カスタマーサクセスとは?カスタマーサポートとの違いや流れ、事例を解説
カスタマーサクセスとは、企業が顧客の目的達成を積極的にサポートし、それによって顧客の満足度を高めるための活動や、その専門職を指します。
これは、単に顧客からの問い合わせに対応する受動的な業務とは異なります。企業側から能動的に働きかけ、顧客が提供されているサービスを最大限に活用し、業務効率の向上やコスト削減などでを実感できるように導くことを目指します。
特に、月額料金制のように継続的な利用が前提となるサブスクリプション型ビジネスにおいては、顧客の解約を防ぎ、契約の継続やより上位のサービスへの移行を促す上で、極めて重要な役割を担います。
この記事では、以下の点をわかりやすく解説します。
- カスタマーサクセスの基本的な概念と重要性
- 具体的な業務内容と成功のためのポイント
- 実際の企業における成功事例
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カスタマーサクセスとは?

カスタマーサクセス(Customer Success)とは、企業が提供する製品やサービスを通じて、顧客が目的を達成し成功体験を得られるように能動的に支援する取り組みや考え方、またはその専門職を指します。
単に問い合わせに対応するカスタマーサポートとは異なり、顧客がサービスを最大限に活用し、期待以上の成果を出せるように積極的に導くことが目的です。
特に、月額課金制のようなサブスクリプション型ビジネス(継続的に利用料を支払うモデル)においては、顧客の解約(チャーン)を防ぎ、契約更新や追加サービスの利用(アップセル・クロスセル)につなげるために、極めて重要な役割を担います。
企業内でカスタマーサクセスの考え方を共有することで、社内の目的意識や方向性が統一され、組織力強化にも繋がります。また、クラウドサービスが普及し、顧客の利益と自社の利益がより密接になったことも、カスタマーサクセスが重視される大きな理由です。
カスタマーサポートとの違いは姿勢と目的
カスタマーサポート |
カスタマーサクセス | |
姿勢 | 受動的(リアクティブ) 問い合わせがあってから対応 |
能動的(プロアクティブ) 課題を先回りして解決策を提案 |
目的 | 維持管理・保守、問題解決 | 顧客の成功体験の実現、LTV(顧客生涯価値)の最大化 |
KPI | 顧客満足度、解決時間 | 解約率、LTV、アップセル・クロスセル率、NPS(顧客推奨度) |
位置付け | コストセンター(費用部門) | プロフィットセンター(収益貢献部門) |
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なぜカスタマーサクセスが必要なのか? ~3つの変化~

カスタマーサクセスが注目され始めたのは2000年頃からです。その背景には、主に以下の3つの大きな変化があります。
- ビジネスモデルの変化:所有から利用へ
- 営業スタイルの変化:売り切りから継続関係へ
- 競争環境の変化:機能だけでなく体験で差別化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. ビジネスモデルの変化:所有から利用へ
クラウドサービスやSaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)に代表されるサブスクリプションモデルが一般化しました。これにより、顧客は製品を買い切るのではなく、必要な時に必要なだけサービスを利用するスタイルへと変化しました。
この変化は、顧客にとっては手軽にサービスを開始できるメリットがある一方、企業にとっては顧客が簡単に解約できるリスクも生み出しました。契約したら終わりではなく、契約後もサービスを継続してもらうための能動的な働きかけ、つまりカスタマーサクセスが不可欠になったのです。
システムやサービスは、導入するだけでは不十分です。顧客がそれを活用し、成果を出すことで初めて価値が生まれます。この定着化こそが顧客の成功であり、企業の継続的な収益につながります。
2. 営業スタイルの変化:売り切りから継続関係へ
従来の買い切り型ビジネスでは、成約が一つのゴールでした。しかし、SaaSビジネスのような継続利用が前提のモデルでは、成約はスタートラインに過ぎません。
顧客と長期的な関係を築けるメリットがある反面、企業は継続的なサポートや価値提供を行う責任を負います。この長期的な関係性の中で、顧客の成功を支援し続ける視点(カスタマーサクセス)が重要になります。
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化するためには、売って終わりではなく売ってから始まる関係を構築し、いかに解約率(チャーンレート)を引き下げるかが重要なポイントです。
3. 競争環境の変化:機能だけでなく体験で差別化
