反応しているでしょうか。結論を急いでいないでしょうか。話を聞いて相槌を打つだけでしょうか。それとも、話を理解しようとしているでしょうか。
感情的知性を利用したアプローチは、サービスチームの成功につながります。このアプローチにより、課題をチャンスに変え、優れたカスタマーエクスペリエンスを構築し、顧客ロイヤリティを向上できます。自分自身を定期的に振り返り、感情的知性のスキルを磨くことで、信頼感を高め、他の人に好印象を与えられます。
感情的知性への理解を深め、コミュニケーションに活かす方法について、さらに詳しく知りたい方は、Trailheadの無料オンライントレーニングをぜひご活用ください。