Salesforceによる介護サービス変革
多職種が連携しチームで在宅介護を支える
超高齢社会を迎える日本で、まだこの世にない価値の創造に挑戦するグッドライフケア。介護士、ケアマネージャー、看護師などの多職種がリアルタイムに利用者情報を共有し連携するSalesforce活用事例について紹介します。
現在はService Cloudによるコールセンターの高度化やSalesforceと介護ソフトの連携に取り組まれており、今後は利用者向けのWebポータル、地域連携ポータル、生成AIの活用等、Salesforceのさらなる活用高度化を目指されています。
1. ITをフル活用し質の高い介護サービス提供を目指す
「わたしをあきらめない」をスローガンに掲げ、介護事業を展開する株式会社グッドライフケアホールディングス(以下、グッドライフケア)。2000年に保険代理店として創業し、2005年より介護事業を開始。現在は東京と大阪の2拠点で、訪問介護や訪問看護をはじめ、居宅介護支援、デイサービスなどを展開しています。同社代表取締役社長の小田 秀樹氏は、「『人に喜ばれる仕事』を考えたとき、介護事業は大きな可能性があると考えました」と起業の想いを語ります。
超高齢社会の一途を辿る日本では、介護離職が大きな課題となっています。経済産業省の調査(※)によると、仕事をしながら家族の介護に従事する「ビジネスケアラー」は2030年には約318万人になると推計されています。2030年における家族介護者数は推計833万人ですので、実に4割をビジネスケアラーが占める見込みです。
「介護発生による経済的損失額は2030年時点で約9.1兆円と試算されています。その内訳を見ると、仕事と介護の両立困難による労働生産性損失が占める割合がきわめて大きいのです。グッドライフケアは東京6区(中央区、千代田区、港区、文京区、江東区、新宿区)と、大阪5区(北区、中央区、西区、福島区、都島区)でサービスを展開しています。これらの地域は人口が多く、ビジネスケアラー予備軍が集中しています。われわれはサービスエリアを絞ることでスタッフの移動時間を減らし、その分を利用者さんと向き合う時間に充てることで、高品質なサービスを提供しています」(小田氏)。
介護従事者が直面している課題の1つが、IT活用の遅れによる非効率な業務のあり方です。特に介護の領域は行政とのかかわりが多く、「書類・押捺文化」が残っています。同社総務部の池原 吉豊氏は、「介護現場では現在でもファックスが利用されており、サービス利用者さんからヒアリングした内容は、手書きメモで共有する状況でした」と説明します。
そうした環境で発生するのが情報の分断です。「施設介護の場合は、同じ施設内の目に見える範囲に利用者様がいらっしゃいます。一方で、在宅ケアの場合、利用者様はご自宅にいらっしゃるため、目に見えない。そのため、ITにより情報を共有することが重要となります。受けるサービスごとに事業者が異なることも多いため、利用者側の情報が事業者間で共有されず、適切なサービスが受けられないことがあります。また、医療機関、介護スタッフ、リハビリテーション専門家などが個別に情報を持っている場合、統合されたケアの提供が難しくなってしまいます」(小田氏)。
小田氏は「グッドライフケアの優位性は、介護士や介護福祉士、看護師、ケアマネージャー、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など、介護・看護にかかわる医師以外のすべての主要な専門職を擁しており、利用者様が必要とする介護・看護リソースを一気通貫で提供できることです。そのため、必要なサービスを、最終の利用者様に適切に届けるという在宅ケアのラストワンマイルが実現できます。それを支えるためにも情報管理・共有基盤の構築は必須でした」と語ります。
2005年に介護事業に参入した当初、同社では事業所内のストレージに情報を保管していました。しかし事業規模も利用者数も右肩上がりに成長していく状況では、情報確認のたびに事業所に戻り、手書きメモをパソコンに入力し直したりする作業は限界に達したといいます。
「2009年ごろになって、情報をクラウドで管理し、介護・看護にかかわるすべてのスタッフが利用者情報を共有できる仕組みが必要だと考えました。当然、利用者数が増加しても、セキュリティやキャパシティに問題がない環境にしなければなりません。そうした条件で検討した結果、採用したのがSalesforceでした」(池原氏)。
