Saas事業の基礎知識・ビジネスモデルをわかりやすく解説
SaaSビジネスモデルとは
SaaSとは、「Software as a Service」の略語で、「サース」または「サーズ」と読みます。サブスクリプション型ビジネスモデルの一種で、クラウドサービスとして提供されるソフトウェアを指します。
SaaSは期間ごとの定額課金型サービスで、ユーザーは一定期間の料金を払うことで、その期間中ソフトウェアが使用できるサービスです。支払いを止めるとソフトウェアは使えなくなりますが、支払いを再開すると再使用が可能です。このとき、多くのSaaSでは、支払いが止まっても、一定期間はデータが保管されます。
SaaSは、ソフトウェアがクラウド上に存在するため、インターネット環境があればどこからでもアクセスできます。データの一元管理やリアルタイム共有が可能で、リモートワークの増加に伴い、多くの企業がなんらかのサービスを導入することになりました。参入企業も多い注目のビジネスになります。
SaaSビジネスでは、マーケティングから商談・受注、カスタマーサクセスに至るまでの各段階で情報を可視化・数値化し、営業効率を最大化する仕組みである「The Model」を活用することが成功の近道になります。『SaaS ビジネス成功の基礎「The Model」』では、新規顧客獲得から解約抑止まで、Salesforceのベストプラクティスを凝縮してまとめておりますので、あわせてお役立てください。
SaaSビジネス市場の将来性
「図表1-4-1-7 世界のクラウドサービス市場規模の推移及び予測(カテゴリ別)」(総務省)(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd114110.html)を加工して作成
総務省の令和2年版の市場動向調査「世界のクラウドサービス市場規模の推移及び予測」によると、SaaSビジネスの市場規模は、2015年時点で約453億ドルだったものが、2019年には968億ドルと、2倍近くまで拡大しています。
さらに、2022年の予測値は1,436億ドルとなっていて、わずか7年間で3倍以上も拡大すると見込まれています。ビジネスにおけるWebやクラウドの活用が広がっていることから、今後もSaaSビジネス市場は拡大すると考えられます。
PaaS、IaaSとの違い
SaaS |
PaaS |
IaaS | |
名称 |
Software as a Service | Platform as a Service |
infrastructure as a Service |
読み方 |
「サース」 または「サーズ」 |
「パース」 |
「イアース」 または「アイアース」 |
提供物 |
アプリケーションや ソフトウェア |
アプリケーション開発 のプラットフォーム |
システム構築のため のインフラ |
代表的な サービス |
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PaaSは、「Platform as a Service」の略で、アプリケーション開発のプラットフォームを提供するサービスです。クラウド上に開発環境やデータベース、ライブラリなどを整えることで、いつでも同じ環境を使えます。
IaaSは、「Infrastructure as a Service」の略で、インターネットを通じてシステム構築のためのインフラを利用できるサービスです。仮想サーバーや仮装ネットワークなどの提供が受けられ、自社でインフラを構築しなくても良いメリットがあります。
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SaaSビジネスモデルの特徴
プライシングモデル
プライシングモデルとは、価格決定の方式のことです。SaaSの代表的なプライシングモデルには以下があります。
- フリーミアム:基本使用料は無料で、追加要素使用時に費用が発生する課金方式
- 定額プライシング:契約期間ごとに、一定額の費用が発生する課金方式
- 使用量プライシング:使った量に応じて、費用が発生する課金方式
- 階層型プライシング:サービス内容が異なる複数のプランを価格別に用意し、ユーザーが必要なプランを選ぶ課金方式
プライシングモデルを決めるときに重要なのは、顧客がストレスなく使えることと、価格に妥当感があることです。これらがかみ合っていないと、顧客獲得が難しくなるだけでなく、顧客離れの原因にもなり得ます。
顧客維持が最重要
SaaSビジネスは、継続利用を前提としたビジネスモデルです。よって、顧客と良好な関係を構築することは何より大切です。
そこで、重要になるのがカスタマーサクセスです。カスタマーサクセスとは、直訳すると「顧客の成功」という意味で、その名のとおり、顧客の成功をミッションとして自社のサービスや商品を用いる考え方です。
カスタマーサクセスは、顧客との関係構築に役立つだけでなく、新たなビジネスチャンス創出にもつながります。顧客の事業活動が活発化することにより、アップセルやクロスセルなどの方法で、新たな契約を獲得できる可能性も生まれます。
『SaaS ビジネス成功の基礎「The Model」』で詳しく解説していますが、SaaSビジネスでは「成約」だけがゴールではなく、いかに「解約率」を引き下げるかがポイントになります。
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データ活用が必須
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SaaS事業のメリット・デメリット
メリット
SaaSビジネスモデルの代表的なメリットは、以下の3点です。
- 継続的な収益が得られる
- スピーディーなリリースが可能
- 半永久的にブラッシュアップ可能
継続的なビジネスを前提とするSaaSは、一定数の固定客が付けば売上が安定し、収益の土台作りにもおすすめです。また、パッケージ化や流通の手間がかからないこともあり、スピーディーにリリースできるのも強みです。さらに、リリース後もサービスを管理下に置けるので、定期的なブラッシュアップも可能となっています。
デメリット
SaaS事業の代表的なデメリットは、以下の3つです。
- 資金の回収に時間がかかる
- カスタマーサポートの負担
- 常にアップデートが必要
パッケージ型とは違い、月額や年額で費用が発生するSaaSは、利用者側からすれば割安ですが、サービス提供側は資金回収が長期スパンになります。
