失注案件のリサイクルと反響へのスピーディな対応で、ビジネス機会を最大化
Salesforceを活用しインサイドセールスとチームセリングの体制を確立、反響対応時間の大幅な短縮などで、アポ率や成約率が飛躍的に向上
心をこめた「いい家づくり」を「正直価格」で行うことで、顧客から高い評価を受けている株式会社アイダ設計。ここでは属人的な営業から脱却するため、Salesforceが積極的に活用されています。その最大のテーマは、即効性のある顧客だけをフォローするのではなく、いったん失注した案件も追客し続ける「失注案件のリサイクル」というアプローチ。これによってお客様からの反響を、最大限に活かそうとしています。
この取り組みを地道に進めてきた結果、分譲住宅の成約率は4割を突破。そのうち半数は失注リサイクルによるものだと言います。また以前は3時間以上かかっていた反響への対応も2分程度にまで短縮し、アポ率も大幅に高めています。今後はBtoCの事業だけではなく、BtoBの事業でもSalesforceの活用を検討。物件の仕入れから販売まで、一気通貫で可視化していくことが目指されています。
1. 「失注リサイクル」という提案に共鳴しSalesforceを導入
1981年に創業して以来、お客様の気持ちになって1棟1棟「心をこめた家づくり」をし続けている株式会社アイダ設計(以下、アイダ設計)。社名のとおり設計からその歴史をスタートし、現在では年間2,000棟以上の設計実績を持っています。また、施工を担当する建築大工の育成にも積極的に取り組むと共に、工場で製造したプレカット木材も活用。自社プレカット工場は2020年にグッドデザイン賞を受賞しており、安心・快適な住まいを「正直価格」で提供する上で、重要な存在になっています。
このような取り組みは消費者からも高く評価されており、広告などの情報発信によって反響をいただける状況になっています。しかし「以前はこの反響を十分に活かせる状態ではありませんでした」と、アイダ設計 常務執行役員の大槻 智輝 氏は振り返ります。
「建設業界はアナログだと言われていますが、以前の当社もデジタル技術を十分に活用できておらず、営業活動も属人的で、感覚や経験則にもとづいて行われていました。お客様からの反響に対しても、ほとんどの営業担当者はすぐに成約ができそうなお客様しかフォローできていない、という状況でした」。
すでにCRMは導入されていたものの、商談管理はExcelも併用しており、案件の可視化もできていなかったと大槻氏。本部から各エリアの案件状況をチェックする場合でも、全体を見通すことが難しく、1件1件の案件ごとに再確認する必要があり、効率が悪かったと言います。
このような問題を解決するため、営業活動を支える情報基盤の見直しに着手。最終的にSales CloudとPardot(現在のAccount Engagement)の採用を2017年12月に決定します。このようなSalesforce製品の組み合わせを選択した理由について、アイダ設計 事業本部 営業部で部長を務める早川 健一 氏は、次のように説明します。
「2017年夏頃から4~5社の製品を検討し、11月に2社へと絞り込んだのですが、この時にSalesforceから受けた説明に共鳴したからです。当社の『お客様からの反響を十分に活かしきれていない』という悩みに対して、Pardotなら『失注案件のリサイクル』が可能という提案をしてくれたのです。また、Sales CloudとPardotの組み合わせであれば常に連携された状態なので、中長期的な追客が容易になるとも考えました」。
2018年2月にはSalesforce環境の整備を開始し、同年4月に運用を開始。しばらくは旧CRMも併用し、2018年9月にSalesforceへと正式に一本化、全店に導入しています。またこれと並行してインサイドセールス課も立ち上げ、失注リサイクルを含む反響対応の最適化に向けた取り組みも進められていったのです。
2. 案件情報の共有でチームセールスへ、反響への対応も2分にまで短縮
しかし「導入・定着化のスタートは想像以上に困難を極めた」と、早川氏は振り返ります。営業が作成する「見込みランク」を「フェーズ」での管理に変更し、情報共有ツールとしてChatterの利用を開始するも、「フェーズって何?」「Chatterって必要なの?」などの声が上がり、営業現場からの強い反発を受ける結果になったと言います。
まずはこの問題をクリアするため、商談結果報告や失注報告などをChatter報告に一本化するルールを定め、トップ役員を巻き込んだ取り組みを実施。Chatterでの受注報告に対して役員がすぐに「おめでとう!」と褒めることで、Chatter利用を一気に定着化していったのです。
これと並行して2019年3月からは、Salesforceのサポートサービスも積極的に活用。案件管理と案件リサイクルに向けた取り組みを加速化させていきます。