市場が成熟し、類似した製品やサービスが溢れる現代において、他社との差別化はますます重要になっています。
機能や品質の向上はもちろん重要ですが、それだけではすぐに模倣されてしまう可能性があります。そこで、カスタマーサクセスによる顧客一人ひとりに向き合った独自のサービス提供や体験価値の創出が、強力な差別化要因となるのです。
カスタマーサクセス導入のメリット

カスタマーサクセスの導入は、解約率の低下や商品開発へのフィードバックなど、複数のメリットがあります。
- 解約率を低く抑えることができる
- クロスセルとアップセルにスムーズに導ける
- LTVを高く保つことができる
- ニーズを分析し、プロダクトを進化させられる
- 顧客満足度が向上して売上に貢献する
以下でそれらのメリットについて解説していきます。
1)解約率を低く抑えることができる
サブスクリプション型のビジネスモデルでは、自社製品を「いかに長く、多くの人に使ってもらえるか」という点が重要です。顧客に満足してもらえなければ容易に解約され、競合社へ乗り換えられてしまいます。
『SaaS ビジネス成功の基礎「The Model」』でも触れていますが、顧客満足度を高めるには数値や情報を正確かつリアルタイムに部門間で共有することが必要です。そうすることで、各部門のどこがボトルネックになっているかを把握することができるため、顧客満足度を向上させるために必要なアクションを素早く取ることができます。
顧客の視点を重視し、成功へと導く製品をリリースすれば、顧客は長く製品を使い続けてくれます。そして「低い解約率」と「高い継続率」という、目に見える数字となって成果が現れるのです。
2)クロスセルとアップセルにスムーズに導ける
顧客の立場からすれば、業務をよりスムーズに進めるためには、さらなるツールの導入やアップグレードが必要になることもあるでしょう。
メインとなるシステムの機能を補完するツールを用いる。あるいは、ツールそのものを多機能・高機能なものにアップグレードする。こうしたクロスセル・アップセルにスムーズに導くことができるのも、カスタマーサクセスにおけるベンダー側の利点です。
3)LTVを高く保つことができる
解約率を抑えつつ、クロスセルやアップセルを効果的に重ねることができれば、LTV(顧客生涯価値)を高めることにつながります。既存顧客への販売は、新規顧客の開拓よりも営業のハードルが低いものです。
自社製品の特徴を理解してくれているため、思い切った提案も可能です。また、顧客に寄り添い、状況に即した適確な提案を行うことで、顧客の課題や問題を解決するだけでなく自社の収益向上にもつながります。
4)ニーズを分析し、プロダクトを進化させられる
カスタマーサクセスは顧客がどのようなことに困っているのかを拾いやすく、それをプロダクトに反映することで、より良いものへと進化させることができます。
顧客ニーズの分析は、製品に内包された可能性を見つけることにも繋がります。顧客からの声をフィードバックとして製品のアップデートに活かせば、ニーズに即した製品へとプロダクトを進化させることも可能です。
5)顧客満足度が向上して売上に貢献する
製品・サービスを顧客が使いこなせるように支援することで、製品の機能や良さを理解できるようになり、顧客満足度が向上します。
満足度の高い顧客は、製品への愛着も高まるため、以下のようにさまざまな効果が期待できます。
- 製品・サービスのリピート購入
- 口コミ・評判による新規顧客の獲得
- アップセルやクロスセルへの移行
このような効果から、顧客との長期的な関係性も築きやすくなり、売上や業績の向上に貢献するでしょう。
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カスタマーサクセスで重要な5つのKPI

カスタマーサクセスには定型的な決まりが無いため、成功度合いを測るには個別のKPIを設定する必要があります。
このとき、指標にしやすいKPIは以下の5つです。
- LTV
- チャーンレート
- NPS
- アップセル率・クロスセル率
- リテンションレート
それぞれのKPIについて、見るべきポイントを1つずつ解説します。
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1)LTV
LTV(顧客生涯価値)は、取引開始から終了するまでのあいだに、1人の顧客から得られた売上の総額を示したものです。LTVの算出方法にはいくつかの方法がありますが、すべての顧客の平均値を基にLTVを算出する計算式は、下記のとおりです。
LTV=平均購買単価×収益率×購買頻度×継続購買期間
LTVが高いということは、クロスセルやアップセルによって購買単価が高まった場合と、何度も購入を続けて購買頻度が上がった場合が考えられます。つまり、それだけ自社の製品やサービスが顧客の業務に活かされており、満足しているためと見ることができます。
