部門ごとに取り組んでいた
メールマガジン配信プロセスを
JALグループで統合へ
部門ごとに取り組んでいたメールマガジン配信プロセスをJALグループで統合へ
部門の枠を超えた顧客情報分析を可能にし、
より好感度の高いメールを絞り込んで配信するプロセスを整備
部門の枠を超えた顧客情報分析を可能にし、より好感度の高いメールを絞り込んで配信するプロセスを整備
1. すべてのSIerがSalesforce Marketing Cloudを選定
JALは、全世界に多くの顧客を抱え、世界有数のマイレージプログラムを運営しています。顧客との主要なコミュニケーション手段はメールマガジンです。マイレージ、JALカード、Web販売など、社内の複数の部署が、それぞれのリストから最適な送信先を絞り込んで、顧客にメールを送っていました。
JALのファンはJALの提供するさまざまなサービスを利用していますが、プロモーション用の顧客情報は統合されていませんでした。各部署がそれぞれ顧客情報を管理していたため、結果として同じ顧客にそれぞれの部署から何通ものメールが届いてしまい、それが配信しても読んでもらえないばかりか、顧客満足度を毀損するリスクになっていました。
配信先のターゲティングも洗練されていませんでした。部署内で管理している顧客情報をフィルタリングする程度ならできますが、たとえば、部門をまたいで「JALカードの利用履歴を分析してWeb販売部の提案をする」ことはハードルが高くできていませんでした。配信はバルク配信ツールを使っていましたが、その結果を表面的に見られはするものの、次の施策に生かせるような高度な分析はできていませんでした。
マイレージ事業部 有島 麻衣子氏は、「各部門はそれぞれに売上目標があり、それを目指すのは正しい形です。一方、現場からは、“お客様にJALグループとしてどう見られたいか“という意識が生まれてきました」と話します。
2019年、まずはメールによるコミュニケーションを改革するための検討を開始。現場の思いをきっかけに、最終的には「JALとしてのデジタルマーケティングを再構築する」という大きなテーマを設定することになり、経営からもゴーサインが出ました。
システム仕様の検討にあたっては、複数のコンサルティングファーム/システムインテグレーターにツール込みの提案を依頼しました。基本的にマルチベンダーで構成し、ベンダーロックインを避けるという方針を持っていましたが、メールを含むマーケティングオートメーション分野ではすべてのベンダーがMarketing Cloudを提案してきたことが印象に残っているといいます。
2. コロナ禍でも開封率が4~5%向上
2020年7月、JALは正式にプロジェクトをスタートさせ、Marketing Cloudの契約を結びました。プロジェクトの初期にCDPを定義し、すべての顧客情報を統合。 Marketing Cloudを通して、自在に分析できるようにしました。これにより、以前は不可能だった他部門のサービス利用傾向に基づくターゲット抽出などが可能になります。
メール送信頻度の問題では、部門と配信対象者のどちらに対してもスコアを付けることにしました。部門間の公平性を担保するために、より多く読まれた“好感度の高い”メールを制作した部門は上位にランクされ、配信頻度を高められます。これは、メールのコンテンツを読者の興味に適合させたものに改善することと、ターゲットをうまく絞り込んで開封率を高める取り組みを活性化させるという成果を生んでいます。顧客をスコア化したことで、1人の顧客が1日に受け取るメールの数を調整できるようになりました。
具体的な成果としては、開封率の向上が挙げられます。Web販売部では開封率が4~5%アップ。クリック率も0.1~0.2%向上しました。稼働時期がコロナ禍で航空券需要が落ち込んでいた時期であることを考えれば、十分な成果と言えるでしょう。
有島氏は、「最大の成果は担当者のモチベーションアップです。配信直後に結果がすぐわかるため、その場で振り返りができるようになったことは大きいですね。いまは、各部門の担当者が集まる場を設定して、積極的に内容をより良くするための議論を重ねています。全員の目線が上がってきたことを感じます」と話します。
メール配信の結果を含め、すべての情報はCDPに集められ、それらのデータはTableauで分析することができます。配信対象の絞り込みをより精緻にするとともに、メール配信結果をより深く分析できるようになったことで、議論は濃密なものへとなってきています。
3. エキスパートコーチングでさらなる成果を
JALは、異動の多い職場環境にあります。そのため、Marketing CloudをJAL仕様で使うにあたって、どの機能を使って何ができるのかを明確化し、蓄積したナレッジをだれもが使える状況にしておく必要があります。
Web販売部若浦 優斗氏は、「スキルアップにプレミアサポートは有益です。さらに進んだエキスパートコーチングも利用することにより、やりたいことをどんどん進めながら、スキルとナレッジを組織にしっかりと根付かせたいと考えています」と話します。
現在はシナリオの追加などに取り組んでいますが、将来は部門を横断したJALグループとしてのデジタルマーケティングを実現したい考えです。すでに顧客情報は統合されているため、JALグループのすべてのサービスの中から、どんなものが選ばれたのか、そして選ばれなかったのか、という情報がわかります。それを深堀りして分析することもできますし、顧客の行動を瞬時に判断して何らかの提案をするアクションベースのシナリオも検討中です。
さらに、メールマガジンの統合もできるかもしれません。現在は、配信数の制限がある中で好感度の高いメールコンテンツを作るため各部門が知恵を絞っています。このプロセスでは、HTMLコンテンツやグラフィックの制作にコストがかかることも多く、マーケティング予算の多い部門の方が魅力的なコンテンツを作りやすいというジレンマも抱えています。テンプレート化を進め、自由度も許容しながら1本のメールに複数の部門のコンテンツを統合することができれば、より顧客個人のニーズに合うように掲載順位を入れ替えてパーソナライズメールを送るなどの施策も視野に入っています。
若浦氏は、「Marketing Cloudに備えられているAIやジャーニー配信機能をうまく活用しながら、配信毎の反応の違いを解析しています。最終的に判断するのは人間だとしても、AIが示唆を与えてくれるような仕組みは理想的ですから。使うにあたって人間側の思想の組み立て方を学ぶためにも、プロフェッショナルがサポートしてくれるのはありがたいです」と話してくれました。