コールセンター業務を在宅化する進め方やメリット、企業の事例を解説
多くの業種・職種でリモートワークが広がりつつある中、コールセンター業務も在宅化の動きが進んでいます。クリアしなくてはならない課題が数多くありますが、それを乗り越えることができれば、安全で柔軟なコールセンター業務を実現できるでしょう。
ここでは、コールセンター業務の在宅化にどのようなメリットがあり、どのように移行すればいいのか、移行の方法や注意点について解説していきます。
コールセンターの在宅化の現状と在宅化が進まない理由
ここ数年、働き方改革が政府の後押しで推進されてきており、それとともに在宅勤務など、労働形態の選択肢が増えつつあります。また、新型コロナウイルスの蔓延によるテレワークの浸透も、そうした動きを加速させています。しかし、コールセンター業務は、なかなか在宅化が進まない業種のひとつでした。そこには、次のようないくつかの理由が挙げられます。
<コールセンターの在宅化が進まない理由>
- セキュリティ上の問題がある
- 労務管理が難しい
- 品質管理がしにくい
コールセンターでは、個人情報をはじめとする重要な情報を多数扱うため、システムに外部からアクセスする在宅化に踏みきりにくいという事情があります。
また、労務管理の難しさは在宅勤務に共通するものですが、それ以上に大きな課題が品質管理です。マネージャーやスーパーバイザーによるモニタリングやエスカレーション(顧客対応を経験豊富な別の担当者に代えること)をどうするか、その仕組みを構築しなくてはなりません。
広がりつつあるコールセンターの在宅化
コールセンター企業が加盟する一般社団法人日本コールセンター協会の「2023年度コールセンター企業実態調査」を見ると、「在宅コミュニケーター(オペレーター)を採用している」と回答した企業は31社で、非公開を除いた59社の52.5%となり、前年度の50%から増加しています。
また、在宅コミュニケーターを採用している理由として「働き方の多様化のため」が21社(100%)と最も多く、「BCP対策のため」が20社(95%)と続いた。
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コールセンターを在宅化する2つのメリット
コールセンターを在宅化するとなると、コストも手間も時間もかかります。しかし、下記のように、それを上回るメリットも得られます。
<コールセンターを在宅化するメリット>
- 人材確保がしやすい
- 緊急事態時にも対応できる
人材確保がしやすい
出産・育児、あるいは介護で家を空けられない人たちの中には、優秀なオペレーターが数多く存在します。そのほか、さまざまな理由から、「外に出て働きたくても、それができない」という人もいるでしょう。在宅化を実現すれば、そうした人材を広く募集することができます。
緊急事態時にも対応できる
2020年から起こっているコロナ禍のように、安全のために出社が難しいような場合でも、コールセンターを在宅化することで業務への悪影響を極力減らすことが可能です。
コールセンターを在宅化する2つのデメリット
コールセンターを在宅化することで、人材確保がしやすいことや緊急事態時にも業務の対応できるなどのメリットが挙げられますが、下記のようなデメリットも考慮しなければいけません。
<コールセンターを在宅化するデメリット>
- システム整備などのコストが必要
- スタッフ間のコミュニケーション不足
システム整備などのコストが必要
いずれにせよ、在宅化によってどれほどのコストが必要か、事前に試算しておくことは必要でしょう。
スタッフ間のコミュニケーション不足
必要なシステムやツールを準備し、用途に合わせて使い分ければ、在宅化によるコミュニケーション不足は、さほど心配することはありません。
コールセンターを在宅化へ移行する際の4つの課題
これまで社内で行っていたコールセンター業務を社外に、それも在宅へと移行するとなると、クリアしなくてはならない課題がいくつかあります。これは、応対品質や就業環境にも大きく関わるところですから、十分な準備を怠らないようにしてください。
<コールセンターを在宅化へ移行する際の4つの課題>
- 応対品質を維持できるか
- 万全のセキュリティ対策が行えるか
- マネジメント環境をどのように整えるか
- 適切なシステムを選べるか
応対品質を維持できるか
