生産性とは?種類や計算式、高める方法と生産性が向上した事例を解説
生産性の向上は、現在の多くの企業にとって、まさに至上命題といえるほどに大きな課題です。生産性の向上を果たせば、同じ労力、同じ時間で、より多くの成果を得ることが可能になります。今以上の競争力を獲得するためには必須となる改善ですが、いったいどうすれば実現できるのでしょうか。
ここでは、生産性の基礎知識と、生産性を向上させるための方法について解説していきます。
生産性とは、インプットに対してどれだけのアウトプットを得られたかを表す指標
第二次大戦後、世界経済を復興させる目的から、各国で生産性向上運動が展開されました。その拠点のひとつとして設置された「ヨーロッパ生産性本部」によれば、生産性とは「生産諸要素の有効利用の度合いである」と定義されています。
製品やサービスを生み出すためには、原材料や加工・生産設備、それを設置・運転するための土地、建物、エネルギー、労力、時間と、有形無形の多くのものが必要になります。それらの生産要素を投入して、どれほどの製品やサービスを得られたか。その比率が生産性です。
生産性を最も単純な数式で表せば、次のようになります。
<生産性の計算式>
生産性=産出物÷投入物
つまり、インプットに対してどれだけのアウトプットを得られたかを示すのが生産性であるというわけです。この数値が小さければ「生産性が低い」ということであり、効率が良くないということになります。
そのため、「多くのアウトプットを、より少ないインプットで得る」という方法論に沿って、多くの企業で生産性を高める努力が続けられています。
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生産性の2つの種類
生産性はさまざまな場面、さまざまな要素を用いて表すことができます。100個の製品を作るために3日かかっていたものが1日でできるようになれば、生産性は3倍になったと見ることができますし、同じく100個の製品を作るのに10万円かかっていたものが5万円でできるようになれば、生産性が2倍になったといえます。
このように、生産性にはいくつもの指標があるのですが、大別すると「物的生産性」と「付加価値生産性」の2種類に分けることができます。それぞれについて、解説していきましょう。
<生産性の2つの種類>
- 物的生産性
- 付加価値生産性
物的生産性
物的生産性は、製造業で主に使われます。「製品の生産量」というアウトプットと、それを生産するために必要とされる「労働力」や「時間」「コスト」「原材料の数量」といったインプットとの比で表されます。
アウトプットには生産量ではなく、売価を使う場合もありますが、製品やサービスの売価は物価の変動や市場動向などで変わるため、生産現場での純粋な生産性を測定する際には、生産数量を単位とするのが基本です。
物的生産性には、労働者1人あたり、あるいは単位時間あたりの生産性を示す「労働生産性」、企業が保有する生産設備と生産量の比を表す「資本生産性」、より広範なインプットに対する生産量の割合である「全要素生産性」などの種類があります。
付加価値生産性
付加価値生産性は製品の数量ではなく、アウトプットの金額的価値を単位とした数値です。原材料を仕入れて加工するまでのコストが1個あたり1,000円の製品が1万円で売れたとすれば、9,000円の付加価値を生み出したことになります。この「付加価値額」と、「労働力」や「時間」「コスト」などとの比で表した数値が付加価値生産性です。
付加価値生産性は価格をベースとした数値ですので、製造業だけでなく、実体のない商材を扱うサービス業でも用いられる数値です。
物的生産性と同じく、こちらも労働生産性、資本生産性、全要素生産性などの種類があります。
生産性の変化を測る指標「労働生産性」とは?
そして、近年よく話題にされる生産性とは、「1人の人間が一定時間にこなすことのできる仕事量」、つまり多くの種類が存在する生産性の数値の中でも「労働生産性」が問題にされているということになります。
では、その労働生産性を測る指標は、どのように算出すればいいのでしょうか。
労働生産性の算出方法は?