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2)チャーンレート
解約率や退会率などと訳されるチャーンレートは、サブスクリプションモデルのサービスを提供している企業にとっては、基本といえる指標です。顧客数をベースとして算出する「カスタマーチャーンレート」と、収益をベースにする「レベニューチャーンレート」の2種類があります。 1か月のチャーンレートを見たい場合の計算式は、下記のとおりです。
カスタマーチャーンレート=当月の解約顧客(ID)数÷前月末時点の契約顧客(ID)数×100
レベニューチャーンレート=当月に解約やプラン変更に伴って失われた収益÷前月の月次収益×100
解約は、「製品やサービスに満足できなかった」「より優れたものが見つかった」といった理由が考えられます。ですから、チャーンレートが高いということは、カスタマーサクセスが不十分だったということができます。
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3)NPS
製品でもサービスでも、自分が使ってみて「これは良いな」と感じるものは、他人にもすすめたくなるもの。NPS(ネット・プロモーター・スコア)とは、そうした自社製品・サービスに対する顧客ロイヤリティを数値化した指標です。
NPSの測定方法は、まず顧客に対して「当社の製品・サービスを、友人や同僚にもすすめますか?」と質問し、0から10までの数字で回答してもらいます。0は「まったくすすめたくない」、10は「強くすすめたい」です。回答は数字に応じて、下記の3つのグループに分類します。
0~6をつけた顧客:批判者
7、8をつけた顧客:中立者
9、10をつけた顧客:推奨者
それぞれの人数を全体に対するパーセンテージで表し、推奨者のパーセンテージから批判者のパーセンテージを差し引いたものがNPSとなります。カスタマーサクセスがうまくいっていればいるほど、NPSの数値も高くなります。
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4)アップセル率・クロスセル率
営業手法 | 意味 |
アップセル | 利用中の製品・サービスから、より高機能・高価格のものへの移行をうながす営業手法 |
クロスセル | 利用中の製品・サービスと関連するものを提案する営業手法 |
アップセル・クロスセルで購入する顧客が、全体顧客に占める割合のことを「アップセル率」「クロスセル率」といいます。
アップセル・クロスセルは、既存顧客に対してアプローチをするため、これまでの信頼関係を維持したまま新たな製品やサービスが売り込めます。
また、新規の顧客獲得に比べて、営業にかかるコストも抑えられるため、効率的に収益が上げられる点もメリットの1つです。
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5)リテンションレート
継続的に収益を上げていくために、顧客の維持率や定着率を表す「リテンションレート」も重要な指標の1つです。
リテンションレートには、顧客数から求める「カスタマーリテンションレート」と、収益から求める「レベニューリテンションレート」があります。
それぞれの計算式は、以下のとおりです。
カスタマーリテンションレート
{(期間終了時の契約顧客数ー期間中の獲得顧客数)÷期間開始時の契約顧客数}×100
レベニューリテンションレート
{(期間終了時の収益ー期間中の収益)÷期間開始時の収益}×100
チャーンレート(解約率)と異なり、顧客の維持・定着を示すポジティブな指標であり、リテンションレートが高ければ、顧客満足度も高いことが分かります。
カスタマーサクセスを成功させるポイント

カスタマーサクセスを単なる理念として掲げるだけでなく、成果に結びつけるためには、具体的な行動計画の策定が不可欠です。
カスタマーサクセスを成功に導くためには担当部署が実践しやすいよう、全体像を理解した上で徐々に進めていくことが重要です。
主に三つの重要な視点からのアプローチが求められます。第一に、データに基づいて顧客を深く理解すること。第二に、顧客一人ひとりの状況に合わせた最適な支援を提供すること。そして第三に、組織全体で顧客の成功を後押しする体制を構築することです。
データドリブンな顧客理解
顧客の成功を真に支援するための全ての活動は、まず顧客を深く、かつ正確に理解することから始まります。経験や勘も重要な要素ですが、それらに加えて客観的なデータと向き合い、顧客が抱える真の課題やニーズを明確に捉えることが、極めて重要となります。
具体的な行動の第一歩として、収集し分析すべき主要なデータを特定します。
