グローバルCoE活動「SMiLE」を軸に
グループ横断で顧客情報を一元化へ
「Customer 360」による顧客価値最大化をめざす
約4万2000のエンドユーザーを束ねる
グローバルCoE体制を構築、
成功の鍵はビジョンの策定
1. サイロ文化から脱却し、グループ全体でのシナジーを生む顧客起点のサービスをめざす
2008年9月に発生したリーマンショックは、国内製造業にも甚大な影響を及ぼしました。日立製作所は過去最大の赤字を計上。その危機的状況からグループ全体でV字回復を成し遂げるべく、2011年に発足したのが「Smart Transformation Project」(通称スマトラ)と呼ぶ改革プロジェクトでした。
「キャッシュ創出力強化を念頭に、当初は費目別・機能別改革を中心としたコスト構造改革からスタートし、その効果の刈り取りと課題深耕を経て、End to End(E2E)業務プロセス改革へと取り組みを発展させました。業務プロセスの起点となるフロントのDX改革ツールとしてSalesforceを採用し、案件パイプライン管理を推進して参りましたが、2021年以降は顧客中心主義『Customer Centricity Promotion』をテーマに掲げてCustomer360の考え方を取り入れ、経営のスピードアップや業務効率の向上、成長に向けたグローバル経営基盤の構築へと取り組みを進化させています」と語るのは、日立製作所の紺野 江里佳氏です。
現在、国内外含めた日立グループの主要企業ではSalesforceを様々な業務プロセスで利用。グループ全体で大規模にSalesforceを導入されており、その企業数は現在56社を数え、約4万2000のライセンス契約を保有いただいています。
しかし、そこには課題もありました。グループ各社、ビジネスユニットが個別最適でバラバラにSalesforceを導入してきたという問題でした。「日立グループには、プロジェクト型、中量産型、部材型などと呼ばれる事業タイプを軸にビジネスプロセスが数多く存在しているため、いわゆる“サイロ文化”が蔓延りやすい構造となっておりましたが、Customer Centricityをめざす上で、この文化から脱却する必要がありました」と、紺野氏は当時を語ります。
また、日立製作所の堀口和男氏は、Salesforceの活用を進めた理由を次のように説明します。
「我々がめざすCustomer Centricityと同じように、Salesforceには顧客を起点とした“Customer 360”のベストプラクティスがあります。私たちも多様な顧客接点で得られた情報を一元管理し、お客様をより深く理解する必要がありました。それでこそ、個々のお客様に最適に向き合うことができ、またグループ企業が連携して全体でのシナジーを生む『One Hitachi』の体制が取れるわけです。その意味でSalesforceの活用促進がサイロ文化からの脱却とCustomer Centricityの実現に役立つと考えました」
2. End to Endの業務プロセス改革に「Customer 360」のコンセプトを融合
そこで日立製作所が問題解消のアプローチと考えたのが、「SMiLE」と呼ばれるグローバルCoE(Center of Excellence)の構築でした。そのビジョンとして掲げられたのが、「人とアイディアをつなぎ、お客様中心の革新を生み出すグローバルプラットフォーム」。End to Endの業務プロセスの整流化に「Customer 360」のコンセプトを取り入れました。ミッションに据えたのは、顧客と日立、パートナーのエコシステムによる新たな機会の協創、ナレッジシェアによるサイロ文化からの脱却、そしてコミュニティを通じたオープンな学びの場の提供でした。
「一般にCoEと言うと、ITシステムの使い方や運用のあり方を標準化し、業務効率化を狙ったものが多いかと思います。当社のSMiLEがこれらと一線を画すのは、ビジネスにおけるSalesforceの活用ナレッジをグループ内で共有、展開することで、お客様とともに業務を進化させていく点です」と紺野氏は説明します。
「SMiLEの具体的な活動内容としては、「案件パイプライン管理」をテーマにするなど、SFAとしてSalesforceを活用したワーキンググループ(WG)活動を定常的に実施しています。具体的には、3カ月に1度、WG全体での会議を開催して各社による先進事例を紹介したり、会議参加者から要望の多かったテーマを中心に、セミナーやワークショップを開催したりしています。すでに同様のWG活動が海外でも展開されはじめました」と堀口氏は説明します。
