※本資料は2024年3月8日に米国で公開された Salesforce’s First 25 Years: Blazing a Trail to the #1 AI CRM の抄訳です。本資料の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。
世界が 2000年問題 に向けて準備を進めていた頃、また映画『マトリックス』が公開され、ドットコムブームがまだ盛り上がっていた頃、パーカー・ハリス(Parker Harris)とマーク ・ベニオフ(Marc Benioff)はカリフォルニア州バーリンゲームのステーキハウスの駐車場に立ち、これまでとはまったく異なる新たな方法で企業が顧客とつながる方法を考えていました。
ハリスは当時のことを次のように振り返ります。「マークは、Amazon で本を買うのと同じくらい CRMを簡単にするというアイデアを持っていました。彼は『会社を立ち上げようか?』と言い、私はもちろんと返したのです」
それから間もなく、この二人はソフトウェアコンサルティング会社にいたハリスのパートナー、フランク・ドミンゲス(Frank Dominguez)とデイブ・モエレンホフ(Dave Moellenhoff)とともに Salesforce を創業し、サンフランシスコのテレグラフ ヒル地区にある 1 ベッドルームのアパートにオフィスを構えました。彼らは、あらゆる規模の企業の営業担当者がリード顧客を追跡・管理できるオンラインの顧客関係管理(CRM)サービスを提供するという、唯一無二のビジョンを持っていました。
クラウドサービスにおける信頼の構築からCRM 向けの AI(人工知能) の提供まで、その道のりを歩んできたSalesforceは、創立 25 周年を迎えた今日、スタートアップから巨大ハイテク企業へと成長するまでの瞬間やマイルストーンを振り返るとともに、この先25年間のイノベーションを見据えています。
信頼に導かれるビジョン
Salesforce は当初から、当時の他のテクノロジー企業とは異なるアプローチをとっていました。まず、サービスとしてのソフトウェア (SaaS)やクラウドとしても知られている、インターネットを通じた製品提供です。
それはリスクの高い挑戦でした。当時クラウドはほとんど実証されておらず、この SaaS モデルにコミットしようとする企業はほとんどありませんでした。しかし、同社の CEO に就任したベニオフとその共同創業者たちは、クラウドの可能性にコミットし、セキュリティ、プライバシー、信頼性に対する懸念を克服することができれば、新しい業界モデルを切り拓けると考えていました。
ハリスは次のように語ります。「私たちが Salesforce を創業した当時、世間の人々は自分のクレジットカードをインターネット上で使うことについてまだ懐疑的でした。ましてや顧客リストをインターネット上に置くことなど、まったく信用していませんでした」
企業が持つデータを保護し、尊重し、必要なときに利用できるように信頼してもらうことが、会社を立ち上げるうえで最大の障壁の 1 つでした。
Salesforce 共同創業者 兼 CTO、Slack、パーカー・ハリス(Parker Harris)
Salesforce の 13 人目の従業員で、現プレジデント 兼 COO のブライアン・ミルハム(Brian Millham)は、信頼を得るには、透明性が必要だったと振り返ります。
ミルハムは次のように続けます。「当時、クラウドは非常に新しいものだったので、データをインターネット上に置くよう人々を説得するのは簡単ではありませんでした。 当時、私たちはセキュリティと稼働時間について多くの時間を割いて説明し、理解を得られるよう努めました。また、trust.com という Web サイトを立ち上げ、誰もがサービスの可用性、セキュリティ、パフォーマンスを確認できるようにしました」
「私たちは、お客様がデータを預けるには信頼性が必要不可欠だとはっきり認識していました」(ミルハム)
これは、当時の一般的な常識とはかけ離れていました。
Salesforce のプレジデント 兼 CFO のエイミー・ウィーバー(Amy Weaver)は次のように語ります。 「多くの企業、同業他社、競合他社が自社の利益のために顧客データを使用していました。そこで『Salesforce は何をすべきなのか?』と自問したのです。それをしないことによってチャンスを逃すことになるのだろうか、と考えたのです」
Salesforce は他社とは異なる見方をしていました。「お客様のデータは私たちの製品ではなくお客様のものであると考え、それを尊重しようと考えました。時が経つにつれて、私たちが最も重視する価値観『信頼』に忠実であることをお客様が知るようになり、それが実を結んだと思います」(ウィーバー)
革新的なプラットフォームの構築
もちろん、仕事は信頼だけではうまくいきません。 Salesforce は、インターネットが企業のデータ活用方法を変革するという自分たちのコンセプトを証明する必要があると認識しており、カスタマーサクセスを実現する新しいCRM プラットフォームの創造に取り組みました。
「お客様の成功は私たちの成功であり、それはまさに私たちにとって成長の原動力となっています。 お客様により多くの成果を提供すればするほど、お客様は私たちのテクノロジーからより多くの価値を得ることができ、より多く投資したいと考えます。お客様はさらに多くのことを私たちに求めてくださるので、私たちはお客様の期待に応えるためにイノベーションを続けることができるのです」(ミルハム)
