機械メーカーのDX。IoT活用で有償サポート契約の売上約2.8倍、 フィールドサービス効率化を実現
IoT活用で顧客とつながり、現場の機械の稼働・生産状況の可視化、 予防保全等を可能とする「V-factory」をSalesforceで構築。 Field Serviceでサポート業務の大幅効率化を実現。
金属加工機械の総合メーカー・株式会社アマダは、顧客満足と利益率向上の両立と、自社の人材不足を補うための業務効率化という2つの大きな経営課題に直面していました。そこで同社は、収益性の高いサポートサービスの拡充に着目し、さらなる企業成長を目指してSalesforceを基盤とするIoTサポートの実現と社内DXの推進に取り組み始めます。
同社と顧客をIoTでつなぎ、予防保全や迅速なサポート、コンサルを可能とする「V-factory」。個々のサービスエンジニアが顧客に対応する“1対1”のサポートから脱却し、“1対多”のサポートを可能とした業務改革。それらはいかにして実現され、どのような成果を上げているのでしょうか? メーカーのみならず、あらゆる企業にとって学ぶところの多い、同社のSalesforce活用事例を紹介します。
1. さらなる企業成長のカギを握る、IoTサポートの実現と社内DXの推進
株式会社アマダは、板金・切削・研削盤・プレス・精密溶接などの金属加工機械を製造・販売し、またそれらを制御するソフトウェアや周辺装置、サポートサービスなどをワンストップで提供する総合メーカーです。同社は1946年の創業以来、「お客さまとともに発展する」という経営理念をすべての事業の原点として掲げ、成長を続けてきました。そして、国内のみなず、世界の工作機械市場においてもトップレベルのシェアを誇るグローバルメーカーとして確固たる地位を築いています。
そんな同社は近年、さらなる企業成長の礎となる重要な経営戦略として、顧客価値の創造につながるIoTサポートの実現と、社内の生産性を向上させるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に力を注いできました。その背景には、多くの機械メーカーのビジネスに共通する要因と、日本の製造業が直面している問題の両面があった、と上席執行役員 エンジニアリングサービス本部長の福田政樹氏は説明します。
「メーカーである当社には売るモノはたくさんありますが、当然ながら競合との価格競争になるため、開発・製造・販売の領域で利益率を高めるのは難しい。一方、製品を販売したあとの有償のサポートサービスは、お客さまとの信頼関係で機械の稼働保証を売るわけですから、サービスの品質や業務の効率次第で大きな利益を上げられる可能性があります。お客様の生産活動を決して止めないよう、IoTの技術を活用してお客様と当社をつなぎ、現場で稼働する機械の情報をリアルタイムに可視化・共有してサポートする仕組みの実現が、今後の成長のカギになると考えました」(福田氏)
続けて福田氏は、製造業全体に押し寄せる深刻な人材不足の問題にも言及しました。同社は長年、メーカーとして直接提供する質の高いサポートサービスを他社との差別化要因とし、国内の板金事業の営業所だけで約350名のサービスエンジニアを配置して対応してきました。しかし、就労人口の減少や働き方の変化によって、人材の確保が年々難しくなり、人海戦術による従来の方法では先行きを見通せなくなったのです。その状況を打破するには、社内DXを推し進め、サポートサービス業務を効率化する必要があった、と福田氏はいいます。
そうした課題を克服し、成長を続けるための基盤として、同社は2017年、Salesforceの導入を決断しました。そして、まずはIoTの活用による顧客サポート・コンサルティングの仕組みの構築、次にサービスエンジニアの業務のデジタル化を中心とする社内DXの推進という、大きく2ステップで改革を進めていったのです。
2. IoTサポート「V-factory」開始で有償サポート契約の売上が2年間で約2.8倍に
