製品軸から市場軸へビジネスを変革
"oneAK Salesforce"で事業横断的な
営業・マーケティングを実現
システム刷新の理念浸透と最小限の機能実装でクイックスタートを実現し、 営業1名当たりの情報収集・共有の作業時間を1日約30分削減、 グループ全体で顧客と向き合う新たなビジネスモデルを確立
人財・技術・事業の多様性を最大限に活用するべく、DX戦略を積極的に展開してきた旭化成グループ。その背景には、もともと全社的な情報共有の基盤がなく、顧客との関係性が“点”に留まってグループの強みを発揮できないことや、情報収集が非効率的で活用が困難であることなど、多くの課題がありました。
事業横断的に情報を蓄積・活用するプラットフォームがなければ未来は開けない、という危機感から、旭化成グループは複数事業共通利用を前提としたSalesforceの導入を決断。社内の理解を得ながら徐々に機能を追加し、「oneAK Salesforce」の構築に至りました。文字通りグループが一丸となって顧客と向き合うことを可能とした「oneAK Salesforce」をいかに活用し、どのような成果を上げているか、旭化成グループの取り組みを紹介します。
1.事業部ごとに分断された営業活動、情報のサイロ化が課題
旭化成グループは、DXの取り組みを4つのフェーズ「デジタル導入期(2018年~)」「デジタル展開期(2020年~)」「デジタル創造期(2022年~)」「デジタルノーマル期(2024年~)」に分け、デジタル変革を推進しています。その一環として2021年4月、グループの中核企業である旭化成株式会社では、新たに「デジタル共創本部」を設立しました。その狙いは、グループの強みである人財・技術・事業の多様性を最大限に活用するため、デジタル技術でビジネスを変革させ、共創によって新たな価値を創造することにあります。
さらに2022年4月、旭化成グループは大規模な組織改編を実施。グループで事業を展開する3領域の1つ「マテリアル」領域について、石油化学製品や合成ゴムなどの製品軸で設置されていたそれまでの組織を見直し、市場軸を強く意識した組織、すなわち「環境ソリューション事業本部」「モビリティ&インダストリアル事業本部」「ライフイノベーション事業本部」への改編を行いました。
「いいものをつくれば売れる」という従来のメーカーの思考から脱却して、市場の動向を注視し、顧客のニーズに応える製品・サービスを提供する。もちろんそれを実践する上では、事業横断的な情報の共有と活用が不可欠であり、これまで推し進めてきたDXが重要な役割を果たします。
モビリティ&インダストリアル事業本部 戦略推進部長の宇高道尊氏は、そのように近年、旭化成がグループを挙げてDX戦略に取り組んできた背景には、多角化企業の多くに共通して見られる課題があった、と話します。
「営業活動は製品・事業部ごとに実行され、顧客軸・市場軸での戦略や複合的な価値提案が難しい状況でした。また、情報もサイロ化し、十分に活用できていませんでした。たとえば経営層から『今度このお客さんと会うけど、今うちとどんな取引やトピックがあるの?』と聞かれても、それをどう調べればいいのかさえわからない。多角化企業の強みを発揮しているとはいえない状態だったわけです」(宇高氏)
2.システム刷新の理念浸透と最小限の機能実装でクイックスタートを実現
SFA・CRMの利用が事業ごとにバラバラで、全社的な情報共有の基盤がないため、複数の事業領域で接点のある顧客との関係性が“面”ではなく“点”になってしまう。横断的な情報の集約は手作業のため、非効率で時間がかかってしまう。そうした状況に危機感を抱いた同社は、2019年、全社的なシステム刷新を検討し、Salesforceの導入を決断しました。選定の理由について、宇高氏はこう説明します。
「私たちにはいろいろな事業があるので、それぞれの要望を取り入れてスクラッチでシステムを作ると、最小公倍数的なものでも巨大になってしまうし、時間がかかり過ぎます。それで、複数の製品を比較検討したところ、Salesforceは使いやすさや汎用性、トータルのコストといったさまざまな面で優れていると感じました。また、グローバルでの導入実績が豊富であることや、弊社では以前より事業部単位でSalesforceを導入・利用していたことなども選定の要因になりました」(宇高氏)
導入が決まったとはいえ、旭化成のような巨大企業において、慣れ親しんだシステムや業務を刷新するのは簡単ではありません。導入プロジェクトに携わったマーケティング&イノベーションセンター マーケティング企画戦略室 主査の栗林祐介氏は当時をこう振り返ります。
「全社的なDX推進の経営方針とトップダウンのメッセージは追い風になりましたが、それでも当初は社内の抵抗が強かったです。そこで、セールスフォース・ジャパンの方と一緒にワークショップを開くなどして、『なぜ使うのか』を理解してもらうところからスタートしました。弊社にはいろいろな事業があるので、『うちの事業部のやり方はほかとは違う』という意識が強くなりがちなのですが、ワークショップでそれぞれの業務の内容を書き出してもらって、それらを汎用的な言葉に置き換えてみると、意外とどこも似たような仕事をしていることを理解してもらえます。そこから、『これならSalesforceという1つのプラットフォームで一緒にできるね』という認識を持ってもらう。そういうシステムとは関係ないところから進めていきました」(栗林氏)
機能面についてもとっつきやすさとクイックスタートを意識し、顧客情報の連携や活動記録、商談のステージ管理など、誰もが必要と感じる最小限のものから実装しました。そして次のステップで、複数の事業部から要望のあった機能をアジャイル開発で追加し、横展開していきました。そうした工夫と努力の結果、いくつかの部署で少しずつSalesforceの効果が出始め、2021年に入ってユーザー数が一気に増加。プロジェクト開始から1年半後の2022年6月時点で約30部署への導入を完了、ユーザー数は約1,500名に達したのです。
