ダッシュボードとフェーズマネジメントで営業を改革
フードサービス営業 利用定着化で商談化数が前年比126%に!
システム統合による業務効率化で営業の訪問件数が前年比120%に向上、
“本当に活用できるダッシュボード”“導入につながるフェーズマネジメント”
でユーザーがメリットを実感、重要商談に対するアクション率が12%アップ
1. 付加価値を生まない内勤時間増加、散在する情報……、営業部門に課題が山積
1925年にマヨネーズ、1958年にドレッシングの製造・販売を日本で初めて開始するなど、創業から1世紀以上にわたり、世界の食と健康に貢献し続けてきたキユーピー株式会社。同社は現在、4か年の第10次中期経営計画(2021~2024年度)において、「持続的成長を実現できる体質への転換」をテーマに掲げています。その意図について、IT推進部部長の安東洋一氏はこう説明します。
「弊社には今、日本の食のマーケットの縮小、さらにはコロナ禍の影響もあり、企業体質から変えていかなければならない、という危機感があります。そこで『転換』を合言葉に、『利益体質の強化と新たな食生活創造』『社会・地球環境への取り組みを強化』『多様な人材が活躍できる仕組みづくり』という3つの経営方針を定めました」(安東氏)
外部環境が激変する中、かつてないほど強く変革を迫られているのは、同社も他の多くの企業と同様です。ただ、同社には、他社と比べて優位な点がありました。それは、パンデミック以前の2017年から、Salesforceを活用し、今回の「転換」に繋がる動きを取り始めていたとのことです。営業推進部販売戦略課の田中涼氏によると、2017年当時、同社の営業部門には課題が大きく分けて5つあったそうです。
「1つは、付加価値を生まない内勤時間が増えていたことです。社内には部分最適で作られたたくさんのシステムがあり、お客様に対する営業活動の情報などが散在していました。そのため、情報を人力でまとめるなどの内勤作業が多く発生し、営業がお客様への提案という本来の業務に集中できない環境が多く見受けられました」(田中氏)
田中氏は、日々の営業活動の中で、得意先から依頼されたことに対してPDCAを回すことが中心の営業スタイルになってしまう傾向があることにも課題があると感じました。
「お客様からの問い合わせやサンプル送付のご依頼は、営業が特にアプローチしなくても一定数寄せられます。そのため営業は、それに対応しているだけで日々の業務がいっぱいになってしまいます。今振り返ると私自身がその例に当てはまるのでお恥ずかしいのですが、お客様にサンプルを送りっぱなしで刈り取りは後回し、自分の仕事によってどのぐらいの売上や利益が生まれたかをあまり考えられていませんでした。依頼されたことや前年の動きに対してPDCAを回すことを中心にしており、ゴールをしっかり見定めて自分の目標を立て、それに対して優先順位を付けて行動する、という意識が足りていませんでした。」
また、営業推進部販売戦略課の田村愼記氏は、営業のノウハウが属人化し、部門内で伝達・活用できていないという課題もあった、といいます。
「営業日報のほか、『FIND情報』という成功事例を発信する仕組みや、『売り方自慢大会』のような事例の共有会などはありましたが、具体的にどのような企画やカテゴリー、方法でお客様に採用されたか、という肝となる情報をしっかりと蓄積・共有できていませんでした。そのため、事例を聞いた直後は『なるほど』と思っても、1年も経つと振り返ることができず、再現性がしづらい環境でした。(田村氏)
そうした状況に強い危機感を覚えた同社は、2017年9月からSalesforceの導入を決断したのです。
2. さらなる成果に向け、ユーザーにSalesforceの価値を実感させる改善策を実施
とはいえ、1万名以上の従業員、そして100年以上の歴史を有する同社において、慣れ親しんだ動きを変えることは、そうたやすいことではありません。同社はまず、社内に50種類以上存在していた営業関連のシステムをSalesforceに統合。それと平行して、Salesforceを積極的に活用して成功事例を出す「積極活用課」を各支店に設置したり、3年間で200回におよぶ勉強会を実施したりして、Salesforceの利用の定着化を図りました。
導入期では、そうした施策と工夫の結果、課題の1つだった無駄な内勤時間は大きく削減されて、営業が本来の業務に時間を割けるようになり、訪問件数は前年比約120%に増加しました。また、Salesforceの使いやすさを向上させるため、営業現場の要望を取り入れ、年間約700テーマのシステム改修を実施。それによって、勤怠修正依頼や残業申請など、従来の紙による申請等がほぼ不要になり、管理工数は約5分の1に、残業時間は年間約1.1万時間削減されたのです。
ただ、そうした成果にもかかわらず、営業現場の反応はよくなかった、と田中氏はいいます。
