2,000名が円滑に一斉移行!
フィールド業務改革をConsumer Goods Cloudで実現
パイロットプログラムへの参加を契機にConsumer Goods Cloudを導入し、
業務の効率性・確実性を高めるフィールド活動支援システムをスピード構築
花王グループでは長年、フィールド業務の改善を段階的に進めてきました。フィールド活動を支援する既存のシステムは、業務要件をもとにウォーターフォール型での開発を繰り返してきたものでしたが、昨今のモバイル端末の急速な変化に対応できず、刷新を必要としていました。
そんな中、花王グループは、パイロットプログラムへの参加を契機として、Consumer Goods Cloudの導入を決断。コロナ禍でも大きな遅延なく導入プロジェクトを進め、約8割を標準機能で対応することによってスピード導入を実現しました。そして、約2,000名が一斉に、かつスムーズに新システムへ移行し、効率的かつ確実なフィールド活動を行えるようになったのです。売り場における業務の変革を成し遂げた、花王グループの取り組みの経緯と成果を紹介します。
1. フィールド活動支援システムの刷新を念頭にパイロットプログラム参加を決断
花王株式会社や株式会社カネボウ化粧品など、日本を代表する日用品・化粧品メーカーを擁する花王グループ。その中の販売会社として、グループ全体の卸売・販売機能を担い、流通・小売を通じて商品をエンドユーザーへ届けているのが、花王グループカスタマーマーケティング株式会社(以下、KCMK)です。また、同社を中心とするKCMKグループには、売り場づくりや商品の推奨の役割を受け持つ、花王フィールドマーケティング株式会社(以下、KFM)があります。
KCMKグループは長年、市場・業界の動向や、会社統合による取扱商品の拡大、また、それにともなうフィールド業務の変化に対応するため、フィールド活動支援システムを開発し、必要に応じて機能を拡張・進化させてきました。2015年には、KCMK用・KFM用それぞれに新たなアプリケーションシステムを立ち上げ、フィールド業務におけるスマートフォン対応を実現。2020年にはタブレットへの対応も完了しました。
しかし、利便性を追求して徹底的に作り込まれ、開発当時のフィールド業務に最適化された既存のシステムは、柔軟性が低く、改修やメンテナンスに工数と時間がかかりました。KCMKの管理部門 営業情報部 部長としてアプリケーションシステム全般に関わる前田保房氏は、当時の状況をこう振り返ります。
「特に問題となっていたのが、モバイル端末の急速な変化への対応です。スマートフォンの機種が新しくなると、画面上の改行位置やボタンの見え方が違ってくるなどの不具合が出てくる。すると、そのつど担当者が、機種ごとの対応方法を社内に周知しなければなりませんでした。システムのバージョンアップや基盤の変更を繰り返してコストと工数を費やしても機能は変わらず、外部環境の変化に追いつけませんでした。当初、見やすさ、使いやすさにもとづいた設計を目指していましたが、必要機能を満たすことを優先に対応し、利便性が損なわれていました」(前田氏)
そんな中で2019年、同社に転機が訪れました。きっかけは、セールスフォース・ジャパンから、消費財業界向けのソリューションとして開発中だったConsumer Goods Cloudのパイロットプログラムへの参加を打診されたことでした。システムの刷新を検討中だった前田氏は、「店舗施策の変革をより早く実現するためのパッケージ」というConsumer Goods Cloudのコンセプトを知り、試してみる価値は十分にあると判断。社内の承認を経て、花王グループの参加が決定したのです。
2. 3か月間のプログラムで活用のめどが立ち、Consumer Goods Cloudの導入を決定
Consumer Goods Cloudは、効率的な売り場づくりやフィールド業務の最適化など、消費財を扱う企業の店舗施策を変革することで、収益と投資対効果の最大化を図るソリューションです。従来のSalesforce製品でそれらを実現しようとする場合、Sales CloudやService Cloudなどをユーザーそれぞれの業務や目的に合わせてカスタマイズする必要があります。それに対してConsumer Goods Cloudは、これまでに蓄積されたノウハウやユーザーの声、市場調査データなどを活かし、従来ならカスタマイズしていた部分、つまり消費財を扱う企業の多くで必要とされる機能群をテンプレート化し、SaaSとして提供します。より迅速な店舗施策の変革を実現するため、いわば業界のベストプラクティスのパッケージ化を目指したわけです。
