※本資料は2023年6月12日に米国で公開された Unleashing an AI Revolution: Inside Salesforce’s Decade-Long Journey の抄訳です。本資料の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。
編集注)AI Cloud、Einstein GPT、各クラウドGPT製品は総称してEinsteinの呼称を使用します。Salesforce Einsteinの最新情報はこちら。また、本記事は2023年6月12日に米国で掲載された後、2023年8月25日に最新情報を反映するため更新されました。
サラ・エルニ(Sarah Aerni)は、論文執筆のためにミミズの細胞を正しくラベル付けするというAIモデルのトレーニングに成功した時、2つのことに気付きました。1つ目はAIモデルが期待どおり正確に機能したという喜びであり、2つ目はAIモデルは明白な課題を解決すべきであることです。 例えば、顕微鏡画像に写っている959個のミミズ細胞に対して、人間が手作業でラベル付けをする必要はありません。
ビジネスの文脈においても同じようなことが言えます。AIを活用することで、人間の知能を補完し、かつては不可能だったほどの効率性を実現できますが、従業員はあまりにも多くの単調なタスクや時間のかかるタスクにかかりきりになっています。
2016年にSalesforceに入社し、現在はAIおよび機械学習担当のVPを務めているエルニは、このような極めて明白な課題に対処しています。その一つが、信頼性の高い安全な方法で企業と従業員に多大なビジネス上のメリットをもたらし得るAIモデルを導入することです。
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それから約7年が経ち、幅広い能力を備えた生成AIが注目されるようになった今、エルニとSalesforceは信頼性の高い生成AIをエンタープライズにもたらすことに注力しています。
6月に発表されたSalesforceの新しいAI 製品スイートを利用すれば、すべての企業が生成AIによって、顧客とのやり取りをよりパーソナライズし、従業員のワークフローをAIで支援して生産性を高めることができます。
Einstein以前:エンタープライズAIイノベーションによる下地作り
2014年、米国セールスフォース会長 兼 最高経営責任者であるマーク・ベニオフ(Mark Benioff)は全社会議で、「SalesforceはAIファーストの会社になる」と宣言しました。目標は、Salesforceを「インテリジェント」なCRMへと生まれ変わらせ、すべての企業や従業員がAIの力を簡単に活用できるようにすることでした。
これは、顧客データを記録し、保存するシステムから始まったSalesforceにとって、自然な成り行きでした。セールス、サービス、マーケティング、コマースにおける顧客とのやり取りを管理するテクノロジーを追加することにより、Salesforceはエンゲージメントシステムとなりました。そして、機械学習や自然言語処理といったテクノロジーを利用し、AIによる予測や知見を提供することで、インテリジェンス・システムになることを目指したのです。
Salesforceは、AIを誰でも利用できるようにするという目標のもと、製品にAIを組み込むための開発チームを結成しました。チームは、「すべての企業がAIの導入のためにデータサイエンティストを必要とするのではなく、誰でもデータサイエンティストになれるシンプルなAI製品をSalesforceが生み出すことはできないだろうか」と自問自答しました。
すべての企業がAIの導入のためにデータサイエンティストを必要とするのではなく、誰でもデータサイエンティストになれるシンプルなAI製品をSalesforceが生み出すことはできないだろうか
それと同時に、Salesforceの最高経営企画・投資責任者を務めるジョン・ソモルジャイ(John Somorjai)が率いる経営企画チームは、社内のAI専門知識を増強して開発スピードを高めることができるスタートアップを探すことにしました。
そして、2014年、SalesforceはRelateIQを買収しました。RelateIQは、Eメール、カレンダー上の会議招集、通話、ソーシャルメディアへの投稿などの職場コミュニケーションから収集したデータを機械学習を利用して分析し、従業員に知見やリマインダーを提供していた企業です。たとえば、営業担当者に見込み客へのフォローアップをリマインドするような機能を提供していました。このテクノロジーは簡単に実装でき、Salesforceのローエンド製品にオートメーション機能をもたらしました。