例えば、サービスの利用状況は、顧客エンゲージメントを測る上で貴重な情報源です。顧客がどの程度の頻度でサービスを利用し、特定の機能をどの程度活用しているかを把握することで、顧客がサービスから価値を得られているかを判断する有効な情報となります。利用頻度が低い顧客に対しては、活用を促すための個別アプローチを検討する必要があるでしょう。
次に、顧客からの直接的なフィードバックも、顧客理解を深める上で欠かせない要素です。アンケート結果、日々の問い合わせ履歴、レビューサイトへの投稿などには、顧客の率直な意見が反映されています。特にネガティブなフィードバックは、真摯に受け止め、迅速な対応と改善に繋げることが求められます。
さらに、顧客の属性や契約情報も有効なデータです。企業規模、業種、契約プラン、利用期間といった情報を基にセグメント別の傾向を分析することで、特定の顧客層が抱えやすい課題を予測し、先回りした案内が可能になります。
多岐にわたるデータを効果的に管理し、分析するためには、CRM(顧客関係管理)ツールの戦略的な活用が鍵となるでしょう。
カスタマーサクセスの第一歩としては、データに基づいたアプローチを通じて、表面的な情報だけでなく、顧客自身もまだ明確に認識していない可能性のある潜在的なニーズや課題を特定することを目指します。その上で、顧客の状況にあった戦略を立案し、効果的なサポートを行うことで顧客対応のスピードと質が向上し、結果として顧客満足度の向上に貢献するでしょう。
顧客に合わせた個別最適の支援
全ての顧客に対して画一的なアプローチを行っていては、期待する効果を得ることは困難です。顧客の様々なニーズに的確に応えるためには、一人ひとりの状況や期待値に合わせた、きめ細やかなサービス提供が重要になります。
そのための具体的な行動として、まずタッチモデルという考え方に基づいたアプローチを実践します。
タッチモデルとは、顧客をその特性、例えば契約金額の規模、今後の成長ポテンシャル、製品やサービスへの理解度などに応じて分類し、それぞれのグループに適したコミュニケーション方法やサポート内容を設計するアプローチです。
例えば、大口顧客や戦略的に重要な顧客といったハイタッチ顧客に対しては、専任の担当者が定期的なミーティング(月次や四半期ごとなど)を実施し、個別の課題解決支援や目標達成に向けたコンサルティングを提供することが考えられます。
一方で、中堅・中小企業などのロータッチ顧客には、複数の顧客を対象としたウェビナーの開催や、ターゲットセグメントに合わせたメールマガジンの配信、ステップメールの活用などが効果的でしょう。
さらに、小規模な契約の顧客や、自己解決を好む顧客などのテックタッチ顧客には、充実したFAQサイト、わかりやすいチュートリアル動画、必要な情報が網羅されたナレッジ集の提供、あるいは顧客同士で情報交換や問題解決ができるユーザーコミュニティの運営支援といったアプローチが有効です。
全社一丸となった体制構築
カスタマーサクセスは、特定の部門のみの努力で達成できるものではありません。顧客の成功を真に実現するためには、部門間の壁を取り払い、組織全体として連携し、共通の目標に向かって取り組む文化と仕組みを醸成することが不可欠です。
具体的な行動としては、まず部門間の連携を促進する仕組みづくりに着手します。
例えば、カスタマーサクセス部門、営業部門、マーケティング部門、製品開発部門といった関連部門の代表者が定期的に集まり、情報共有を行う会議体を設けることが有効です。週次や月次で開催し、顧客から寄せられた意見、市場の最新トレンド、製品改善に関するアイデアなどをオープンに議論する場とします。
また、Slackなどの共通のコミュニケーションツールに専用のチャンネルを設け、リアルタイムでの情報共有や迅速な部門間連携を促進することも効果的です。
さらに、CRMツールを活用して、各部門が保有する顧客情報を一元化し、顧客に関する情報を関係者全員が正確かつタイムリーに把握できる状態を整備することも、円滑な連携の基盤となります。
次に、全社共通の協力目標を設定し、それを組織全体で共有することが求められます。これは、カスタマーサクセス部門に限定された目標ではなく、関連する全ての部門が当事者意識を持ってコミットできるような共通目標を定めます。
例えば、解約率の具体的な目標値、LTV(顧客生涯価値)の向上目標、あるいはNPS(ネットプロモータースコア)の目標スコアなどが考えられます。そして、その目標達成のために、各部門が具体的にどのような役割を担い、どのように貢献できるのかを明確にすることが重要です。
そして最後に、経営陣の積極的な関与とリーダーシップの発揮も、全社的な取り組みを推進する上で不可欠な要素です。カスタマーサクセスの重要性や日々の活動の進捗状況を定期的に経営陣に報告し、取り組みへの理解と支持を得ることが必要です。特に部門横断的な取り組みを効果的に進めるためには、経営陣からの明確な方針提示や、人員や予算といった必要なリソースの適切な配分が欠かせません。
このような組織全体での取り組みを通じて、企業文化として顧客中心主義が浸透していきます。
