※本記事は、2023年9月26日に米国で公開された How Salesforce’s Data Cloud Drives the Next Generation of AI-Powered Enterprise Appsの抄訳です。本資料の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。
スティーブ・フィッシャー(Steve Fisher)はコンピューターサイエンス、Salesforce、そして、マーク・ベニオフ(Marc Benioff)と長い付き合いがあります。
1970年代後半、シリコンバレーの高校生だったフィッシャーは、ベニオフと組んでAppleやAtariのコンピュータ向けに、ソフトウェアゲームを開発しました。大学時代、二人は別々の道を歩み、フィッシャーはスタンフォード大学でコンピューターサイエンスを、ベニオフは南カリフォルニア大学でビジネスを学びました。その後、フィッシャーがApple、AT&T、さらに共同創業者として携わったスタートアップ企業のNotifyMe Networksを経て、2004年にSalesforceに入社したとき、2人は再会しました。
フィッシャーは、Salesforceでソフトウェアの技術設計と開発を10年間率いた後、eBayのCTOに就任しましたが、2021年に再びSalesforceに戻ってきました。現在、フィッシャーは次世代CRMと統合データサービスの開発をリードしており、その中には、あらゆる情報源からのデータを統合して調和させ、顧客に関する単一のビューを作成するリアルタイムのハイパースケールなデータエンジン、Salesforce Data Cloudの開発も含まれています。
Salesforceのダン・ファーバー(Dan Farber)が、フィッシャーにData Cloudの進化と将来について聞きました。
Q. Salesforceの未来とお客様のAI変革にとって、なぜData Cloudが重要なのでしょうか。
簡単に答えると、AIはデータがあってこそ初めて活きるものだからです。
Data Cloudは、Salesforceのあらゆるものと深く統合されています。そのため、すべてのデータを一か所にまとめて整理してから、顧客とエンゲージする方法を考え始める必要はありません。Data Cloud を使用すると、複数のクラウド、または複数の Salesforce上の組織から、すべての Salesforce データを実に簡単にまとめることができます。そして、すべてのデータは、すべてのアプリケーションからアクセスできる単一のスペースで統合され、調和されます。
AI アプリケーション向けに CRM のトランザクション データを使うこともできますが、それはデータパズルの一部に過ぎません。Data Cloudは、Salesforceだけでなく、すべての異なるシステムにわたるすべてのデータを統合します。実際、現在Data Cloudにあるデータの75%はSalesforceの外から来るものです。これらは、Web サイトからのデータや遠隔測定データ、構造化及び非構造化データを意味します。Snowflake、Google、AWS、Databricksのような外部データプラットフォームから、実データのコピー作業をすることなく(ゼロETL:抽出・変換・ロードなし)データ共有やAIモデルをトレーニングするために、コネクタを使って簡単にデータを取り込み、安全でコンプライアンスに準拠した方法でビッグデータプロバイダと連携することができます。
Data Cloudで、閉じ込められたデータを解き放つ
Data Cloud は、あらゆるデータを簡単に Salesforce データに取り込むことができます。データを統合し調和させることで、顧客、注文、ケース、車両、または選択したエンティティに関するすべての情報を含むゴールデンレコード(顧客に関する複数ソースからのデータを統合し確認できる単一のビュー)が作成されます。また、データ処理の多くをリアルタイムで行うことができます。これは、物流追跡、不正検出、患者情報、顧客エンゲージメントなどのアプリケーションにとって本当に重要です。例えば、顧客がウェブサイト上でどのように製品を閲覧しているかを調べ、自動的にセグメントを追加したり、セグメントから外したりすることで、マーケティングセグメントを構築できます。
Data Cloud は、お客様が望むあらゆるデータを簡単にSalesforce データとして取り込むことができます。データを統合し、調和させることで、顧客、注文、ケース、車両、または選択したエンティティに関するすべての情報を含むゴールデンレコードが作成されます。
