お客様のDXを支援するプロフェッショナル「Salesforceアドバイザリーメンバー」によるブログシリーズ。第3回は、カスタマーサクセス統括本部 デジタルマーケティング本部 ディレクター・マーケティングストラテジスト岡野 遵が解説します。
Vol. 3:DXにおいて打破すべきデジタルマーケティングの壁とは?
企業は消費者の変化にあわせて、顧客起点のデジタルマーケティングを実現すべくDXへの対応を進めていく必要があります。 消費者がスマホを手にし、常時ネット接続されている環境において、世代に関係なくデジタルを活用した情報収集、比較・検討、消費が当たり前になりました。ここ数年は支払いを含めてスマホのみで消費が完結するようになり、ますます消費者のデジタルリテラシーが向上し、消費行動も変化し続けています。
ニューノーマルにおける成長の鍵は、顧客起点マーケティングと社内変革のスピード
さらに新型コロナウィルスにより、想定していなかったレベルでの消費者変化が起きています。当面の感染拡大を回避するような意識や行動はもちろん、デジタルで完結するサービスへのニーズの高まりや、何が必要で何が不必要であったり不便と感じるのか、といった消費者意識や判断により一層変化が生じてくることが予想されます。「今後2〜3年の間に起こると予想されていたデジタル化と消費者変化」が急加速しているのです。
企業においては、当然データやVOC(Voice Of Customer:顧客の声)など常にお客様の変化をリアルタイムで捉える仕組みが必要となり、その上で、どのような製品やサービスを提供していくと消費者からの支持が得られるのかという視点を持ち、既存の製品、サービスの提供方法や接客も含めて、業務やプロセスを再考することも求められます。
消費者変化が急加速している状況では、スピード感を持って変化に対応できる組織と従来のやり方に変化を起こしにくい組織では、当然ながら消費者に選択されるかどうかに大きな差が出てくるでしょう。デジタル活用+顧客起点のマーケティングをいかに加速させるかは、今後の成長だけではなく既存ビジネスを維持する上でも不可欠なのです。
リーダーシップ欠如がもたらすもの
もちろんこれまでも、顧客のデジタル化や消費行動の変化に対応するべく、企業はデジタル部門への投資を拡大したり、ツールの導入に積極的に取り組んでいました。 ところが多くは、新しいツールで部分的に今までとは違う取り組みをはじめたり、従来業務の一部をデジタル化するといった、個別デジタル化・最適化にとどまることが多いという実態があります。このため、消費者の変化に十分な対応が出来ていたり、消費者が利便性や変化を実感するまでの変革ができている企業は多く見られません。
顧客接点を俯瞰した「あるべき姿」や「大きなビジョン」とロードマップがないまま進行してしまう結果、顧客体験起点をテーマにした取り組みのはずが、デジタル部門だけで進行して営業部門や実店舗とはあまり連携がなく、顧客接点の全体俯瞰ができていなかったり、顧客データが自部門に関わるものだけだったりと、顧客体験が変わるほどの取り組みにはならないのです。
一方で、大きなビジョンや道筋を示そうにも、デジタルマーケティングに詳しいメンバーが少ない、組織をリードする管理職にデジタルマーケティングの有識者がほとんどいないといった、人材やスキル不足、リーダー不在の企業も少なくありません。
このような状況のなかでDXを推進しようとしても、大きな成果を得る事が難しくなり、デジタル活用に向けて企業内説得に多くの時間がかかり、サイロのDXから拡大しないというケースは少なくありません。 DXを成功に導くためには、ツールの導入ではなく、顧客接点を俯瞰した「あるべき姿」を描き、目標、組織、業務を変革し実行に導くトップマネジメントと変革リーダーという2つのリーダーシップが不可欠なのです。
顧客体験起点でのデジタルマーケティングをどう実現するのか?