その結果、顧客満足度の向上、解約率の低減、ひいてはLTVの最大化という形で事業成長に貢献していくのです。
カスタマーサクセスの業務内容

カスタマーサクセスの業務は多岐に渡りますが、代表的な業務を3つご紹介します。
- サービスの活用支援
- サービス活用状況のモニタリング
- ユーザーコミュニティの運営
カスタマーサクセスは、継続的に満足度の高い支援が求められる分野です。顧客の離脱率を下げるためにも、各業務のポイントを覚えておきましょう。
1)サービスの活用支援
カスタマーサクセスの実現には、サービス提供当初のオンボーディングから始まり、自走できるまでの伴走、そして自走後には活用方法のアドバイスやTipsの提供など、長期的な活用支援が必要です。
製品を使いこなせるようになると、製品の良さや強みが分かり、結果的に満足度向上にも繋がります。とくに使い方が分からない序盤の支援は、契約継続に強くかかわるポイントのため丁寧に行いましょう。
2)サービス活用状況のモニタリング
サービス提供開始後は、利用頻度や利用時間などをモニタリングし、製品の利用状況を確認しましょう。このとき、利用頻度が少ない場合は、何らかの問題が起こっていると考えられるため、状況確認や問題点の聞き取りなどを行います。
とくにアプリケーションの場合、ささいな使い勝手や機能不足がボトルネックとなる可能性もあります。製品を日常的に利用してもらえるように、細かな障害を取り払うことを心がけましょう。
3)ユーザーコミュニティの運営
ユーザーコミュニティとは、同じサービスを利用している企業による集まりです。サービスに関する知識や活用方法の共有を目的としていて、ユーザー同士のコミュニケーションから、さらなる可能性を見出せます。
同じ製品を使っていても、目的や業種によってまったく異なる方法で活用しているケースもあります。多くの事例から製品の可能性を知ることで、NPS向上にも役立ちます。
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カスタマーサクセスに求められるスキル

求められるスキル | スキルの内容 |
コミュニケーションスキル | 顧客の意見を丁寧に聞き取り、スムーズに情報伝達するためのスキル |
問題の発見・解決スキル | 顧客とのコミュニケーションから、課題や問題を発見し、迅速かつ効果的な解決策を提供するスキル |
データの分析スキル | データから顧客の行動やニーズを分析し、企画や戦略を提案するためのスキル |
ファシリテーションスキル | 社内のさまざまな意見を集約し、目標を達成に向けて調整を行うスキル |
各種ツールの適応スキル | 業務上で使用するコミュニケーションツールや、顧客管理ツール(CRMなど)を使いこなすスキル |

カスタマーサクセスの成功事例

事例1 カスタマーサクセスを理念として「顧客に寄り添うビジネス」を実現する
多様な金融商品を提供し、オンラインバンキングでは100万人を超える顧客を擁する株式会社新生銀行。しかし、チャネルごとに顧客情報が分断されていたために、シームレスな顧客対応ができないという課題がありました。
たとえば、顧客がウェブ上の商品ページを何度も閲覧しているのに、店舗ではそうした事実を踏まえた対応ができない。ある商品について問い合わせをしている顧客に対して、その商品の案内メールを送信してしまう。これらの問題を解決し、顧客体験を改善するには、カスタマーサクセスの理念を掲げ、それを業務フローに反映させることが必要でした。
そこで同行では、Salesforceの標準プロセスを全面採用することを決定。SuccessCloud アドバイザリーサービスによる支援を受けて、業務の構築だけでなく、プロジェクトの意義を現場に理解してもらうという地道な調整も進めていきました。
Salesforceの利用が社内に浸透してからは、部門を越えたリアルタイムの情報共有が実現可能に。コールセンターでは、顧客の行動履歴などから適切な案内が行えるようになり、さらに気づいた点があれば営業に報告して対応を促すなど、「お客様に寄り添うビジネスモデル」への変革を果たすことができました。
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事例2 「サポートの理想像」を全員が共有し、過去と未来を踏まえたカスタマーサクセスを目指す
法人および個人事業主向けに、「会計freee」と「人事労務freee」といったクラウドサービスを提供するfreee株式会社。顧客の成功と満足が自社商品の契約継続につながるというSaaS企業の特性から、カスタマーサクセス活動に注力し、顧客体験の向上をもたらす施策を次々に展開していくようになりました。
