カスタマーサクセスとは?5つのKPIや業務内容、成功事例も解説
カスタマーサクセスの意味とは?
カスタマーサクセス(Customer Success)とは、言葉のとおり、製品やサービスを通じて顧客の成功を支援する概念です。具体的な定義があるわけではなく、「製品やサービスの提供において、根本的な姿勢に溶け込む考え方」と理解すると分かりやすいでしょう。
カスタマーサクセスを自社内で共有することで、社内の目的や方向性が統一される効果も期待できます。また、クラウドサービスの一般化にともない、顧客の利益と自社の利益の関係が強くなっていることも、カスタマーサクセスが重視される背景となっています。
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサポート |
カスタマーサクセス | |
姿勢 | 受動的 (リアクティブ) |
能動的 (プロアクティブ) |
目的 | 維持管理・保守 | 顧客の成功体験 |
KPI | 顧客満足度など | 解約率・LTV アップセル・クロスセルなど |
位置付け | コストセンター (収益を上げない) |
プロフィットセンター (売上に責任を持つ) |
一方、「カスタマーサクセス」は企業が自ら能動的に顧客の将来を考え、助言や支援をしていきます。そこには、顧客が抱えている課題の掘り起こしや、製品やサービスを利用することでかなえられるプランの提案なども含まれます。
顧客目線に立って寄り添い、ともに成功を目指すという考えがカスタマーサクセスの根本にはあるのです。
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カスタマーサクセスが必要とされる背景
カスタマーサクセスが重視され始めたのは、2000年ごろからといわれています。
その背景には、以下の3つの影響が大きいと考えられます。
- ビジネスモデルの変化
- 営業スタイルの変化
- 他社商品・サービスとの差別化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ビジネスモデルの変化
クラウドを通じてITシステムを利用し、そのサービスに利用料を支払う「サブスクリプション型」のビジネスモデルが一般化しています。
それにより、顧客の購買行動が「必要なサービスがある場合は買い切り」から「必要なときに、必要なだけ使う」のスタイルへと変化しました。
購買スタイルの変化によって、購買行動を手軽にすると同時に、解約も容易になりました。
企業は「契約をして終わり」ではなく、「サービスを継続して契約し続けてもらう」ための顧客支援の視点が必要になったのです。
システム・サービスは導入まででは不十分です。定着化してこそ顧客の成功につながります。下記の資料ではSalesforceのカスタマーサクセスを例に定着支援のTipsを盛り込んでいます。ぜひご覧ください。
営業スタイルの変化
買い切りが当たり前だった時代は、「成約」が1つのゴールでした。しかし、SaaSビジネスの台頭により、成約はスタートへと変貌しました。
SaaSビジネスは、顧客と長期的に付き合えるメリットがある一方、継続的な支援やアップデートなどを提供する義務も負います。長期的に寄り添いサービスを提供し続けるからこそ、その先に見えるカスタマーサクセスのビジョンが必要なのです。
LTV(顧客生涯価値)を最大化させるためには、「売って終わり」ではなく「売って始まる」関係を構築することが必要です。『SaaS ビジネス成功の基礎「The Model」』で詳しく解説していますが、SaaSビジネスでは「成約」だけがゴールではなく、いかに「解約率」を引き下げるかがポイントになります。
他社商品・サービスとの差別化
市場が成熟し、同じような商品やサービスの乱立によって、他社との差別化がますます重要視されています。
既存の製品でも一定のサービスを提供できますが、顧客を満足させるためには、他社とは違った機能や品質が必要です。
ただし、差別化するために機能面ばかりを重視しても、再び同じような商品が出てきてしまいます。
より差別化を図るために、カスタマーサクセスによる顧客と向き合った独自サービスの提供が重要です。
カスタマーサクセスは「The Model」の営業プロセスの1つ
カスタマーサクセスは、「The Model」の営業プロセスの1つであり、顧客への活用支援と契約継続の役割を担う重要な部門です。
The Modelとは、マーケティングから営業、カスタマーサクセスまでの情報を可視化し、効率化を図る営業プロセスモデルのことです。
The Modelを活用することで、以下のようなサービスが提供できます。
- 顧客に合わせたカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を提供