同社は、IoTサポートの仕組みを構築するシステムについて、自社での開発を検討すると同時に、いくつかのITベンダーに提案を依頼。結果としてそれらの案の中から、構築スピードの速さを第一の理由としてSalesforceを採用しました。ただ、選定に携わったサービスBiz改革プロジェクト プロジェクトリーダーの山田一豊氏によると、当初はSalesforceに対して、顧客向けのIoTサポートの仕組みをつくれるシステムというイメージを持っていなかったといいます。
「当時、Salesforceは、主にSFAやCRMとして社内で使われるものだと思っていました。しかし、当社の狙いをセールスフォース・ジャパンに話したところ、お客様向けのライセンスで実現できるという提案をいただき、活用のイメージがわきました。また、その後想定していたグローバルなサービス展開において、1つのプラットフォームでさまざまなシステムとつなげられる連携性や多言語対応は大きなアドバンテージになると感じ、採用に至りました」(山田氏)
同社は、システム構築の開始からわずか2か月という短期間で稼働までこぎ着けた新システムを「V-factory」と命名しました。具体的には、顧客の現場で稼働する機械の情報をIoTの装置でリアルタイムに可視化し、プロアクティブな保全や迅速なサポートを可能とする「IoTサポートセンター」をService Cloudで構築。一方、顧客が自ら社内の機械の稼働・生産状況を把握したり、アマダのオンラインショップを通じて消耗品を発注したりすることのできる顧客専用サイト「My V-factory」をExperience Cloudで実現しました。「My V-factory」にはSalesforceの分析機能であるCRM Analyticsが採用されているため、顧客自身がさまざまな切り口で情報を分析して“気づき”を得ることができます。
従来、サービスエンジニアによる直接訪問や電話しか顧客とのコミュニケーション手段がなく、対応が後手に回らざるを得なかった同社のサポートサービスが、この「V-factory」によって劇的に進化。機械のトラブルの兆候をいち早く察知して予防保全を行えるようになったのはもちろん、仮にトラブルが発生しても、ネットワークを使ったやり取りでスピーディに対応できるようになり、回復させるまでの時間が半分程度に短縮されるなど、改善事例が増えていきました。
そうした有償のリモートサポートは業界内で高い評価を得て、契約を結ぶ顧客は順調に増えていった、とサービスBiz企画グループ グループリーダーの齊木睦氏はいいます。
「サービス開始当初は、IoTの専用装置をお客様の工場内に機械とは別に設置する形だったため、初年度の接続社数は約100社、接続台数は360台程度に留まりました。それをもっと拡大しようと、2019年から当社の機械の中にIoTの装置を組み込む形にした結果、2020年に接続社数は600社、1580台となり、2022年には2000社、接続台数は5000台を超えました。そして、有償サポート契約の売上は、2020年から2022年の2年間で約2.8倍に伸びました。当初の狙い通り、サポートサービスをビジネスとして大きく成長させることができたのです」(齊木氏)
2年間における伸び率
3. デザイン刷新や活用範囲・サービス拡大など、日々進化する「V-factory」
さらに同社は、「V-factory」を“作って終わり”にせず、日々改善し続けています。「My V-factory」の開発担当者である、サービスBiz企画グループの浅野直樹氏はいいます。
「リリース時点では競合に類似のサービスがなかったのでインパクトがありましたが、時間の経過とともに陳腐化するのは避けられません。そこで2022年から、『My V-factory』のデザインを刷新するプロジェクトを進めています。通常のシステムだと、ちょっと触っただけではありきたりなダッシュボードぐらいしか作れませんが、『My V-factory』ではCRM Analyticsを採用しているので、標準機能で複雑なダッシュボードを簡単に作ることができます。
また、CRM Analytics自体も年3回のアップデートで機能が追加されており、リリース当時の機能ではできなかった表現も新たに加えてあります。」(浅野氏)
加えて2023年から、可視化されたデータを十分に活用できていない顧客に対して、アマダ側で顧客の機械のデータを分析して課題を洗い出し、改善提案を行ったり、顧客を集めて集中的にセミナーを実施したりするコンサルティングサービスの提供も開始しています。「アマダはそんなことまでしてくれるの?」と顧客の反応は上々だそうです。
