お客様の「LONGLIFE 」に寄り添い続けるため、「お客様軸」での情報統合基盤を構築
Lightning Platformを複数の基幹システムと連携させると共に、
リアル接点でのお客様情報も集約、
デジタル接点でのアプローチはMarketing Cloudで最適化
2019年に「LONGLIFE」を掲げ、住宅の耐久性や資産価値の維持だけではなく、お客様の「いのち・くらし・人生」にも寄り添い続けようとしている旭化成ホームズ株式会社。同社の活動を支えるための情報基盤はSalesforceが提供するサービス群によって構成されています。Lightning Platformを建物軸で情報を管理する基幹システムと連携させると共に、リアル接点で入手したお客様情報も集約、「お客様軸」で情報統合し、Marketing Cloud の活用などによって、ライフタイムバリューの最大化を実現しています。
こうした取り組みによりお客様との関係構築のあり方が大きく変化。それまで新築部門、アフターサービス部門、リフォーム部門、不動産部門など、各事業部門それぞれが個別にお客様にアプローチしていましたが、各関係事業部門が、集約された情報に基づき連携し、協働で顧客接点をとるなどの具体的なアクションを促すことができました。このような社内の関係部署の担当同士の連携と情報の連携それぞれの変化によって、導入から1年半でお建ていただいたお客様の中長期CS(顧客満足度)の6%向上を実現しました。
1. 「LONGLIFE戦略」に不可欠だったお客様軸での情報基盤
旭化成グループの建築請負事業会社として、1972年に誕生した旭化成ホームズ株式会社(以下、旭化成ホームズ)。それまで日本になかった軽量気泡コンクリート「ALCコンクリート・ヘーベル」を活用すると共に、鉄骨造・連続布基礎構法を採用することで、耐震・耐火・耐久性に優れた戸建住宅「ヘーベルハウス」を提供し続けています。「オリコン顧客満足度調査」のハウスメーカー 注文住宅 鉄骨造部門では、9年連続で第1位を獲得。これに加えて複数のグループ会社と共に、ヘーベルハウスの賃貸住宅である「ヘーベルメゾン」、リフォーム事業、ヘーベル電気事業なども展開しています。
ここで近年重要視しているのが、お客様に長く寄り添うことで、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を最大化していくことです。
「弊社では、お客様にお建ていただいたヘーベルハウス・ヘーベルメゾンの資産価値を長期にわたって守り続けたいという想いから、1998年に『ロングライフ住宅宣言』を提唱し、『ロングライフ住宅』という言葉をずっと大切にしてきました」と語るのは、旭化成ホームズ LONGLIFE戦略推進本部で本部長を務める野口 豪之 氏。2019年11月にはその言葉を「LONGLIFE」へと生まれ変わらせ、建物の耐久性や資産価値の維持はもちろんのこと、そこに住まうお客様の「いのち・くらし・人生」にも寄り添い続け、お客様の人生を豊かにすると共に、そこで生まれる幸せをこれまで以上に支え続けていくことを目指しているのだと言います。
そのためには、お客様との良質な接点を長期にわたり維持・継続し、良好な関係を構築し続けるという取り組みを、旭化成ホームズグループ全社で行っていく必要があります。しかし以前はその取り組みを実行する上で、大きく2つの課題があったと、野口氏は振り返ります。
1つは、『ロングライフ住宅』のために「建物」にまつわる情報は充実していたものの、そこに住まう「お客様」の情報については蓄積・集約・統合する仕組みがなかったということです。そのためお客様の情報が断片化している場合や、最新情報に更新されていない情報も少なくなかったということ。そしてもう1つは、お客様に提供するサービスが事業部門毎に分断されていたため、各サービスの情報も事業部門単位で管理されていたため、グループ全体で横断的に情報の集約・蓄積・分析・活用ができる状況になかったことです。
そこで、こうした課題を解決するため、2018年秋に新たな情報基盤の構築に向けた検討を開始しました。検討の際に大前提とされたのが、各社・各事業部門が運用する既存の基幹システムには大きな改修を行うことなく、これらのシステムに点在する情報を集約・蓄積・分析・活用できる仕組みを確立するということでした。
「弊社ではこれまで『ウォーターフォール型』でシステム開発を進めてきたこともあり、このプロジェクトでも当初はスクラッチでウォーターフォール型構築を検討していました」と言うのは、旭化成ホームズ LONGLIFE戦略推進本部 企画室の金田 裕樹 氏。しかしこのスタイルではシステム開発はもちろんのこと、リリース後の改修にも時間とコストがかかってしまうという問題があったと語ります。
2. フットワークの軽いツールを採用、従来に比べて改修コストが1/10に
このような悩みに対し、当時付き合いのあったコンサルタント会社がSalesforceを紹介。2019年1月にはSalesforceから「Lightning Platform」を活用したシステム構築が提案されます。その後、約半年かけて検討を進めた結果、この提案の採用を決定。その理由について、野口氏は次のように説明します。
「まずツールとしてのフットワークが軽く、アジャイルでの開発に向いている点を評価しました。また営業現場から改善要求が上がった際にも、その業務に即した改修を、比較的簡単に実現できます。当然ながらCRMの基盤としても優れており、これなら本当の意味でお客様に寄り添い続けられると考えました」。
