「Salesforceは高くない!」投資上回る効果実感 営業DXで新卒1年目の売上前年比4倍を達成
営業組織・プロセス改革を進めた上でSalesforceを内製で導入、 営業データを一元化してデータドリブンな意思決定を可能とし、 導入1年後に営業担当者1人当たりの生産性40%向上、新人の初年度売上4倍を達成
人材育成サービスとDXコンサルティングサービスを手がけるGLナビゲーション株式会社は、コロナ禍による売上低迷をきっかけに、“昭和のスタイル”だった営業のDX化を決断しました。そして、第一フェーズとして「The Model」型の営業組織・プロセス改革、第二フェーズとしてSalesforceの導入を進めた同社。営業に関するデータを一元化し、データドリブンな意思決定を可能とすることで、導入1年後に営業担当者1人当たりの生産性が40%向上し、新卒入社の営業社員が全員売上1億円を達成するなど、大きな成果を挙げました。
Salesforce未経験の専任者によるシステム構築とユーザー育成、700以上の項目にもとづく顧客分析など、多くの企業にとって学ぶところの多い、同社の営業DXの取り組みを紹介します。
1. コロナ禍による売上低迷を機にSalesforceによる営業DXの推進を決断
GLナビゲーション株式会社(東京都豊島区)は、「人を変え、企業を変革し、社会を変える」というミッションのもと、「Digital & Diversity Transformation Company」を掲げ、人材育成サービスとDXコンサルティングサービスを運営する企業です。
同社は2009年の創業以来、大学生・若手社会人に海外企業で働くインターンプログラムを提供する「Global Wing」と、ハイエンド外国人材に高度な日本語教育やキャリアサポートを行う「Japan Wing」という、2つの人材育成サービスを主軸として成長してきました。さらに2019年からは、外資系コンサルティングファームなどで経験を積んだメンバーをコンサルタントとして、顧客企業の新規事業開発や業務変革などを支援する新ビジネスを開始。以降、このDXコンサルティングサービスは、毎年200%近い売上高成長率を記録し続け、人材育成サービスを上回る主力事業となっています。
そうした事業を展開する上で、同社は“2つのDX”という運営方針を掲げています。1つはもちろんデジタルトランスフォーメーション。もう1つは、多様な人材が活躍できる企業や社会の実現を目指すダイバーシティトランスフォーメーションです。実際に同社では、「マチュア人材」と呼ばれる50歳以上の従業員がコンサルタントの約65%を占めるなど、多様な人材の能力を最大限に引き出して成長のエンジンとしてきました。
このように、サービス展開と企業運営の両面において、DXを中心に据えている同社。しかし、実は以前の同社の営業活動は、DXにはほど遠い“昭和のスタイル”だった、とCEOの神田滋宣氏はいいます。
「会社設立から10年間、営業は個人の能力に依存し、私自身、とにかく数をこなせばいいという行動量至上主義でした。営業担当者は、アポ取りから顧客フォローまですべての営業プロセスを1人でこなす。顧客や商談の情報を営業担当独自のExcelで、営業の進捗をホワイトボードで管理し、担当者が辞めると一からやり直し。なぜ売れたのか、売れなかったのかという理由がはっきりとわからないまま、経験と勘に頼って活動していました」(神田氏)
そうした状況から脱却するため、同社は2020年、営業DXの推進を決断します。直接のきっかけは、コロナ禍による売上の低迷でした。2019年に好調なスタートを切ったDXコンサルティングサービスの売上が、コロナ禍の影響をもろに受け、2020年7月にはピーク時の3分の1まで下落。危機感を抱いた神田氏は、Salesforceの導入を前提として、まずは営業の組織とプロセスの改革に乗り出したのです。
2. 営業DX第一弾として「The Model」型の組織・プロセス改革を断行
そもそも神田氏がSalesforceによる営業DXの推進を決意したのは、同社の海外インターンプログラムの卒業生たちを通じて、業績を上げているグローバル企業の営業活動が、いわゆる昭和型のスタイルとはまったく違うことを知ったからだといいます。
「分業化されたオペレーション、オープンな情報共有、データドリブンな意思決定など、それまでの私たちとは天と地ほどの差のある営業スタイルに衝撃を受けました。そして、営業DXの進んだグローバル企業は、ほぼ例外なくSalesforceを使っている。その理由は、もともとSalesforceというサービス自体が、『営業とはこうあるべき』という営業DXの強烈な思想のもとに作られているからだということを知りました」(神田氏)
そういうことなら難しく考えず、Salesforceを自社に導入し、同時にSalesforceがよしとする営業の組織とプロセスを採用すればいい。ただ、Salesforceをすぐに導入する予算はない。それなら、予算を確保でき次第、Salesforceを導入してスムーズに移行できるよう、先に業務設計をしっかり行っておこう。そう考えた神田氏は、営業DXの第一フェーズとしてSalesforceの「The Model」を取り入れた営業組織・プロセスの改革、第二フェーズとしてSalesforceの導入という、二段階の計画を立てました。