その1年後の2015年、注力すべき営業機会の優先順位をどのように決定するかという、営業チームが何十年間も悩まされている問題を解決するために、Salesforceのチームは新たなAIプロジェクトに取り組み始めました。
そして、顧客からの売上高、案件の有効期間、同じ顧客にアプローチしている競合他社の数といった変数を考慮してレーティングを行う商談スコアリングAIモデルを開発しました。これを利用することで、最も成立する可能性の高い商談はどれで、それはいつなのかを予測し、正確に収益の見通しを立てることができるようになりました。しかも、そのすべてをボタンのクリック操作で行うことができるようになりました。この商談スコアリングアプリはSalesforce社内の営業チームに導入され、Salesforce初の予測AI機能となりました。
これが、後のSalesforce Einsteinの始まりです。
Einstein:新たな展開
Salesforceのイベントに参加したり、オフィスを訪問したりしたことのある人なら、乱れた白髪で口ひげを生やし、スーツを着てネクタイを締めた、ディズニーキャラクターのようなアルベルト・アインシュタインを目にしたことがあると思います。ベニオフは本物のアインシュタインを英雄視しており、アインシュタインの精神をSalesforceのAIプラットフォームに取り入れたいと考えました。その結果、Salesforce EinsteinはSalesforceのAIイノベーションの名称となり、顔となりました。
2016年9月のDreamforceで発表されたEinsteinは、エンタープライズAIを誰もが利用できるようにするというミッションの進展に寄与しました。商談スコアリングなどの強力なツールに加え、Einsteinによって、お客様が営業、サービス、マーケティング、コマース、ITチームで迅速かつ簡単にAIを利用し、顧客に関する知見の獲得、将来の行動予測、先を見越したアクション提案、タスクの自動化にAI搭載アプリを活用できるようになることが見込まれました。また、すべてのお客様がモデルを自動でカスタマイズし、あらゆるインタラクションやデータポイントから学習できるようになることが期待されました。
Salesforceの共同創業者 兼 最高技術責任者で、Einsteinを発表したパーカー・ハリス(Parker Harris)は、次のように述べています。「多くの企業がAIを導入しようとしていましたが、それは本当に困難でした。世界的にもデータサイエンティストが不足していたように思います。そして、データを集めて統合し、モデリングするという課題がありました。私たちはそれを簡単にしたかったのです」
多くの企業がAIを導入しようとしていましたが、それは本当に困難でした。世界的にもデータサイエンティストが不足していたように思います。そして、データを集めて統合し、モデリングするという課題がありました。私たちはそれを簡単にしたかったのです
Salesforce 共同創業者 兼 最高技術責任者、パーカー・ハリス(Parker Harris)
その数年後、進化と拡大を続けたEinsteinは有数のCRM向けAIとなり、世界で最も広く利用されているエンタープライズAIプラットフォームとなりました。そして、Salesforceは営業部門やサービス部門向けのすぐに利用できるアプリを導入しました。たとえば、Einstein 会話インサイトは、営業やサービスの通話内容から知見やトレンドを見出し、大量のデータを分析して、価格交渉や競合企業に関する会話のトレンドを視覚化するために役立ちます。Einsteinメールインサイトは、機械学習を利用し、関連Eメールの内容に即した極めて重要な文脈を営業担当者に提供し、最適なEメールを作成できるよう支援します。
また、Salesforceは管理者および開発者向けのローコードツールを導入し、コーディングを一切行わずに独自のカスタム予測モデルを作成できるようにしました。Einstein 予測ビルダーを利用すれば、たとえば、小売業者が位置データ、顧客データ、過去の在庫データに基づいて夏に向けて在庫を確保するべき製品を予測するためのモデルを作成できます。
現在、Salesforce Einsteinは1週間に1兆件以上の予測を生成しています。
倫理専門家がもたらすトップクラスの信頼性
AppleのSiriやAmazonのAlexaといったコンシューマーAIとは異なり、特に規制のある業界の法人顧客はハイレベルの信頼性とセキュリティを求めています。