また、顧客と常につながった状態であるため、継続的なカスタマーサポートが生じます。ここが不十分だと、顧客離れにもつながりかねません。さらに、時代の変化やニーズの増加に応じて、常にアップデートも必要です。継続的に料金が発生する仕組みだからこそ、快適なサービスを提供し続ける責任が発生するのです。
SaaS事業の重要指標・KPI
SaaS事業は継続的に行うからこそ、正しく評価できる仕組み作りが重要です。SaaS事業に用いられるおもな指標を紹介します。
- MRR:月間の経常利益
- ARR:年間の経常利益
- CAC:1顧客の獲得にかかる費用
- LTV:顧客生涯価値
- Churn Rate:解約率
- TTV(Time to Value):顧客が価値を感じるまでの時間
MRR:月間の経常利益
MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略で、日本語では「月次経常収益」となります。わかりやすく言うと「毎月繰り返し得られる収益」のことです。
MRRは、以下の計算式によって算出します。
- MRR=月額利用料×顧客数
MRRは、サービスの使用量を測る基本的かつ重要な指標です。事業の安定性や成長速度を測るための指針や、投資家の判断材料にも用いられています。
また、MRRにはNew MRR(新規MRR)やExpansion MRR(アップグレードMRR)、Downgrade MRR(ダウングレードMRR)、Churn MRR(解約MRR)といった目的別の指標も含まれています。これらも含めて、MRRの指標は一通り覚えておきたいところです。以下の記事で詳しく解説しているため、一度目を通してみてください。
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ARR:年間の経常利益
ARRとは「Annual Recurring Revenue」の略で、日本語では「年間経常収益」を意味します。わかりやすく言うと「毎年繰り返し得られる収益」のことです。
ARRを求める計算式は以下のとおりです。
- ARR=MRR×12
MRRが事業の安定性や成長速度などを測るために用いられるのに対し、ARRは事業の時価総額算出や将来性の検討など、長期的な指標に用いられます。
CAC:1顧客の獲得にかかる費用
CACとは「Customer Acquisition Cost」の略で、日本語では「顧客獲得費用」です。わかりやすく言うと「顧客一人を獲得するための費用」の意味で、費用対効果の考え方に似ています。
CACを求める計算式は以下のとおりです。
CAC=顧客獲得のコスト÷顧客数
一般的に、CACが低いほど利益は大きくなるため、CACは低いに越したことはありません。SaaSのビジネスモデルは契約数を増やすことが重要であり、CACの影響力は顧客獲得の試行回数が多くなるほど大きくなります。
LTV:顧客生涯価値
LTVとは「Life Time Value」の略で、日本語では「顧客生涯価値」です。わかりやすく言うと、「顧客1人が生涯でどれくらいの利益を生み出すか」という考え方です。一般的に、LTVが高いほど、リピート率や購入頻度、単価が高い傾向にあります。
LTVを求める基本の計算式は以下のとおりです。
- LTV=平均購買単価×収益率×購買頻度×継続購買期間
さらに、上記の式にコストを反映させると、以下の式になります。
- LTV=平均購買単価×収益率×購買頻度×継続購買期間−(新規顧客1人あたりの獲得コスト+既存顧客1人あたりの維持コスト)
SaaSにおいては、利用頻度や料金が決まっているため「利用IDを増やす」ことが求められます。LTVは顧客との信頼関係の深さを裏付けるものです。サービスをもってカスタマーサクセス向上を目指し、顧客との関係構築やLTV向上を目指しましょう。
LTV(顧客生涯価値)を最大化させるためには、「売って終わり」ではなく「売って始まる」関係を構築することが必要です。カスタマーサクセスのステップを磨き上げることで、売上に貢献できる攻めのカスタマーサクセスへと変化させていく必要があります。
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Churn Rate:解約率
Churn Rate(チャーンレート)とは、一定期間における解約率のことで、以下の式によって算出されます。
- チャーンレート=一定期間の解約数÷期間前の顧客数
継続利用が肝心なSaaSにおいて、チャーンレートはとくに重要なポイントです。もしチャーンレートが高い、または上昇傾向にある場合、どのような理由があるかを解明し、対応する必要があります。
なお、チャーンレートには顧客数をベースにした「カスタマーチャーンレート」と、収益をベースにした「レベニューチャーンレート」があります。どちらも事業のKPIとして重要であるため、SaaS事業を始める前にしっかり理解しておきましょう。
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TTV(Time to Value):顧客が価値を感じるまでの時間
Time to Value(TtV:タイムトゥーバリュー)とは、顧客がサービスの利用を始めてから、価値を感じるまでの時間のことです。カスタマーサクセスにおける重要な指標のひとつで、一般的にTTVは短いほど良いとされています。
TTVを短くするべき理由は、SaaSのビジネスモデルにあります。SaaSは月ごとや年ごとなど、一定期間ごとにユーザーに契約を更新してもらう必要があり、更新時期までにサービスの価値が伝わらなければ継続されないリスクが高まるのです。どうしたらサービスの価値を伝えられるか、サービスの明確化やサポートの強化などにより、早期に価値を実感してもらえる体制を構築しましょう。
SaaSビジネスを成功させるには
SaaSビジネスでとくに重要なのが、「継続」を意識することです。顧客から継続して選ばれるには、顧客に対する理解や関係の構築、そしてニーズに合わせたサービス提供など、さまざまな要素を総合的にブラッシュアップしなければなりません。さらには、カスタマーサクセス実現という目的も必要です。
これらの実現には大量のデータが必要であり、その分析にはSFA(営業支援ツール)やCRM(顧客関係管理)といったツールは欠かせません。顧客のことを本気で知りたいのであれば、まずは顧客を本当の意味で理解できる環境づくりから始めましょう。