前項で解説したように、労働生産性は「物的生産性」と「付加価値生産性」、それぞれで使われています。これは、アウトプットとして「生産量」を使うか「付加価値額」を使うかの違いで、基本的な算出方法は変わりません。
<労働生産性の算出方法>
・物的労働生産性=生産量÷労働量
・付加価値労働生産性=付加価値額÷労働量
ここでいう労働量とは、「成果を得るために要した労働者数×所要時間」があてはまります。
労働生産性を指標とすることで、自社の生産性がどの程度なのか、さらに生産性向上のための施策の効果がどの程度の変化をもたらしたのかを知ることができます。
生産性向上と業務効率化の違い
生産性とともによく話題にされる「業務効率化」。
ともに似たような意味合いで使われていますが、この2つは別物と考えたほうがいいかもしれません。
まず生産性ですが、これは「インプットとアウトプットの比」を表すものです。費用対効果と同様の概念で、「どれだけ投入して、どれだけ得られたか」を示しています。ですから、生産性向上とは、その数値を高めることが目的であり、施策としては成果に直接つながりやすい行動や対策が中心となります。
一方の効率化は、現状の非効率的な部分を改める活動を指します。そのため「現状のマイナスをゼロに近づける」という行動が中心で、少しでも無駄をなくすことが目的となります。
それぞれ関連がありますし、効率化は生産性向上の一環ということもできます。しかし、具体的な施策を立案する際には、それぞれの目的を見据えて構築することが大切です。
数値化できない生産性もある
生産性は、数式によって算出できる反面、現実の仕事の場面では数値化できない要素もあります。たとえば、業務成果が数値として表れるセールス部門であっても、数値化できない仕事をしているスタッフはどの企業でも見られます。
新人の育成とケアが得意なメンバー。誰かがミスを起こしたとき巧みに立ち回り、サポートやリカバーをこなすメンバー。部内のムードメーカーとして、常に好ましい雰囲気を醸し出すことに長けたメンバー。
こうした人々の仕事は、決して数値化することができません。それぞれの営業成績だけを見れば、あまりパッとしない数字にとどまっているかもしれません。しかし、こうしたメンバーの仕事が、部門全体の生産性向上に貢献していることは、まず間違いありません。
生産性の向上、さらにそのための施策を考えるときには、こうした数値化できない、しかし明らかに生産性に寄与している要素についても忘れてはならないでしょう。
生産性を高めて得られる3つのメリット
生産性を高めると、現在の企業の多くが抱えている経営課題を、多方面にわたって軽減あるいは解決することができます。その得られる3つのメリットをご紹介しましょう。
<生産性を高めて得られる3つのメリット>
- 人手不足に対応できる
- 国際的にも競争力が高まる
- コア業務に集中でき、就労環境を改善できる
人手不足に対応できる
現在の日本では、実に多くの分野で人手不足が深刻化しています。
帝国データバンクの2024年1月の調査では、正社員の人手不足企業の割合は52.6%。業種別では、ITエンジニア不足が顕著な「情報サービス」が77.0%でトップとなり、過去最高を更新する高水準に。「2024年問題」が懸念されている建設/物流/医療業では、それぞれ約7割となりました。
【参考文献】人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)
国際的にも競争力が高まる
生産性が高いということは、より少ないインプットで多くのアウトプットを得られるということですので、企業の競争力を高めることにもつながります。
残念ながら、日本の就業者1人あたりの労働生産性は、国際的に見ると高くはありません。2022年の時点で、OECD(経済協力開発機構)加盟国36か国中、31位。先進主要7か国(G7)の中では、最下位になっています。
【参考文献】公益財団法人日本生産性本部:労働生産性の国際比較
ですが、個々の企業が生産性の向上を実現し、日本全体で成果を高めることができれば、この状況をくつがえして、国際競争力を高めることが可能となります。安価な海外製品の攻勢に対抗するには、生産性の向上は乗り越えなくてはならない大きな課題なのです。
コア業務に集中でき、就労環境を改善できる
生産性が高まれば、これまでと同量の成果を、より少ない労働量、より短い時間で得ることができます。これにより、各部門のスタッフがそれぞれのコア業務に集中することができ、さらに生産性が高まるという好循環を生みます。
また、残業を大きく減らすことで心身へのストレスをやわらげるなど、職場環境の改善にも貢献します。生産性の向上は数字に表れないところまで、その効果を発揮してくれるのです。
生産性をさらに高める3つの方法
では、生産性を今以上に高めるためには、どのような方策があるのでしょうか。その具体的な施策や手法は個々の企業によって、さらに部署によって異なるでしょう。しかし、基本的な考え方は共通です。
まず業務内容を可視化すること、業務上の無駄を取り除くこと、そして各種のITツールを活用すること。この3点です。
<生産性をさらに高める3つの方法>
- 業務内容を可視化する
- 業務上の無駄を取り除く
- 各種のITツールを活用する
業務内容を可視化する
この「業務の可視化」が、生産性向上の第一歩です。
業務上の無駄を取り除く
仕事の手順や情報の保存の仕方など、人それぞれにやり方が違っているのは好ましくありません。部署内で共通のルールを作り、それに沿って業務が流れるように整理していきましょう。