3.事業横断的な営業・マーケティングを実現する「oneAK Salesforce」を構築
そうして構築された「oneAK Salesforce」は、その通称が示す通り、事業横断的な営業・マーケティングの展開を可能とするプラットフォームです。基本となる顧客管理や名刺管理、案件進捗管理などに加え、各事業の要望に沿って実装された機能について、栗林氏はこう解説します。
「たとえば、営業であれば、サンプル・出荷管理のほか、実績データをERPから一元的に取得して行う予実算管理や、Webサイト経由のお問い合わせの管理など、各事業部とのコミュニケーションで把握した業務課題に合わせて機能を拡張しています」(栗林氏)
その結果、「oneAK Salesforce」の活用範囲は、そうした営業・マーケティング領域だけに留まらず、製造・品質領域や技術領域にまで拡大しています。
「素材営業においては自社技術のみならず、業界知識や関連する技術情報も重要です。従来技術開発のメンバーに問い合わせるなどしていましたが、それでは時間がかかりますし、お客様の信頼を得られにくいということで、『oneAK Salesforce』にナレッジを蓄積し、FAQを作りました。
また、製品の品質向上面においても、過去の問題の蓄積や進行中の問題の共有、問題解決のための個別タスクの一元管理など、品証対応プラットフォームとしても『oneAK Salesforce』を活用しています」(栗林氏)
4.情報共有を基盤とするグローバルキーアカウント活動で従来のビジネスを変革
さらに、「oneAK Salesforce」によって可能となったグローバルキーアカウント活動は、事業横断的な情報活用と共創によって多角化企業の強みを発揮するという、DX戦略で掲げた目標をまさに体現するものです。旭化成グループは、世界各地に拠点を構え、各種事業でさまざまな顧客企業に製品を提供しています。ただし、素材メーカーであるため、たとえば自動車産業向けのビジネスにおいては、自動車メーカーに直接素材を販売するわけではなく、メーカーに部品等を供給する一次請け、二次請けの企業を顧客としています。そのため従来、最終的な顧客である自動車メーカーのニーズを把握する機会は限られていました。そこで威力を発揮するのが「oneAK Salesforce」です。
「自動車メーカーなどのキーアカウントに対して設置した、弊社側の代表となるキーアカウントマネージャーが、お客様と関係を構築し、ニーズを探ります。キーアカウントマネージャーは、旭化成グループのあまたある製品情報を『oneAK Salesforce』から入手し、適切で先進的なものをお客様に継続的に提案します。そしてこうした活動履歴をすべて『oneAK Salesforce』に入力し、各事業のマネージャーや営業担当者に共有します。結果、顧客視点のニーズを踏まえつつ、グローバル・事業横断的に連携した迅速な活動が可能となるわけです。まさにこれは、『oneAK Salesforce』という全社的な1つのプラットフォームがあるからこそ実現できたこと。お客様と“点”ではなく“面”でおつき合いできるようになったことは、将来を見据えたビジネスにもつながっており、過当競争を避けられる意味でもDX戦略の大きな成果で、グループ全体にとって非常に価値のあることだと考えています」(宇高氏)
ライフイノベーション事業本部 デジタルイノベーション推進部 デジタルマーケティング推進室 課長の児嶋和生氏は、Salesforce導入の効果は数字にも確実に現れている、といいます。
「ある事業部では、Salesforceの導入によって、情報の検索・転記・共有のための時間が営業担当者1名当たり1日約30分削減されました。8時間労働の6.25%と考えると、かなり大きな削減効果です」(児嶋氏)
一方、栗林氏は、そうした定量効果以上に、業務に対する従業員の意識の変化や業務自体の変化がもたらす好影響は大きい、と指摘します。
「たとえば、技術側はマテリアルズインフォマティクスを導入していましたが、その推進には営業側の情報が不確かすぎるという問題があります。また、営業間の引き継ぎも、その項目がバラバラでした。このような中、どういう情報があれば研究開発は進むのか、営業マネージャーはどんな情報を欲しがっているのかという議論が、事業や部署の垣根を越えて開始されました。そういう業務や意識の改革のきっかけを提供したことが、Salesforceの最大の効果ではないかと感じています」(栗林氏)
5.情報資産を最大限に活用してビジネス変革に邁進
全社を挙げてDXを推進し、業務のみならずビジネスそのものを変革させつつある旭化成グループ。宇高氏は最後に、今後の展望についてこう語ります。
「今までの私たちは、実直にいいものをつくれば売れる、お客様のおっしゃることにただ従っておけばいい、という仕事のやり方でした。しかしこれからは、市場がどう動き、お客様が本当はなにを考え、それに対してなにをすべきかを理解した上で、営業・開発の戦略を変えていかなければ、過当競争に巻き込まれ、会社として衰微してしまいます。
そういう危機感を持った上で、ではなにが必要かといえば、現実を示すデータと、それを蓄積・共有・活用するプラットフォームです。今後も私たちは、グループ内の多様な情報資産を最大限に活用し、ビジネスを変革していきたいと考えています。まだまだ改革途上ではありますが、SalesforceやTableauといった優れたソリューションを提供してくれるだけでなく、豊富な知見で一緒にビジネスを進めてくれるセールスフォース・ジャパンの支援にも大いに期待しています」(宇高氏)