コールセンター業務では、顧客への確実な対応が第一です。そのためにはまずCRMなどの業務システムに問題なくアクセスできる環境を整えること。そして、受電・架電をオフィスと同等にスムーズに処理できるようにし、マネージャーやスーパーバイザーへのエスカレーションがうまく機能するよう、ルールと手順を設定しておくことが重要です。
在宅業務では、回線や電源などの環境がオペレーターごとに異なりますし、思わぬトラブルが起こる場合もあります。たとえば、「冬場に暖房などで電力を使いすぎ、ブレーカーが落ちてしまう」といった事態は、十分想定できることでしょう。
在宅業務で常に完璧な応対品質を維持することは、オフィス以上に難しいもの。しかし、可能な限り想定を立て、高い応対品質を維持できるよう、準備するようにしてください。
万全のセキュリティ対策が行えるか
情報漏洩が一度でも起こってしまうと、世間の企業に対する信頼は大きく揺らぎ、その回復のためには長い時間と努力が求められます。可能であれば専門家のアドバイスを受けるなどして、どこにリスクがあるのか、どうすれば回避できるかを点検し、対策しておくことをおすすめします。
マネジメント環境をどのように整えるか
オペレーターのマネジメント環境をどのように整えるかも、在宅化の重要課題となります。
まず、オペレーターの労働時間管理です。規定の時間に勤務していなかったり、反対に勤務超過になっていたりすることのないよう、管理体制を整えなくてはなりません。
また、業務評価についても、オフィスでの業務と同様に、評価できる方法を作っておくことが大切です。これは、通話記録などから応対品質を計測する仕組みが必要となります。さらに、在宅者と出勤者が混在している場合には、双方のあいだに不公平感が出ないようにすることも大切です。
さらに、メンタルへの配慮も重要でしょう。在宅勤務は身近に同僚がいない分、孤独を感じやすいもの。ストレスを抱えがちなコールセンター業務であれば、個々のオペレーターに対する一層のストレスケアを実践したいところです。
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適切なシステムを選べるか
コールセンターの在宅化を図る場合、そのための機能を備えたシステムを導入することになります。リモートワークの普及とともに、コールセンターシステムも在宅化に対応したものが登場しています。それらの製品群の中から、自社に必要な機能やコストなどを勘案し、選定するようにしましょう。
また、デモ版を試用したり、導入事例をチェックしたりして、自社に合ったものを慎重に選ぶようにすることが大切です。
コールセンターの在宅化の4ステップの進め方
コールセンターの在宅化は、具体的にどのように進めればいいのでしょうか。ここからは、一般的な手順を解説していきます。
<コールセンターの在宅化の進め方>
- 現状を調査し、在宅化の可否を判断する
- 移行計画を策定する
- 必要な環境と機材を用意する
- 予行演習を経て、移行する
1. 現状を調査し、在宅化の可否を判断する
使用しているシステムや業務フローなどをすべて洗い出し、在宅化が可能かどうかを検討してください。この段階で、移行にあたってどのような機材やシステム、作業が必要なのか、おおよそのところを想定しておき、そこに必要な概算コストや所要期間を出しておきます。その上で、移行するかどうかを決定するようにします。
なお、在宅化が必須である場合や、あまり時間をかけられない場合には、専門知識を持ったコンサルに依頼するなどして、短期間での確実な移行を目指すようにしましょう。
2. 移行計画を策定する
すでに利用しているシステムを継続使用するのであれば、追加機能が必要かどうか、ベンダーとの打ち合わせを行います。また、新たにシステムを導入するのなら、移行先システムの機能確認も行います。
在宅化へのプロセスを作り、どのような作業が必要になるかを整理した上で、スケジュールとともに関係者それぞれの役割分担を決めておきましょう。
3. 必要な環境と機材を用意する
オペレーターには研修を行い、在宅化で考えられるトラブルや注意点、万一の際にはどう対処するかを確実に教育しておきましょう。
在宅化に移行した後で問題点が発覚すると、場合によっては業務を止めることにもなりかねません。そうしたことのないよう、この段階で入念にチェックし、作業を済ませておくべきです。
4. 予行演習を経て、移行する
また、状況が許せば、少人数での移行を先行しておき、問題がないことを確認してから全体を移行するという、スモールスタートも有効です。