- 他部門との連携を強化して、顧客の状況に応じたサポートの実施
カスタマーサクセスをはじめ、各部門がそれぞれの役割・業務を特化させることで、専門性が高められるメリットもあります。
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カスタマーサクセスで重要な5つのKPI
カスタマーサクセスには定型的な決まりが無いため、成功度合いを測るには個別のKPIを設定する必要があります。
このとき、指標にしやすいKPIは以下の5つです。
- LTV
- チャーンレート
- NPS
- アップセル率・クロスセル率
- リテンションレート
それぞれのKPIについて、見るべきポイントを1つずつ解説します。
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1)LTV
LTV(顧客生涯価値)は、取引開始から終了するまでのあいだに、1人の顧客から得られた売上の総額を示したものです。LTVの算出方法にはいくつかの方法がありますが、すべての顧客の平均値を基にLTVを算出する計算式は、下記のとおりです。
LTV=平均購買単価×収益率×購買頻度×継続購買期間
LTVが高いということは、クロスセルやアップセルによって購買単価が高まった場合と、何度も購入を続けて購買頻度が上がった場合が考えられます。つまり、それだけ自社の製品やサービスが顧客の業務に活かされており、満足しているためと見ることができます。
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2)チャーンレート
解約率や退会率などと訳されるチャーンレートは、サブスクリプションモデルのサービスを提供している企業にとっては、基本といえる指標です。顧客数をベースとして算出する「カスタマーチャーンレート」と、収益をベースにする「レベニューチャーンレート」の2種類があります。 1か月のチャーンレートを見たい場合の計算式は、下記のとおりです。
カスタマーチャーンレート=当月の解約顧客(ID)数÷前月末時点の契約顧客(ID)数×100
レベニューチャーンレート=当月に解約やプラン変更に伴って失われた収益÷前月の月次収益×100
解約は、「製品やサービスに満足できなかった」「より優れたものが見つかった」といった理由が考えられます。ですから、チャーンレートが高いということは、カスタマーサクセスが不十分だったということができます。
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3)NPS
製品でもサービスでも、自分が使ってみて「これは良いな」と感じるものは、他人にもすすめたくなるもの。NPS(ネット・プロモーター・スコア)とは、そうした自社製品・サービスに対する顧客ロイヤリティを数値化した指標です。
NPSの測定方法は、まず顧客に対して「当社の製品・サービスを、友人や同僚にもすすめますか?」と質問し、0から10までの数字で回答してもらいます。0は「まったくすすめたくない」、10は「強くすすめたい」です。回答は数字に応じて、下記の3つのグループに分類します。
0~6をつけた顧客:批判者
7、8をつけた顧客:中立者
9、10をつけた顧客:推奨者
それぞれの人数を全体に対するパーセンテージで表し、推奨者のパーセンテージから批判者のパーセンテージを差し引いたものがNPSとなります。カスタマーサクセスがうまくいっていればいるほど、NPSの数値も高くなります。
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4)アップセル率・クロスセル率
営業手法 | 意味 |
アップセル | 利用中の製品・サービスから、より高機能・高価格のものへの移行をうながす営業手法 |
クロスセル | 利用中の製品・サービスと関連するものを提案する営業手法 |
アップセル・クロスセルで購入する顧客が、全体顧客に占める割合のことを「アップセル率」「クロスセル率」といいます。
アップセル・クロスセルは、既存顧客に対してアプローチをするため、これまでの信頼関係を維持したまま新たな製品やサービスが売り込めます。
また、新規の顧客獲得に比べて、営業にかかるコストも抑えられるため、効率的に収益が上げられる点もメリットの1つです。
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5)リテンションレート
継続的に収益を上げていくために、顧客の維持率や定着率を表す「リテンションレート」も重要な指標の1つです。
リテンションレートには、顧客数から求める「カスタマーリテンションレート」と、収益から求める「レベニューリテンションレート」があります。
