USPとは?自社製品・サービスの強みを生かしたマーケティングを4つの事例を交えて解説
USPとは、自社もしくは自社製品・サービスだけが提供できる価値のこと
USPとは、Unique Selling Propositionの略語です。日本語では「自社あるいは自社製品・サービスの強み」と捉えられることが多く、製品・サービスのキャッチフレーズと誤解されていることもあるようです。しかし、本来のUSPの意味はもっと強く、明確なものになります。「自社だけが、顧客に提供を約束できる価値」というのが、USPの本質になります。
他社にはまねのできない、自社ならではの価値であり、それゆえに顧客に強く伝えるべきメッセージの根幹こそがUSPなのです。
USPに必要な要素
USPは、単なる「強み」や「差別化ポイント」ではありません。それをUSPと呼ぶためには、2つの要素が不可欠です。それが、「自社だけが提供できるもの」と「顧客にとって価値あるもの」です。
- 自社だけが提供できるもの
「ユニーク」というカタカナからは、「一風変わった、特異な」という印象を感じるかもしれません。しかし、この言葉はもっと強く、むしろ「唯一無二」に近い意味を持ちます。
つまり、他社が簡単にまねできるものは、USPとはいえません。ほかのものでは代わりがきかないほど独自性が強く、しかも他社がまねできない特徴を持っていることが大切です。
- 顧客にとって価値があるもの
プロダクトアウト(企業が作りたいもの、作れるものを優先して製品・サービス開発を行うこと)の発想が強いと、製品・サービスの機能や品質こそがUSPであると考えやすいものです。しかし、どれほど多機能・高機能・高品質の製品・サービスであっても、それを必要とする顧客がいなければ、商品として成立しません。顧客が価値を認識しなければ、それはUSPとして成り立たないのです。
USPになりうる要素
USPとして設定できる要素には、どのようなものがあるのでしょうか。主なところでは、次のようなものがUSPとして設定できるでしょう。
ただし、いずれも前述したとおり、「自社だけが提供できる」レベルの独自性があり、「顧客にとって価値がある」ことが条件です。
- コストパフォーマンス
製品・サービスの購入にあたって、誰でも気にするのが価格です。ですから、「業界最安値」などは、わかりやすく伝わりやすいUSPといえます。また、実際の売値が最安値でなくても、コストパフォーマンスが極めて高いなら、それもUSPとしてアピールできるでしょう。
- 品質の高さ
新製品のスマートフォンであれば、その機能を言葉で表現できますし、通信速度なら数値で表すことができます。これらが、競合他社を圧倒するレベルであれば、USPとして通用します。品質は言葉で表現しにくく、しかも人によって感じ方が違います。ですが、「顧客満足度◯年連続第△位」というように、客観性のある物差しを使ってアピールすることは可能です。
- 充実したサービス
無償保証やアフターサービスなどに突出した手厚さがあれば、USPとして通用します。しかし、これも品質と同じで、「手厚く充実したサポート」では、その価値が伝わりません。具体性・客観性のある表現を使い、うまくアピールすることが大切です。
- 選択肢の幅の広さ
ラインナップの多さ、オプション設定の豊富さ、カラーバリエーションの多さなど、選択肢の幅が他社に抜きん出て広ければ、USPになりえます。選択肢が広いということは、自分にフィットした製品・サービスを選ぶことができますから、顧客にとって大きな価値になります。
USPが必要な理由
数多くある競合の中から自社製品・サービスを選んでもらうためには、その製品・サービスが「ほかのもので代用できないほどユニークなもの」であり、なおかつそれを購入することで顧客は「価値を得られるもの」であることを、しっかりアピールしなくてはなりません。そのためにUSPが必要であり、USPをプッシュしていくマーケティングが必要になるのです。
特に、中小企業やD2C(メーカーが直接顧客に製品・サービスを販売する)企業は、資金力や組織力、ブランド力に勝る大手の競合と戦わなくてはなりません。そのためには、大手が手を出しにくい領域での独自性の強い製品開発や、際立ったUSPを設定して、自社と自社製品・サービスを強くアピールすることが重要なのです。
USPを設定する方法とは?
