変化する顧客に寄り添う、BtoCでのCRMの役割
BtoC領域でCRMを使う場合、消費者が何を求めているかを知り、それに応えることが最優先となります。しかし、多様化する消費者のニーズに応えるためには、的確なタイミングとチャネルの使い分けが必要になります。その中で、どのようにCRMを使っていけばいいのでしょうか。ここでは、BtoC商材を扱う企業による、CRMの活用について解説します。
急速に変化している消費者の要望
セールスフォース・ドットコムが2019年に行った調査で、消費者の動向が急速に変化していることがわかりました。今後、BtoC領域で企業が生き残り、さらに成長していくためには、この変化に対応できるかどうかが大きなカギとなるはずです。
まずはこの調査結果から、消費者が何を求めているのかを探ってみましょう。
消費者は特別で上質な体験を求めている
自分の欲しいアイテムがいつでも買えて、すぐに手にすることができる。ネットショップでもリアル店舗でも、それは消費者にとって第一の要求です。
しかし、これだけでは顧客を十分に満足させることはできません。現在の消費者は商品を買う、サービスを受けるだけでなく、そこに至るまでの一連のプロセスに「特別で上質な体験」を求めているのです。
セールスフォース・ドットコムの調査結果からもその傾向がわかります。
・企業が提供する体験は、製品・サービスと同じくらい重要である:84%
・上質な体験が得られるなら、多少値段が高くても許容する:66%
・特別な体験を一度経験すると、他社への期待も高くなる:73%
ここでいう「特別な体験」の例として、「自分のニーズを理解してほしい」「自分の行動に沿った対応をしてほしい」という意見が多く寄せられています。つまり消費者は、「自分をペルソナではなく、個性を持つひとりの人間として扱ってほしい」と考えていることがわかります。同時に、そうした扱いを一度でも受けてしまうと、他社に対しても同等以上の対応を求めることが見てとれます。
ですから、消費者に対して「特別で上質な体験」を提供できれば、エンゲージメントを獲得し、さらに高めることができるというわけです。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の重要性と実践法
TPOに応じてチャネルとデバイスを使い分けたい
消費者は、自分がいる場所や状況に応じて、複数のチャネルとデバイスを使い分けています。ですから、前項で紹介した消費者の要望に応えるには、最適なタイミングに、最適なチャネルとデバイスでコミュニケーションをとることが必要です。
実際の消費者動向においても、その傾向ははっきりと表れています。
・状況に応じてさまざまなチャネルを使い分けたい:78%
・状況に応じてさまざまなデバイスを使い分けたい:73%
・ひとつの取引を開始して完了するまでに、複数のチャネルを使用したことがある:71%
・ひとつの取引を開始して完了するまでに、複数のデバイスを使用したことがある:64%
消費者が好感を抱くブランドの条件は?
それでは、消費者から見て「好ましいブランド」というのは、どのようなものでしょうか?
<消費者が好むブランドの特徴>
1位 個別のニーズに対応してくれる
2位 独自のショッピング体験やプロモーションを提供している
3位 限定商品を提供している
4位 希望するチャネルで対応してくれる
5位 自分のことを本当に理解してくれている
チャネルの多様化が店舗と顧客の動きを変えた
一連の消費者の動きを敏感に感じとり、行動に出た企業も多々あります。その結果、ブランドと消費者のつながりは、ずいぶんと違った形に変化していきました。
これまでのショッピングは、実にシンプルなものでした。商品を販売し購入する窓口は、ネットストアかリアル店舗かのいずれかです。商品もプロモーションもその他のコンテンツもすべてストアに紐づいており、どのような販売戦略をとるにしても、最終的には「ストアに集客する」というのが目的でした。
しかし現在では、全体のほぼ10%の購入が、小売業者やブランドが所有する実店舗やオンラインショップ以外の、ソーシャルメディアや音声アシスタント(スマートスピーカー)といった第三者のプラットフォームで行われています。お客様がブランドストアに出向くのではなく、ストアがさまざまなチャネルを使ってお客様に近づき、お客様の望むとき、望むチャネルでストアにつながるというアクションが必要になってくるのです。
消費者が利用する多種多様なチャネル
過去、消費者の一連の購買行動の中で、ブランドとのコミュニケーションに使われてきたのは、その多くがメールでした。メールでクーポンが届き、クリックするとストアの特設ページに飛び、そこで購入する。アフターサービスについてはカスタマーサポートとのあいだでメールのやりとりをする。
しかし現在、消費者とブランドをつなぐ接点は多様化しており、消費者はショッピングの段階によってさまざまなチャネルを使い分けています。その一例を挙げてみましょう。
<段階ごとに消費者が使うチャネル>
・ 発見と品定め:検索エンジン、ソーシャルメディア、メール、インフルエンサー、メッセージングアプリ
・ 購入:メール、ソーシャルメディア、メッセージングアプリ、画像検索
・ サービス:メール、チャット、ソーシャルメディア、SMS
あくまで一例ですが、消費者はこれら多種多様なチャネルとデバイスを、その時々の状況に合わせて使い分けています。それをどこまで追跡でき、アプローチできるかがBtoCにおけるCRM活用のポイントになります。
BtoBとは違う、BtoCでのCRMの役割
複雑化した消費者の行動をトラッキングするには、手作業ではとても無理です。
そこで、CRMの出番となりますが、BtoC領域はBtoBとはかなり事情が違いますから、CRMの役割や使い方も、BtoCならではのものとなります。
お客様への効果的なアプローチに必要なものは?