こうした期待に応えるため、Salesforce は 二つの問題を解決する必要がありました。一つは、あらゆる規模の企業がどこでも拡張できるプラットフォームを構築すること、もう一つは企業固有のニーズに合わせて製品をカスタマイズできるようにすることです。
「私たちはあらゆるお客様に適切なサービスを提供する必要があり、その一大イノベーションがメタデータプラットフォームでした。お客様が望むもの、つまりどのようなデータモデル、どのようなユーザー体験、どのようなビジネスプロセスなのかを記述でき、自分たちのコードでそのメタデータの解釈が可能な、メタデータプラットフォームのアイデアを発明しました。」(ハリス)
メタデータプラットフォームは、アプリケーションコードの複雑さを抽象化し、企業のシステムの連携、カスタマイズ、セキュリティ設定を損なうことなく、Salesforce が年 3 回、自動的に新機能をアップグレードできるようにします。
「この発明は今日に至るまで、私たちの根本的な成功の秘訣の一つであり続けています。誰かがメタデータを変更すると、その変更は世界中のあらゆる場所、あらゆるデバイス、あらゆる言語において、まさに瞬時に反映されます。」(ハリス)
メタデータプラットフォームによって、Salesforce は最初の Sales Cloud から、サービス、マーケティング、コマースのほか、あらゆる業界のプロフェッショナルを支援するアプリケーションスイートまで、製品ポートフォリオを拡大していきました。これらはすべて、基盤となるメタデータフレームワークを通じて接続され、顧客を360 度全方位から把握できるようにしました。
「あらゆる地域、言語、デバイスに迅速に変更を加えることができ、お客様のビジネススピードに合わせて変化するため、お客様にとっては、まるで魔法のように感じることでしょう」(ハリス)
CRM + AI + データ + 信頼
ビジネスデータをクラウドに置くことに対する疑問はとうに消え去っていますが、今日では次の破壊的テクノロジーである AI に機密情報を与えることへの懸念に取って代わられています。
幸いなことに、Salesforce が SaaS モデルを切り開く時に役立ったのと同じ教訓を、AI 革命を先導する際に応用することができます。2016 年に Einstein を最初に提供して以来、Salesforce の AI へのアプローチは、信頼と顧客に対するこだわりにフォーカスし続けています。
「私たちは生成AIのテクノロジーを保有していたので、この生成 AI の世界に即座に突入し、ソリューションを提供することも可能でした。しかし一度立ち止まり、『お客様にとっての懸念は何なのか』を考えました。生成 AI に関して最も懸念があったのは、『信頼』でした」(ミルハム)
「今日、人々がAIをどのように利用しているのかについて考えることは重要です。 多くの企業にとって、データはアプリケーションのサイロに閉じ込められたままになっていますが、私たちはSalesforce を使ってそれらを1 カ所からすべての情報にアクセスできるようにしたいと考えています。そうすることで、顧客に対するより良いインサイト、従業員の生産性の向上、業務強化による組織の効率と利益率の向上を実現することができます」(ミルハム)
閉じ込められたデータを解き放つ鍵となるのは、企業の構造化データと非構造化データをすべての Salesforce アプリケーションにわたって調和させるハイパースケールデータ エンジンのSalesforce Data Cloudです。 Data Cloud を使用すると、すべての Salesforce アプリケーションがメタデータプラットフォームを通じて相互に通信できるようになり、顧客を完全に理解する AI を提供できるようになります。
「Data Cloud はすべてを 1 つにまとめます。Salesforce Data Cloud によって、Salesforce は企業のデータを安全に保持しながら、閉じ込められたデータを解放し、すべてのビジネスデータと顧客データを AI の活用に向けて 1 カ所にまとめることができます」 (ベニオフ)
Salesforce Data Cloud によって、Salesforce は企業のデータを安全に保持しながら、閉じ込められたデータを解放し、すべてのビジネスデータと顧客データを AI の活用に向けて 1 カ所にまとめることができます。
Salesforce 会長 兼 CEO、共同創業者、マーク・ベニオフ(Marc Benioff)
Data Cloud は現在、Salesforce Einstein 1 Platformの基盤となっており、顧客情報を安全に接続してローコードで AI を活用しながらアプリを構築し、企業がまったく新しい CRM 体験を提供できるよう支援します。
現在、Salesforce は新しい Einstein Copilot (米国では一般提供開始済、日本での一般提供開始時期は未定)によって、CRM、AI、データ、そして信頼を実現しています。Einstein Copilot は、組織固有のデータを活用して、信頼できる顧客のインサイトとレコメンデーションを生成する対話型 AI アシスタントです。
Einstein Copilot は、あらゆる Salesforce アプリケーションにわたる企業独自のデータに基づいて、質問に回答し、コンテンツを要約し、新しいコンテンツを作成し、複雑な会話を解釈し、ユーザーのタスクを動的に自動化することができます。
