新しいビジネスが生まれる場として注目されるスタートアップ企業。しかし、厳しい状況の中で成長していくためには、問題が浮き彫りになってから解決方法を探すのではなく、早い時期に環境を整えることが必要になります。限られた人材で効率的に業務を進めていくためにできることを考えます。
世界と日本のスタートアップ企業の現状
日本のスタートアップ企業の数は、世界的に見て非常に少ないのが現状です。世界各国の起業に関する統計をまとめた「平成27年度起業・ベンチャー支援に関する調査」には、販売業やサービス業などの新しいビジネスを始めようとしている人や、そのようなビジネスに関与している人を示す指標である総合起業活動指数(TEA)の国別のデータが掲載されています。
それによると、2014年12月~2015年1月にかけて行った調査では、日本のTEAは4.8%と調査対象61か国で5番目に少なく、さらに経済圏別のデータでは、日本を含む「イノベーション主導型経済」の25か国の中で最下位となりました。なお、イノベーション主導型経済で最もTEAが高いのはカナダの14.7%、米国は4番目の11.9%でした。
また、2014年に経済産業省が実施した「ベンチャー有識者会議」の報告書によると、世界トップ企業2000社のうち、1980年以降に設立された企業を比較すると、米国が154社と対象企業の約3分の1を占めているのに対して、日本はわずか24社と8分の1ほどにとどまっているとのことです。
スタートアップ企業が抱える課題とは?
では、日本のスタートアップ企業はどのような課題を抱えているのでしょうか?少し古い統計ですが、経済産業省が2008年に発表した「ベンチャー企業の創出・成長に関する研究会 最終報告書」によると、日本のベンチャー企業で人材確保を十分にできていると回答したのはわずか11.2%であり、71.3%の企業は人材確保が不十分であると回答しています。
この資料では、人材不足の要因のひとつとして、資金的な余裕が小さいために金銭面で大企業より良い条件を提示するのが困難なことを挙げています。そして、もうひとつの要因として、採用される側にベンチャー企業に勤務することのリスク面だけが実態以上に認識されており、将来の転職や起業の可能性につながるといった、キャリアパスの観点からのメリットが認識されていないことがあると分析しています。
先述の「ベンチャー有識者会議」報告書では、日本が抱える課題として、以下の点を挙げています。
1. 挑戦する人が少ない
リスクを適切に判断して経営判断を行うための基礎的素養や知識、経験などを持った人材の絶対量が不足していることや、社会全体として新しいことに挑戦する起業家精神が低調であること、新しい事業での成功者を正当に評価する意識が十分でないことなどから、日本では起業に挑戦する人が少ない傾向があります。
2. リスクマネーが少ない
日本でのベンチャーキャピタルによる投資は、米国と比較してGDP比で7分の1以下、韓国と比較して半分と非常に少なく、スタートアップやベンチャーが十分に成長できるための資金が共有されていない現状があります。
3. グローバル化できていない
技術力や斬新なビジネスモデルを持っているにもかかわらず、国内市場だけにとどまって世界市場に展開しないケースも多い現状があります。
4. 大企業との連携が不足している
製品やサービスの調達、資本や事業の提携、共同研究などにおける大企業とベンチャーの連携が、欧米と比較して不十分であることが課題となっています。
5. 技術開発型ベンチャーや、地域発のベンチャーが少ない
ITやアプリといった小資本のものに比べてリスクが高く、ビジネスが軌道に乗るまで時間がかかる技術開発型のベンチャーは、起業家および支援者、資金ともに不足しています。また、地域に根ざしたベンチャーの立ち上げも進んでいないのが現状です。
6. 行政によるベンチャー支援が十分ではない
これまで実施されてきた支援策から、よりスケールの大きい施策へのシフトチェンジが必要とされています。
課題解決のために、何をするべきなのか?
日本のスタートアップ企業やベンチャー企業をとりまく課題はとても多く、とくに資金不足や人材不足といった問題は深刻な悩みとなっているのではないでしょうか?