2. 介護請求ソフトとも連携し、利用者データをSalesforce上でリアルタイムに一元管理
グッドライフケアがSalesforceを導入したのは2009年。利用者情報の一元管理による業務の効率化と、利用者に対するサービスレベルの向上が目的でした。その後、Salesforceをプラットフォームとした独自の情報共有システム「G-force」を構築・活用しています。
池原氏は「Salesforce導入の決め手となったのは、カスタマイズ性の高さでした」とし、その理由を以下のように説明します。
「いくつかのクラウド型データ管理サービスを検討しましたが、カスタマイズ性に制限があり、われわれのビジネス拡大を支えられないと判断しました。ビジネスが拡大し、多職種(介護士、介護福祉士、看護師、ケアマネージャー、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等)での連携が増え、取り扱う情報が増えると、Salesforceで管理する情報も増えます。ビジネスの拡大に合わせ、一緒に進化してくれるプラットフォーム。こうした世界観はSalesforceでなければ対応できません」(池原氏)。
現在、G-forceには利用者の名前や住所といった基本情報のほか、介護保険情報、訪問介護手順書、看護記録、医師からの指示、投薬情報など、利用者を核とした介護・看護・医療に関する情報を一元管理しています。また、2020年にClassicからLightning Experienceに切り替え、同時にシステム改修をした際には、これまで別のオブジェクトで管理していた病院や居宅介護事業所を利用者と同じ「取引先」として一元管理し、東京と大阪の全システムを統合しています。
現在、同社のITソリューション部 部長としてシステムを管理する内田 陽氏は、Salesforceベースでシステムを構築するメリットについて「ITの専門知識がない現場の人間でもシステム構築ができること」と語ります。
もともと内田氏自身も介護士として活躍し、ITソリューション部に異動するまでシステム開発の経験はありませんでした。しかし、Salesforceのオンライン学習サイト「Trailhead」等を活用してスキルを身に付けることができたといいます。
「Lightning Experienceでは、より直感的に開発を行えるようになったと感じました。最近では、現場の利便性を向上するため、Salesforceと介護請求ソフトをAPI連携させることに取り組みました。
介護業界では、国保連(国民健康保険団体連合会)への介護保険の請求のために、介護請求ソフトを利用する必要があります。利用者の基本情報やケアプラン、介護保険関連のマスターデータは介護請求ソフト側で管理されています。従来は介護請求ソフトからSalesforceへの転記作業を行っていましたが、今回のSalesforceと介護請求ソフトのAPI連携開発により、Salesforceに介護請求ソフト上のデータをリアルタイムに連携させることができました。これによりデータ集計が容易になり、介護保険請求ソフトに入力されているデータと利用者の詳細データを突合する作業が、ほぼ自動化できるようになったのです」(内田氏)。
さらに同社では、スタッフが担当する利用者の情報を、スマートフォンから共有できる仕組みも構築しています。現在はこれらの情報にサービススケジュールや変更キャンセル、請求連絡などのデータを連携させ、ビジネスチャットツールを介してリアルタイムで共有しています。また、スタッフの入力負荷を最小化できるよう、Experience Cloudを用いてシンプルで簡易に入力可能なインターフェースの開発が進められています。
「AppExchangeによりさらなる効率化も進めています。カレンダーアプリのCalsket、勤怠管理アプリのTeamSpirit、帳票ソリューションとして、WingArc1st社のSVF Cloud、invoiceAgent、dejirenを活用している。とくに帳票ソリューションは高度に活用しており、必要な帳票の大部分をSalesforceから出力できるように仕組み化できています。SalesforceはAppExchangeをインストールベースで利用できるため、ITの専門知識がなくとも、機能を拡張していける点が魅力です」(内田氏)。