「Salesforceの新しい Einstein Copilot は、AI と対話するための素晴らしい直感的なインターフェイス、ワールドクラスの AI モデル、そして何よりも AI の恩恵を受けるために必要なデータとメタデータの緊密な統合を実現します。 Einstein Copilot は、顧客との関係において何が起こっているかを真に理解できる唯一の副操縦士(copilot)です」(ベニオフ)
この統合により、すべての Salesforce ユーザーは、モデルがユーザー固有のデータにグラウンディングされ、安全かつ確実で関連性の高いアウトプットを提供することを理解したうえで、AI のメリットを最大限に享受できるようになります。
「Salesforce が最も信頼できる AI CRM を提供できる理由は、イノベーションに先立って、第一に信頼、そして第二にカスタマーサクセス という当社の価値観に基づいて常に業務を行っているからです。この生成 AI の世界においては、イノベーションだけに焦点を当てていると、大規模言語モデルの魔法に夢中になってしまいます。しかし、モデルに何かを回答をさせ、それをシェイクスピアの弱強五歩格(シェイクスピアの台詞で使われているリズム)でアウトプットさせるような魔法より、重要なことは信頼できる方法で回答を得ることです」(ハリス)
「私たちはバイアスや有害性からお客様を守っているでしょうか?そして、お客様と対話し、彼らが私たちの製品をどのように使っているかについて耳を傾けているでしょうか?それによってお客様は成功しているでしょうか?こうしたことは、私たちの価値観に導かれた行動であり、私たちSalesforce がお客様を守り、信頼の力でこの AI の世界への道を導く方法です」(ハリス)
すべてのステークホルダーとの信頼関係の構築
AI がビジネスや社会全体に普及するなか、お客様の 68% は、企業にとって信頼性がより重要になると述べています。しかし、信頼とは単なるデータセキュリティ以上のものです。信頼されるパートナーであるということは、お客様だけでなくすべてのステークホルダーを考慮する企業であるということでもあります。
Salesforce の新しいプレジデント 兼 最高法務責任者であるサバスチャン・ナイルズ(Sabastian Niles)は次のように述べています。「Salesforceにおいて、すべての意思決定は当社が大切にする価値観(コアバリュー)とステークホルダーの成功に基づいて行われています。 AI とデータ革命が進むなか、すべてのお客様とステークホルダーの成功を実現するには、私たちのすべての活動に信頼、責任、影響力を組み込むことがこれまで以上に重要になっています。彼らの成功は、私たちの成功でもあるのです」
幸いなことに、これは Salesforce の DNA の一部でもあります。
Salesforce は創業から数カ月のうちに、会社の株式の 1%、製品の 1%、従業員の時間の 1% をコミュニティに還元する新しい社会貢献モデル「1-1-1 モデル」を開始しました。
このモデルは成果を上げており、Salesforce はこれまでに 7 億ドル以上の助成金を提供し、900 万時間のボランティア活動を実施し、56,000 の非営利団体および高等教育機関の顧客が Salesforce ソフトウェアを無料、または割引価格で使用できるようにしました。また、1-1-1 モデルは現在20,000 社近くの企業で採用されています。
エグゼクティブバイスプレジデント 兼 最高インパクト責任者のスザンヌ・ディビアンカ(Suzanne DiBianca)は次のように述べています。「Salesforce の設立当初、私たちは新しい種類の会社、新しいテクノロジー モデル、新しい社会貢献モデルを生み出すという非常に大胆なビジョンを持っていました」
私たちは、ある程度の成長を達成してからではなく、最初からそうしたいと考えていました。
Salesforce エグゼクティブバイスプレジデント 兼 最高インパクト責任者、スザンヌ・ディビアンカ(Suzanne DiBianca)
そして成長を達成した後も、Salesforce は自社のテクノロジーとプラットフォームを活用して、同一労働同一賃金、教育へのアクセス、気候変動などの大きな社会課題の解決を支援する方法を模索し続けました。
元々は自社の二酸化炭素排出量の追跡および管理を行うために構築され、現在ではサステナビリティへの取り組みを追跡するために使われているツールであるNet Zero Cloudは、2017 年に他企業でも利用できるようになり、企業の排出量削減管理に役立っています。2022 年には、ネットゼロへの道のりを加速させるため、正式に「サステナビリティ」をコアバリューに追加しました。
ディビアンカは次のように語ります。「Salesforce の従業員は皆、イノベーションとテクノロジーを推進・進化させるために行っている日々の業務に深い関心を持っており、世界をより良い場所にするよう努めています。私たちは、ビジネスが社会を変革するための最良のプラットフォームになり得ると心から信じています。なぜなら、ビジネスとは正しいことをしたいと願う情熱と知性を持った人々の集まりだからです」
25 年間にわたり、Salesforce のコアバリュー(信頼、カスタマーサクセス、イノベーション、平等、サステナビリティ) は、当社のあらゆる意思決定と、企業がまったく新しい方法で顧客とつながることを支援するという使命の指針となってきました。
最後にミルハムは次のように語ります。「お客様が必要とする成果に注力することなしに、企業が約 350 億ドルの売上を達成することはありません。 今後 25 年間で私たちがどのような企業になっていくのかを見るのが楽しみで仕方がありません」