※本記事は2025年2月12日に米国で公開されたHow Digital Labor Will Reshape the Enterpriseの抄訳です。本記事の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。
技術の進歩は、人々の働き方を根本的に変革してきました。
蒸気機関の発明により第一次産業革命が起こり、人々を農作業から工場労働へと移行させました。電力の活用が進んだ第二次産業革命では、組み立てラインが導入され、大量生産が可能になりました。第三次産業革命では、電子機器やコンピューターが登場し、デジタル時代の基盤が築かれました。そして現在、私たちは第四次産業革命のさなかにいます。この革命は、ビッグデータ、ロボティックス、AIといった相互に接続された技術によって特徴付けられています。
AI研究は約70年前から続けられてきましたが、今まさに大きな転機を迎えています。ChatGPTの登場により、これまでSFのように思われていた技術が、日常の現実となったのです。生成AIは、今や医療診断、サプライチェーンの最適化、営業リードの選別など、さまざまな分野で活用されるようになり、この技術革新は、「自律型AI」(英語)への道を開きました。自律型AIは、単にコンテンツを生成するだけでなく、意思決定を行い、最小限または完全に人間の管理なしで行動を実行できる技術です。
自然言語処理(NLP)と高度な推論エンジンを備えた自律型エージェントは、人間の行動をシミュレートし、複雑かつ変化し続ける状況を柔軟に処理できる能力を持っています。Salesforce Platform上のジェンティックレイヤーである「Agentforce」は、企業向けにカスタマイズ可能なAIエージェントを迅速に開発・導入するための仕組みを提供します。これにより、注文状況の確認や配送追跡、スケジュール調整、アポイントメント管理など、幅広いビジネスユースケースへの対応が可能になります。
AIエージェントが企業のデジタル労働力を解放する方法
企業にとって、この変革は極めて大きな意味を持ちます。それはデジタル労働力(英語)が、人間とともに協力しながら業務を効率化し、生産性を向上させ、コストを削減し、新たなレベルのイノベーションとスケーラビリティの実現を意味します。これまでの労働力の限界を超え、信頼できるAIエージェントが24時間365日稼働することで、生産性や効率、イノベーション、さらにはビジネス競争力が飛躍的に向上します。人間の能力を補完し、拡張することで、企業の可能性がこれまでになく広がるのです。
Salesforce 会長兼CEOのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)は次のように述べています。「信頼できるAIエージェントは、新しい労働モデルであり、新しい生産性モデルであり、新しい経済モデルです」
信頼できるAIエージェントは、新しい労働モデルであり、新しい生産性モデルであり、新しい経済モデルです
Salesforce 会長兼CEO 共同創業者、マーク・ベニオフ(Marc Benioff)
労働市場は過去20年間で最も逼迫しており(英語)、新しい労働モデルが求められています。実際、2030年までに約8,500万件の雇用(英語)が、人口の高齢化(英語)、出生率の低下(英語)、労働者の価値観の変化(英語)により、未充足になると予測されています。
こうした課題に対し、デジタル労働力を活用することで、企業は従業員数を増やすことなく、業務量と生産性を向上できます。例えば、中小企業は通常、リソースの限界により、大企業と競争し規模を拡大するためのリソースが限られています。しかし、AIエージェントを導入すれば、見込み客の管理や選別など、成長を促進する業務を人の手をほとんど介さずに遂行できるようになります。しかも、これらのAIエージェントは最小限の管理で運用できるため、大規模な運用コストをかけずに競争力を高めることが可能になります。
AIを活用することで、人間に依存したワークフローから脱却し、常時稼働する労働力を確保できます。これにより、企業は現地のチームやインフラを持たなくても、世界中の市場に対応できる新たな機会を生み出せます。
この変革により、世界のGDPは大幅に増加する可能性があるとマーク・ベニオフは述べています(英語)。実際、ゴールドマン・サックス(英語)は、AI の普及により今後10年間で世界のGDPが7%増加すると予測しています。
デジタル労働は働き方をどのように変えるのか
これまでの産業革命では、新たな技術の導入に伴い、機械オペレーター、技術者、管理者など専門的な役割やチームが新たに生まれ、生産性と経済成長(英語)が飛躍的に向上してきました。同様に、AIエージェントを労働力に加えることで、業務のあり方や組織構造が根本的に変わり、人間とデジタル労働が共存するハイブリッドな職場が実現します。これにより、従来の働き方にとらわれないまったく新しい業務スタイルが生まれることが期待されます。
マーク・ベニオフは次のように述べています(英語)。「デジタル労働力は、ビジネスに新たな展望をもたらします。企業の設計、運営、人材配置、そしてビジネスそのものの考え方が、今後大きく変わるでしょう」
デジタル労働力は、ビジネスに新たな展望をもたらします
