世界中の行政機関が、市民からの信頼を失いつつあります。その原因はさまざまであるものの、1つはっきりしていることは、市民との信頼関係の再構築は不可欠だということです。世界的なパンデミックの後、地域社会が立ち直るためには、行政機関が信用される必要があります。
最近の調査で、行政機関が今後進むべき道について、指標が示されました。そのデータによると、市民とデジタルで直接そして効果的にやり取りできる関係の確立が、信頼の回復につながるとのことです。Salesforceの委託を受け、第三者調査会社のボストンコンサルティンググループ(BCG)が発表した『Global Trust Imperative』レポート(英語)では、次のことが明らかになっています。
- 優れたデジタル体験を提供し、データ共有のメリットを発信している行政機関は、市民からの信頼度が高い。
- 質の悪いデジタル体験や透明性の欠如は、行政機関に対する市民の信頼感を損なう。
なぜデジタルでのやり取りが、行政機関に対する市民の印象を変えてしまうのかを理解する前に、まず日常生活でデジタルが果たす役割を認識する必要があります。
デジタル満足度の差ー民間企業のテクノロジーが顧客の期待に与える影響
民間企業におけるデジタルテクノロジーの進歩は、行政機関に対する顧客の期待値を変化させました。食料品の注文や金融取引、さらには診療までオンラインで手軽に行えることが当たり前と考える消費者が増える中、行政機関にも同様の水準のサービスを提供するよう期待しているのです。
しかし、常時インターネットを利用していると回答したアメリカ人の割合は35(英語)%以上ですが、ほとんどの人がオンライン上の行政機関とのやりとりにがっかりした経験があると答えています。さらに、行政機関が提供するデジタルサービスが自分のニーズに合っていると回答した市民は、わずか12%でした。
アメリカ人は、行政機関に対して民間企業レベルの効率性を期待するようになりましたが、行政機関がその期待に応えられないことが多くあります。デジタルテクノロジーに対する期待と現実のギャップは拡大し、行政機関に対する国民の信頼はさらに低下しています。しかし、行政は必ずしも変化に抵抗があるわけではありません。公共部門は通常、より複雑でより時間がかかるプロセスに対処しなければならないことが多いため、新しいツール(英語)やプロセスの採用(英語)が、民間企業(英語)にはない新たな課題が発生するのです。行政機関のデジタル変革の実現には、意思とコンセンサスが必要です。
行政機関がサービス提供を改善し、顧客の信頼を回復するためにはどうしたらいいのでしょうか?答えは簡単で、それは、コミュニケーションの改善とデジタルサービスの合理化(英語)です。
米国農務省(USDA)は農家や牧場主との信頼関係を構築するためデジタルサービスを改善
Salesforceが調査したところ、51%のアメリカ人が、行政機関のウェブサイトやアプリを使いやすくすることは、行政がサービス提供のためにできる最も重要な改善点の1つであると考えているとわかりました。
たとえば、米国農務省(USDA)は、年間200万人以上の農家や牧場主にサービスを提供しています。2017年の壊滅的なハリケーンシーズンの後、米国農務省はオンラインサービスを提供できていなかったため、支援や給付を迅速かつ大規模に配布する現実的な方法がありませんでした。そのため農家や牧場主は勤務時間中に長距離を運転して、援助プログラムの登録に出向く必要がありました。そこで米国農務省は、farmers.govのウェブサイト上に、農家による給付金の登録、農場のインタラクティブマップの表示、その他のプログラムの最新情報を入手できるポータルを開設したのです。米国農務省のカスタマーサービス担当者もこのポータルを使用でき、顧客とのやり取りの記録や情報の統合を行えるため、より迅速でシームレスなサービスを提供できるようになりました。
米国農務省のような組織は、人間の従業員とデジタルテクノロジーの能力を組み合わせ、顧客体験と顧客との関係を改善しています。素晴らしい顧客体験を提供し、革新を受け入れ、信頼を築くためには、国や地方自治体の行政組織は、このモデルを全面的に取り入れる必要があります。
シカゴ保健局はデジタルワクチン管理プラットフォームでコミュニティの信頼を回復
行政機関は、地域や個人の利益を伝えることでも信頼を回復できます。アメリカ人もまた、行政機関との透明性のあるやりとりが信頼につながると感じています。操作が簡単なプラットフォームで顧客にサービスを提供すれば、行政機関はこの信頼を醸成できます。
この冬シカゴのインフルエンザワクチン管理システム(英語)で、このような戦略の実例が見られました。シカゴの保健局は、住民がパソコンやモバイル端末からインフルエンザワクチンの接種予約が行える、オンラインの自動セルフサービスプラットフォームを立ち上げました。住民はこのシステムを利用して、接種会場、希望時間帯、移動距離などに応じて予約できます。このワクチン管理プログラムにより、住民がインフルエンザワクチンを接種するためのプロセスがより合理的で透明性のあるものとなり、結果、市民と行政機関との間につながりと信頼関係が構築されたのです。
市民は、民間企業におけるテクノロジー革新の結果、生活のほとんどの場面で利便性を求めており、行政サービスも同じようなサービスレベルを求めています。これは行政機関が取り組むべき重要な課題でありますが、市民の信頼を獲得するためには重要なステップです。米国農務省やシカゴ保健局のような行政機関は、新しいテクノロジーソリューションを導入する際に民間企業からヒントを得ており、利便性を優先させることが信頼と市民へのコミットメントにつながると証明しています。民間企業が過去数年間磨きをかけてきた合理的な顧客体験を参考にしてプロセスを再構築することで、行政機関が地域社会を支え、強化する重要なサービスの提供方法を改善すると同時に、行政に対する市民の信頼回復の一助になります。
市民の期待がどのように変化しているか、また、この新たな勢いに乗るために行政機関は何をすべきかについてはこちらをお読みください。『Trust Imperative』レポート(英語)
Casey Coleman
Casey Colemanは、グローバル公共機関セクターデジタルトランスフォーメーション担当上級副社長です。世界中の行政機関のお客様に対するエンタープライズポジショニングおよびソリューション戦略の責任者です。。