何千もの企業がEinsteinのAI機能を利用しているため、Salesforceは使用されるAIモデルの信頼性を確保し、顧客データを安全な状態に保ち、Einsteinに正確でバイアスのかかっていない結果を出力させ、機密性の高いデータを扱う金融、医療、行政機関などのコンプライアンス要件を順守しなければなりません。そして、新しいモデルが登場したら、最新のデータで再トレーニングする必要があります。
Salesforceは常に、「信頼」を最も重要な価値観として事業を行ってきました。現在、Einsteinには、信頼性を重視する考え方が根付いており、お客様が情報に基づいて倫理的な選択を行えるよう支援するためのガードレールやユーザーポリシーなどが備わっています。さらに、Salesforceはバイアスを軽減できるモデル利用法を明らかにするために、最も適した代表性のある多様なデータセットを使用してモデルをテストしています。
SalesforceのEVPで、倫理的および人道的利用最高責任者であるポーラ・ゴールドマン(Paula Goldman)は、次のように述べています。「AI、特に生成AIには、人間の生き方や働き方を根底から変える力がありますが、あらゆる新しいテクノロジーと同様、リスクもあります。そこで、私たちの出番です。Salesforceのような世界有数の企業が他社と提携する際には、この革新的なテクノロジーを意図に沿った責任ある方法で模索し、お客様やその顧客に常に倫理を重視していただくことが極めて重要です」
AI、特に生成AIには、人間の生き方や働き方を根底から変える力がありますが、あらゆる新しいテクノロジーと同様、リスクもあります。そこで、私たちの出番です
Salesforce EVP 兼 倫理的および人道的利用最高責任者、ポーラ・ゴールドマン(Paula Goldman)
Salesforceの倫理的および人道的利用オフィスは、AI倫理学者、ポリシー専門家、UX研究者、製品専門家から構成され、従業員とお客様が責任を持って的確かつ倫理的にAIなどのSalesforceテクノロジーを利用、開発できるよう支援するさまざまなツールを作成してきました。たとえば、モデルカードによって、トレーニング済みの機械学習(ML)モデルやAIモデルの性能特性を伝え、モデルがどのように機能するか(入力、出力、最も良好に機能する条件など)や使用時の倫理上の留意事項をお客様が把握できるよう支援しています。
Salesforce独自のLLMや生成AIをあらゆる製品に搭載
2022年11月にOpenAIがChatGPTを発表したことにより、世界は生成AIの新たな力と、AIの新たな可能性を目撃しました。Salesforceは当初、予測AIに注力しましたが、ディープラーニングと生成AIの開発方法と導入方法を長年研究していました。
18年にわたってSalesforceの買収チームを率いているソモルジャイは、このように述べています。「私たちは、有機的なイノベーションと非有機的なイノベーションを上手に融合してきました。世界トップクラスのエンジニアや製品リーダーの雇用と非有機的な買収を組み合わせることにより、弊社の取り組みを加速させてきたのです」
私たちの目標は、直感的で使いやすい革新的なAIツールを生み出し、人々に力を与えることです
Salesforce チーフサイエンティスト、シルヴィオ・サヴァレーゼ(Silvio Savarese)
そのような重要な買収の一つが、Metamindです。同社は、ニューラルネットワークを利用して大量のデータ処理を行うディープラーニングにフォーカスしたAIスタートアップであり、Salesforceの社内AI研究チームの核となりました。有名なコンピューターサイエンティストであり、スタンフォード大学の元非常勤教授でもあるリチャード・ソーチャー(Richard Socher)が率いるこのチームには、AI分野の研究の進展、Salesforceプラットフォームへのディープラーニングの組み込み、Salesforce独自の大規模言語モデル(LLM)の構築というタスクが与えられました。
現在、Salesforce リサーチのチーフサイエンティストで、スタンフォード大学の元コンピューターサイエンス准教授であるシルヴィオ・サヴァレーゼ(Silvio Savarese)が率いるグループは、AIに関する227件の研究論文を発表し、300件のAI特許を出願しています。また、プロンプトエンジニアリングに関する最初の研究論文も発表しました。Salesforce リサーチは、ビジネス上の問題を解決するためのAIの実用化から、より良い世界の実現につながり得るAIの活用まで、幅広く優れた成果をあげています。たとえば、ProGenは、2億8,000万のタンパク質配列についてトレーニングされたLLMにより、新しい医薬品、ワクチン、サステナビリティイノベーションにつながる新たなタンパク質の設計に取り組んでいます。