Salesforce 会長兼CEO 共同創業者、マーク・ベニオフ(Marc Benioff)
業務運営の観点から、企業は業務の進め方を変革し、複雑で反復的な作業をAIエージェントに任せることで、人間の従業員がより優先度の高い業務に集中できます。例えば、多くの企業では、カスタマーサービス担当者がよくある質問に答えたり、返金処理を行ったり、技術的な問題を解決したりする必要があります。AIエージェントはこれらの日常業務の大半を担うことができるため、人間のサービス担当者の役割は、より複雑なケースの対応や、AIモデルのトレーニングと精度向上のサポートへと変化します。これにより、人間の業務は単なる実行から、創造的な戦略立案や管理へ移行していくでしょう。
AIエージェントは単なるツールとしてではなく、新しい働き方において重要な協働パートナーとなります。例えば、AIエージェントが顧客からの最初の問い合わせに対応し、顧客の不満を察知した場合は、人間の担当者へ通知し、よりパーソナライズされた対応を促すことができます。その後、サービス担当者はAIエージェントの対応についてフィードバックを提供し、それによってAIの精度が向上し、同様のケースでの人間の介入が減少していきます。
その結果、AIエージェントは組織構造を変革し、既存の役割やチームを進化させるとともに、AIエージェント管理、AIリスクとガバナンス、AI運用管理、AIトレーニングと開発、AIワークフォース統合といった新たな職種を生み出していくでしょう。
Salesforceの最高人事責任者(CPO)であるナタリー・スカルディーノ(Nathalie Scardino)は次のように述べています。「私たちは、AIエージェントと人間が協働することで、これまでにない規模の労働力変革のさなかにいます。すべての組織は、人材戦略を再設計し、AIエージェントと共存する未来の労働力に対応できるよう人材を再配置し、従業員のスキルを再教育することが求められます。そして、すべての従業員は、自身と顧客の成功を導くために、人間的なスキル、ビジネススキル、そしてAIエージェントを活用するスキルを磨いていく必要があります」
さらにスカルディーノは続けます。「これは新しい時代のスキルセットです。過去の技術革命と同様に、AIは新たな職種や機会を生み出します。そして、すでにその変化は始まっています。昨年まで存在しなかったような職種、例えば「倫理的AIアーキテクト」や「エージェント・プロダクトマネージャー」といった役職を、私たちは現在採用しています。また、「Career Connect」のようなツールを活用し、社員を再教育することで、AIエージェントを活用した未来を築く職種にスムーズに移行できるよう支援しています」
組織全体でAIエージェントへの信頼を築く
テクノロジーを信頼することは、AIエージェントを組織に統合するにおいて重要な要素です。なぜなら、実際に世界のデスクワーカーの93%(英語)が、仕事関連のタスクにおいてAIの出力を完全には信頼していないという調査結果があるからです。
Salesforceで「責任あるAIおよび倫理テクノロジー運用」を担当するプロダクトマネジメント担当バイスプレジデント(VP)のロブ・カッツ(Rob Katz)は、「信頼できない従業員を雇うことはないでしょう」と指摘します。信頼を築くためには3つの要素が不可欠であり、それは従業員が「エージェントが何をしたのか(透明性)」「なぜその行動を取ったのか(説明可能性)」「次に何をすべきか(コントロール)」を理解できることを示します。
信頼できない従業員を雇うことはないでしょう
Salesforce プロダクトマネジメント担当VP 責任あるAIおよび倫理テクノロジー運用、ロブ・カッツ(Rob Katz)
また、消費者の60%(英語)が「AIの進化により、信頼がさらに重要になる」と考えていることも明らかになっています。そのため、企業はAIシステムが公正かつ公平に機能することを保証するために、厳格なテスト手法を整える必要があります。例えば、SalesforceのTrust Testing(英語)は、多様なユーザーの視点を取り入れることで、微細な偏見を体系的に検出したり軽減する仕組みを構築しています。
デジタル労働力のための技術基盤の構築
AIトランスフォーメーションを成功させるためには、まず基盤となる技術の準備が不可欠です。企業は、AIエージェントが効果的に機能するために、価値あるビジネスデータとメタデータを適切に接続するシステムを構築する必要があります。
オートデスクの最高情報責任者(CIO)であり、SalesforceのAIを活用して従業員がより価値の高い業務に集中できる環境を整えているプラカッシュ・コタ(Prakash Kota)は、「データの品質に焦点をあて続けることで、AIエージェントの精度はより向上します」と述べています(英語)。
そのためには、Salesforce Data Cloudのようなハイパースケールのデータエンジンが必要になります。Data Cloudは、AIエージェントがインサイトを生み出し、顧客データに基づいたアクションを実行できるよう、あらゆるデータとメタデータの収集や統合をします。Data Cloudを活用することで、AIエージェントは構造化データと非構造化データの両方を網羅し、信頼できるエンタープライズデータにアクセスできるだけでなく、データの文脈を理解し、リアルタイムで意味のある提案や行動を提供することが可能になります。さらに、Data CloudのZero Copy Partner Networkを利用すれば、企業は既存のデータレイクやデータウェアハウスを統合し、AIエージェントに必要なすべての関連ビジネスデータをシームレスに供給できます。
