集計・分析コスト12分の1以下、
メール開封・クリック率2倍を実現
急成長企業のクラウド連携活用術
顧客情報・活動履歴等の一元化・可視化、データ集約・分析の効率化、
マッチング精度の向上等でさらなる成長基盤を確立
就活コミュニティ「irodasSALON」で就活支援サービスを学生に無償提供し、法人顧客とマッチングするビジネスモデルで急成長中の株式会社irodas。しかし社内的には、情報・ノウハウが属人化し、ビジネス状況の迅速な把握や安定したサービス提供が困難な状況でした。
そこで同社はさらなる事業拡大に向け、Salesforceへのシステム移行を決断。Sales Cloud、Service Cloud、CRM Analyticsなどを次々に導入し、複数のクラウドを連携活用するマルチクラウド化を進めた結果、数値の集計・分析コストが12分の1以下、マーケティングメールの開封率・クリック率は2倍に。さらに、マネジメント層が各種経営数値を瞬時に把握し、迅速に意思決定して次の施策を実行可能になりました。成長をいっそう加速させる基盤を確立した同社の取り組みを改めて見てみましょう。
1. 事業拡大や業務の変化を見据え、Salesforceの早期導入を決断
年間約1万3,000名の就活生に利用されている日本最大級の就活コミュニティ「irodasSALON(イロダスサロン)」。このサービスを2017年の創業と同時に立ち上げ、毎年200%以上の成長を続けているのが株式会社irodas(大阪府大阪市)です。
同社のビジネス全体では、BtoBの人材紹介事業が売上の約8割を占めています。その事業において、一般的な人材紹介会社との差別化のポイントとなっているのが、BtoCの「irodasSALON」です。キャリア講座や専属メンターとの面談といった就活支援サービスを学生に無償で提供することで多くの会員を獲得・育成し、学生の適性・希望と企業の採用ニーズを踏まえて的確にマッチングできることが、同社の最大の強みなのです。
その優れたビジネスモデルによって同社は、創業からわずか4年で、BtoCでは年間約2万名分の会員情報を管理し、BtoBでは約600社と取引するまでに成長。創業メンバー3名からスタートした従業員数は、インターン生などを含めて80名まで急増しました。
そんな同社がSalesforce各種製品の利用を開始したのは2019年。現在取締役COOを務める山中郁雄氏が入社した直後のことでした。当時の事業規模は、学生会員数約800名、取引先数約70社程度。大手人材紹介会社に在籍経験のある山中氏は、人材業界に共通して見られる課題が、このときのirodas社内にも同様に存在していた、と話します。
「人材業界の企業の多くは労働集約型で、情報やノウハウが属人化しています。人の出入りの激しい業界なのに、お客様の情報や活動の履歴がExcelや紙などで個別に管理されて共有されていなかったり、そもそも担当者の頭の中にしかなかったりして、その担当者が抜けると業務やサービスの質が低下してしまう。弊社もまさにそういう状態でした。
弊社は当時から、業界のトップシェアを狙うという明確な目標を掲げていました。それを踏まえると、現行のシステムは、短期的には大きな問題はなくても、将来、1学年数十万名の学生のお客様、数万社の法人のお客様を相手にするようになったとき、キャパシティ的に耐え得るものではありませんでした。それで、事業規模が拡大してシステム移行のコストやリスクが高まる前に、新たなシステムを導入すべきだと考えたのです」(山中氏)
山中氏は、さまざまな製品を比較検討する中で、Salesforceに目を留めました。今後想定される事業展開やオペレーションの変化に対応できる汎用性。Salesforce製品同士、あるいは外部のソリューションとAPIなどで容易に連携できる柔軟性。そうした点を評価してSalesforceの導入を決断し、以後、Salesforce各種製品を連携して活用する「マルチクラウド化」を進めていくことになったのです。
2. 2万の学生を企業とマッチング、数値の集計・分析のコストは12分の1以下に
同社は最初にSales Cloudを導入し、BtoBの領域に関する情報の一元管理を開始。法人顧客の情報やリクルーティングアドバイザーの活動履歴などをすべてSales Cloudに入力することで、ビジネスの全体像や個別の商談状況などが可視化・共有化されました。Salesforceの開発・運用を担当する経営企画部の小漆間拓人氏は、その効果についてこう語ります。
「営業上のこういう数字を見たいというとき、以前はデータが社内に散在し、どこにどんなデータがあるかを私しか把握しておらず、それらを集約する作業が本当に大変でした。Sales Cloudなら、従来作るのに何時間もかかったようなレポートを瞬時に出すことができ、しかも5分ぐらい教えれば誰にでも出せるようになります。結果として、売上を上げるための議論など、本来の仕事に時間を使えるようになりました」(小漆間氏)
