「アナログ集団」から「DX認定事業者」へと変革
システム定着化の壁を乗り越え3年間で売上2倍に
Salesforce初心者がシステム管理者に就任してからわずか3年
「Salesforce利用が当たり前」の企業文化はどう醸成されたのか
2017年5月に設立され、不動産仲介や住宅会社紹介、生命保険・損害保険の代理店などの事業を手掛けている株式会社みらいコンシェルジュ。創業当初からボランタリーチェーンの構築が視野に入っており、「CRM前提」でのビジネス設計が行われてきました。その基盤として最終的に選ばれたのがSalesforce。しかしその導入当初は、なかなか活用が進みませんでした。
この状況を大きく変える立役者となったのが、2019年7月に入社した入田涼平氏。「Salesforce利用が当たり前」の企業文化の醸成を目指し、入力の簡素化や情報集約の仕組みの構築、情報活用の取り組みなどを推進、Salesforceをフル活用する企業へと変貌させていきました。この取り組みが評価され、2023年5月には経済産業省「DX認定事業者」の認定を取得。作り上げた仕組みやノウハウを、パッケージ化して提供することも視野に入れるなど、Salesforceを新しい事業の柱に見据えています。
1. CRM前提で会社を設立、しかしなかなか定着しなかったSalesforce活用
「愛と信頼を永続する企業となります」という企業理念のもと、2017年5月に設立された株式会社みらいコンシェルジュ。ライフプランを通じてお客様の待ち遠しい未来を創造するため、お客様から契約を“頂戴する”のではなく“お預かりする”という意識で、不動産仲介や住宅会社紹介、生命保険・損害保険の代理店事業を行っています。その拠点として熊本県内に、お家の総合窓口となる「CRAS(クラス)」という店舗を展開。「熊本でお家のことなら何でも相談できる」コンサルタントが、お客様の幸せを考えながら最適な提案を行っています。
「当社はまだ規模の小さい会社ですが、ゆくゆくは同じ志を持つ方々と共に、ボランタリーチェーンを作っていきたいと考えています」と語るのは、代表取締役社長を務める山浦章太 氏。そのためにはお客様を深く理解するための仕組みを確立し、横展開できる状況にしておかなければならないと語ります。「このような思いから、創業当初から『CRM(顧客関係管理システム)前提』でビジネスを設計してまいりました」。
そこでまず行われたのが、比較的安価な2種類のシステムの導入でした。しかしながらこれらは、山浦氏の期待に応えられるものではなかったと振り返ります。
「中長期にわたる成長と、その後のボランタリーチェーン化まで視野に入れると、いずれのソリューションも将来に不安を感じるものでした。そのため導入後わずか数か月で、次のCRMの選定に着手しました」。
ここでCRMとして選ばれたのがSalesforceです。その理由について、中小企業から大企業まで数多くの企業が活用して成果を出しており、中長期の成長を支える基盤になり得ると判断したからだと山浦氏は説明します。2018年5月にはSalesforce Sales CloudとAccount Engagement(旧Pardot)を導入。しかし導入から1年あまりの間は、なかなか利用が定着していかなかったと言います。
「この頃は、メールやショートメッセージ、他社のチャット製品など、複数のツールが社内連絡で使われていました。また情報管理・共有の手段もSalesforceだけではなく、別のツールも使われており、情報の所在がバラバラでした」。
この状況を大きく変える立役者となったのが、2019年7月に入社した入田涼平氏です。入社直後は営業業務部に配属され、営業サポートや社内業務全般を担当していましたが、2020年3月にSalesforceシステム管理者に就任。ここからさまざまな工夫を凝らすことで、Salesforce活用が急速に活性化していったのです。
2. 「Salesforce利用が当たり前」にするためのさまざまな取り組み
Salesforceシステム管理者になった入田氏がまず取り組んだのが、社内の連絡手段を原則Salesforceとすることでした。その理由について次のように語ります。
「まず考えたのは、Salesforceの利用が当たり前の文化をどう作り上げるかでした。そのためにはSalesforceへのログインを、必須にしなければなりません」。
この施策によって、短期間のうちにSalesforceへのログイン率100%を達成。これと並行して、会議での確認事項もすべて、Salesforceに保存することをルール化しています。しかし現場から聞こえてきたのは「会議の準備は楽になったものの、入力項目が多くて大変」「入力に時間がかかるためSalesforceに触るのが億劫」という声でした。