コールセンターの在宅化の3つの事例
最後に、コールセンターの在宅化を成功させた事例をご紹介していきます。それぞれ、事情の異なる3社がどのように在宅化を果たしたか、ぜひ参考にしてください。
<コールセンターの在宅化の3つの事例>
- 情報基盤のクラウド化が在宅への移行を容易にする
- 在宅への一斉移行で、運用面でもメリットが生まれた
- 情報集約と作業の簡素化で、不安が自信に
事例1:情報基盤のクラウド化が在宅への移行を容易にする
電気、給排水、ガスなどの設備資材を製造・販売する未来工業株式会社は、2020年のコロナ禍の拡大にあたり、全国12か所のコールセンターを在宅化しました。このスムーズな移行を可能にした背景には、同社がコロナ禍以前から情報基盤のクラウド化を進めていたことが挙げられます。
本社のある岐阜県を中心に、同社は全国に販売拠点を持っています。地域によって商習慣が異なることから、コールセンターも各地に分散させ、顧客対応も現地の判断を尊重するというスタイルを維持してきました。
また、判断の根拠は客観的なデータにもとづくべきという考えから、すべてのデータを営業支援システム「Sales Cloud」に集約し、「Einstein Analytics」で分析する体制を整備。さらに、2019年の時点で、コールセンターシステムである「Amazon Connect」を導入。Sales Cloudとの連携によって、円滑な顧客対応を実現していました。
クラウド化のメリットのひとつに、場所や規模の急激な変更にも容易に対応できるという点が挙げられます。同社のケースは、こうしたクラウドの特性を最大限に引き出した例といえます。
事例2:在宅への一斉移行で、運用面でもメリットが生まれた
株式会社セゾン情報システムズでは、コールセンター拠点を東京都心とその周辺に集中させ、顧客対応を行ってきました。2020年のコロナ禍拡大により、最初の緊急事態宣言が発出された際には、まず全員が在宅勤務へ移行。自宅から「Service Cloud」にアクセスし、メールやウェブフォームで顧客対応を行う緊急避難的な措置がとられました。その後、コールセンターシステムである「Amazon Connect」の導入が完了すると、電話応対が再開され、以前と変わらぬ応対品質を取り戻しています。
同社がスピーディな対応をとれたのは、2019年から準備を進めてきたサポート業務のクラウド化がありました。当初の計画よりも前倒しでの実施となりましたが、コールセンターのクラウド化・在宅化は、既定路線だったのです。そして、この移行によって、夜間や休日に急な欠員が出た場合でも、「在宅メンバーが2時間交替で勤務に入る」といった、柔軟な対応が可能になりました。
通勤が不要で、家にいながら仕事ができる。それが、在宅勤務の大きなメリットですが、同社では運用面においても、インハウスを大きく上回る価値を生み出しています。
事例3:情報集約と作業の簡素化で、不安が自信に
全国で賃貸住宅の管理運営を手掛ける、ビレッジハウス・マネジメント株式会社。コロナ禍の拡大で緊急事態宣言が出されたのは、ちょうど「Salesforce」の本格運用を始めた直後でした。とはいえ、入居希望者への対応を受け持つ拠点スタッフは、「Service Cloud」による顧客情報管理の研修を終えたばかり。まだ習熟の途中ではありましたが、約20人が一斉に在宅勤務にシフト。自宅からService Cloudにアクセスし、顧客管理を行うことになりました。
こうした状況では、やはり業務に不安が残ります。しかし、「住まいの提供」という長期的なサービスを行う同社は、顧客とのタッチポイントを多数持っており、顧客情報を一元管理するソリューションとして、Salesforceを採用していました。また、クラウド化に伴ってペーパーレス化が加速し、作業負荷が簡素化されたことで、不安はやがて「在宅でもできる」という自信へと変化していったそうです。
同社では、福岡・名古屋に拠点を設け、この2か所で全国に散らばるすべての物件を、電話とメール、チャットで紹介できる体制を整え、「住まい相談センター」として運用を続けています。
安全確実なコールセンター在宅化の実現を
この記事を参考に、自社の状況に合わせて最適な形を摸索し、コールセンターの在宅化を進めてみてください。
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