それぞれの計算式は、以下のとおりです。
カスタマーリテンションレート
{(期間終了時の契約顧客数ー期間中の獲得顧客数)÷期間開始時の契約顧客数}×100
レベニューリテンションレート
{(期間終了時の収益ー期間中の収益)÷期間開始時の収益}×100
チャーンレート(解約率)と異なり、顧客の維持・定着を示すポジティブな指標であり、リテンションレートが高ければ、顧客満足度も高いことが分かります。
カスタマーサクセスの理解に必要な用語
カスタマーサクセスを理解するうえで「タッチモデル」と「オンボーディング」について、その意味や具体的な取り組みを知っておく必要があります。
顧客の成功に向け効果的な支援をするために、それぞれの用語を詳しく見ていきましょう。
1)タッチモデル
顧客それぞれの状況やニーズに合った支援をするためには、「タッチモデル」の手法を用いた顧客の分類が必要です。
タッチモデルの区分や取り組みについては、下記のとおりです。
ハイタッチ
自社にとってもっともLTVが高い顧客区分です。将来的に大きなLTVが見込めるため、伴走型の有償コンサルティングや専任者による個別支援など、多くのリソースを割いて対応することが求められます。
ロータッチ
ハイタッチの顧客層より、LTVが少し低い顧客区分です。見込めるLTVから個別継続的な支援は難しいため、サポート員による一律対応やセミナー、ワークショップなどの集団的支援方法を活用します。
テックタッチ
自社にとって、もっともLTVが低い顧客区分です。同時に、数が一番多い区分でもあります。すべての顧客に対応することは難しいため、ストック型の支援方法である、FAQページや動画、オンライン学習プラットフォームなどを活用します。
すべての顧客に対して同じような支援を行っても、効果が得られないばかりか、自社のリソースが不足する可能性もあります。
したがって、カスタマーサクセスの効率的な戦略の一部として、タッチモデルによる支援策の検討が重要です。
2)オンボーディング
オンボーディングとは、新規顧客が製品を使いこなせるようになるまで導く、プロセスのことをいいます。
オンボーディングの方法としては、以下のような具体例があります。
- 顧客ニーズに合わせた個別のトレーニング
- サービス登録後に機能や使い方のメール配信
- 電話・チャット・メールなどのサポート体制
製品の導入当初は、顧客に寄り添って習熟度を確認しながら、徐々に自走へと移行していくことが大切です。
カスタマーサクセス導入のメリット
カスタマーサクセスの導入は、解約率の低下や商品開発へのフィードバックなど、複数のメリットがあります。
- 解約率を低く抑えることができる
- クロスセルとアップセルにスムーズに導ける
- LTVを高く保つことができる
- ニーズを分析し、プロダクトを進化させられる
- 顧客満足度が向上して売上に貢献する
以下でそれらのメリットについて解説していきます。
1)解約率を低く抑えることができる
サブスクリプション型のビジネスモデルでは、自社製品を「いかに長く、多くの人に使ってもらえるか」という点が重要です。顧客に満足してもらえなければ容易に解約され、競合社へ乗り換えられてしまいます。
『SaaS ビジネス成功の基礎「The Model」』でも触れていますが、顧客満足度を高めるには数値や情報を正確かつリアルタイムに部門間で共有することが必要です。そうすることで、各部門のどこがボトルネックになっているかを把握することができるため、顧客満足度を向上させるために必要なアクションを素早く取ることができます。
顧客の視点を重視し、成功へと導く製品をリリースすれば、顧客は長く製品を使い続けてくれます。そして「低い解約率」と「高い継続率」という、目に見える数字となって成果が現れるのです。
2)クロスセルとアップセルにスムーズに導ける
顧客の立場からすれば、業務をよりスムーズに進めるためには、さらなるツールの導入やアップグレードが必要になることもあるでしょう。
メインとなるシステムの機能を補完するツールを用いる。あるいは、ツールそのものを多機能・高機能なものにアップグレードする。こうしたクロスセル・アップセルにスムーズに導くことができるのも、カスタマーサクセスにおけるベンダー側の利点です。
3)LTVを高く保つことができる
解約率を抑えつつ、クロスセルやアップセルを効果的に重ねることができれば、LTV(顧客生涯価値)を高めることにつながります。既存顧客への販売は、新規顧客の開拓よりも営業のハードルが低いものです。
自社製品の特徴を理解してくれているため、思い切った提案も可能です。また、顧客に寄り添い、状況に即した適確な提案を行うことで、顧客の課題や問題を解決するだけでなく自社の収益向上にもつながります。
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4)ニーズを分析し、プロダクトを進化させられる