1. 自社製品・サービスの強みを洗い出す
まずは、自社製品・サービスの強みを洗い出していきましょう。はじめに、自社製品・サービスの特徴をランダムに挙げていきます。カスタマーサポートに寄せられたユーザーボイスから収集する、あるいは複数部門の担当者が集まり、意見を出し合うのもひとつの手です。いろいろな角度から見た製品・サービスの特徴、さらに顧客から見た特徴をどんどん挙げていきます。
ある程度集まったら、これらの特徴の中から「強み」と呼べるものと、そうでないものに分類します。単なるサービスの紹介は強みとはいえません。他社を圧倒するほど突出したものだけを残します。
2. 競合の強みをリサーチする
続いては、競合の強みをリサーチして、洗い出した「自社の強み」と比較します。自社のほうが明らかに優れた強みがあれば、それはUSPとなりえます。
競合の強みをリサーチすると、実は独自のものだと思っていた強みが、すでに他社でも同じような強みがあったということが見えてくる場合もあります。同時に、「この業界ではまだどこも踏み込んでいない」という、新たな領域を見つけることもできるでしょう。
3. 自社ならではのセールスポイントを見つける
最初に集めた特徴から取捨選択し、USPとして顧客にアピールできる自社のセールスポイントを見つけ出します。この段階では、独自性と専門性を追究していくことも有効です。
これは、製品・サービスの開発にも強く関連しますが、他社が扱っていない独自性や、ほかの追随を許さない高い専門性は、それだけで強力な武器となります。
また、この段階で「4P分析」を行うと、自社製品の魅力をさらに深掘りすることが可能です。この分析法については、後ほど解説します。
4. 掛け合わせで顧客のベネフィットに応える
自社が推すべきセールスポイントを設定できたら、それが顧客にとっての価値となるか、つまり、顧客のベネフィットに変換できるかをチェックします。ここでは、複数の視点を掛け合わせることも有効な手段です。
顧客が求める価値は、単純なものではありません。「低価格がすべて」というわけでも「早さこそ命」ということでもありません。「価格と品質」を掛け合わせて、価格以上の品質を持つ製品だけを揃えたり、「早さと品揃え」を掛け合わせ、数万種類の商品を即日発送したりといったサービスが生まれています。そして、それぞれが唯一の、価値あるものとして顧客に迎え入れられるのです。
USPの設定に使える分析法
4P分析で自社の強みを知る
4P分析は、マーケティング戦略を企画・立案するプロセスで使われるフレームワークです。製品・サービスを供給する企業の立場から、自社製品・サービスの魅力やプッシュするべきセールスポイントなどを、下記の4つの視点で分析し、戦略立案に役立てていきます。
- Product(自社の製品・サービス)
Productでは、自社の製品・サービスにどのような強みがあり、どのような価値を提供するのかを分析します。製品・サービスそのものの機能や質だけでなく、製品デザインやカラーバリエーション、サービスのオプション設定なども含まれます。
- Price(価格)
Price、つまり価格設定は、決して簡単ではありません。おおよその相場感というものがありますし、安ければ売れるというものでもないのです。
製品・サービスそのものの価値に加えて、市場での人気や希少性、ブランド力などから、価格設定が適切かどうか、十分に分析する必要があります。
- Place(販売場所・提供方法)
Placeは、「どこで、どのように売るのか」ということです。卸売を挟むのか、それともメーカー直販なのか。一般の流通にのせるにしても、販売量やエリアの設定をどうするかなど、設定の仕方は数多くあります。
いずれにせよ、製品・サービスの特性とターゲット層の属性に、販売場所と提供方法が合致していることは必須です。
- Promotion(販促活動)
より多くの製品・サービスを販売するために、どのような販促活動を行うのか、Promotionにも分析が必要です。製品・サービスの特性からターゲット層を絞り込み、そこにリーチできる媒体を選択する必要がありますし、コストとの兼ね合いも考慮しなくてはなりません。
4C分析で顧客の心理に応える
企業側の視点で行われる4P分析に対応するものとして、4C分析があります。4C分析は、顧客側の視点に立った分析法で、やはり4つの要素について分析していくフレームワークです。これは、顧客の心理に応えるための分析法といえます。