顧客体験起点でのデジタルマーケティングの実現する企業へと変わっていくのは、当然ながらお客様企業ご自身です。我々は、DXを推進すべく単純に作業を代行して目標を達成するのではなく、リーダーの隣に立ってDXの仕組みづくり、考え方の変革、部門を超えた取り組みの誘導、部門間の橋渡し、デジタルマーケティング領域で高スキルを持つ人の採用とリーダー育成いったことをお客様に「伴走」しながら行います。 この「伴走」を理解していただくため、お客様企業が抱えていた課題と、それを解決するための支援内容をご紹介します。
結婚式場企業A社
【課題】
認知、集客、営業・接客、契約後サポートなどが分業になっており、各部門が各々のKPIの達成を目標に活動をしていました。それぞれが自部門のKPIを達成していれば問題がないように見えますが、統括して部門間のデータをつなげてみると、さまざまな課題が浮き彫りになりました。
- 集客数が増えても成約数に比例していない
- 見学予約後、見学後、仮成約後などの部門をまたぐ部分で離脱が多く発生
- 店舗によって傾向や結果が大きく異なる
- 各部門では自部門のKPIだけを意識し、お客様のジャーニーと言う全体視点ががない
- 全体俯瞰してビジネスKPIを見る人が不在
【支援内容】
まずは顧客の一連の流れをデータで可視化、離脱ポイントを再認識したうえで、社長に協力を得て全社部門をまたいだメンバーを集め、カスタマージャーニーを作成しました。ここではじめて、お客様視点に立って良い点、悪い点と、実際に数字が落ちる部分を把握し、関係者で共通の課題認識に至りました。そして、何が課題であるのかを社長を含めた経営層に報告を行いました。
しかしここで、トップダウンでのDX改革とはなりませんでした。今までのやり方や固定概念から抜け出す事は難しく、まずはハレーションを起こさないように一部の店舗やエリアに限定して、POC(Proof of Concept)を重ねることから取り組み始めました。実際に、お客様ごとに状況を捉え、人の既存業務でカバーできない部分や部門をまたがるところに、MA(マーケティングオートメーション)によるデジタルコミュニケーションを組み合わせると、すぐに重要KPIへの貢献が見えました。この結果をふまえ、関連メンバーのお客様に対する視点とデジタル活用に対する理解が変化し、企業内で横展開と拡大の流れとなりました。
クレジットカード企業B社
【課題】
顧客の獲得、会員向け販促、ファイナンス、カスタマーサーポートなど横のつながりが少ない組織構成でした。各部門が各々のKPI達成のために業務の最適化を行なっていましたが、俯瞰してみると様々なビジネス上の問題が発生していました。
最も目立ったのは、各々の部門がKPIを達成するために、顧客への売り込みのためのコミュニケーションが多発し、送付したメールを見てもら得ない状態に陥っていたことでした。
顧客体験よりも毎月の利用がどれほど得られるか、という売上志向が強く、入会された会員に長期的に利用いただく「ストック型ビジネス」でありながら、顧客のLTV(Life Time Value)を目指した関係値づくりやLTVの数値自体もが見えていない状況だったのです。
【支援内容】
最初の一歩として、部門をまたいだメンバーでカスタマージャーニーを作成しました。カードのタイプや利用状況などで顧客を分類し、顧客ごとの利用状況をデータで確認した上で、それぞれのカスタマージャーニーを描き、どうすればもっと自社を活用してもらえるかの仮説設定を行い、そこから具体的な施策への落とし込のサポートを行いました。さらに施策の結果、顧客が思惑通りの状態になっているかどうかの検証プロセスも設計。現在も、PDCAサイクルがうまく回っていくための支援を行なっています。
ソリューション導入だけではDXにつながらない
我々の経験から強調したいのは「ソリューション導入だけではDXにつながらない」ということです。DXを推進するためには、企業の意識や考え方、目標、組織を変えなければ変化があまり起きず、拡散もしていきません。顧客の行動をデータで参照し、顧客に対する明確な目標を持つことが必要で、それがビジネス全体に影響を与えるのです。また、部門の垣根を超え、それを変えていく、といった意識も重要です。
顧客視点でアクションし、その結果を把握し、成果を感じる……というループを続けることも肝要です。さらに、社内で中心メンバーを設定し、育てること、そしてスピード感を持って行動し、続けること、また社内への共有理解を怠らないこともDX推進には欠かせません。
そして何より、このようなことを我々のような外部のパートナーに任せるのではなく、外部パートナーはあくまで伴走役としてサポートに徹してもらい、持続的に変革を起こしていける流れや人材を、社内でつくっていくことが必要なのです。
ブログシリーズ:DXの現場から〜Salesforceプロフェッショナルメンバーが語る課題と解決策
Vol. 1: バズワードからの脱却〜Salesforceが考える真のDXとは?
Vol. 2: データのサイロ化を脱却〜真の顧客理解のために動きはじめた日本企業
Vol. 3: DXにおいて打破すべきデジタルマーケティングの壁とは?
Vol. 4: 顧客中心主義を実現する「Customer 360」テクノロジー鳥瞰図
Vol. 5: DX成功のカギを握る「組織風土変革」と実現のためのフレームワーク
Vol. 6: 継続的なDX実現のために〜顧客エンゲージメント推進組織「Salesforce CoE」とは?