3. コールセンターシステム構築と生成AIの活用も視野に
こうした工夫の結果、現場の作業負担は大幅に軽減できたと小田氏は次のように語ります。
「システムへの入力作業を効率化したことで、利用者様に対応する時間が増えました。また、利用者様に関する最新の情報をリアルタイムで把握し、ほかの専門スタッフと密に連携できるようになったことで、必要とされている看護・介護リソースを迅速かつ適切に提供できるようになりました」(小田氏)。
さらに現在ではService Cloudを活用したコールセンターシステムの構築が進められています。
「介護の世界ではファックス文化もまだ残っており、電話でのやり取りも非常に多いのが現状です。具体的には、1日平均100件程度、電話での問い合わせを受けています。グッドライフケア側から電話をかけることも多く、従来は事務スタッフが応対内容を手入力し、必要な情報を介護士などに連携していました。このように電話業務は手入力を中心に、スタッフへの負担が非常に大きいものでした」(内田氏)。
また医療機関からの患者を受け入れる場合、自宅の設備の準備など、分刻みで準備を進めなければならず、迅速な情報共有も必要となります。そこで同社は、在宅ケア医療連携室を設けており、医療機関や居宅介護事業者、利用者家族からのサービス利用の受付を行っています。
「利用希望の受付からサービス開始を迅速につなげることを目的に、また、日常的な業務負担の削減と情報共有の迅速化を実現すべく、Service Cloudによるコールセンターシステムの構築を行いました。Service Cloudでは、電話のやり取りを録音し、文字起こしをすることで記録作業の効率化と、情報共有の迅速化を目指しています。将来的にはEinstein AIを活用した電話内容の要約も実現し、さらなる効率化を進めたいです」(内田氏)。
さらに、内田氏は次のように続けます。
「Salesforceには利用者様の介護保険情報をはじめとした基本情報が介護請求ソフトより連携されています。他にも、利用者様のケアのために関係者で共有すべき情報、医療的な状態、服用している薬の情報、写真なども共有されています。
また、都心部での介護サービス提供にかかわる都心部固有のデータも有しています。扱うデータ量とともに都心部固有のデータにはグッドライフケアに優位があります。このデータを分析・活用し介護サービスの向上や業務改善に役立てていきたいです」(内田氏)。
4. 地域包括ケア基盤としてのSalesforce活用
「グッドライフケアのサービス内容において医療の比重が大きくなりつつあります。具体的にはサービス全体における看護の割合が増えてきています。看取りやパーキンソン病のケアなど、地域や利用者の期待に応えるうえで利用者情報の共有がより一層重要となります。
最近は訪問診療中心の医師も増えています。医師からも、グッドライフケアは多職種がサービスを一気通貫に提供できる点や、利用者に関する情報も多く、患者様を安心して紹介できると評価いただいています。
Salesforceのおかげで他者とのやり取りもスムーズに行えています。介護や医療の世界は、施設、訪問介護、看護、ケアマネと縦割りになっていることが実際は多い。その点、グッドライフケアは多職種が利用者に関する多くの情報をリアルタイムに共有し、連携できている。これは地域を支えるうえで大きな強みとなっています」(小田氏)。
さらに同社では、今後はExperience Cloudを用いたポータルによる地域包括ケアとしての地域との連携も視野に入れていきたい、としています。
「そう遠くない今後の展開では、将来的には生成AIの活用にも期待しているところです。ケアプランの作成をAIが補助するような世界も現実的になってきています。
Service Cloudのコンタクトセンターでは先程もお話したように、要約などを生成AIに補助してもらう取り組みをしていきますが、介護そのものでのAI活用も積極的に検討したいと考えています。新しい技術はこれからも積極的に取り込んでいくつもりです。中でも、生成AIは生産性を飛躍的に向上させることができるはず。使わない手はないというのが率直な感想です」(小田氏)。
データを駆使して他社にはない高品質なサービスを24時間×365日で提供するグッドライフケア。今後も、Salesforceが同社の質の高いサービスを支えてまいります。