BtoB領域では、CRMはSFA(営業支援システム)に近い、顧客管理ツールとして使われます。しかし、BtoC領域では、お客様とのコミュニケーション履歴を記録し、リアルタイムで管理することに主眼が置かれています。
その履歴は、オンライン・オフライン問わず記録され、問い合わせのメールやストアでの購入といったお客様の何らかのアクションをトリガーとして、さまざまなチャネルとデバイスでメッセージを発信してお客様のエンゲージメントを高めていくことが求められます。
こうしたお客様への複雑なアプローチを実現するには、まずは店舗運営、ネット事業部、カスタマーサポートなどの縦割りの壁を乗り越えてお客様の行動をトラッキングし、的確なアプローチをかけていく必要があります。
もうひとつ、複数のチャネルとデバイスを使い分け、タイミング良く的確なメッセージを発信するためには、購買行動を細かく分析し、自社とお客様との接点を洗い出して、詳細なカスタマージャーニーマップを描いておくことが重要です。
CRMは、タイミングを測ってメールを飛ばすだけのピンポイントのソリューションではありません。お客様のすべてをトラッキングし、適切なタイミングやチャネルで、お客様とコミュニケーションを取るという大きな目的のもとに活用すべきものです。
複数のチャネルを活用し効果を上げる
複数のチャネルを活用して効果を上げた例を紹介しましょう。
ネット通販を手掛けるオイシックス・ラ・大地株式会社は生鮮食材の定期販売を行っており、会員には毎週1回、野菜や加工食品などを自動出荷しています。次回の出荷品はウェブで確認でき、もし変更や取り消しをしたい場合は、出荷日の数日前までに、出荷品変更ページで手続きをするしくみになっていました。もちろん、「期日までに出荷品を確認いただき、必要なら変更の手続きをしてください」と、注意喚起のメールも送信しています。
ところが、この出荷品変更ページが会員にあまり利用されていません。「わざわざ専用ページに行かないといけない」というのが、面倒に思われたようです。結果、会員に本来は不要な食材が届き、使われずに無駄にしてしまうということが多発しました。そのため、「食材が無駄になるから」と、退会者が続出したのです。
そこで、メールに加えてスマホアプリやSNSも使い、タイミングを測って複数回のアナウンスを送信するようにしたところ、変更ページの利用が増え、退会者が激減しました。
複数のチャネルを活用することで会員の行動を促し、退会者減という結果に結びついたのです。
BtoCビジネスにおけるCRM活用の極致!ベルルッティの例
ここで、BtoCビジネスのCRM活用の極致ともいえる事例を紹介しておきましょう。
紳士靴工房からスタートし、今や総合アパレルブランドとして世界に販売拠点を持つ、フランスのベルルッティが実現しているCRMです。
大西洋をまたいで展開されるCRMストーリー
アメリカに住むベルルッティの顧客A氏は、初めてのフランス旅行の折り、欲しいバッグがあったので、ベルルッティのパリ本店に立ち寄りました。しかし、店内を一回りしてみたが、残念ながら探しているバッグは見あたらない様子。スタッフに尋ねてみると、その商品ならカリフォルニアに在庫があると言います。
ちなみに、ベルルッティのスタッフは皆タブレットを持っていて、顧客の購入履歴や好みの傾向など、蓄積されたデータを瞬時に呼び出し、確認することができます。このときも、A氏の購買履歴などから話は弾みました。
数日後、帰国途中のA氏にベルルッティからのメールが届きましたが、それはパリ本店で店員に伝えた好みまで含めて、完全にA氏にパーソナライズされた内容になっていました。
さらに数日後、A氏が自宅でタブレットを使っていると、パリで見つけられなかったバッグの広告が表示されています。「そういえば、カリフォルニアにあると言っていたな」と思い出し、広告からECサイトに飛んでお目当てのバッグを購入。それを自宅から近い店舗で受け取りました。