しかし、その過程で浮上したのがシステムの問題。当時、サポート部門で使っていたシステムが、セールス部門で利用していた「Sales Cloud」と完全なデータ連動ができないために、両部門にまたがる完全なカスタマージャーニーを把握できないという状態に陥っていたのです。
同社では、サポート部門に「Service Cloud」を採用することを念頭に置いていましたが、社内には従来のシステムを使いたいという声も多数ありました。そこで行ったのは、社内意識のすり合わせと共有です。
SaaS企業としての理想のサポートとはどのようなものかを全員で考え、ディスカッションした結果、「顧客の現在だけではなく過去と未来も踏まえ、顧客ごとの成長ストーリーに沿ったサポートを提供する」という理想像にたどり着きました。
このような理想を共有することで、全員が同じ方向を向いて動き始めるように。そして、今まで以上に顧客を深く理解し、最適なリソースを提供することを可能にしたのです。
事例3 専門の部門を設け、サービスの流れを具体化して、カスタマーサクセスを提供する
クラウドストレージの枠を大きく超えた、コンテンツマネジメントサービスを提供する、株式会社Box Japan。同社では、SaaS企業にとって成功の要である、カスタマーサクセスに重点的に取り組んでいます。
まず、カスタマーサクセスのゴールを「すべてのお客様が、利用と活用において必要なガイダンスとリソースが提供され、利用価値を最大化できる状態にあること」と定義。
その状態を実現するためにカスタマーサクセス部門を設け、顧客が自社のサービスを、導入、定着、最適化、拡大するための一連の流れを支援する体制に整えました。 サポートやメンテナンスといった一般的なユーザーサービスの機能もこの部門の中に置かれ、顧客満足の向上に貢献しています。
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事例4 顧客の有益なステップを他部門へアドバイスできる
IT環境の運用・管理に必要なハードウェアやソフトウェア、コンサルティングなどのサービスを幅広く提供している日本アイ・ビー・エム株式会社。
カスタマーサクセス部門をはじめ、各部門間の連携やコラボレーションを強化するため「Salesforce」と「Slack」を中心に業務を行っています。
カスタマーサクセス部門では「Service Cloud」を通して、顧客のシステム利用状況を確認・分析しています。
その結果から、「次の効果的なアプローチ」を営業部門にアドバイスできる体制を整えました。
また、同社の社員は外出先でもモバイルからSalesforceにアクセスしながら、タイムリーにタスクを確認しています。
SalesforceとSlackを活用し、以下のような業務の効率化を図りました。
- 新規顧客への提案書テンプレートの作成を自動化
- 上司だけではなく技術部門などの承認フローも効率化
- 社内システムとSlackを連携させて、電子署名・契約をSlack上で実施
このような取り組みを通して、組織全体の生産性が向上したうえ、顧客との信頼関係を作る基盤(プラットフォーム)の構築にもつながりました。
カスタマーサクセス部門をはじめ、社内からも「業務が楽になった」との声も上がっており、業務効率化の成果が感じられています。
事例5 コミュニティ専門部署を新設して戦略的な施策を立案する
クラウド型の営業DXサービスを提供しているSansan株式会社は「営業を強くするデータベース」をコンセプトに事業を展開しています。
同社では、ユーザーとの良好な関係を構築するため、ユーザー同士が情報交換できるコミュニティ「Sansan Innovation Community」を運営しています。
コミュニティはカスタマーサクセス部によって運営していましたが、コミュニティの大きな可能性を感じていたものの、効果が十分に発揮されていませんでした。
そこで、Salesforce「Experience Cloud」の活用を継続しながら、カスタマーサクセス部の全体で運営に関わる「コミュニティ戦略室」を新設しました。
コミュニティ戦略室では、主に以下のような取り組みを行っています。
- コミュニティ登録者をSansanユーザー限定から拡大
- 共通の興味を持つユーザーが集える「コミュニティグループ」を提供
- コミュニティ内の要望を営業・カスタマーサクセスへSlackで自動通知
このような取り組みによって、顧客が知らなかった機能やサービスを紹介するキッカケとなり、アップセルにもつながっています。
ツールを活用し、自社にも顧客にもサクセスを

クラウドサービス周辺から発生したカスタマーサクセスという概念ですが、「顧客の利益追求を手助けすることで自社も利益を得る」という考え方は、旧来のビジネス手法にも合致するものです。
ビジネスの基本ともいえるものですので、改めて見直し、自社の業務に落とし込んでみてはいかがでしょうか。
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