制度照会対応等の業務効率化と対応の迅速化に向け
「国家公務員制度ナレッジベース」をSalesforceで構築
電話やメールなどさまざまなチャネルから寄せられる制度照会。業務フローを標準化した上で、業務プロセスを一部自動化し、照会案件のナレッジベース構築を進めることで、各府省と人事院のそれぞれの職員にとって、より付加価値の高い業務に費やす時間を創出し、より良い行政サービスを国民に提供することを目指す
1. 共有する仕組みがなかった制度照会対応業務
国家公務員の人事行政を担う行政機関である人事院。国家公務員が働きがいを持って、いきいきと仕事ができる環境を創り出すための施策を展開しています。
人事院は、国家公務員の採用や勤務時間、給与などのさまざまな人事制度を所管しています。この人事制度に関する問い合わせを、各府省の人事担当者から受け付け回答する「制度照会対応業務」も人事院の業務の1つです。システムの導入以前は、照会内容や回答を記録する方法や様式などが統一されておらず、担当者や部署別に独自の電子ファイルや紙で管理されていたため、情報にアクセスするのに時間がかかり、一連の業務に時間と労力が費やされていました。
また、照会内容や回答などのナレッジ(知識)を共有する仕組みがなく、前任職員からの知見の継承や各地域にある人事院の地方事務局(所)との情報連携が困難という課題がありました。一方、問い合わせを行う各府省においても、同じ府省に所属する他の人事担当者が以前に照会した内容・回答を共有する仕組みはまちまちでした。
このような状況を改善するため、人事院は、人事院だけでなく各府省も含めた制度担当者の業務効率化と対応の迅速化を目指して、制度に関する照会や回答に関するナレッジを蓄積し、よくある質問(FAQ)として参照できる仕組みづくりに着手しました。
2. 短期間でのシステム構築とアジャイル的なアプローチ
こうして、人事院は「国家公務員制度ナレッジベース(SEDO)」の構築プロジェクトを開始しました。SEDOの構築により期待される効果として、1.人事院が所管する制度照会において、各府省の人事担当者等も含めた関係者の業務の合理化・迅速化、2.人事院内各課の政策の企画立案にかける時間の十分な確保、3.制度照会データの集約による関係者との制度照会内容等の共有、4.集約されたデータから得られる傾向などから、照会対象である制度そのものに対するインサイト(気づき)の獲得の4つを掲げました。
システムの構築は「クラウド・バイ・デフォルト原則」に則り、既存のSaaSサービスをカスタマイズする方法がとられました。今回、 SEDOのシステム基盤には、セキュリティ(ISMAP*に対応)、開発期間の短さ、そしてライセンス数による課金体系が主な決め手となり、Salesforce Service Cloudを中心にExperience Cloud(注:旧名Customer Community)とSalesforce Knowledgeが採用されました。
*ISMAP (Information system Security Management and Assessment Program :政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)
人事院ではわずか2か月で試作品(プロトタイプ)を構築し、試験稼働と各府省地方機関等への利用者拡大のための改修を経て、トータル1年で本格稼働を開始しています。
「今回、限られた期限内にシステムを構築する必要があったのですが、Salesforceを採用したことで、短期間で構築できました」
SEDOの設計にあたっては、各府省の人事担当者が迷わずに検索や照会内容を入力でき、回答内容もシームレスに確認できるよ う、直感的な操作性を意識されたそうです。そのうえで将来のニーズ変化にも柔軟に対応できるよう、システムのアップデートや機能拡張も視野に入れています。
「実際にシステムを構築する際に実感したメリットは、ユーザーの要望を取り入れながら修正を加えていくアジャイル的なアプローチができたことです。標準機能をうまく組み合わせることで、改修やテストの負担を減らすことができ、UIの改善に時間を割くことができました。ドキュメントやヘルプも充実していて、事業者とのやりとりに役立つのはもちろん、ちょっとした変更であれば、自分たちで試してみることができるのも魅力です。実際、SEDOでは、当初、システムの設計が詳細にできていなかった職員からの苦情相談の対応業務もシステムに組み込むことができました」