カスタマーサクセスは顧客がどのようなことに困っているのかを拾いやすく、それをプロダクトに反映することで、より良いものへと進化させることができます。
顧客ニーズの分析は、製品に内包された可能性を見つけることにも繋がります。顧客からの声をフィードバックとして製品のアップデートに活かせば、ニーズに即した製品へとプロダクトを進化させることも可能です。
5)顧客満足度が向上して売上に貢献する
製品・サービスを顧客が使いこなせるように支援することで、製品の機能や良さを理解できるようになり、顧客満足度が向上します。
満足度の高い顧客は、製品への愛着も高まるため、以下のようにさまざまな効果が期待できます。
- 製品・サービスのリピート購入
- 口コミ・評判による新規顧客の獲得
- アップセルやクロスセルへの移行
このような効果から、顧客との長期的な関係性も築きやすくなり、売上や業績の向上に貢献するでしょう。
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カスタマーサクセス導入のデメリット
カスタマーサクセスの導入には多くのメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在します。
- 基盤の構築に時間とコストがかかる
- 効果が得られない場合がある
これらのデメリットを把握し、カスタマーサクセスの必要性を判断することで、自社の営業プロセスを見直すキッカケにもなるでしょう。
カスタマーサクセス導入のデメリットについて、以下より解説していきます。
1)基盤の構築に時間とコストがかかる
カスタマーサクセスの導入には、担当部署の立ち上げなどの基盤構築が不可欠であり、そのプロセスにおいて時間とコストがかかります。
具体的なプロセスには、カスタマーサクセス部門へ配置する人材の確保や、顧客対応のマニュアル整備などが挙げられます。
また、顧客情報・案件を管理するCRMツールの導入や、顧客へのフィードバック体制の構築も必要です。
カスタマーサクセスを導入する前には、「自社の営業プロセスに必要かどうか」について、経営状態や戦略を含めて検討しましょう。
2)効果が得られない場合がある
顧客の継続的なサービス利用を目的にカスタマーサクセスを導入したとしても、思ったような効果が得られない場合があります。
たとえば、顧客のゴール設定や成功に導くためのアプローチが、顧客のニーズや考えとミスマッチだった場合、満足のいく結果には結びつきにくいでしょう。
顧客満足が得られなければ、製品・サービスの解約率やLTVにも悪影響が出てしまいます。
また、カスタマーサクセス導入の効果が出るまでには時間を要するため、長期的な目線で取り組む姿勢も大切です。
カスタマーサクセスのプロセス
1)サクセスマップでゴールへの道筋をつける
まずは顧客にとってのゴールを明確にし、そこまでの道筋を「サクセスマップ」という形で描きます。このとき、ゴールに到達するための戦略や施策、KPIの設定位置など、細かく順序立てて設定していきましょう。
こうして作成したサクセスマップに沿って、業務の改善や定着を繰り返しながら目標に近づいていきます。ここで活用したいのが、顧客情報を蓄積し、管理・分析できるCRMツールです。
CRMツールは、顧客とのコミュニケーションの状況を詳細に把握することができるので、顧客が今サクセスマップのどこにいるのかを念頭に置きながら、次のステップに進むためのサポートとして役立ちます。
2)オンボーディングで顧客の自走を支援する
次に、顧客が製品やサービスを購入・利用してから、機能や使い方に慣れて自走できるようにサポートを行います。
カスタマーサクセスの本質は、顧客が自らゴールへの道筋を走れるように成長させる点にあります。
継続的な支援を通じて顧客の知識や技術を向上させ、さらに賢く・能動的な集団になるように導くのです。『SaaS ビジネス成功の基礎「The Model」』ではオンボーディングについて、より詳しく解説しています。オンボーディングのステップを型化し、各ステップで予定通り進捗しているのかチェックを行い、問題が起きやすい箇所に対してはマニュアルを追加するなどの対策を行いましょう。
3)タッチモデルでセグメントして対応する
複数の顧客と付き合っていくうえでは、それぞれの顧客に割くリソースを考える必要があります。
そのときに用いるのが、前述した「タッチモデル」の手法です。
見込み顧客の状況やニーズから「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」にセグメント・分類し、個別の対応を行います。
どうしても、すべての顧客に同じリソースを割くことはできないため、自社における「顧客の価値」によって対応を決定していきます。