さらに、サポートサービスだけでなく、営業活動においても「My V-factory」を活用する動きが出始めている、と齊木氏はいいます。
「営業担当者が『My V-factory』でお客様の機械の稼働状態を事前に確認してから訪問するようになりました。たとえば、生産量や使用素材の変化などがあれば、お客様の仕事の内容が変わったのかもしれず、お客様とのコミュケーションのきっかけになりますし、新しい機械の提案につながることもあります。そのように、営業ツールとして非常に有用だという声が営業担当者から上がっています」(齊木氏)
そのように同社は、単にソリューションを提供するだけでなく、「顧客の生産活動をいかに支えるか」という創業以来の経営理念に沿った観点から、Salesforceを中心として従来以上に包括的なサービスを提供できるようになったのです。
4. DXで“1対多”のサポートを実現、サービスエンジニアの直接作業時間5%増
「V-factory」が軌道に乗った2018年後半、同社は次のステップである社内DXの推進に着手しました。非効率性や人員不足が長年の懸案となっていたサポートサービス業務の改革です。
まず、それまで顧客に紙で報告していたサービスレポートをSalesforce上でデジタル化。サービスエンジニア全員にタブレットを配り、電子サインで顧客の承認を得るようにしました。同時に、「My V-factory」で接続されている顧客先の機械でなんらかのアラームが発行されると、ケースとして起票され、状況が確認できるようになっています。
次に、サービスエンジニアの業務の可視化をするため、Salesforceのフィールドサービス業務管理アプリケーションであるField Serviceを新たに導入しました。「タスクリスト」には、機械の納入時に行う試運転や定期点検といったスケジュール、顧客からの要望などの情報が作業の進捗状況とともに日々蓄積・更新されます。プロジェクトを進めたエンジニアリングサービス本部 サービスBiz改革プロジェクト サービスDXグループの鮏川美奈氏は、Field Service導入の背景と意図をこう説明します。
「従来は、基幹システムで管理されている売上情報や契約情報を分析し、お客様からの電話を直接受けながら、個々のサービスエンジニアが自分で行動スケジュールを決めて手帳などで管理していました。また、データ化のために紙に書いた内容を帰社してから基幹システムに情報を入力しなくてはならず、さらにはベテランのエンジニアに作業量が偏る、新人は予定の組み方がわからず心理的負担が生じる、などの課題を抱えていました。そういう個人に依存したサポートサービス業務の体制自体を、『個から組織へ』という観点で変えなくてはならないと考え、Field Serviceを導入しました。そして、マネージャーにはリソース管理に集中してもらい、『タスクリスト』全体を見て、管下のサービスエンジニアに適正に仕事を割り振って予定を組んだり、フロントと呼ばれる役割の社員が現地のエンジニアを遠隔でサポートしたりする体制に変えていったのです」(鮏川氏)
顧客とサービスエンジニアの“1対1”のサポートから脱却し、“1対多”のサポートを実現したことによる成果は、数値としてもはっきりと現れました。予定を組む、資料を準備するなど、サービスエンジニアの間接工数は、2021年のField Service導入後の2年間で21%削減。また、スケジュールや業務量を最適化する、現場の近くにいる人員を派遣するなどの改善により、移動時間は4.6%削減されました。
そうした定量効果の中でも特に大きいのは、いわゆる直接作業時間が増えたことだ、と福田氏は喜びます。
「当社はビジネスを進める上で、お客様とじかに接する時間をなにより大切にしてきました。従来、そうした直接作業時間は、サービスエンジニアの業務全体の約59%でしたが、サポートサービス業務のDXを始めて3年で約64%まで伸ばすことができました。サービスエンジニア350名の直接作業時間が5%アップしたということは、人員を18名追加したのと同等の効果です。一人あたりの労働時間を延ばすわけにもいかず、人材の採用も難しいなか、Salesforceを活用して最善の策を打てたと思っています」(福田氏)