また、毎年2月に実施している「日立Salesforce Global User Conference」のイベント開催もSMiLEにおける活動の重要な柱のひとつで、Salesforceの活用を盛り上げる非常に大規模なイベントに成長しつつあります。
「コロナ禍以前の第1回は、グループ16社のキーマンが米国Salesforce本社に参集してリアル開催を実現しました。第2回目以降は、社会情勢からオンライン開催となりましたが、日立製作所のエグゼクティブによる基調講演や事例紹介、パネルディスカッションといったセッションを充実させることができました。直近の第3回イベントでは開催期間中に39カ国から、のべ3,100回の動画が視聴される規模に成長しました」と紺野氏は、イベントの定着化に自信を深めています。
同社ではイベントを盛り上げるアイディアを常に考え実践しており、第3回のイベントでは、「イメージキャラクターコンテスト」を開催、最も多くの投票を集めたSMiLEのイメージキャラクターとしてクォッカワラビーの「Smiley」を誕生させています。
3. Salesforceのエキスパートと前例なきグローバルCoE構築に挑戦
SMiLEの活動を通して、「顧客と接するフロント業務全般は、Salesforceを標準CRMとして、Customer 360の視点で取り組む」という理想的な姿勢が定着しつつあるといいます。「Salesforceを活用した情報共有は営業領域のみならず、他の事業部門や運用・保守サービスの領域へも確実に拡大しています。まさに“日立版”Customer 360の実現へと動き出しました」と、堀口氏は語ります。
日立グループは世界的な規模で多種多様な事業を展開しています。そのような巨大組織によるグローバルCoEの構築はまさに前例がなく、ゼロベースで検討を進めなければならない多くの課題に直面するなど、実現には高い壁があったことも事実です。そうした壁を乗り越えることができた要因はどこにあったのでしょうか? 1つには、推進役のメンバーの地道な努力にほかなりません。「単に情報共有や各種セミナーの実施といったコンテンツを一方的に提供するだけでなく、常に現場のニーズをヒアリングしてコンテンツやプログラムのブラッシュアップを図り、さらには各社のプロジェクトに個別に入り込んでCoEとして必要な支援を行いました」と堀口氏は語り、地道な活動こそがSMiLEへのエンゲージメントを高め、求心力の維持に貢献したと振り返ります。
また、紺野氏はSalesforceの支援についても高く評価しています。同社では、Salesforceのプロフェッショナルサービスを導入し、トップクラスのSalesforceエキスパートがSMiLEの立ち上げから伴走してきました。
「特に、SMiLEプロジェクトの立ち上げ時のビジョンの策定や、マスタープランの作成には時間をかけて臨んでいただきました。この最初のビジョン策定がしっかりとしていたからこそ、プロジェクトをぶれずに進める力が得られたと実感しています。その後も各種施策を展開する中、局面に応じたベストプラクティスや事例共有、数々のアドバイスなど、常にタイムリーかつ最適な支援を提供してくれました。今でも週に一回はミーティングをしています。本当に当社と一体になって臨んでくれています」(紺野氏)。
さらに、これまで例を見ない、世界の複数拠点にまたがるグローバル規模のSMiLEの取り組みも、グローバルな体制を持つSalesforceのプロフェッショナルサービスがなければここまでの活動の拡大はなかったと言い切ります。
「日本のCoEチームが統括する形で、アメリカとヨーロッパにCoEチームを構築したわけですが、Salesforceさんでも日本チームが統括する形でアメリカ、ヨーロッパでサポートチームを組んでくれました。日本が中心となり、グローバルの課題なども共有しながら支援してくれています。こうした体制がなければ、スピード感は全く違っていたと思います」と紺野氏。
今後も日立製作所ではSMiLEの活動をさらに拡充、強化し、「SMiLEでSalesforceユーザー同士が繋がることで、より大きな価値が生まれる」という新たなコミュニティ文化をグループ内に確立させていこうとしています。Salesforceに基づく顧客情報の一元化、そしてOne Hitachiによるグループ一体となった顧客提供価値の最大化が期待されます。