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カスタマーサクセスの業務内容
カスタマーサクセスの業務は多岐に渡りますが、代表的な業務を3つご紹介します。
- サービスの活用支援
- サービス活用状況のモニタリング
- ユーザーコミュニティの運営
カスタマーサクセスは、継続的に満足度の高い支援が求められる分野です。顧客の離脱率を下げるためにも、各業務のポイントを覚えておきましょう。
1)サービスの活用支援
カスタマーサクセスの実現には、サービス提供当初のオンボーディングから始まり、自走できるまでの伴走、そして自走後には活用方法のアドバイスやTipsの提供など、長期的な活用支援が必要です。
製品を使いこなせるようになると、製品の良さや強みが分かり、結果的に満足度向上にも繋がります。とくに使い方が分からない序盤の支援は、契約継続に強くかかわるポイントのため丁寧に行いましょう。
2)サービス活用状況のモニタリング
サービス提供開始後は、利用頻度や利用時間などをモニタリングし、製品の利用状況を確認しましょう。このとき、利用頻度が少ない場合は、何らかの問題が起こっていると考えられるため、状況確認や問題点の聞き取りなどを行います。
とくにアプリケーションの場合、ささいな使い勝手や機能不足がボトルネックとなる可能性もあります。製品を日常的に利用してもらえるように、細かな障害を取り払うことを心がけましょう。
3)ユーザーコミュニティの運営
ユーザーコミュニティとは、同じサービスを利用している企業による集まりです。サービスに関する知識や活用方法の共有を目的としていて、ユーザー同士のコミュニケーションから、さらなる可能性を見出せます。
同じ製品を使っていても、目的や業種によってまったく異なる方法で活用しているケースもあります。多くの事例から製品の可能性を知ることで、NPS向上にも役立ちます。
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カスタマーサクセスに求められるスキル
求められるスキル | スキルの内容 |
コミュニケーションスキル | 顧客の意見を丁寧に聞き取り、スムーズに情報伝達するためのスキル |
問題の発見・解決スキル | 顧客とのコミュニケーションから、課題や問題を発見し、迅速かつ効果的な解決策を提供するスキル |
データの分析スキル | データから顧客の行動やニーズを分析し、企画や戦略を提案するためのスキル |
ファシリテーションスキル | 社内のさまざまな意見を集約し、目標を達成に向けて調整を行うスキル |
各種ツールの適応スキル | 業務上で使用するコミュニケーションツールや、顧客管理ツール(CRMなど)を使いこなすスキル |
カスタマーサクセスを成功させるポイント
カスタマーサクセスを成功させるためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
- データを活用して顧客への理解を深める
- 顧客状況に合わせたサービスを提供する
- 協力目標を掲げて組織全体で取り組む
顧客へ最適なサポートを提供するためには、顧客の状況を的確に把握したうえで、カスタマーサクセスを含めた部門間の連携が重要です。
以下より、カスタマーサクセスを成功させるポイントを解説します。
データを活用して顧客への理解を深める
顧客を成功へと導くためには、蓄積されたデータを活用して、顧客のニーズ・課題への深い理解が必要不可欠です。
顧客の行動・ニーズに関するデータを基に、表面的に分かる情報から潜在的な情報まで深く理解することで、顧客に合った戦略の立案やフォローができます。
CRMツールの活用によって、行動履歴などのデータから効率的に分析できるため、顧客への対応スピードも上がり満足度の向上にもつながります。
顧客状況に合わせたサービスを提供する
多様な顧客ニーズに対して、一般的なアプローチでは効果が期待できないため、顧客ごとの状況に合わせたサービスの提供が重要です。
前述したタッチモデルの手法から顧客を分類し、顧客ごとに提供するサービスや対応方法を変えることで、顧客ニーズを満たしつつ、効率的な運用ができます。
また、顧客のヘルスコア(サービス利用の継続性を示す指標)の活用により、アップセルの機会にもつながるため、より高品質な製品・サービスが提供できるでしょう。
協力目標を掲げて組織全体で取り組む
カスタマーサクセスを成功させるためには、部門を超えて組織全体の連携を強化し、協力目標を掲げて取り組むことが重要です。
カスタマーサクセスは営業プロセスの一部でしかないため、営業やマーケティングなど他部門と協力することで、各部門でしか知らない情報・知見が共有できます。