このチームが成し遂げた最も価値のあるイノベーションの一つが、CodeGenです。これは、人間の自然言語を実行可能なAPEXコードに変換し、開発者がよりスマートに作業できるように支援するLLMです。Salesforceのコード生成LLMであるCodeT5+、CodeTF、CodeGenはいずれも、他のLLMよりかなり早い時期にベンチマークが行われています。
サヴァレーゼは次のように述べています。「私たちの目標は、直感的で使いやすい革新的なAIツールを生み出し、人々に力を与えることです。私はSalesforceの至るところで(CodeGenの)ベータテスト参加者が熱狂していたのを目の当たりにし、私たちの革命がまもなく実現するという期待を抱きました」
信頼性の高いオープンなリアルタイムの生成AIという未来
2023年に、SalesforceはEinstein GPTによって自社のプラットフォーム全体に生成AIを取り入れ始めました。これは、Salesforceのすべての部分に生成AIを取り入れ、パーソナライズされたEメール、自動生成コード、会話の要約といったコンテンツを自動で作成する取り組みです。
また、Einsteinは生成AIに極めて重要なTrust Layerを提供するため、企業は自社の独自データが大規模言語モデルに誤って取り込まれ、アクセス権限のないユーザーや社外に漏えいすることはないという安心感を得られます
Salesforce AI CEO、クララ・シャイ(Clara Shih)
続いて2023年6月に、SalesforceはAI Cloudを発表しました。これは、あらゆるアプリケーションやワークフローで信頼性の高いオープンなリアルタイムの生成体験を実現するよう最適化された一連の機能です。Salesforce AIのCEOであるクララ・シャイ(Clara Shih)によると、Einsteinはワークフローに組み込まれた信頼性の高いエンタープライズグレードの生成AIによってカスタマーエクスペリエンスと企業の生産性を向上させ、ビジネス上の成果の創出を促します。
「私たちは生成AIを導入して、営業担当者、サービス担当者、マーケティングマネージャー、コマースマネージャー、開発者が直面する業務上の重要な課題や機会を明らかにし、彼らの業務能力を増強して、日常的なタスクから解放します」とシャイは述べています。
AI Cloudの新しいEinstein GPT Trust Layerは、企業が自社のエンタープライズデータセキュリティ要件やコンプライアンス要件を満たせるようにすることで、生成AIの導入に伴うリスクに対する懸念を払拭します。これにより、LLMが機密性の高い顧客データを保持することを防ぎます。このように機密性の高いデータをLLMから分離することで、企業がデータガバナンスのコントロールを維持しつつ、生成AIの力を最大限に生かせるようにします。
さらに、シャイは次のように語ります。「また、Einsteinは生成AIに極めて重要なTrust Layerを提供するため、企業は自社の独自データが大規模言語モデルに誤って取り込まれ、アクセス権限のないユーザーや社外に漏えいすることはないという安心感を得られます」
データに関する問題をAIで解決
AIは、その原資となるデータの質がすべてです。そして、何千もの企業がミッションクリティカルな顧客データの管理にSalesforceを利用しています。SalesforceのデータプラットフォームであるData Cloudを利用すれば、お客様はSalesforceに保存されているデータを他のデータソースと紐づけ、そのデータを統合、連携して、顧客のリアルタイムビューを作成し、セールス、サービス、マーケティング、コマースの体験をパーソナライズすることができます。
SalesforceがオンリーワンかつナンバーワンのAI CRMとしての地位を確立できているのは、ハイパースケールのリアルタイム顧客データとCustomer 360に加え、信頼性の高い安全なエンタープライズグレードのAIを組み合わせているからです。これはAI革命の始まりにすぎず、Salesforceは引き続きお客様を未来へと導きます。
パーカー・ハリス(Parker Harris)はこのように述べています。「Salesforceのお客様は、『あまりに急速な世界の変化に安全について行く方法が分からない』と仰います。私たちの答えは、私たちがお客様をそこまでお連れします、ということです。Salesforceには今、そのためのトップクラスの人材が揃っています」
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