AIエージェントは適切なコンテンツを参照できなければ、その役割を果たしたことにはなりません
Salesforce デジタルカスタマーサクセス担当VP、バーナード・スローイー(Bernard Slowey)
Salesforceのデジタルカスタマーサクセス担当VPであるバーナード・スローイー(Bernard Slowey)は「AIエージェントは、適切なコンテンツを参照できなければ、その役割を果たしたことにはなりません」と述べています。スローイーはSalesforceのヘルプサイトにおけるAgentforceの導入を指揮しました。導入以来、Salesforce は週に約 32,000 件の顧客との会話を処理し、解決率は 83% に達しています。
統合されたプラットフォームを利用することで、部門を越えた幅広いタスクやワークフローを自動化できるようになります。例えばSalesforceのAgentforceを活用すれば、ユーザーはSlackやTableauを含むすべてのSalesforceアプリケーションを横断する単一のインター
フェースで操作できるようになります。これにより、カスタマーキャンペーンの生成、カスタマーサービス案件の処理、よくある質問への回答、コンテンツの作成や要約といった業務をシームレスに行うことができます。今後、AIエージェントの活用がますます拡大する中で、人間との協働だけでなく、AIエージェント同士の連携が不可欠となっていきます。
自律型AIが進化した先には、単独のAIエージェントではなく、複数のAIエージェントが連携し、より高度な課題に取り組みます。例えば、営業戦略の構築やマーケティングキャンペーンの立案など、通常は複数のビジネス領域の専門知識が必要な業務も、AIエージェントのオーケストレーションによって実行できるようになります。従来のシンプルなCopilotとは異なり、マルチエージェントシステムは互いに協力、適応、そして協調しながら実行します。
Salesforceのチーフ・サイエンティストであるシルビオ・サバレーゼ(Silvio Savarese)は、次のような例を挙げています。例えば、顧客の個人的なAIエージェントが、レンタル会社のAIエージェントと交渉する場面を想像してみてください。顧客のAIエージェント は、最適な価格と価値を追求しようとします。レンタカー会社のAIエージェント は、追加サービスによる収益最大化を目指しながら、競争による契約の喪失リスクを考慮する必要があります。このようなAIエージェント同士の交渉をスムーズに行うためには、APIが異なるソフトウェアをつなぐことと同じように、マルチエージェントが円滑にやり取りできるシステムが求められます。Agentforceのようなプラットフォームやシステムレベルのアーキテクチャがあれば、あらゆる規模のエージェントのリクエストを処理し、人間の利益を代弁するAIの相互作用を管理することが可能になります。
AIエージェントの運用を成功させるには、その活動をテスト、監視、報告することが不可欠です。これは人間の上司が定期的に社員のパフォーマンスを評価することと同じように、デジタルワーカーも継続的にトラッキングし、最適な状態で運用できるようにする必要があるからです。SalesforceのAgentforce Testing Centerを使用すると、組織は生成されたデータを使用してAIエージェントを簡単にテストし、正確な応答と実行を保証し、使用状況とフィードバックを完全に監視することができます。
導入後は、スコアカードを使用してAIエージェントの活動を監視し、報告することを推奨します。例えば、スローイーのチームは、AIエージェントとの会話の完了、応答時間、エスカレーションの逸脱などの主要なKPIを記載したAIエージェントスコアカードを導入しました。
今後に向けて
AIエージェントが進化を続け、業界を再構築する中、その未来への道筋は明確です。企業は、業務運営や組織構造を根本から見直し、AIエージェントの技術を取り入れることで、デジタル労働力の可能性を最大限に引き出す必要があります。これは、人間とデジタルワーカーがシームレスに協働することが新たな常識となる、第四次産業革命の転換点となるでしょう。
最も先進的な企業は、単に変化に適応するのではなく、この変革を牽引し、人間の創造力とデジタルインテリジェンスを組み合わせることで、かつてないレベルの効率性、創造性、成長を実現する未来を築いていきます。この変革をいま受け入れる企業こそが、次世代の働き方を定義していくでしょう。
詳細情報:
- Agentforceについてはこちら、Agentforceの自社事例についてはこちら、詳細記事についてはこちら(英語)。
- 低品質のデータがAIに及ぼす影響についての記事はこちら(英語)。
- AIの導入の成功に必要な10のコラボレーションスキルに関する記事はこちら(英語)。
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