パイロットプログラムには、グローバルで複数社が参加しました。その中で唯一、日本から参加したのが花王グループ。店舗の定期巡回や改装の棚替、商品の推奨販売など、KFMの管轄する業務をConsumer Goods Cloudでいかに改善するか、という現場の視点を盛り込むため、KFMからは経営企画部 事業企画チーム マネジャーの磯谷淳一氏らが参加しました。
2019年夏にスタートしたパイロットプログラムは、2週間に1回のペースで実施される定例会を中心に進められました。セールスフォース・ジャパン側がプロトタイプを作成、定例会で花王グループ側が業務内容への適合性、要望などをフィードバックし、そして次の定例会で実際の画面を見て検証し、また次の定例会までに改善する、というアジャイル開発で完成形へ近づけていきました。
「実際の業務データを入力して、現場と同様にタブレットを使いながら、『こういう動きでこんな使い方ができます』『それならこういう形にできませんか?』という具合に進めていきました。実際の画面の遷移などを確認できるので、活用場面をイメージしながら意見や要望を伝えることができました。セールスフォース・ジャパンの米国本社のエンジニアの方にも花王グループのトップと話をしていただき、最終的に必須の要件はすべて盛り込んでいただけました」(磯谷氏)
開始から約3か月、プログラムの集大成となったのが、模擬店を使ったロールプレイです。擬似的に再現した店舗に人員を配置し、Consumer Goods Cloudを使用して、KFMの業務をスムーズに行えることを確認。活用の見通しが立ち、花王グループはConsumer Goods Cloudの採用を決定しました。また、プログラムを通じて得られたフィールド業務のフローの知見は、日本の消費財業界特有の事情を示す貴重な視点として、国内向けのConsumer Goods Cloudに機能追加され、2019年9月の正式リリースに至ったのです。
3. コロナ禍の中、約2,000名のユーザーが一気に利用を開始し、スムーズに移行
導入プロジェクトは、コロナ禍による第1回目の緊急事態宣言が発出される直前の2020年1月に開始されました。当然ながら花王グループも、店舗でのフィールド活動の制限・縮小を余儀なくされ、プロジェクトの進め方を一部見直さなければなりませんでした。それでも、全プロジェクトメンバーがリモート環境で開発に取り組み、大きな遅延もなく計画を遂行しました。また、スピード導入を実現するために掲げた、Consumer Goods Cloudの標準機能をなるべく活用するという目標についても、全体の約8割を標準機能で対応するという理想的な形で達成。2021年9月に本格稼働までこぎつけることができました。
ユーザーは全体で約2,000名。店舗営業担当者やラウンダーが、モバイル端末から新システムを利用して、フィールド業務における各場面で、訪問予定や店舗情報、作業内容などを確認し、作業報告や運転日報などを作成・登録していきます。そこにフィールド業務を効率化するさまざまな工夫を盛り込んだ、と磯谷氏はいいます。
「従来のシステムは、どんな作業をしてどれぐらいの時間をかけたかなど、こと細かに情報を入力する仕組みでした。それが現場の大きな負担になっていて、かつ通信状況の不安定さの要因にもなっていました。そのためConsumer Goods Cloudでは、ワークフローそのものを見直し、作業をしたかどうかを『はい』『いいえ』で答えるシンプルな形に変えたり、撮影した売り場写真をアップする機能を実装したりするなどして利便性を高めました。それによって、入力のストレスが軽減され、活動をより効率よく、確実に実施できるようになりました」(磯谷氏)
前田氏は、コロナ禍にあっても、まったく問題なく新システムへ移行できたこと自体が大きな成果だ、と強調します。
「2,000名が一斉に使い始めたのに、止まることなくうまく動いたというのは、自分でもちょっと信じられないようなことです。もちろん、既存のシステムの経験が活きている面や、各種コミュニケーションツールの発達によって効率的に問題を解消できた面はあるでしょう。過去の経験では、フィールド活動において、システムが変わるだけでストレスを感じるユーザーが多かったのですが、これほどスムーズに移行できたのは本当に期待以上でした」(前田氏)
花王グループが、長い年月をかけて段階的に進めてきたフィールド業務の改善は、Consumer Goods Cloudによって大きく前進しました。効率化によって生まれた労働力をどこへ集中させるか、蓄積されたデータをいかに活用するかなど、Consumer Goods Cloudを基盤とする花王グループのフィールド業務の革新は、今後さらに加速していくことでしょう。