- Customer Value(顧客にとっての価値)
Customer Valueは、4P分析のProductに対応します。自社の製品・サービスが、顧客にとってどれほどの価値を持つかを分析します。どのような高品質・高機能でも、それを必要とする顧客がいないのでは、商品としては成立しません。
- Customer Cost(顧客にとってのコスト)
Customer Costは、4P分析のPriceに対応します。これは、「コストパフォーマンスの高さ」と言い換えることもできるでしょう。顧客にとって有用なものが安価で手に入るなら、顧客にとって二重の意味で価値のある製品・サービスということになります。
- Convenience(顧客にとっての利便性)
Convenienceは、4P分析のPlaceに対応します。ネット通販の普及で、商品の流通形態は多様化しています。しかし、顧客にとって、自分がアクセスしやすい方法で購入できるということは重要です。使いにくさや買いにくさを感じてしまうと、その手間を嫌う意識が働いてしまうからです。
- Communication(顧客とのコミュニケーション)
Communicationは、4P分析のPromotionに対応します。ウェブサイトやメールだけではなく、今やSNSも重要な媒体となりました。顧客の好みや行動スタイルに合わせたコミュニケーションは、顧客にとっても価値あるものとなります。
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USPを浮き彫りにするSWOT分析
マーケティング戦略の企画立案には、SWOT分析を活用できます。これは、内部環境と外部環境のそれぞれにプラス面とマイナス面を持つ4マスのマトリクスを作り、そこに自社内外に存在するさまざまな要素を入れ込んでいく分析法です。それぞれのマス目に要素を入れ込んだら、各要素を掛け合わせる「クロスSWOT分析」を行い、具体的な戦略立案の足掛かりとします。
この方法を使うことで現状を把握し、自社のUSPを浮き彫りにすることができます。例えば、「今ある機会をとらえ、自社の強みを最大に発揮する方法は何か?」という発想が可能になり、USPとして立たせるべき要素を明確にすることができるのです。
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USP設定における注意点
ターゲット層のニーズに応えること
USPは、ターゲット層のニーズに応えるものでなくてはなりません。それには、顧客となるターゲット層がどのような課題を抱えているのか、それを理解する必要がありますし、その課題を自社製品・サービスが確実に解決できるのか、十分に検証する必要もあります。そのために、さまざまな分析法を用いて、自社製品・サービスとユーザー、顧客を深く理解することが大切です。
USPは、その製品・サービスがどのような価値を持つのかを、端的かつ明確に表現するものです。その製品・サービスだからこそ得られるメリットを、ターゲット層に確実に理解してもらうことが重要になります。
誠実に守り抜くこと
USPのPは「Proposition」です。これは「提案、提議」などと訳されますが、USPの場合、もっと重い意味、たとえば「約束」というような意味を持つと考えるべきでしょう。
USPは、製品・サービスさらには自社そのものの存在意義にも関わるものです。例えば、「30分でお届け」してくれるデリバリーピザは、そのスピードこそが価値です。「じっくり時間をかけること」は、求められていません。「100人乗っても大丈夫」な物置は、その堅牢さが身上です。少々の雨風でがたついてしまうようでは、存在意義すら薄れてしまいます。
USPは、ユーザーのニーズに確実に応えることを強く約束するものです。一度USPを設定したなら、どんな状況でもその約束を誠実に守り抜かなければなりません。それができないなら、USPとして設定するべきではないといえます。
USPの成功事例4選
ダイソン
ドミノピザ
アップル
QBハウス
USPは企業が発するメッセージの根幹
USPは単なるキャッチコピーではなく、企業が顧客に対して発信するメッセージの根幹となるものです。
顧客にベネフィットを提供する「我が社ならでは」の強みを見つけ、強力に訴求して、マーケティング活動に活かしてください。