この問題を解決するには、入力が行いやすく、一度入力した情報を再入力する必要がない仕組みを作り上げる必要があります。そのために入田氏が着目したのが、SalesforceのプロセスビルダーやAppExchangeなどのアドオン機能でした。
「まず、同じ情報を複数回入力する必要がなくなるよう、プロセスビルダーを使って入力の自動化を行いました。また取引先の名刺情報は、AppExchangeの『Scan to Salesforce』でスキャンすることで登録を自動化。さらにWebブラウザの拡張機能である『Salesforce Logins』によってブラウザログイン時のパスワード再入力を省略し、ログイン時のストレスも軽減しています」。
その後、Salesforceへの情報入力の仕組みをさらに整備。メールでやり取りされた内容が自動的にSalesforceに登録される「メール to Salesforce」や、情報や知識の保存場所としてSalesforceを活用する「Salesforce ナレッジ」などが導入され、社内のあらゆる情報がSalesforceに集約されていくのです。
このような「情報集約」の仕組みの構築と並行して、情報活用に向けた取り組みも進められていきます。そのための代表的な存在が、商談段階毎の金額を示すダッシュボードだと入田氏は説明します。
「当社は複数の事業を手掛けていますが、事業毎にセールスプロセスが異なります。商談に関するレコードタイプも事業毎に異なっており、合計で11種類存在しています。これらを横串を通した状態で把握するため、まず商談段階を5つの共通カテゴリーに再定義しました。この5カテゴリーで商談段階毎の金額を把握することで、会社全体の状況を容易に見渡せるようにしたのです」。
3. Salesforce上に構築した仕組みのパッケージ化・提供で新たな事業展開も視野に
この他にも、お客様アンケートの結果を営業担当者毎に可視化するダッシュボードや、SGDsへの取り組み状況を可視化するダッシュボードなどが作成されています。このようなことが可能になったのは当然ながら、営業担当者がすべての情報をSalesforceに入力しているからです。営業担当者が活動内容を入力すると、リアルタイムに共有され、抜け漏れがあった場合には上司がすぐに気づくようになっています。以前はスプレッドシートで作成・提出されていた稟議書もSalesforceへと移行、2021年4月には社内スプレッドシートを全面的に廃止しています。
また同じ時期にインサイドセールスも立ち上げ、その2か月後にはメールマーケティングも始動。自社ポータルでの「問い合わせ」を自動的にSales Cloudで「リード(見込み客)」としてデータ化し、すぐにインサイドセールスが電話をかける一方で、Account Engagementでメールを自動送信する仕組みも構築しています。
2022年7月には、情報活用の新たなツールとしてTableauの利用も開始。2023年春には、Salesforceへの情報集約、情報活用、情報連携による業務効率化の仕組みがほぼ完成しています。従業員の声も「入力が面倒」から「すべての情報がSalesforceにあるから助かる」へと変化。「ここをこうすればもっと良くなる」といった、現場視点の改善提案も出てくるようになっています。
「事前に情報が共有され、関連情報も即座に見えるようになったことで、全社会議の時間は2時間削減されました」と入田氏。また毎朝行われている営業会議も、重要な指示やアドバイスはSalesforceで行われているため、細かい確認を20~30分程度行うだけでよくなったと言います。
さらに山浦氏は「顧客軸に加えて物件軸でも情報を集約しているため、月次で金融機関に報告しなければならない不動産保有状況のレポートも、簡単に作成できるようになりました」と指摘。以前はこの作業に毎週1~2時間も費やしていましたが、その時間がまるごと不要になったと言います。「売上高もこの3年間で約2倍になり、グループ会社も2社から4社に増えました。これだけの成長を遂げられたのも、Salesforceがあったからこそです」。
これらの取り組みが評価され、2023年5月には経済産業省「DX認定事業者」の認定を取得。今後はボランタリーチェーンの構築にも着手し、その中でこの仕組みやノウハウのパッケージ化・提供を行うことを視野に入れています。
「ここまでの取り組みで感じたことは、Salesforceは一度慣れてしまえば、非常に大きな効果を発揮する基盤だということです」と入田氏。Salesforceを使い始めたのはこの会社に入ってからだと言いますが、Salesforceは世界トップのCRMであり、ワクワクしながら活用を進めることができたと言います。「Salesforce World Tour Tokyo (Salesforceの自社イベント)への参加も大きな刺激になりました。これからはどの業種でもDXが不可欠になりますが、そのための強力な武器になると確信しています」。