5.若手の活躍で利用定着化、さらなる部門間連携・ビジネス拡大が視野に
同社のDXは留まるところを知らず、新たな企画や改善事例が次々に生まれています。たとえば、顧客の機械の稼働情報をもとに、新モデルに入れ替えた場合のコスト削減効果などを算出し、営業の提案書を自動的に生成する機能が開発されたのもその1つです。
そうしたDXの取り組みは、サービスBiz企画グループの若手メンバーを中心に進められています。サービスBiz改革プロジェクト サービスBiz企画グループの篠岡あゆみ氏は、プロジェクトに参画するまで、IT経験がまったくなかったといいます。
「Salesforceはノーコード・ローコードで実装できる機能がたくさんあって、私のようにIT経験のない人間にとっても障壁が低く、とても使いやすいです。また、オンラインのTrailheadやセールスフォース・ジャパンのトレーニングに毎年十数名のメンバーが参加して学習しています。ほかにもユーザーのブログなどを見て勉強していますが、やはり実際に画面を見ながら手を動かして作ってみたほうが早く覚えられます」(篠岡氏)
前出のオンラインショップは、そのようにしてスキルを磨いた篠岡氏によって刷新・運営され、大きな成果を上げています。オンラインショップの売上が、Salesforceを基盤としてリリースされた2018年と5年後の2022年の比較で、実に約15倍に伸びたのです。
サービスBiz企画グループの若手メンバーは、「V-factory」をはじめとするSalesforceの社内展開・プロモーション活動でも活躍しています。その1人であるサービスBiz改革プロジェクト サービスBiz企画グループの武藤彩華氏はいいます。
「これまでサービスエンジニアの業務は、当社の中でITからもっとも遠い仕事でした。それに長年携わり、自分たちのスタイルを確立してきた人たちに、Salesforceという新しいツールを使ってもらうため、PRの動画を作ったり、直接会って話したりしました。好意的に受け止めてくれることもありましたし、やはり最初は『なぜ必要なのかわからない』という拒否反応もありました。
そうした活動の中で、実際に『V-factory』を使って成果を上げている社員のインタビュー動画などが反響を呼び、徐々に利用が定着・拡大していきました。動画配信などの活動を通じて、『Salesforceを使ってほしい』という推進メンバーの一所懸命な姿勢や思いが届いた側面もあったと感じています」(武藤氏)
このように、経営陣から若手までが積極的に関わり、全社的な取り組みでSalesforceの活用を日々進化させている同社。最後に山田氏と福田氏は、今後の展望についてこう語りました。
「『V-factory』に関しては、2026年度までに接続社数5000社、接続台数1万台という目標を明確に打ち出しています。達成すればそれだけお客様との接点が増えるので、そこで提供するコンテンツを考え、ビジネスをさらに広げていくのが次のステップです。
また、サービス部門と営業部門が、Salesforceという1つのプラットフォームを使うようになったことで、たとえば『V-factory』のデータにもとづいて、サービスと営業が協働してお客様に機械の入れ替えを提案するなど、効果的な連携を生み出せるようになると期待しています」(山田氏)
「日本の市場で受け入れられている『V-factory』を、今後、海外の市場にも積極的に展開していく計画です。また、社内DXについても、販売・サービス体制の強化/効率化が必要なアジア・アセアン・インドの拠点に広げ、成果を上げていきたいと考えています」(福田氏)
6.アマダ社事例 ビジョンデモンストレーション動画
2年間で有償サポート契約売上を約2.8倍増加にさせたアマダ社のIoTプラットフォーム「V-factory」。
Salesforce製品で構築されたこのシステムが、IoT活用による「止めない」サポートや、社内効率化で得た時間を顧客への改善提案活動にどのように充当できているのかをイメージ動画でわかりやすく解説します。
右記フォームをご記入いただくと、デモ動画をご覧いただけます。