多くの場合、スタートアップ企業は限られた人数でたくさんの業務をこなしていかなければならず、さらに新規顧客の獲得や市場調査なども必要となるなど、たくさんのタスクに追われている状況にあると思います。目の前の業務をこなすのに精一杯の状態を続けていると、必要な他の業務に手が回らなくなったり、対応の遅れなどから見込み客獲得のチャンスを逃したりする可能性もあります。
スタートアップが抱える課題のなかには、自社の努力だけでは解決できないこともありますが、人材不足を乗り越え、少ない資金でも効率的に業務を行うためのしくみづくりをすることは可能なはずです。具体的には、業務で必要な情報をスムーズに共有したり、現状を可視化したりして、すべての社員がそれを確認できるようにする環境をつくることなどが必要になります。
早い段階でビジネスのリズムをつくる
-3年弱で約8,000店舗導入を達成したトレタの場合
ここで、ひとつの事例を紹介します。株式会社トレタは、飲食店向け予約/顧客台帳サービスを手がけるスタートアップ企業です。サービス提供開始は2013年12月と設立3年程度の企業ですが、成長率1853.59%という驚異のスピードで成長しています。さらに現在は全国で約8,000店舗もの飲食店で、同社のサービスが利用されています。
設立当初はExcelで営業管理をしていたものの、Excelでは商談の「結果」しか記録できず、かつ急速に増える社員同士の情報共有がしづらいという理由から、会社設立後の早い段階でSalesforceを導入しました。そしてリード獲得、商談化を可視化し、現在メンバーが約60名までに成長した社内の情報共有に役立てています。
同社はさらに、2016年には、シンガポールでも現地法人を設立しており、英語版でのサービス提供も開始しています。クラウド型営業支援システムであるSalesforceであれば、海外法人の商談状況をリモートで管理することも出来るため、グローバル対応などビジネスの変化に柔軟に対応していくことが可能です。
情報共有の効率化が、企業の成長の鍵をにぎる
Salesforceは、見込み客の情報や現在のフェーズを可視化するために最適なツールです。それぞれの顧客との取引状況や現在進行中の案件の詳細な情報などをすべて管理でき、案件の更新情報を社内SNS機能で受け取ることもできます。さらに、最新情報をもとに見積を作成できるなど、案件管理に必要な情報をまとめて管理するために必要な機能を備えています。また、これらの情報にはモバイルからセキュアにアクセスできるので、多忙な営業チームのメンバーも外出先からすばやく情報にアクセスして、各案件の進捗状況を確認できます。
限られた人数で業務を進めていかなければならないスタートアップ企業だからこそ、いかに効率的に情報管理を行うかは非常に重要な課題です。情報共有を効率化するツールを起業後の早い段階で導入すれば、いち早く良いサービスを提供することができるようになり、企業の急成長につなげることも可能になります。
日本のスタートアップを応援する、Salesforce Ventures
またSalesforceでは単にITソリューション提供での支援を行うだけでなく、2009年よりSalesforce Venturesというスタートアップ企業を応援するためのエコシステムを立ち上げ、投資活動も行っています。これまで投資をおこなった企業は全世界で150社以上。日本国内においても、現在までに30社に投資をおこなっており、前述したトレタをはじめ、Sansan、チームスピリット、ビズリーチなど今注目されているスタートアップ企業に投資を行っています。Salesforceでは、これからも、日本で新しいイノベーションが生まれていくように、スタートアップ企業を支援してまいります。
参考文献:
- 平成27年度起業・ベンチャー支援に関する調査起業家精神に関する調査報告書(PDF)|株式会社野村総合研究所(2016年3月)
- ベンチャー企業の創出・成長に関する研究会 最終報告書(PDF)|経済産業省( 2008年4月30日)
- ベンチャー有識者会議とりまとめ(PDF)|経済産業省(2014年4月)