※本記事は、2023年3月7日に米国で公開された Why Einstein GPT Marks the Next Big Milestone in Salesforce’s AI Journey の抄訳です。本資料の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。
編集注)AI Cloud、Einstein GPT、各クラウドGPT製品は総称してEinsteinの呼称を使用します。Salesforce Einsteinの最新情報はこちら。
まとめ
- Einstein GPTは、世界No. 1のCRMに生成AIを直接組み込むことで、エンタープライズITにおいて最も広く使われる生成AI技術の一つです。セールス、サービス、マーケティング、コマース、IT全体にわたり、AI生成コンテンツを大規模に提供します。
最近では、ニュースやビジネス系サイトを開いて、生成AIの記事を目にしない日はないでしょう。この新しい技術を自社でどのように取り入れることができるか、多くのビジネスリーダーが考えを巡らせています。
SalesforceでAI・機械学習担当シニアバイスプレジデントを務めるジェイエシュ・ゴヴィンダラージャン(Jayesh Govindarajan)が、AIに長年取り組んできた経験から、ビジネスリーダーに役立つヒントを語りました。
Blazing Trailsポッドキャストの最近のエピソードで、ゴヴィンダラージャンはこのように語っています。「私たちはAIを使った技術革新に8年ほど取り組み、AIの活用を広げてきました」
ChatGPTをはじめとした、一般向けの生成AIがメディアの見出しを席巻していますが、新しい技術が普及するチャンスは、常にビジネスでの利用にあります。そして、それこそが、生成AIの分野でSalesforceが大きな影響力を持つことになる理由です。Salesforceは、世界No. 1のCRMを通じて、セールス、サービス、マーケティング、コマース、IT全体にわたりAI生成コンテンツを提供します。
ゴヴィンダラージャンによれば、Einstein GPTは、効率、最適化、そして商機を生み出すことを一番に考えた、「Salesforceならでは」の生成AIです。この記事では、Einstein GPTがどのようなものになるか、ゴヴィンダラージャンに話を聞いていきます。
Q. 500人以上の上級ITリーダーを対象に実施された最近のアンケートでは、回答者の大半が生成AIは大きな変化をもたらすと考えていました。84%が、生成AIは顧客対応の改善に役立つと回答しています。生成AIについて、Salesforceならではの取り組みはどのようなものですか?
この分野には、とてつもない関心が寄せられています。これまで皆さんが触れてきたのは、ChatGPT、Bing、GoogleのBardなど、一般向けのものだと思います。しかし、Salesforceが目指すのは、仕事のやり方を変える生成AIです。
Salesforceを使ってイノベーションを生み出すトレイルブレイザーにとって、最も意味のある形で生成AIを組み込むことに重点を置いています。どうすればこうした技術をSalesforceのプラットフォームへ安全に組み込み、ユーザーの生産性を向上させられるかを考え、Einstein GPTでそれを具現化しました。
一方、企業が考えるべきことは、ビジネスの目的は何か、生成AIが役に立つ業務やタスクは何か、ということです。AIにポエムを書かせたり、AI検索エンジンを使ったりするのは興味深いものですが、これらは直接利益には影響しませんし、働き方を変革することもないでしょう。
Q. Salesforceが、CRM向けの強力な生成AI機能を提供するに至った要因は何ですか?また、なぜ今なのですか?
AIは、その原資となるデータの質がすべてです。Salesforceのお客様は、すでにこの時点で生成AI活用において優位な立場にあるのです。あらゆる業界の数多くのお客様が、セールス、サービス、マーケティング、コマース、ITのデータをSalesforceで管理しています。これらのデータをフルに利用して、Salesforceを使った業務フローのなかでAIコンテンツを生成できます。
これは、Salesforceの競合優位性でもあります。Salesforceには、世界No. 1のCRMと世界で最も充実した顧客データセットがあります。Einstein GPTはこれを存分に活かし、ほかのエンタープライズテクノロジー企業にはできない形でAIコンテンツを生成します。
Salesforceには、世界No. 1のCRMと世界で最も充実した顧客データセットがあります。Einstein GPTはこれを存分に活かし、ほかのエンタープライズテクノロジー企業にはできない形でAIコンテンツを生成します。
ほかにも、Salesforceは3つの点で優位な立場にあると考えています。まずは職場における生成AIの性質です。ビジネスにおける潜在的な強みと用途は、無限にあります。そして、一般向けの生成AIとは異なり、職場で利用する場合は対象が特定分野にしぼられます。
次に、Salesforce製品と組み合わせて使える点です。Einstein GPTは、公開されているデータとCRMのデータを合わせて使うため、生成AIが生み出すエクスペリエンスが何倍にも強化されるでしょう。さらに、数百万人のお客様全員がEinstein GPTを使うようになれば、使われるたびにモデルは学習を深め、精度が上がっていきます。この積み重ねによる進化が、Salesforceにとって大きな差別化要因となります。
最後は、専門知識と経験です。Salesforceは、こうしたシステムを大規模に、お客様からの同意と信頼を得て開発してきた実績があります。また、人間が介在するプロセスの設計も得意とするところです。Salesforceにとって、これまで積み重ねてきたものをベースに、生成AIという次のAIの取り組みに進むのは自然な流れと言えます。
まさにチームスポーツのように、異なる複数の部門をまとめて、協力関係を築き、方針を定め、製品を開発して展開することができます。これからのAIジャーニーが、楽しみでなりません。
