内製化で実現する「DX宣言」
AI、システム連携で
アジャイルな経営を創る
コンタクトセンターの効率化、パートナーコミュニケーション、新規ビジネス立ち上げなど、あらゆる場面で効率化やコスト削減を実現
1. コンタクトセンターの効率化で20%以上のコストを削減
ビックカメラは2022年6月、創業より掲げている「お客様喜ばせ業」を実現するために「DX宣言」を発表しました。Salesforce Lightning Platformの採用でローコードの開発環境を手に入れ、システムの内製化を加速。既存のシステムを全面的に見直し、店舗とECをシームレスに統合し、顧客体験を向上させるOMO戦略を推進します。
同社のDXを牽引するリーダーが、執行役員 デジタル戦略部長 野原 昌崇氏です。2021年9月にDXの責任者として入社し、さまざまな成果を挙げてきました。同氏のかかわった最初のプロジェクトが、コンタクトセンターの効率化でした。
「アウトソースしていたコンタクトセンターの予算が超過しているから何とかしてくれという命題です。元の予算内に戻すために大きな業務改善が必要になり、Salesforce Service Cloudをベースに業務を見直すことにしました」(同氏)
コンタクトセンターの業務を効率化し、コストダウンするために、電子メールにはEinsteinとオムニチャネルによる自動振り分け、電話にはService Cloud Voiceを適用。Amazon Connectと連携したクラウドシステムとして運用することになりました。
具体的に見ていきましょう。従来、電子メールの着信があれば、振り分け担当者がオペレーターのスキルに合わせて担当をアサインしていました。デジタル戦略部 デジタルソリューション室 システム企画ユニット Manager 木村 聡彦氏は、「この振り分け業務をAI化するために、Einsteinに過去のメールを学習させて自動化することにしました」と話します。当初20%程度は、人が判断していた時と比べると誤差があったといいますが、「逆に言えば、スタート時から80%は担当者の判断と同じだったということです」(野原氏)と成果を感じられたといいます。アサインミスと感じられるものは、オペレーター側が「自分の担当範囲外」として差し戻すことで対処し、Einsteinはこのプロセスでさらに学習を深め、いまではアサインミスは1日に1~2件あるかないかのレベルまで錬成されました。
電話対応では、アフターコールワークの簡素化に注力しました。音声データと自動でテキスト化したデータをケースに紐づけて残し、「基本的に手入力しない」ことを徹底。日本語音声のテキスト化精度はまだ発展途上ですが、高確率で再問い合わせがあると判断した内容以外は、生のままのデータを残すことで良しとしました。結果、かつて2分近くかかっていたアフターコールワークはおよそ半分へと短縮しています。
さらに、問い合わせる前に顧客に自己解決してもらう取り組みもスタートさせました。デジタル戦略部 デジタルソリューション室 システム開発ユニット SeniorStaff 沼田 実里氏は、入社3年目の若手。1か月の研修を受けた同氏は、「Salesforce Service Cloudの標準機能をそのまま使って、着手から3か月の期間でFAQページを公開することができました」と話します。Web to Case機能で作った問い合わせフォームの前段階にFAQを配置することで、入電数の削減につなげました。
2. メーカーとの販売実績共有プロセスもSalesforceで実装
家電小売業であるビックカメラにとって、仕入先であるメーカーは最適な価格で消費者に商品を提供することを目指す大切なパートナーです。家電は発売時が最も高く売れ、徐々に価格が下がっていきます。同社と仕入先がWin-Winの関係を築き続けるためには、市場価格のトレンドを共有し、両者合意のもとで仕入れ価格の決定を行うことが必要になります。一方、メーカーの提案も受け入れなければなりません。メーカーから提案されたキャンペーンの際には、共同で実務を行うためにも販売日時などの情報を明確化し、共有する必要が出てきます。
この販売促進に特化した実績管理プロセスは、担当者間のコミュニケーションが中心になります。同社の従来のシステムでは全体的な業務効率化には結びついていませんでした。
野原氏は、「このシステムも担当することになり、中身を見てみたところ、このまま拡張して本格的な業務効率化を果たせるようなものに進化させようとしても、権限管理すらできないようなシステムが出来上がりそうでした。そこでLightning Platformでゼロからやり直すことにしたのです」と当時を振り返ります。
Salesforceの商談機能を使い、メーカーを専用オブジェクトに登録して運用することで、データ基盤は整います。その上で、メーカーとのコミュニケーションは商談ログに登録として一覧し、どのメーカーとどのように話し合ったのかを一目瞭然にすることにしました。コンプライアンスを万全にするために、すべての情報は社内チェックを受けられるようにします。
プロジェクトは、Salesforceに知見のあるシステムインテグレーターに伴走してもらって内製メンバーを中心に進めました。デジタル戦略部 デジタルソリューション室 システム開発ユニット AssociateManager 保坂 勇人氏は、「研修を受けて1か月後にプロジェクトに配属され、配属から2か月後にはにテスト開始というスケジュールでしたが、無事1リリースできました」と話します。システムを活用しながら機能のブラッシュアップ/追加を行っています。
「このプロジェクトによって、お客様に直接は関係がない業務プロセスでも、Salesforceで実装できることを証明できました」(野原氏)
3. 新規ビジネスの立ち上げはスピード感のあるアジャイル開発で
ビックカメラは、SPA商品展開の端緒として、富士山の天然水を宅配するサービス「puhha」を開始しました。この新事業にもSalesforceは活用されています。9ヶ月後の事業スタートに合わせて急ピッチでシステムリリースしなければならないというプロジェクトでしたが、B2B Commerceの基本機能をフルに活用することで乗り越えました。
具体的には、開発スピードを重視し、まずシステムサイドがB2B Commerceでお客様がご利用になるフロントシステムを構築、それを事業サイドに確認してもらいます。この確認を通じて、事業サイドメンバーがバック業務を具体化するプロセスをアジャイルで回しました。プロジェクトメンバーには、「業務を断捨離する」ことを意識してもらい、本当に必要なものだけを実装したシンプルなシステムが完成しました。
「水の宅配がいわゆるサブスクリプションビジネスと違うのは、ウォーターサーバーの契約管理および配送を含むところです。いくつかのシステムインテグレーターに声をかけたのですが、納期が短いことがネックとなり多くのシステムインテグレーターに辞退された案件だったのですが、Salesforceのおかげで無事にサービスインすることができました」(野原氏)
同社ではSalesforceの活用と同時に基幹システムの移行も進めており、将来は基幹システム、POS、ECを含むすべてのシステムに対し、マスターデータのリアルタイム連携を可能にする共通API基盤としてMuleSoftを活用を検討しております。
Marketing Cloudの活用も進めます。2016年から利用しており、ウェルカムメールの配信や購入後のフォローシナリオなど、いくつか施策を行っていましたが、PDCAをしっかりと回すまでに至っていませんでした。今後は人材を拡充し、顧客接点の統合管理に向けたプロジェクトが動き出す方向です。DX宣言は、OMOを目指したもので、将来はその中心としてMarketing Cloudが機能することになります。
野原氏は、「今後は、内製化をさらに加速していきます。Salesforceは扱いやすいパッケージで、標準機能でほとんどのことが実現できてしまうというのは大きな魅力です。ただそれでも、あらゆることを改善し、内製化するとなると、どんなオブジェクトを、どう使って、どう実装するかというセンスが必要です。時間をかけて、人材の育成にも取り組んでいきます」と話してくれました。