業務効率化で蓄積したSalesforceのノウハウを外部顧客のDX改善サービスとして活用
業務における積極的な使いこなしとラーニング活用の両輪で技術力と実践力を社内に蓄積。クラウド技術者を育成する専門組織の設置と人事制度の改革で資格取得者を大幅に増やし競争力を強化
大和総研では業務の効率化のため2016年にSalesforceを導入し、社内における適用範囲を順次拡大してきました。そうした社内の取り組みで獲得したノウハウや知見を活用し、Salesforce関連のシステムサービスを外部顧客に対して積極的に提供する新たなステージにチャレンジすることを決断します。
そのために有償トレーニングやTrailheadといったSalesforceのラーニングコンテンツを活用しながら、社内の技術者を育成し実践を通じたスキルを蓄積しました。情報処理技術者試験など公的な資格だけでなくSalesforceをはじめとする各クラウドベンダーの認定資格も昇格の条件となるよう人事制度を整え、従業員がクラウド技術者の資格を積極的に取ることを全社的に後押ししています。こうして、セールスフォース・ジャパンのパートナーとして顧客に高付加価値なサービスを提供できる体制を整えました。
1. 活用範囲を徐々に拡大しSalesforceの導入効果を実感
大和証券グループの一員として、グループ全体およびグループ各社のデジタル戦略について企画立案および実行を担う大和総研。同社では以前から、グループ外の顧客を対象とした外販ビジネスに注力しています。
「特に近年は、当社が長年の経験で培ったシステム構築やコンサルティングに裏付けられた高度なノウハウ、あるいは持ち前の先端テクノロジーに関する知見をベースに、グループ内外の幅広い顧客が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的に貢献していこうとしています」と大和総研の高城靖典氏は語ります。
大和総研がSalesforceを導入したのは2016年のことです。同社では健康保険組合向けのASP(アプリケーションサービスプロバイダ)サービス「KOSMO-network21」を提供しており、全国の400を超える組合に対して適用徴収や給付、経理、収納管理、予算編成、決算などの基幹業務から、レセプト情報管理、特定健診まで広範な業務を支援しています。このお客様に対する営業ガバナンスを強化するためにSales Cloudを導入しました。
「ASPサービスで提供する健康保険組合の定常的な業務に加え、お客様との間でレポート作成やデータ供給といった非定型の商談が発生することがあります。この見積書を作成し上長の承認を経た上で捺印して紙で顧客に提示するという、手作業で処理していたワークフローをSales Cloudで処理できるようにしました」と語るのは大和総研の杉田雄一郎氏です。
導入後しばらくはSales Cloudの活用は 単発で発生する商談の見積もりに限定していました。その後、徐々にSalesforceの適用を拡大し、営業活動のさらなる効率化を進めることにしました。
具体的には、ASPサービス自体の契約から月々の利用料金に関する請求業務までをSalesforceで処理できるようにしました。これにより、健康保険組合向けASPサービスの営業事務をSalesforce上でトータルに処理することが可能になり、関連情報を電子化してシステムで一元管理できる仕組みを実現しています。
Salesforceの適用拡大は、さらに加速します。折しも2021年に営業部門が1つの本部に集約されたことを機に、健康保険組合向けASPサービス事業だけでなく、営業本部全体の業務にSalesforceを適用する取り組みを開始しました。その結果、導入当初は30名程度だったSalesforceのユーザーは、営業本部を中心として300名に拡大しています。Salesforceの導入で期待できる付加価値を営業本部全体でくまなく享受できる体制が整うことになりました。
同社では、ASPサービスを利用するユーザーの問い合わせや要望を受け付けるコールセンター業務にもSalesforceのソリューションを展開します。例えばService Cloudを導入し、営業部門とコールセンターで同じ顧客情報を共有することにしました。これにより、顧客に対し一貫したサービスを提供できる仕組みを整備しました。
大和総研では社内におけるSalesforceの適用範囲を拡大し業務の効率化を着実に進める一方で、2019年に新たなステージにチャレンジする大きな決断をします。自分たちが社内に蓄積してきたSalesforceの知見やノウハウを、外部顧客へのソリューションサービスとして活用していこうと考えたのです。
高城氏は「活用のレベルをもう一段上げようとしたわけです。世の中でSalesforceを導入している多くのユーザーの中には、我々同様に適用範囲を拡大したりビジネスの変化に応じて機能を実装したりしていきたいと考えている人がいるはずですが、実際にはなかなかうまく進められずに悩まれているケースが多いのではないかと考えました」とチャレンジした経緯を説明します。
この決断を受けて、大和総研では社内の開発体制を大幅に変更することにしました。導入当初からの外部ベンダーによる機能実装の開発委託は続けながら、自社の技術者自身でもシステムのメンテナンスや機能の新規開発を作業できるよう本格的に教育に力を入れ始めました。つまり、外部ベンダーの作業内容をきちんと理解できて、Salesforceの技術をしっかりと社内に吸収し蓄積していくための体制を整備したのです。
2. 教育で体系だった知識を獲得し顧客への提案力が大幅に向上
大和総研で技術者の教育のために活用したのは、セールスフォース・ジャパンが提供する各種のラーニングコンテンツでした。
「社内の技術者に対して、まずはSalesforceのオンライン学習プラットフォームであるTrailheadで各自に学習を進めてもらいました。その上で、選抜した技術者はセールスフォース・ジャパンの有償トレーニングに参加し、Salesforce認定アドミニストレーターやPlatformデベロッパーの資格を取得してもらいました」と杉田氏は語る。
こうして、Salesforceに対する教育の取り組みを拡大しながら、セールスフォース・ジャパンのパートナーとして外部顧客のSalesforce活用を支援する部隊の陣容を整備していきました。少しずつ努力を積み重ねた結果、スモールスタートで立ち上げた部隊の技術要員も現在では大幅に充実しています。