3. システム導入による変化
人事院で構築したSEDOでは、各府省の人事担当者は、SEDOの専用ページで人事制度に関するよくある質問(FAQ)について、キーワード検索やよく参照されるFAQランキング、人事制度の一覧から参照できるようになりました。
さらに、同じ府省に所属する他の人事担当者が以前に照会した内容・回答も閲覧できます。
解決策が見つからない場合は、照会フォームに照会内容と対象制度などを入カ・選択して送信すると、人事院の担当局課に自動で照会が届けられます。また、各府省の人事担当者には、照会の受付と回答が完了したそれぞれタイミングで通知メールが届きます。
これまで人事院の職員が電話やメールなどで行っていた照会の受付業務は、SEDOにより自動化され瞬時に行えるようになりました。照会の受付から回答案作成、承認までの進捗状況が可視化され、人事院の中だけでなく、各府省に対しても進捗を共有できるようになりました。 また、人事制度に関する照会を電話を使わずに行えるようになり、テレワークなど柔軟な働き方への支援につながっています。
一方、人事院では制度照会対応業務の進め方を統一したことで、異動のためこれまでと異なる制度を担当することとなった職員も、新たに担当する制度照会対応業務にすぐに携わることが可能になったなどの効果がみられています。
「照会・相談のやり取りをシステム上で完結させることで、紙での管理から脱却する道筋ができたという意義もあります。これまでは照会の回答作成のために過去の照会記録等の資料を調べるには、資料が紙で管理されていたため出勤しなければならないことがありましたが、この点も改善できると考えています」
「照会の過程で、類似案件の検索や関連部署への確認などもシステム内で完結できるよう心がけました。また、過去の照会履歴やFAQをあらかじめ登録しておくことで、各府省の人事担当者は必要な情報を容易に参照できます。これにより類似の質問をする手間を省くことが可能になると期待しています」
4. 蓄積されたデータの分析も視野に
2023年11月のSEDO本格稼働開始から約8か月が経過し、FAQは現在約1200件が登録され、多くの利用者に参照されています。 また、各府省から寄せられる照会の内容、照会された時期、照会の対象となった制度、その照会に対する人事院の対応などのデータを、SEDOに記録・蓄積できるようになりました。仮に、ある制度に関する照会が多く寄せられ、適用すべき規則・通知などを回答して対応したというケースが多かった場合は、その制度の周知や説明の仕方に課題が潜んでいる可能性があります。
「照会データには、各府省の人事担当者や国家公務員の“隠れた本音”が含まれているのではないかと考えています。照会データをSEDOに集約し分析することで、次に打つべき施策の根拠となる新たな気づき(インサイト)が得られることを期待しています」
現在、各府省の人事担当者が、照会内容に対応する制度を「不明」と登録した照会は、人事院の職員が内容を見て担当局課を判断しています。今後、SalesforceのAI(人工知能)であるEinsteinが照会内容を分析し、関連する制度や担当局課を提案できるようになれば、より多くの人からの照会も対応できるようになるかもしれません。
「最終的な判断は人間が行うことに変わりはありませんが、Einsteinが質問受付から回答案提示までの業務をさらに効率化するための支援を行う場面が今後増えていくかもしれません」
「今後、照会の頻度などを踏まえたFAQの拡充や各府省から必要とされる情報を積極的に発信できるような機能の追加などを通して、SEDOの利用を促し、SEDOを利用することで自己解決できる案件が増えるなど、業務の効率化などの効果をさらに引き出していくことができると期待しています」
今回、SEDOを構築し、制度照会対応業務等の効率化と迅速な対応を進めている人事院ですが、さらにこの先、人事制度に関するニーズを的確に把握し、国家公務員がより働きやすい環境をつくり、より良い行政サービスを国民に提供することを目指すとしています。
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