組織全体が一体となれば、顧客ニーズを深掘りした「顧客が本当に求めるサービス」を提供できるようになるでしょう。
なお、部門間の協力目標を掲げることは、組織運営に関わる取り組みであるため、経営陣の考えや意見を聞くことが重要です。
カスタマーサクセスの運用に役立つツール
カスタマーサクセスを成功させるカギの1つが、ゴールや道筋の正確性です。そのためにも、データの蓄積や分析が重要であり、これらを支えるための頼れるツールが必要不可欠です。
なかでも、顧客との関係から現状把握や必要なコミュニケーション方法の分析が可能なCRMは、自社が道筋のどこにいるのか、ポジションを明確にするために役立ちます。
カスタマーサクセスの成功事例
事例1 カスタマーサクセスを理念として「顧客に寄り添うビジネス」を実現する
多様な金融商品を提供し、オンラインバンキングでは100万人を超える顧客を擁する株式会社新生銀行。しかし、チャネルごとに顧客情報が分断されていたために、シームレスな顧客対応ができないという課題がありました。
たとえば、顧客がウェブ上の商品ページを何度も閲覧しているのに、店舗ではそうした事実を踏まえた対応ができない。ある商品について問い合わせをしている顧客に対して、その商品の案内メールを送信してしまう。これらの問題を解決し、顧客体験を改善するには、カスタマーサクセスの理念を掲げ、それを業務フローに反映させることが必要でした。
そこで同行では、Salesforceの標準プロセスを全面採用することを決定。SuccessCloud アドバイザリーサービスによる支援を受けて、業務の構築だけでなく、プロジェクトの意義を現場に理解してもらうという地道な調整も進めていきました。
Salesforceの利用が社内に浸透してからは、部門を越えたリアルタイムの情報共有が実現可能に。コールセンターでは、顧客の行動履歴などから適切な案内が行えるようになり、さらに気づいた点があれば営業に報告して対応を促すなど、「お客様に寄り添うビジネスモデル」への変革を果たすことができました。
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事例2 「サポートの理想像」を全員が共有し、過去と未来を踏まえたカスタマーサクセスを目指す
法人および個人事業主向けに、「会計freee」と「人事労務freee」といったクラウドサービスを提供するfreee株式会社。顧客の成功と満足が自社商品の契約継続につながるというSaaS企業の特性から、カスタマーサクセス活動に注力し、顧客体験の向上をもたらす施策を次々に展開していくようになりました。
しかし、その過程で浮上したのがシステムの問題。当時、サポート部門で使っていたシステムが、セールス部門で利用していた「Sales Cloud」と完全なデータ連動ができないために、両部門にまたがる完全なカスタマージャーニーを把握できないという状態に陥っていたのです。
同社では、サポート部門に「Service Cloud」を採用することを念頭に置いていましたが、社内には従来のシステムを使いたいという声も多数ありました。そこで行ったのは、社内意識のすり合わせと共有です。
SaaS企業としての理想のサポートとはどのようなものかを全員で考え、ディスカッションした結果、「顧客の現在だけではなく過去と未来も踏まえ、顧客ごとの成長ストーリーに沿ったサポートを提供する」という理想像にたどり着きました。
このような理想を共有することで、全員が同じ方向を向いて動き始めるように。そして、今まで以上に顧客を深く理解し、最適なリソースを提供することを可能にしたのです。
事例3 専門の部門を設け、サービスの流れを具体化して、カスタマーサクセスを提供する
クラウドストレージの枠を大きく超えた、コンテンツマネジメントサービスを提供する、株式会社Box Japan。同社では、SaaS企業にとって成功の要である、カスタマーサクセスに重点的に取り組んでいます。
まず、カスタマーサクセスのゴールを「すべてのお客様が、利用と活用において必要なガイダンスとリソースが提供され、利用価値を最大化できる状態にあること」と定義。
その状態を実現するためにカスタマーサクセス部門を設け、顧客が自社のサービスを、導入、定着、最適化、拡大するための一連の流れを支援する体制に整えました。 サポートやメンテナンスといった一般的なユーザーサービスの機能もこの部門の中に置かれ、顧客満足の向上に貢献しています。
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事例4 顧客の有益なステップを他部門へアドバイスできる
IT環境の運用・管理に必要なハードウェアやソフトウェア、コンサルティングなどのサービスを幅広く提供している日本アイ・ビー・エム株式会社。