具体的に第一フェーズでは、オペレーションの分業体制を敷いて各部署の役割分担を明確にする、オープンな情報共有を徹底する、データにもとづいて判断する意思決定のサイクルを作るという、「The Model」にならった業務設計を行いました。
「特に意識したのは、『システムに業務を合わせる』ことです。というのも、逆に『業務にシステムを合わせる』とうまくいかない、ということを過去の失敗から学んでいたからです。自分たちのしたいことをシステムで実現しようとすると、対応する機能がない場合にカスタマイズの手間がかかる、オペレーションを変な形にしなくてはならなくなるなど、必ずどこかで無理が生じてしまう。そういう経験があったので、『The Model』の考え方をそのまま取り入れることにしました」(神田氏)
第一フェーズの営業組織・プロセスの改革は、約2か月間でスムーズに完了。同社は満を持して、第二フェーズであるSalesforceの導入に着手したのです。
3. 未経験者がSalesforceを構築、実践的トレーニングでユーザーを育成
神田氏は、Salesforceの構築・推進という第二フェーズを中心的に担う専任者として、当時入社したばかりのDX推進室の鈴木麻美氏を指名しました。鈴木氏は、前職の証券会社では営業職で、Salesforce未経験。それでも神田氏が鈴木氏に任せたのにはわけがありました。
「構築をベンダーにお願いしてしまうと、Salesforceのことを理解している人材が社内で育たず、その後の運用にすごく工数がかかってしまう。だから絶対に内製化すべきだという考えがまずありました。その上で、Salesforceなら未経験でも構築できると思ったのです。なぜなら先ほど話した通り、すでに私たちの業務自体が、Salesforceの標準機能だけで回せるオペレーションに変わっていたからです」(神田氏)
神田氏の見立て通り、鈴木氏は約2か月間でSalesforceの構築を終え、稼働までこぎつけることができました。
「最初は聞き慣れない言葉ばかりで不安でしたが、わからないことをSalesforceのヘルプデスクに質問したり、自分で調べたりしているうちに理解できるようになり、なんとか構築することができました。続いて、自ら営業としてSalesforceを使って保守や運用改善をしつつ、営業全員が一定程度Salesforceを使えるようになるまでトレーニングしていきました」(鈴木氏)
その育成方法は、現場のユーザーに業務上の必要性を感じさせながらダッシュボードやレポートの作成などをどんどん任せる、という実践的なもの。2022年に入社して鈴木氏のトレーニングを受けた、テクノロジー&コンサルティング事業部の大河内善雅氏はこう振り返ります。
「Salesforceという今をときめくツールに初めて触れ、学ぶことにわくわくしました。『こういう数字を見たいからレポートを作って』といった課題を1日10件ぐらいこなし、2か月ぐらいでダッシュボードの構築やレポート・カスタムオブジェクトの作成ができるようになりました」(大河内氏)
加えて、Salesforceの利用定着化のために取り組んだのが、入力のオペレーションを簡素化し、かつインサイドセールスに入力を代行させるという工夫です。
「データを入力してくれない、という問題は必ず起きると思いました。そこで当社では、テキストをなくしてチェックボックス式に変えるなど、入力項目をなるべく簡素化しました。また、インサイドセールスが入力の責任を負うこととし、フィールドセールスが入力しなければインサイドセールスが代行することにしました。ただし、獲得したリードをどのフィールドセールスに振るかを決める権限はインサイドセールスに与える。すると、入力に協力的でないフィールドセールスはあまり案件を振られなくなるので、困って必然的に入力するようになる、という仕組みです」(神田氏)
4. 行動と数字の因果関係を明らかにし、データドリブンな意思決定が可能に
組織・業務プロセスの改革と、それに続くSalesforceの導入によって、同社の営業活動は劇的に進化しました。それまでExcelやスプレッドシートで個別に管理していた顧客・案件情報など、営業に関するあらゆるデータをSalesforceに入力して一元化した結果、従来はできなかった、詳細なデータ分析にもとづく意思決定が可能になったのです。
たとえば同社では、取引先責任者それぞれに対して、興味領域、行動、実績によるスコアリングなど、700以上の項目で管理。それをもとに顧客をセグメントし、アプローチの優先順位づけを行います。インサイドセールスは、Salesforceのダッシュボードで可視化されたホットリストを見て顧客にアタックするだけ。ホットリストにはアプローチ先が次々に自動掲載されていきますが、皆が競うようにアプローチするため、すぐにゼロになってしまうそうです。
