稼働率とは?計算方法や改善方法、可動率との違いを事例をもとに解説

 
最終更新日:2024.6.11

製造業の管理指標としてよく使われる稼働率。効率を求め稼働率を高めようとすると、反対に生産性が落ちる場合があります。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

ここでは、稼働率が表す状態と、改善のために気をつけたいポイントについて解説します。

 
 
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稼働率と可動率(べきどうりつ)の違い

稼働率は、人が動く現場や製品を作り出す生産部門でよく使われる言葉です。人がどれだけ行動したのか、生産設備がどの程度活動したのかをベースに、その作業効率や生産効率を示した数値となります。
稼働率と可動率は、同じような意味を持つ言葉というイメージがあるかもしれませんが、それぞれ意味合いが違います。それぞれの違いについて、簡単に説明しましょう。

稼働率の計算式と経営的指標

一般的に、生産工場で使われる稼働率は、生産量をベースにする場合と、稼働時間を基準とする場合があり、それぞれ次の式で算出されます。

<稼働率の計算式>
稼働率(%)=実際の生産量÷生産能力×100
稼働率(%)=実際の稼働時間÷本来稼働すべき時間×100

稼働率とは文字どおり「その働きによってどれだけ稼いだか」を示す数字で、その意味では経営的な指標といえます。設備の生産能力に対して、あるいは顧客からの注文量に対して、どれだけの製品を生産できたかを表す割合です。
理論上、稼働率が100%前後で推移していれば「効率良く生産できている」ということになりますが、受注量が増えた場合などに、100%を超えるケースもあります。

可動率の計算式と生産現場での指標

可動率は「設備が正常に動くことのできた時間の割合」を表し、生産設備の運転時間をベースに算出します。
読み方は稼働率と同じ「かどうりつ」ですが、設備が動く「べき」ときに動かせるようにするという指標であるという意味から、稼働率と区別するために「べきどうりつ」と読むこともあります。

<可動率の計算式>
可動率(%)=正常だった運転時間÷総運転時間×100

正常だった運転時間とは、総運転時間から設備のメンテナンスや立ち上げなどの時間を引いたものです。つまり、可動率は純粋に「生産設備をどれだけ正常に動かせたか」という、現場側の指標といえます。
規定の操業時間の中でトラブルを起こさず、できるだけ機械を止めずに生産し続けることで、可動率は100%に近づいていきます。

設備総合効率とは?

稼働率と類似の文脈で言及される設備総合効率(OEE: Overall Equipment Effectiveness)は、製造設備の効率性を評価するための重要な指標です。OEEは「稼働率」「性能」「良品率」の3つの要素から成り、各要素を計算してOEEを求めます。例えば、稼働時間、理論最大生産速度、良品数を基に計算されます。OEEは設備の効率性を総合的に評価し、生産ラインのボトルネックや無駄を発見し、改善策を立てるためのツールとして活用されます。これにより、生産性の向上とコスト削減が可能になります。
 
 
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【用語解説】

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稼働率をどのように読み解くか

稼働率の数値はどう読み取り、どのように改善につなげていけばいいのでしょうか。
続いては、稼働率が低い状態と高い状態、それぞれどのような状態を示しているのか解説していきましょう。

稼働率が低い状態:受注量が生産能力に比べて少ない

稼働率が低い状態は、本来の生産能力に対して実際の稼働が低い状態にあることを示します。つまり、「忙しくない、本来のレベルまで稼げていない」というわけです。これは、受注量が少ないことや、受注量に対して生産能力が大きすぎる場合に起こります。
業界によっては繁忙期と閑散期があり、年間を通じて稼働率に波が生じるということはあるでしょう。しかし、そうした一時的なものではなく、稼働率が低下した状態が続いているなら、営業に注力して受注を増やし、同時に手の空いてしまっている従業員の勤務状況を調整して、コストの無駄を削減する必要があります。

稼働率が高い状態:100%を超えると通常以上の負荷がかかっている

一般的に稼働率は、100%が最も安定的で効率が良いということになります。しかし、稼働率が100%を超える場合があります。たとえば、顧客から大量の注文が入り、短期間で生産しなくてはならないときなどです。ですが、これは正常な状態ではありません。

稼働率は、生産設備の能力値と規定の操業時間から割り出される数値です。これが100%を超えているということは、生産設備に通常以上の負荷がかかっているか、あるいは操業時間が規定以上に延長されているかのいずれかです。人と機械に通常以上のストレスがかかっている状態ですから、長く続くのは好ましくありません。
稼働率は高いほうが良いという思い込みがあるかもしれませんが、「なぜその数値なのか」という点まで考慮しないと、現場の状況を見誤ることにもなります。

稼働率を無理に高めてはいけない理由

ここまで解説したとおり、稼働率は100%のときが最も生産効率が良いということになります。
しかし、100%という数値を気にするあまり、無理に稼働率を高め、悪い結果を招くということもあるでしょう。

そうした例をいくつかご紹介します。

ケース1:稼働率を高めるために、計画から外れて生産量を増やしてしまった

設備の稼働率は、生産現場にとって重要な指標です。しかし、稼働率が下がることを恐れて、当初の生産計画以上に機械を動かしてしまうと、どうなるでしょうか。あるいは、受注生産品を製造する際、受注分以上に大量に製造してしまったらどうでしょう。いずれも、すぐには売れない在庫品が工場の倉庫に積み上がることになります。

稼働率は生産効率の指標であって、それ自体を上げることが目的ではありません。無理に稼働率を上げようとした結果、売れるあてのない在庫品が増えていくのでは本末転倒です。この状況が続けば、企業の財務状況を悪化させることにもなりかねません。
稼働率に振り回されてしまうと、このようなことも起こりますので、くれぐれも注意しましょう。