2020年には商談案件の可視化と共有によって、「チームセリング」の体制を構築。現場のマネージャーや店長が参画する「タスクフォース」を立ち上げて意見を集約し、商談内容を本人だけではなくマネージャー・店長や本部とも共有することで、属人化を解消していきます。
さらにインサイドセールスも、この間に大躍進を遂げています。
「以前は顧客からの反響に対し、それを印刷して手書きで割り振り、各店舗に振り分けて顧客にメール送付、さらにそれに対する反響を確認して初動対応を行うまで、平均で3時間以上かかっていました」と早川氏。そのため他社に先を越されてしまい、アポが取れないことも多かったと言います。「これを、反響を自動的にSalesforceに取り込むことで、担当割り振りから反響確認、初動対応までを、最速2分で行えるようにしました。初動レスポンスが格段に早くなることで、アポ率も飛躍的に向上していきました」。
大槻氏も「2020年頃からSalesforce導入の効果が数字に現れるようになりました」と指摘。当初は注文住宅部門で活用を開始し、ここである程度使われるようになったことで、成果が見え始めたと振り返ります。
さらに、もう1つの主力事業である分譲住宅でも活用してもらうため、2020年9月には現場の営業担当者を巻き込みながら、商談フェーズの見直しに着手。ここから分譲住宅部門でもSalesforceが活用されるようになり、現在では分譲住宅の方がSalesforceによる管理が徹底していると言います。
3. 分譲住宅の成約率は4割を突破、その半数は失注リサイクルによるもの
具体的に、顧客から来た反響に対して、どのような対応を行っているのでしょうか。
「お客様からの反響は、自社サイトや外部の住宅ポータル、住宅展示場や分譲住宅の現場で対応した営業担当者から受け取り、これに対してシナリオベースでメールを送信しています」と説明するのは、アイダ設計 販売促進部 インサイドセールス課の深津 なずな 氏。これと同時に、対象地域が明確な分譲住宅に関しては、すぐにその地域の営業店にリードを割り当てていると言います。「注文住宅に関しては、お客様の居住地近くに営業店がある場合には、その店舗にすぐリードを割り当てています。そうでない場合には、いったんインサイドセールスでナーチャリングを行ってから、適切な店舗を選んで割り当てを行っています」。
入社した時にはすでに、Salesforceによるシナリオベースのメール送信の仕組みが実装されており、特に違和感なく業務を始められたと深津氏。ナーチャリングのためのメールマガジン送付は最低でも月に4回は行っており、そのコンテンツはお客様が興味を持っている内容に合わせて作成、メールテンプレートの視覚的なデザインも担当していると言います。さらに、メールに対するお客様の反応を確認した上で、シナリオの見直しも毎月のように行われています。
また、2022年に入社し、当初はインサイドセールスのアウトバウンドコールを担当していた、アイダ設計 販売促進部 インサイドセールス課の岩原 未彩希 氏は、「これまでどのような問合せをされて何を知りたいのか、お客様一人ひとりのことをきちんと知った上でお話ができるのが、Salesforceのいいところです」と指摘。早川氏は「営業活動の属人性を解消する上で、このような機能が重要な役割を果たしています」と述べています。
もちろん最初の反響で成約できる割合は、決して高くはありません。大槻氏によれば、その割合は2割程度ではないかと言います。ここで注目したいのが、最初に失注した案件の中から、リサイクルされている案件の割合です。全体の8割を占める失注案件のうち、2割は他社に取られてしまいますが、6割はリサイクルされ、そのうち2割が成約に至っているのです。注文住宅と分譲住宅とでは成約率が異なりますが、Salesforceでの管理が徹底している分譲住宅では成約率が4割を超えており、そのうち半分は失注リサイクルが占めていると言います。
このように、失注案件のリサイクルで大きな成果に貢献しているSalesforceですが「まだ十分に使い切れているとは考えていません」と大槻氏。現在は消費者を対象にしたBtoC事業でしか活用していませんが、今後は法人を対象にしたBtoB事業や土地の仕入れなどにも、適用領域を拡大していきたいと語ります。
「そのためには基幹システムなど、周辺システムとの連携が必要になりますが、現在はそのための下準備を進めている段階です。また将来はSalesforceに蓄積された膨大な案件データを活用し、AIによる商談のグレーディングを行うことも視野に入れています。最終的には物件の仕入れから販売までの工程をSalesforceで可視化し、勘や経験に依存した属人的なやり方から脱却していきたいと考えています」。