Salesforce 次世代CRMおよび統合データサービス担当EVP 兼 GM、スティーブ・フィッシャー(Steve Fisher)
Data Cloudは、CRMとお客様のAI変革の基盤で、Salesforce史上、最も急速に成長している製品です。Data Cloudはすでに毎月30兆件のトランザクションを処理し、毎日1000億件のレコードを接続し、統合しています。
Q. Data Cloud と Salesforce Einstein 1 Platform の関係を教えてください。
私たちが迅速にイノベーションを起こせる理由は、メタデータ主導の Salesforce プラットフォームにあります。約 25 年前に 最初のSales Cloud を提供開始した時、そのねらいは Salesforce のメタデータ、つまりデータモデル、レコードタイプ、ビジネスルールとプロセス、ページレイアウト、ユーザー権限などを記述するスキーマを公開することでした。これにより、複雑なアプリケーションコードが抽象化され、現在では、統合、カスタマイズ、セキュリティ設定を一切損なうことなく、お客様向けに新しい機能を年に3回、自動的にアップグレードできるようになりました。
Data Cloud は Salesforce Einstein 1 Platform に深く統合され、プラットフォームとすべての Salesforce アプリケーションの基盤として機能します。実際、Data Cloud のすべてのデータは、プラットフォームのメタデータを通じて顕在化し、Sales Cloud、 Service Cloud、および当社の業種別ソリューション全体でデータをシームレスに使うことができるようになります。過去に買収によってSalesforceのCustomer 360ポートフォリオに加わったコンシューマースケールのテクノロジースタックであるMarketing CloudとCommerce Cloudが、Einstein 1 Platform上でネイティブとなったことが Dreamforce 2023で発表されたことは記憶に新しいと思います。
さらに、Einstein、Flow、Lightning、およびApexを含むプラットフォーム機能は、Data Cloudにネイティブにアクセスできるため、お客様はローコードまたはノーコードツールとともに、強力なAIや自動化、分析を使いながらビジネスアプリケーションを簡単に強力なものにすることができます。TableauもネイティブにData Cloudに接続し、ボタンをクリックするだけで即座にデータを分析し、ワークフローの中でAIを活用したインサイトに基づいてアクションを起こすことができます。
Data Cloudは、新世代のAI搭載アプリを提供するために、当社の新しい生成AI対話型アシスタントであるEinstein Copilotや、AIアシスタントを構築し、カスタマイズする新しい方法であるEinstein Copilot Builderのためのデータとグラウンディングを提供します。Data Cloudを使えば、顧客やあらゆるエンティティをリアルタイムに統合したビューを提供するデータグラフを作成できます。そして、すべての関連データを、ワンクリックでLLMに供給するプロンプトに送信できます。SQLクエリを送信したり、手動でデータ結合を作成したりする必要はありません。
私たちはこれまでアプリを構築していましたが、これからはデータを推論し、自分に代わってアクションを実行するプロンプトとCopilotを構築するようになるでしょう。そして、その際には新しいツールセットを学ぶ必要はなく、すでに使い慣れているあらゆるSalesforce ツールを使うことができるようになります。
私たちはこれまでアプリを構築していましたが、これからはデータを推論し、自分に代わってアクションを実行するプロンプトとCopilotを構築するようになるでしょう。
Salesforce 次世代CRMおよび統合データサービス担当EVP 兼 GM、スティーブ・フィッシャー(Steve Fisher)
Q. Data Cloudが生成AIアプリケーションを強化する例を教えてください。
例えば、あなたがMarketing Cloudを利用しているとしましょう。Data CloudとEinstein AIを使えば、マーケティングキャンペーンのセグメントを生成し、消費者の閲覧や購入の嗜好に基づいたウェブサイトのランディングページを作成し、特定のマーケティングキャンペーン用にメールをパーソナライズすることができます。例えばセグメントを作成する際は、Einstein Copilot対話型AIアシスタントに、何をしたいかを伝えるだけで良いのです。