「現場の営業だけでなく、積極活用課のメンバーからも、『入力した結果、なにをどう見ればいいかがわからず、メリットを感じない』『この程度なら従来の日報システムと大差なく、むしろ入力項目が増えたぶん大変になった』といった声が多く聞こえてきました。営業現場に価値を実感してもらえなければ、私たちの目標とする課題の解決につながるような活用は進みません。そう考えて、2020年6月以降を変革期と位置づけ、Salesforceの活用と推進の方針を見直していきました」(田中氏)
再検討の末に導き出した改善の取り組みは2つ。1つは、“本当に活用できるダッシュボード”の構築です。
「セールスフォース・ジャパンのオンライン学習サービスmyTrailheadなどを通じて改めて認識したSalesforceの一番のメリットは、やはりダッシュボードを活用して活動状況を“見える化”し、それを次のアクションにつなげられることです。そこでまず、営業が見るべき内容が入ったダッシュボードのモデルとなるパッケージを作成し、各支店の積極活用課に配布しました。あわせて、そのパッケージを自分たちの業務に合う形に自ら編集できるよう、各支店でダッシュボードを作れる人材を育成しました」(田村氏)
そして、もう1つの改善策が、“導入につながるフェーズマネジメント”の構築です。
「Salesforce導入当初は、とっつきやすさを重視して、営業の業務プロセスをわりとざっくりとしたフェーズに分けていたのですが、実際にSalesforceを使った営業からは、『フェーズを進めるタイミングがわかりにくい』というご意見、アドバイスが多く寄せられました。そこで、Salesforceのフェーズマネジメントに関するセミナーや、社内のお手本となる営業の意見を参考に、各フェーズの基準とゴールを明確に設定し直しました。このゴールを達成したら次のフェーズへ進む、逆にゴールを迎えられないならそのフェーズの中に課題がある、と現場の営業やマネージャーがひと目でわかるようにしたわけです」(田中氏)
3. 商談化数が前年比126%に!「夢はSalesforceのグループ全社展開」
そのような、ユーザーにメリットを実感させることを主眼とした販売戦略課の改善策の結果、Salesforceの利用定着化は急速に進展しました。安東氏はこう話します。
「社内でアンケートを取ったところ、『Salesforceで成長マイルストーン(社員の評価指標)の進捗を管理することは、マネジメントの上で有効だと思いますか?』という質問に対し、マネージャー層の約60%が『そう思う』と答え、『ややそう思う』を入れると100%に達しました。また、現場の回答についても、『そう思う』が約60%、『ややそう思う』を入れると約90%となっています。さらに、『効果的なセルフマネジメントができている』『上司と事実にもとづいたコミュニケーションができている』など、Salesforceに対する社員の前向きなコメントがたくさん寄せられています」(安東氏)
Salesforceに対するユーザーの評価が一変したことは、営業推進部販売戦略課の髙橋萌衣子氏も強く実感しているそうです。
「私は変革期の間、育休を取っていたのですが、復帰して本当に驚きました。以前の社内では、業務の会話の中でSalesforceという言葉がポジティブに使われることはほぼなかったのに、復帰後、Salesforceの活用を非常に前向きにとらえる言葉が社内を飛び交うようになっていたからです。『私、違う会社に戻ってきたのかな?』と思ったほどです。多くの社員がしっかりゴールを見据えてPDCAを回そうという姿勢になっているので、私も早く皆に追いつかなければ、と感じています」(髙橋氏)
営業部門におけるそうした取組成果を踏まえ、同社では現在、IT推進部業務シンプル化チームの乗鞍彰子氏が中心となって、スタッフ部門へのSalesforceの展開を併行して進めています。
「スタッフ部門においてSalesforceでどのように業務を“見える化”し、行動を変えていくか、Salesforceをコミュニケーションツールとして活用して営業部門との間をどうつないでいくかなどについて、各本部の推進メンバーと話し合いながら進めています。今回の取り組みですごくおもしろいと感じるのは、単にITツールを使いこなすという従来のIT部門的な観点ではなく、業務プロセスにまでしっかりと踏み込み、スタッフ部門と一緒になって活用を考えられること。少しずつでも取組の効果が出ていることを実感しつつ、ITと業務をつなげていく事を推進しています」(乗鞍氏)
推進の旗振り役として、「夢はSalesforceのキユーピーグループ全社展開」と語る安東氏は、最後をこう締めくくりました。
「活動を効率的に“見える化”して改善につなげられることが、Salesforceの最大の利点です。ただ、世の中に“魔法のツール”というものはありません。おいしいお米を収穫するためには、田起こしをして苗を植え、肥料を与え、雑草を抜くなど、人の手を加える必要がありますが、Salesforceも同じです。そうした苦労をすっ飛ばし、結果だけを求めようとするとうまくいかないのです。弊社の場合、IT部門と現場部門が連携を取ってそうしたステップを踏んだことが、結果的にSalesforceの活用の成功につながりました。導入をご検討中の方には、1つの事例として参考にしていただければと思います」(安東氏)