Q. あらためて、Einstein GPTとは?Salesforceのお客様にとって、どのようなものですか?
Einstein GPTは、世界初のCRM向け生成AIです。革新的な生成AI技術をSalesforceのCRMに組み込むことで、セールス、サービス、マーケティング、コマース、IT全体にわたり、AIコンテンツを簡単に生成してやり取りに活用できるようになります。
Einstein GPTは、Salesforce独自のAIモデルとSalesforce Data Cloudの信頼性の高いデータを、OpenAIをはじめとするパートナーエコシステムの生成AI技術と組み合わせます。これにより、高度にパーソナライズされた体験を、リアルタイムで大規模に提供できます。
たとえば、営業担当者には、顧客に送るパーソナライズされたメール。カスタマーサービス担当者には、顧客からの問い合わせに迅速に対応するための回答。マーケターには、キャンペーンの反応率を上げるためのターゲットを絞ったコンテンツ。そして、エンジニアには自動生成されたコードなど、Einstein GPTでさまざまなコンテンツを生成できます。
Q. Einstein GPTを開発するにあたって、どのようなことに留意しましたか?
Einstein GPTについては、3つのことに留意しています。1つ目は、この技術の「生成」という側面について。つまり、仕事にどう役立つのかが重要なのです。文章を生成したり会話ができたりするだけでなく、CRMをどう生かせるかに注力しています。
2つ目は、この技術を信頼できる、安全な形でお客様に届けることです。ChatGPTなどのシステムは非常に強力ですが、公開されているデータソースを使うことを前提に開発されています。しかし、企業で使うシステムは、その企業内のデータを利用するものでなければなりません。Einstein GPTでは、公開されているデータと非公開の社内データを合わせて、信頼性の高い形で利用できるようにすることで、お客様にとっての付加価値を実現します。
3つ目はパーソナライズです。生成AIを使って生み出されるコンテンツにパーソナライズを適用できれば、これほど強力なことはありません。SalesforceとCustomer360でこれが実現すれば、なおさらです。
Q. Einstein GPTのような技術が一般的にできることと、Salesforceのコンテキストでできることを説明してもらえますか?
ユーザー視点では、考えを形にまとめるまでがスムーズになります。打ち合わせを6回行い、その内容をまとめて文書にする場合などに便利です。あるいは、複数の会話から、やり方を改善するためのアイデアを拾うといったこともできます。
マルチタスク学習により、こういったさまざまなことができるシステムを開発できます。営業担当者が送るメールで学習させれば、顧客に響くメールが書けるようになるでしょう。モデムの修理に関するカスタマーサービスのメールで学習させれば、モデムの修理に関する質問に的確な返信を生成できるようになるでしょう。この基本概念を、Salesforceクラウド全体に適用できます。
私自身、エンジニアとして、Einstein GPTと開発者にとっての用途に大きな期待を寄せています。誰もが、一貫して質の高いコードを記述できるようになるのです。優れたコードをシステムに学習させることで、ますますコード生成の効率が上がるという、フライホイール効果も期待できると考えています。
Q. 職場でどのように使われるか、例を挙げて教えていただけますか?
無料で利用できるSalesforceのオンライン学習プラットフォーム、Trailheadで新しいスキルを身につける方法について、顧客にメールを書くという場面を想像してみてください。メールの内容は、データにもとづいた、Trailheadのメッセージングを反映したものにしたいと考えるでしょう。
お客様にとって意味のある、役に立つ文章をEinstein GPTに生成させるには、生成AIの作文機能だけでは十分ではありません。この場合、適切と思われるデータ、つまり、Trailheadのデータを使います。これを、大規模言語モデルのグラウンディングと言います。また、指示にもとづいて出力を調整する機能も欲しいと考えるでしょう。そのレイヤーとなるのがインストラクションチューニングです。入力したプロンプトにもとづいて、エンジンが指示した内容を理解できるようにします。
最後のレイヤーは、人間からのフィードバックによる強化学習です。Trailheadの活用法についての情報をどのように集めるか、良い生成結果、悪い生成結果とはどのようなものか、顧客に送信する前に編集する必要がある出力はどのようなものか——機械の出力に対する人間の評価は、強化に役立ちます。
この機能をSalesforceのスタックに組み込めば、業務の内容に結びついた強化が行われます。さらに、私たちが開発する生成AI機能全般の強化にもつながるのです。
最後に、こうしたフィードバックを大規模言語モデルの下位のレイヤーに送信し、モデルの精度を向上させ、タスクに合わせた調整を行い、効率の向上につなげます。
Q. Einstein GPTなどの生成AI技術の恩恵を受けるのは、誰だと思いますか?
大小を問わず、あらゆる規模の企業にとって基本となる技術であり、恩恵を受けられるものと考えています。経営資源が潤沢とは言えない中小企業にとっては、大きなチャンスになるでしょう。こうした企業にも、WebサイトやFAQなど、公開可能な大量のデータがあるはずです。すべてが非公開のデータというわけではないでしょうから、まずは、顧客とのやり取りを生成AIで自動化するところから始めるとよいかもしれません。たとえば、Webサイトの訪問を有望なリードにつなげるまでの流れなどです。中小企業は、新しいことを試すにあたってフットワークが軽いので、大企業よりも早く成果を得る可能性は高いと思います。
大企業にとっては、生成AIでDXが進むかもしれません。Einstein for SalesやEinstein for Serviceで従業員を支援すれば、チームの生産性を向上させることができます。Einstein GPTに寄せられる関心は、まさにその部分であると考えています。お客様は、従業員の業務効率を引き上げ、より価値の高いタスクに多くの時間を割けるようにすることを望んでいるからです。Salesforceが信頼を最重要価値と考え、人間が介在する製品スタックを提供する理由もそこにあります。