続いて同社はService Cloudを導入し、学生会員の全情報、たとえばキャリアアドバイザーとの面談やメール・SNSでのやり取りの内容、紹介した企業、選考状況などのデータを蓄積。それによって、従来は担当者の能力や経験に依存して属人化していた業務が標準化され、誰が担当しても学生会員一人ひとりに最適なサービスを提供できる基盤が確立されました。
Service Cloudでは、年間約2万名の学生会員それぞれについて、「性格」「志向」など数十項目におよぶ個人情報を管理しています。そうした膨大な量の情報にもとづく各学生会員の適性の分析や、法人顧客とのマッチングを行う上で、大きな役割を果たしているのがCRM Analyticsです。
たとえば、ある法人顧客の採用ニーズを満たす項目が数十項目の中で10個ある場合、それらすべてに当てはまる学生をService Cloudから抽出し、法人顧客と学生それぞれに設定したセグメントに応じてマッチングします。CRM Analyticsなら、そうした情報の抽出や分析をワンクリックで行い、ダッシュボードですぐに見ることができます。もちろん、法人顧客数や採用枠がどれくらいあるか、キャリアアドバイザーがそれぞれ何名の学生を担当しているか、といったビジネスの全体状況もリアルタイムに把握できます。
「マネジメント層がCRM Analyticsのダッシュボードを見て共通認識を持ち、数値にもとづく分析や議論を行えるようになったのは本当に大きな進歩です。経営全体から現場の進捗、メンバー個人の状況までをひと目で把握して、意思決定や施策を迅速に行うことができます。過去を含めたリアルな数値をすぐに出せるので、事業計画や営業戦略も立てやすい。それまで私は、数値を集めて見るだけで毎日約1時間、月間30時間ぐらい費やしていましたが、今はCRM AnalyticsのURLをクリックするだけ。毎月1回、振り返りのための数値をスプレッドシートやExcelにまとめるという無駄な作業がなくなり、数値の集計・分析に要するコストは12分の1以下になりました」(山中氏)
3. メール開封率が業界平均の2倍に! マルチクラウドで成長スピードが加速
同社のSalesforce活用は続きます。アプリケーションプラットフォームHerokuを利用して学生向けアプリ「irodas」を開発し、2020年にリリースしたのです。このアプリは、主にイベントの際などに学生にダウンロードを促し、イベント情報の取得や面談の日程調整などに利用してもらうものです。このアプリを通じて登録された学生の情報は、自動的にService Cloudに蓄積され、リードとして管理されています。小漆間氏はいいます。
「アプリのインフラ環境であるHerokuはSalesforceと親和性が高いので、そうした連携が容易にできます。以前は、500名ぐらいの規模のイベントだと、そこで取得した学生のお客様の情報をExcelに入力するのがすごく大変で、それだけで1日が終わってしまうこともありました。そこが自動化されて本当に感謝しています」(小漆間氏)
さらに同社は2021年、Account Engagement (旧 Pardot)を導入し、BtoBのマーケティング活動で利用を開始しました。同社は法人顧客を年間数百社ペースで増やしてきましたが、インサイドセールスの人員は2名しかいません。今後、最小限の人員で顧客獲得のペースをさらに上げていくには、見込み客に的確なタイミングで正しくアプローチする必要があり、そのためにはマーケティングオートメーションの導入が不可欠だと考えたのです。
そうして始めたAccount Engagement (旧 Pardot)によるメールマーケティングは、稼働から2か月の時点で、すでに結果を残しています。見込み客に対して自動配信したメールの開封率は、業界平均の約20%に対して同社では約40%。クリック率も平均1~2%に対して約4%。いずれも約2倍の数値を叩き出しているのです。
複数のクラウドサービスを組み合わせて活用する「マルチクラウド」で目覚ましい成果を上げ、成長スピードをさらに加速させた同社。山中氏は最後に、今後の展望についてこう語りました。
「今は大学3~4年生のデータを蓄積して収益化していますが、今後はさらに領域を広げ、大学1~2年生からお客様を獲得していきたい。そうすることで、早い段階から長期インターンとして就業経験を積ませるなど、新たなサービスを提供できるようになるからです。また、弊社のサービスで最初のキャリアを選定した方が、次のキャリアを選ぶ転職支援も行っていきたい。そうした事業展開が可能なのは、Salesforceにすべての情報が蓄積され、個々のお客様を継続的に見ることができるから。そうしたサービスを実現した段階で、弊社もやっと社会的な価値を認めていただけるのではないかと思っています」(山中氏)