あなたがしていることは、プロンプトの作成です。そして、AIモデルの出力は、プロンプトの質に左右されます。見込み客をイベントに招待するメールの作成をAIに促すことができますが、その結果は、見込み客の名前、会社名、肩書き、見込み客が購入した製品や興味を持っている製品、顧客になってからの年数、開封したメール、未解決のサービスケースの有無といった文脈データに基づかない、ごく一般的なメールになるでしょう。営業担当者はこれらの情報をすべて調べ、段落ごとに入力し、LLMにそれらの情報を与えることもできますが、それは何時間もかかる悪夢のような作業になるでしょう。
そこで、Data Cloudの出番です。プロンプトの作成からアウトプットまで、すべてが完全に統合されています。Data Cloud は、すべての関連データを AI モデルに自動的に送信し、プロンプトを推論して質の高いアウトプットを生成するための文脈を与えます。そのため、力仕事をする必要はなく、営業担当者がChatGPTに何かを入力して生成するよりも、100倍も優れたメール送信文を手に入れることができるのです。
Q. ビジネスデータが Einstein Copilot アプリやワークフローに移動する際、Data Cloud はセキュリティやプライバシーにどのように対処するのでしょうか?
Data Cloud は、データへのアクセスが必要なエンティティにのみにデータアクセスを提供することに非常に優れています。プライバシー、セキュリティ、およびその他のデータ管理はすべて、Data Cloud がデータを管理する方法の一環です。これは、生成AIを動かす大規模言語モデル(LLM)においては、特に重要です。
LLMは言語を操ることは得意ですが、データの扱いはあまり得意ではありません。どういうことかと言うと、ウィキペディアに載っているような、頻繁に変更されることのない公開データには向いています。しかし、独自のデータや頻繁に変化するデータがある場合、それはLLMにとって理想的ではありません。LLMが新しいデータについて学習するためにはモデルを訓練する必要があり、それには高いコストがかかり、通常はリアルタイムでは行われません。
また、セキュリティやプライバシー要件も考慮しなければなりません。つまり、社内外のあらゆる人に公開して良いデータでなければ、LLMに入れるべきではありません。なぜなら、それらのデータは露出する可能性が高いからです。一度LLMに入れたら、削除することはできないのです。リレーショナルデータベースのテーブルから削除できる「行」はないので、細心の注意が必要です。これは、お客様にとって最大の心配の種だと思います。お客様は自分たちが所有するデータを、公開モデルでトレーニングさせたくはありませんから。
Salesforceには、非常に堅牢で豊かな責任共有とセキュリティのモデルがあり、AIモデルと連携する際にもそれを維持しています。Einstein Trust Layerは、Einstein 1 Platformにネイティブに組み込まれています。Einstein Copilotにプロンプトを入力するか、または事前に構築されたプロンプトテンプレートを使うと、Data Cloudから安全に関連データを取得できます。LLMに送信する前に、専有情報、機微情報、または機密情報をマスキングし、安全なゲートウェイを介してAIモデルに送信します。そして、これらのモデルすべてに適用されるゼロリテンションポリシーにより、データがSalesforceの外部に保存されることはなく、モデルのトレーニングに使用されることもありません。
アウトプットが生成されると、Einstein Trust Layerは、バイアスや有害性に対する一連のチェックも行います。そして、このやり取り全体の監査証跡を追跡・管理することで、コンテンツの生成に何が使われたかを知ることができます。
Q. Data Cloudの次の目標は何ですか?
2023年のDreamforce では、PDF、通話記録、Slack上の会話などの大規模なテキストデータなど、非構造化データへのサポート拡大を発表しました。Data Cloud はまた、社内外のナレッジストアにあるこれらのデータタイプへのインデックス付けを容易にし、追加の作業を行うことなくセマンティック検索の実現を可能にします。
私たちは、これからのエンタープライズアプリケーションの基盤となるData Cloud を、すべてのお客様に届けることをとても楽しみにしています。