カスタマーサクセス部門をはじめ、各部門間の連携やコラボレーションを強化するため「Salesforce」と「Slack」を中心に業務を行っています。
カスタマーサクセス部門では「Service Cloud」を通して、顧客のシステム利用状況を確認・分析しています。
その結果から、「次の効果的なアプローチ」を営業部門にアドバイスできる体制を整えました。
また、同社の社員は外出先でもモバイルからSalesforceにアクセスしながら、タイムリーにタスクを確認しています。
SalesforceとSlackを活用し、以下のような業務の効率化を図りました。
- 新規顧客への提案書テンプレートの作成を自動化
- 上司だけではなく技術部門などの承認フローも効率化
- 社内システムとSlackを連携させて、電子署名・契約をSlack上で実施
このような取り組みを通して、組織全体の生産性が向上したうえ、顧客との信頼関係を作る基盤(プラットフォーム)の構築にもつながりました。
カスタマーサクセス部門をはじめ、社内からも「業務が楽になった」との声も上がっており、業務効率化の成果が感じられています。
事例5 コミュニティ専門部署を新設して戦略的な施策を立案する
クラウド型の営業DXサービスを提供しているSansan株式会社は「営業を強くするデータベース」をコンセプトに事業を展開しています。
同社では、ユーザーとの良好な関係を構築するため、ユーザー同士が情報交換できるコミュニティ「Sansan Innovation Community」を運営しています。
コミュニティはカスタマーサクセス部によって運営していましたが、コミュニティの大きな可能性を感じていたものの、効果が十分に発揮されていませんでした。
そこで、Salesforce「Experience Cloud」の活用を継続しながら、カスタマーサクセス部の全体で運営に関わる「コミュニティ戦略室」を新設しました。
コミュニティ戦略室では、主に以下のような取り組みを行っています。
- コミュニティ登録者をSansanユーザー限定から拡大
- 共通の興味を持つユーザーが集える「コミュニティグループ」を提供
- コミュニティ内の要望を営業・カスタマーサクセスへSlackで自動通知
このような取り組みによって、顧客が知らなかった機能やサービスを紹介するキッカケとなり、アップセルにもつながっています。
カスタマーサクセスにおける注意点
カスタマーサクセスは、顧客の目標達成を手助けすることが大切です。それは、高い顧客満足度の実現でもあるのですが、場合によっては、顧客満足と相反する行動が必要になる場合もあります。
これは、カスタマーサクセスにおける注意点として、押さえておくべきポイントといえるでしょう。
その顧客はプロダクトにマッチしているか
企業が、何らかの製品やサービスを購入するのは、それによって自社の課題や問題を解決できると信じたからです。しかし、そこにミスマッチがあると、せっかく購入した製品やサービスが、その効果を十分に発揮できません。
すると、「思ったほど使えるものではなかった」という悪評も生まれますし、時間と労力を使った結果、双方が何も得られなかったという、無意味な結果に終わることが多いものです。
こうした不幸な結末を避けるためには、「この顧客は自社製品とマッチしているか」ということを、常に気にしておくことです。この前提が崩れてしまうと、カスタマーサクセスは何の効果も生むことができなくなってしまいます。
要望に応えることが必ずしも正しくはない
自社プロダクトを洗練させていくには、ユーザーである顧客の意見や要望を吸い上げることは、とても重要です。それらの要望を重視するあまり、そのすべてを反映しようとすると、プロダクトが迷走してしまいます。
機能の追加や拡張など、自社プロダクトの改良という面では、マジョリティの意見が反映されることが多いものです。しかし、限定的な機能や用途において、マイノリティの意見が重要なヒントになることもあるでしょう。それによって、競合製品にはない機能や付加価値を生むことができれば、アドバンテージにもなりえます。
ただし、少数意見に偏りすぎて、全体の利便性を損なうことになっては本末転倒です。そうした点には、常に注意深くあるべきでしょう。
ツールを活用し、自社にも顧客にもサクセスを
クラウドサービス周辺から発生したカスタマーサクセスという概念ですが、「顧客の利益追求を手助けすることで自社も利益を得る」という考え方は、旧来のビジネス手法にも合致するものです。
ビジネスの基本ともいえるものですので、改めて見直し、自社の業務に落とし込んでみてはいかがでしょうか。
また、カスタマーサクセスの過程においては、顧客とのコミュニケーションの内容や進捗について、リアルタイムで管理していく必要があります。CRMをはじめとする各種支援ツールを活用して、より効率的な業務運営を心掛けてください。