「今までは、たとえば架電からのアポイント率が5%という、行動と数字の相関関係は見えていましたが、なぜそうなったのか、という因果関係を突き止めることはできませんでした。Excelやスプレッドシートだと、項目数が増えるほどデータが重くなって分析しづらくなり、実質的にドリルダウン分析が不可能だったからです。Salesforceによって、その5%が1社1社どういうお客様で、どんなニーズがあるのかという詳細な分析が可能になり、因果関係を1つひとつ明らかにしながら意思決定できるようになりました」(神田氏)
同社では、営業活動以外の領域でもSalesforceの活用が拡大しています。たとえば販売・購買管理。バックオフィスのチームが請求書を送る際、従来は顧客の締め日を忘れて提出が間に合わない、毎回スプレッドシートで締め日を確認するのに手間がかかるなどの問題がありました。Salesforceで請求の締め日がダッシュボード化されたことにより、そうした問題は解消されました。
また、コンサルタントは、Salesforceのアカウントを付与され、週報を従来のようにメールではなく、Salesforce上で行うようになりました。それによって、週報が営業データと自動的に紐づけられ、資料としていつでも活動に活かせるようになっています。
5. 「Salesforceは高くない!」新卒1年目の営業が全員年間1億円以上の売上を構築
同社の営業DXは目覚ましい成果を挙げました。営業担当者1人当たりの生産性は、Salesforce導入1年後に40%向上。中でも、新卒入社の営業担当者の売上が全員1億円を突破するという、驚異的な数字を叩き出したのです。
「新卒1年目の営業担当者の売上が、10~20年経験のある営業担当者の売上を軽く超えてしまいました。新人はなにも知らないので、ただ目の前のホットリストを見て活動するだけです。それなのに結果として、20年選手がこれまでの経験や知識を活かして挙げる成績の1.5倍ぐらいの数字を出してしまった。自社のことながら本当にすごいと思います」(神田氏)
テクノロジー&コンサルティング事業部の西尾侑宇馬氏は、2024年1月に入社したばかりですが、そうしたSalesforceの威力を早くも実感しているようです。
「Salesforceには、お客様の属性や業界経験、興味領域などのデータが蓄積されているので、それをベースにお客様との話を円滑に進めることができています。そしてなにより、データにもとづいて意思決定すると、確実に正しい答えに向かっている、という自信を持てるのが大きいですね」(西尾氏)
一方、業務効率化という点でも、Salesforceは大きな効果を出しています。たとえば、ホットリストの作成に、従来は1日1時間、月間20時間ほどかかっていましたが、現在はほぼゼロになりました。ただ、同社では、そうした業務効率化に興味を持つ人はあまりいない、と神田氏は話します。
「なぜなら、私たちの今の営業のあり方は、DXによってかつてとはまったく別物になったので、比較すること自体あまり意味がないからです。社内では、業務がどれだけ楽になったか、ということより、営業の売上や生産性がどれだけ上がったか、といったことのほうが重要な変化だととらえられています」(神田氏)
そうした意識改革が進んでいるという実感は、推進役の鈴木氏自身にも確実にあるといいます。
「前職では『こういうオペレーションだから仕方ない、やるしかない』という感じで業務に取り組んでいましたが、今は『Salesforceに合わせてオペレーションをどんどん変えていけばいいんだ』と考えるようになりました」(鈴木氏)
Salesforceを基盤とする営業DXを推進し、大きな成果を挙げた同社。今後の展開として神田氏は、自社独自のデータをもとに行動と数字の因果関係を明らかにした上で生成AIのプロンプトを作成し、営業活動のさらなる高精度化・効率化を図りたい、と語ります。そして、最後をこんな言葉で締めくくりました。
「当社では、営業のトークスクリプトについてはすでに生成AIを活用しています。このように、営業職が生成AIの提示するものをベースに活動して経営判断をする、そしてよりよい結果を出せるようにアップデートするという、営業職のあり方自体を変えていくという部分において、今後、Salesforceの生成AIには大いに期待しています。
今、日本ではデジタル人材が不足し、国際競争力が非常に落ちています。そういう中で、Salesforceを導入して内製化することは、社員1人ひとりの価値向上に大きく寄与すると考えています。当社のような中小・ベンチャー企業でも、社員にSalesforceのスキルを身につけさせることで、人材としての市場価値を高め、より優秀な人材を輩出したり、定着させたりすることができるようになるのです。
『Salesforceは高い』とよくいわれますが、そういう面での効果を含めれば、率直にいって全然高くない。それどころか、投資をはるかに上回る効果を生み出せる製品だということを、もっと多くの方に知っていただきたいですね」(神田氏)