ケース2:稼働率100%を目指すために、設備の生産能力を少なくしてしまった

長きにわたる不況で工場の稼働率が低迷しており、回復の見通しがまったく立たない。このような状況では、生産ラインそのものを見直し、減産体制に移行するところも出てきます。

たとえば工場で、ある工程の設備の稼働率が65%程にまで落ち込んでいました。そこで、その設備の一部を絞り、生産能力を3分の2に落とすことに。これで計算上では、これまでの生産量を維持しつつ、稼働率は100%近くにまで高めることができると思われました。
しかし実際には、納期遅れが頻発するなど、全体の生産性が落ち、これまでの生産量を維持できないという事態に…。なぜ、このようなことが起きたのでしょうか。

生産工場の現場では、原料を投入して完成品になるまでに、いくつもの工程を通過することになります。そして、それらの工程のあいだには、次の工程にすぐに入れず、待ち時間が生まれることがあります。
常に一定量の仕事が、一定のペースで入ってくれば、この待ち時間を解消することもできるでしょう。しかし、そこには程度の差はあれ変動があります。急に大量の受注が入ることもあるでしょうし、生産設備そのもののバラツキもあるでしょう。
今回、一部工程の生産能力を減らした結果、そうした変動が吸収できない状態になってしまいました。ある工程の稼働率を高めようとしたことでボトルネックが生まれ、全体の生産性を落とすことにつながってしまうのです。

稼働率を高めるためには余裕を持ったマネジメントが必要

このように、稼働率は状況によって、「100%に近いほど良い」とはいえない場合が出てきます。部分的にはベストであっても、全体的に見るとそうではないというわけです。詳しく見ていくと、計算式には表れない、細かな要素が影響していることがわかります。

また、生産力を維持するための機械のメンテナンスや調整のための試運転なども、定期的に必要です。そのあいだは、生産のための操業運転はできませんから、全体の稼働率は落ちてしまいます。
しかし、こうした作業は、継続的な生産力を維持するためには欠かせないもの。それだけに、部分的な数字に一喜一憂するのではなく、全体を見渡して、先を見越した余裕のあるマネジメントをする必要があるのです。

 
 
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稼働率の2つの改善例

最後に、稼働率の改善を行った事例を2つご紹介します。

事例1:建機とIoTの統合で目指す「未来の建設」

会社名:東急建設株式会社

東京オリンピックによる特需を経験した建設業界ですが、高齢化や人手不足といった根本的な課題は依然として解決されていません。このような状況の中、さらなる効率化を目指して東急建設株式会社が取り組んだのが、建設機械とITを統合させた「建機IoT」プロジェクトです。東京オリンピック後の需要減を見据え、持続可能な建設現場管理の革新に踏み出しました。

建設工事においては、品質と同様に納期も絶対的に重要です。しかし、天候に左右されやすく、多くの工程が複雑に絡み合う現場では、進行管理が非常に困難です。現場の規模が大きくなるほど、工期が長くなり、日々のわずかな遅れも許されません。

そこで、東急建設は各建設機械にGPSを取り付け、稼働位置や稼働率をデータで管理するシステムを導入しました。これにより、現場の状況を目視できない場合でも、常に全体を把握できる環境を整えました。

このシステムの基盤として選ばれたのが「Salesforce」です。Salesforceの柔軟な拡張性により、稼働状況の集計を期間ごと、重機ごと、協力業者ごとなど様々な切り口で行うことができます。

この手法をさらに深化させることで、現場をより効率的に運営し、工期の短縮や省エネ、コスト削減につなげることができます。また、近隣住民が工事状況を確認できるようにすることも可能です。これこそ、東急建設が目指す「未来の建設」と言えるでしょう。

事例2:緻密なカスタマージャーニーを基に、顧客体験を向上

会社名:株式会社ジェーシービー

日本生まれの国際的なカードブランドとして、揺るぎない存在感を放つ株式会社ジェーシービー。モバイルデバイスの広がりに加えて、キャッシュレス決済の多様化と普及に対応するため、デジタルチャネルの拡充戦略を新たにスタートすることになりました。そこで、重要なテーマとして再確認されたのが、顧客視点のサービス。よりパーソナルなサービスを提供することで顧客の稼働率を向上させ、顧客体験を高める方針をさらに前進させることとしました。

同社が運営するデジタルチャネルは、ゆうに100を超えます。この規模で、よりきめ細やかなコミュニケーションを実現するために「Salesforce Marketing Cloud」を導入。これをプラットフォームとして、顧客のライフステージに合わせたカスタマージャーニーの構築から始めました。
カスタマージャーニーは、詳細に検討していくと多くの課題が発見できます。そのひとつひとつを解決しつつシナリオメールを改善すると、顧客の稼働率が約5%、利用額は約10%上昇しました。

さらに、日々積み上がっていく膨大なデータを検証していくと、手入れが必要と思われる箇所が次々と見えてきます。それらの課題をよりスムーズに改善するために、同社では「Salesforce DMP」や「Salesforce Einstein」の活用も見据え、顧客体験のさらなる向上に取り組んでいます。

「稼働率をマネジメントする」という発想が必要

稼働率は、機械が並ぶ生産現場だけでなく、人が動くあらゆる場面に適用できます。しかし、いずれの場合でも、「高ければ良い」ということではありません。状況によって適正な数値というものがあります。一方で、顧客側の稼働率はコントロールが難しいものの、適切な施策によって高めていくことが可能です。
いずれの場合も、事前の計画と適切なマネジメントは必要不可欠。現場に無駄や無理がかからないよう、管理することが大切です。
 
 
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