2019年6月にはLightning Platformをベースにした情報基盤の構築をスタート。これと同時にMarketing Cloudも導入し、以前から運営していたヘーベルハウス会員向けサイトのリニューアルも推進することになりました。2021年5月には新たな会員サイトである「ヘーベリアンネット」をリリース。そして2022年2月には、Lightning Platformと基幹系10システムを連携させた、お客様情報を一元化した情報基盤「LONGLIFE-Navi(以下、LL-Navi)」がリリースされました。
「LL-Naviは各社・各事業部門の基幹システムから情報を集約することで、お客様の様々な情報を見える化するためのシステムとしてスタートしました」と金田氏。各基幹システムから「邸情報(建物情報)」を収集すると共に、各社・各事業部門のアナログ接点を自動連携し、さらにお客様情報を入力・蓄積するようにして、「お客様軸」で情報を統合しているのだと説明します。
「その一方で、ヘーベリアンネットなどの各種デジタル接点に対しては、Marketing Cloudからお客様一人ひとりのニーズに合わせたコンテンツを最適なタイミングで配信しています。それらに対する反応などをCDP (Customer Data Platform) に集約することで、さらには LL-Navi や、Tableauを用いたBIにも連携しています」(金田氏)。
またより多くのシステムをLL-Naviに接続することが計画されているとも説明します。そのための共通API基盤として2023年2月にMuleSoftを導入して、システム間連携の柔軟性とスピードをさらに高めつつあります(金田氏)。
この情報基盤を積極的に活用してもらうため、事業部門毎に対面での説明会や、説明動画の社内配信など、活用促進のための社内施策も実施したと金田氏。
さらに2022年7月には、各事業部門の上長が参加する「エリアバリューチェーン会議」を設置したと語るのは野口氏です。事業部門間の「横の連携」が、トップダウンでも進められているのです。このような取り組みによって、当初は20%程度だったお客様情報の入力率が、現在ではほとんどの部門で90%を超えることとなりました。
「エリアバリューチェーン会議で議論を進めていく中で、LL-Naviに対する改修要望も数多く出てきました」と金田氏。その数は導入から1年半で約200件に上っており、それらをLONGLIFE戦略推進本部が取りまとめ、社内のIT部門が実際の改修を行っていると説明します。「すでに100を超える改修を行ってきましたが、Lightning Platformを採用したことで迅速に進めることができました。当初考えていたスクラッチ開発に比べ、改修時間は1/3、改修コストは1/10になっています。このスピード感はLightning Platformを活用することで生まれた大きなメリットの一つです」(野口氏)。
3. 複数事業部門が連携してお客様にアプローチ、顧客満足度は1年半で6%向上
ここで注目したいのが、LL-Naviの活用によってお客様との関係構築のあり方が、大きく変わりつつあることです。
「これまでは新築部門、アフターサービス部門、リフォーム部門、不動産部門などが個別にお客様へのアプローチを行っていましたが、今では事業部門を超えたアプローチが増えています」と金田氏。たとえばリフォーム部門が営業活動を行う際に、その訪問計画をLL-Naviで知った新築部門の営業が「一緒に訪問させてほしい」と協働するケースなどです。こうした横連携から生まれたお客様へのアクションが増えているのだと言います。
「逆にリフォーム部門の営業が新築部門の営業に『情報が欲しい』と連絡するケースも増え、これに対して新築部門の営業も前向きなリアクションをしており、一方的ではない相互連携が進んでいます。各事業部門の営業は自分の仕事で忙しいので反応しないのではないかと危惧していましたが、それとは全く異なる結果になってきています。お客様とつながり続けたいという強い想いがあることが、LL-Naviによって改めて浮き彫りになったと言えます」(金田氏)。
アフターサービス部門が定期点検を行う際の会話も変化しています。以前は建物の保守についての話題がメインでしたが、最近ではお客様の近況なども聞いてくる担当者が多くなっています。「たとえば、定期点検の際に『お客様が骨折した』という話を聞き、それをLL-Naviに入れたところ新築部門の営業がすぐに反応してお客様に連絡をして、たいへん喜ばれたという事例もあります」。
このような変化は顧客満足度向上にもあらわれています。旭化成ホームズでは新築時とその後の定期点検毎にお客様へのアンケート調査を実施していますが、その中長期(5年、10年、20年)での満足度スコアが導入から1年半で6%も向上しているのだと野口氏は述べています。これは、こうした取り組みにより顧客ロイヤリティが高まっていることの表れです。
「このように高まりつつある顧客満足度を、いかにして事業部門の売上創出につなげていくかが今後の課題です」と野口氏。ビジネスサイクルの短いEC部門では、Marketing Cloudを活用したデジタルチャネルでの効果的なアプローチによって、すでに売上倍増という効果を実現していますが、住宅事業は息の長いビジネスであるため、本当の効果が出るのはこれからだと語ります。
「個人的な想いとしては、Lightning PlatformなどのSalesforce製品に活用を、単なる情報一元化だけで終わらせたくありません。LL-Naviという1つのシステムで、様々なことがストレスなくできるようになれば、もっと生産性を高められるはずだからです。このような業務変革も視野に入れながら、システム全体の将来像を描いていきたいと考えています」(野口氏)。