また、作業の無駄を排除すると、空いた時間で本来のコア業務に時間とエネルギーを振り分けることができます。より少ない労力と時間で最大の成果を得られるよう、コア業務にリソースを集中させる業務プロセスを構築してください。
各種のITツールを活用する
生産性を向上する際の3つの注意点
生産性の向上を図るにあたっては、下記のように注意しておきたいことがいくつかあります。気をつけていないと、生産性を上げるつもりが、反対に下げることにもなりかねません。
<生産性を向上する際の3つの注意点>
- 現場と経営陣とのコンセンサスを十分に行う
- 長時間労働に陥らないようにする
- マルチタスクの実践は慎重に行う
現場と経営陣とのコンセンサスを十分に行う
生産性の向上がなぜ必要なのか、個々の現場にどのようなメリットが生まれるのか。経営側は現場に対して、時間をかけて説明して理解を得る必要がありますし、現場の状況を理解した上で実行に踏み切ることが重要です。
長時間労働に陥らないようにする
しかし、生産性向上の本来の趣旨からすれば、労働時間をこれまで以上に延長することは避けるべきです。もし、無理を承知で強行すると、現場には「やっぱりこうなるのか…」というあきらめが広がり、モチベーションが低下してしまいます。そうなればケアレスミスが増え、トラブルの原因にもなりますし、かえって生産性が下落することにもなりかねません。
かつての日本で美徳とされていた長時間労働は、生産性の向上には役立たない。そうした認識を持っておくべきでしょう。
マルチタスクの実践は慎重に行う
しかし、人間の脳はコンピューターとは違いますから、そう上手く切り替えられるものではありません。むしろ、複数の業務のことを考えなければならないことから脳にストレスを与え、疲れさせ、生産性の下落を招いてしまいます。
あれもこれもと欲張らず、ひとつの仕事に集中して仕上げる。それが、生産性向上の基本です。
大幅な生産性向上を果たした2つの事例
生産性を改善・向上させることで、どのような変化が組織に起こるのか。その事例を最後にご紹介しましょう。
<大幅な生産性向上を果たした2つの事例>
- 事例1 情報の95%を電子化、月間2,500時間の工数削減
- 事例2 顧客対応の質を高めつつ、業務負担を大きく低減
事例1 情報の95%を電子化、月間2,500時間の工数削減
会社名:株式会社サンゲツ
1849年創業という、長い歴史を持つインテリア商品の専門商社である株式会社サンゲツ。業界最大手として順調に発展してきた一方で、長く経営してきたゆえの課題も山積していました。営業担当者は施主やゼネコン、設計事務所など、多くの営業先を抱えつつ、社内でのノンコア業務もこなさなければならない、自己完結型のスタイル。しかも、あらゆる情報伝達と保存が紙ベースであり、業務の効率化とセールス体制の変革が急がれる状況にありました。
現状打破の思い切った方策として、同社は全社に「Sales Cloud」を導入。業務状況を可視化するとともに、それまで紙ベースだったあらゆる情報を電子化。さらに、デジタルデータをベースにした営業活動と、ワークフローを構築しました。この、デジタルへの移行によって、営業部門の情報のうち95%をデジタル化。月間で2,500時間もの工数の削減を果たすとともに、膨大だった印刷用紙の使用量を大幅に減らすことができました。
また、デジタル化によって営業スタイルも大きく転換。あらゆる情報をリアルタイムで共有できるメリットを活かし、「繋がるサンゲツ」という指針を設定。代理店や仕入れ先向けのポータルサイトを立ち上げ、情報共有から在庫確認・出荷証明書の発行などの作業まで、Webで完結できる仕組みを作り上げ、業務の効率化と生産性の向上に大きく役立てています。
事例2 顧客対応の質を高めつつ、業務負担を大きく低減
会社名:ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
インターネット接続サービスを手掛ける、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社。市場の拡大が頭打ちになりつつある状況で、「いかに顧客満足度を高めるか」が大きな課題となっていました。その中で、顧客からのニーズが高まっていたのが、チャットやSNSによるノンボイスのカスタマーサポート。しかし、従来のシステム構成では機能の追加がしにくく、また複数のシステムを併用していたため、操作性も高いものではありませんでした。
この課題を解決するために同社が導入したのが「Service Cloud」です。高機能を低コストで、しかも安定的に使うことができ、拡張機能を追加する際にも、社内のIT部門の手をわずらわせることがありません。
また、運用時のオペレーションを考慮して、あらゆる問い合わせに対応できるようカスタマイズ。問い合わせ内容に関連するナレッジをデータベースから呼び出し、一画面に表示させるよう変更したことで、オペレーターの作業負荷が軽減され、サポート完了後の作業量も15%削減することができました。
こうした実績を踏まえて、同社ではチャットサービス「Live Agent」、フォーム作成ツール「Web to Case」の活用を始め、現場の生産性を高めつつ、より優れたカスタマーコミュニケーションの実現を目指しています。
生産性向上は実現できる事業課題
全社を挙げて取り組み、生産性の向上とともに、自社のさらなる発展を目指してください。
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