技術要員の一人である本慶文恵氏は、もともとSalesforceに関する知識がゼロの状態でした。そこで「まずTrailheadで足がかりをつけるための学習を進めました。Salesforceには無料で使える開発環境『Developer Edition』があり、新しい機能やカスタマイズをすぐに試すことができます。オンプレミスやIaaSでは環境を構築するだけでも時間がかかってしまうところですが、既に環境が用意されていることでモチベーションが上がりました」と振り返ります。
その上で、本慶氏は有償トレーニングも受講して、その有効性を実感しました。「Trailheadの学習で“なんとなく”理解していた知識が、有償トレーニングにおいて講師に改めて説明してもらうことで体系だった知識として定着させられます。その経験と知識が、お客様への提案力に確実につながっていると実感しています」と本慶氏はその効果を語ります。
さらにインテグレーションの研修では「ポイントとなるところを具体的に話してくれるのが役に立った」と振り返ります。例えば、クラウド上のSalesforceと自社ネットワークにあるシステムとを連携する場合に、ファイアウォールをどうやって通過させるかなど、実務的な話がとても役に立ちましたと語ります。
大和総研では、営業本部で利用しているSalesforceのメンテナンスや新規機能開発に携わっている要員も、ラーニングコンテンツを活用しスキルアップに取り組んでいます。例えば、新卒2年目の平川朱理氏は、入社後の学習でSalesforce認定アドミニストレーターの資格を取得しました。
内定後にITに関する勉強を始めた平川氏は「主にTrailheadを使ってSalesforceを学習しました。業務上で必要な事柄についてのキーワードを入力するだけで、自分の関心やスキルレベルに応じた有用なコンテンツに即座にたどり着くことでき、スムーズに学習を進めていける点が大きな魅力です」(平川氏)と効果を語ります。
従来から新しい技術の導入に積極的な大和総研は技術者のスキルアップに前向きで、空いている就業時間を活用して「自分達で理解していこうよ」「みんなでやろうよ」という空気がもともと根付いていました。この社内文化とセールスフォース・ジャパンのラーニングコンテンツが有機的に結びついたことが、若手技術者の育成につながったのです。
3. まずは自社で機能を使いこなし、その成果をソリューションに活用
大和総研では、2021年4月に「CCoE」(Cloud Center of Excellence)と呼ぶ組織を社内に設置し、自社内やグループ会社の大和証券をはじめ、グループ外の顧客を含むクラウド化への取り組みを強化しました。
「CCoEはクラウドを推進する『知』と『人』を育成するための社内横断的な組織です。CCoEの方針として、Salesforceに限定せずAWS(Amazon Web Services) やMicrosoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)といった幅広いクラウドを活用するソリューションを、お客様に提供していくことを目指しています。そのために、各クラウド事業者とパートナー契約を結ぶ一方、各社の技術認定資格をもつ技術者を積極的に増やして、お客様の信頼を得ています」と高城氏はその狙いを解説します。
同社では技術者のスキルアップを支援するために、社内の人事制度も変更しています。具体的には、2021年度から社内の「資格ポイント制度」の対象にSalesforceをはじめとする各クラウドベンダーの認定資格も追加しました。これまでは主に情報処理技術者試験などの資格取得に応じて所定のポイントを従業員に付与してきました。この対象にクラウドベンダーの認定資格を追加し、昇格の条件となるように手を加えました。こうした社内制度を整えることで、従業員がクラウド技術者の資格を積極的に取ることを全社的に後押ししています。
認定資格の取得者を増やす取り組みは、セールスフォース・ジャパンのパートナーとしてのアピールにつながっています。
「お客様に提案する際、必ず返ってくるのが『実績は?』という問いかけです。これに対して、当社自身でSalesforceを活用し継続的に適用範囲を拡大しながら常にシステムの改善と拡張を進めてきたことや、技術者教育に積極的に取り組み認定資格の所有者を数多く抱えていることを説明しています。それで、お客様にも安心して我々の提案を受け入れていただいています」と杉田氏は効果を強調します。
クラウド技術は変化のスピードも早く、外部顧客からは最新の機能についても知っていることが求められます。そうしたスキルや資格を従業員が積極的に取得できるように制度を整えることが、顧客の信頼にもつながっているのです。
今後も大和総研では、自社業務を支える基盤とソリューションビジネスを展開するために欠かせない商材にSalesforceを位置づけ、活用と取り組みを強化していきます。例えば、MA(マーケティングオートメーション)ツールであるAccount Engagement(旧Pardot)を導入し、デジタルマーケティングの強化に役立てていこうとしています。ここでも有償トレーニングなどを活用して、認定Pardotスペシャリストなどの有資格者を早期に育成します。
「成果が得られれば、もちろんソリューションとしてお客様に提供していくことになります。まずは我々自身がSalesforceをしっかりと使いこなしプラットフォームを深く理解します。そのうえで、お客様へのサービス提供を通じて、Salesforceの活用にかかわる付加価値を最大化していきます。そうしたスキームを確立し、ビジネスの成長につなげていければ」と高城氏は今後に期待します。
外部顧客のDXをサポートするには現場の課題や解決するアイデアが欠かせません。自分たちで実際に使って理解していないと、説明の説得力が弱くなり顧客にはとても納得してもらえず信頼も得られません。マネージャーながらプロアクティブに現場で活動している杉田氏をはじめ、若手からベテランまで全員が“手を動かす”ことの大切さを理解している大和総研だからこそ、今後もソリューションを提供し成長し続けていけるのでしょう。