大規模かつ緻密なCRMを実現するシステム
ベルルッティの手法は、顧客に対するCRM施策としては、かなり複雑で大掛かりなものです。それがどのような要素によって成り立っているのか、分解してみましょう。
<ベルルッティのCRMの要素>
・大陸をまたいでのコミュニケーション:ワールドワイドな構造
・過去の購入履歴がわかる:細かな情報をも含めた顧客管理
・他店の在庫状況がわかる:全店をカバーする在庫管理
・メール:的確なチャネル選択とパーソナライズされた内容
・広告との連動:複数のチャネルとタイミングを測った広告施策
・EC、他店舗との連携:部門を越えた情報共有
先程のストーリーの裏側では、これだけのしくみが動いていたのです。CRMでこれほどの構造を持っている企業は、世界的にもまだまだ少ないでしょう。
しかし、ベルルッティでは、現実にこのCRMシステムを動かし、成果を上げています。同じことを手掛ける企業は、ほかにも現れるかもしれません。
「特別な体験を一度経験すると、他社への期待も高くなる:73%」
冒頭の調査でわかった消費者のこの心理は、すべてのBtoC企業に対して、非常に大きな意味を持っているように感じられます。
BtoCのCRM活用はここに注意!
目的を明確にする
CRM施策を手掛けるとき、顧客宛てのメールの改善から始めるのは、方法論としては間違っていません。一斉配信のメルマガから、顧客の状況や好みに合わせて送信するだけで、開封率は向上します。
しかし、CRMは顧客をトラッキングすることが目的です。そこを明確にしておけば、「メール以外のチャネルも活用しよう」「最適な送信のタイミングは?」という広がりも見えてきます。
CRMの導入・運用にあたっては、まず目的を明確にし、そのためにCRMをどう使うのかという視点を持つことが大切です。
カスタマージャーニーを描く
CRM施策を企画立案する際は、大前提としてカスタマージャーニーマップが不可欠です。これがなければ、自社と顧客との接点の洗い出しができず、効果的な施策は望めません。
反対に、CRMを活用しようとするなら、まずカスタマージャーニーマップを十分に練るところから始めるべきでしょう。
拡張性のあるプラットフォームを選ぶ
CRMは、突き詰めていくとかなり大規模で広範囲にわたるしくみにまで達します。先程のベルルッティの話が良い例です。すぐにそこまでの規模にしないにしても、基礎となるCRMシステムには十分な拡張性が欲しいところです。
冒頭でもご紹介したように、消費者の動向は現在進行形で大きく変わりつつあります。今後、ますます重要性を増すであろうCRM施策を活用できるよう、拡張性のあるプラットフォームを選ぶようにしましょう。
施策の効果は必ず検証する
何らかのCRM施策を打ったなら、その結果は必ず検証しておきましょう。
CRMでは試行錯誤が必要な場面もありますが、思いつきで手を打っていくと、過去の実績がないために効果検証ができなくなってしまいます。これでは、施策の意味がありません。
CRM施策はその効果を検証し、次に反映するために行うものです。検証できる形でデータを積み上げ、繰り返していくことが大切です。
CRMの導入には十分な検討と素早い行動を
BtoCはBtoBと異なり、お客様との接点となるチャネルやデバイスが多様化しています。同時に、コミュニケーションに対するお客様の意識が、ますますシビアになっています。お客様を理解し、最適化された対応をとって競合に遅れをとらない体制を整えることは、すべてのBtoC企業の課題といえそうです。
そのためにどのようなツールが必要で、どのような行動をとるべきなのか。十分な検討と早急な行動が求められています。
関連記事・リソース
関連製品
まずはご相談ください
弊社のエキスパートがいつでもお待ちしております。