高齢者向けの賃貸住宅や老人ホームを運営する少数精鋭企業におけるDXの実現
アナログだった会社がSalesforceを導入
より戦略的な渉外活動とチームワークの強化によって、
業務効率を2倍以上に向上
アナログだった会社がSalesforceを導入
より戦略的な渉外活動とチームワークの強化によって、業務効率を2倍以上に向上
社会医療法人明生会グループの渉外連携部門が独立し、医療介護連携や老人ホームの運営などを手掛けている株式会社 片町メディカルソリューションズ。以前は情報管理をスプレッドシート(表計算シート)と紙で行う「アナログな会社」でしたが、2019年にSalesforceを導入、短期間で情報基盤のデジタル化を成し遂げています。
これによって、日報の管理や集計の時間を大幅に削減し、会社経営層やグループの上層部への報告書を、日次で提出できる体制を確立。また社員のスケジュールや活動履歴を共有することで、社員の戦略性も向上し、チームメンバー同士の連携も円滑化されています。その結果、渉外業務の効率は以前に較べて2倍以上に向上。他病院からの患者紹介や転院依頼にも、迅速に対応できるようになっています。
1. かなり非効率だった「スプレッドシート+紙」による情報管理
「価値ある情報とサービスを提供し、患者様の安心安楽に貢献できることを目指します」。このようなビジョンを掲げ、患者の相談サービスや地域医療関連施設との情報交換などの医療介護連携、セミナー開催や市場調査などの企画運営業務、有料老人ホーム「千林苑」などの施設運営業務を行っている、株式会社 片町メディカルソリューションズ(以下、KMS)。患者の利益になることを第一に考え、地域医療を担う他の病院や施設と連携しながら、医療介護における幅広い領域で、丁寧なサービスを届け続けています。その情報基盤として、重要な役割を担っているのがSalesforceです。
その会社の成り立ちについて「もともとは社会医療法人明生会グループで医療介護連携を担っていた渉外連携部門が、平成15年(2003年)に独立する形で会社がスタートしました」と説明するのは、KMSで統括補佐を務める川口 光也 氏。すでに当時から有料老人ホームなどの施設も運営していたため、その運営管理も任されることになったのだと言います。「医療分野における渉外連携とは、他の病院の相談者や行政、ケアマネージャーと会話をし、必要であればこちらの病院や施設に患者様を引き受ける、という仕事です。その目的は売上や利益ではなく、患者様に最適な医療・介護環境をご提供することにあります」。
そのためには地域医療施設を頻繁に訪問し、地域にどのようなニーズがあるのか、各病院、施設の現状はどうか、病院での治療から在宅介護に移行すべき患者はいるのかなど、きめ細かく情報を集めなければなりません。そのために以前は「1日8件」という訪問ノルマを設定し、そこで入手した情報をスプレッドシートに入力、紙にプリントアウトした上で、病院ごとにバインダーに綴じて管理していたと振り返ります。「以前はこのようなバインダーが300冊以上、壁一面の資料棚に格納されていました。シートの総数は数千枚に上っていたと思います」(川口氏)。
ここで大きな問題となっていたのが、紙に記録された情報の管理に手間がかかることでした。実際にどれだけの訪問を行い、どれだけの患者や高齢者を引き受けることができたのか、という実績を集計するためにも、かなりの時間を費やしていたと言います。状況が変化した場合にはシートの記載を更新する必要がありますが、最新情報に更新されていないシートも少なくなかったと語ります。
また、訪問活動の際には過去の状況を確認する必要がありますが、膨大な数のシートから必要な情報を見つけ出すのにも、かなりの時間が費やされていました。訪問スケジュールの管理も紙で行われていたため、他の社員のスケジュールなどを共有することも困難でした。
「昼の時間は訪問に割り当てたいので、情報の管理や集計作業はどうしても夜間に行うことになりますが、そのために毎週4~5時間の残業が必要でした。また、日報や翌日の訪問スケジュール作成にも時間がかかっていたため、ほぼ毎日のように夜の9~10時まで仕事をしていました」。
2. Salesforceを導入し、医療業界に適した仕組みを内製
このような「アナログなやり方」が非効率であることは、当時の社長も認識していたと川口氏。社長自身も、社員の活動履歴や案件の進捗状況を、すぐには見ることができない状況だったのです。そこで社長と共に着手したのが、デジタル化に向けた検討でした。まずインターネットでSFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)などの製品を調査し、そのうち数社をピックアップ。これらの会社から説明を受けながら、製品選定が進められていきました。
「そのうちの1社がSalesforceだったのですが、実際の画面を見ながら説明を聞いて、これならアナログ人間でもすぐに使いこなせると確信しました。画面構成が非常にわかりやすい上、不要なメニューを画面から取り除くこともできたからです。必要最小限のメニュー構成にしておけば、デジタルに不慣れな社員でも迷うことなく使えます。また利用料金が月額数千円からと、最も安価だったことも決め手になりました」。
このような理由からSalesforceの採用を決定し、2019年10月には導入をスタート。まずは顧客情報オブジェクトを活用し、訪問先である病院などの情報管理を開始します。次に老人ホームの入居者情報の管理を追加。さらに、訪問履歴などの案件管理も実装し、社員の活動成果を可視化するダッシュボードも作成していきます。これらの展開を2020年1月までに完了し、同年4月には「脱スプレッドシート」を実現しています。
「医療業界は他の業界と異なる部分が多いため、既存テンプレートをそのまま当てはめることはできませんでした」と川口氏。しかしSalesforceは自由度が高いため、このような差異を吸収したシステムの内製も、それほど難しくはなかったと言います。「もちろんこれができたのは、Salesforceのしっかりとしたサポート体制があったからです。担当者のフットワークがよく、私たちのオフィスにも頻繁に来てくれました。導入してからつきっきりのサポートによって、必要な仕組みを一緒に構築してくれたのです」。
その後、2020年夏に「rakumo for Salesforce」を導入、社員のスケジュール管理をSalesforce上で行えるようにしています。同年末には「Fleekform for Salesforce」も導入し、定形帳票の作成・出力も自動化。これらもSalesforceが提案し、AppExchangeから購入したと語ります。
「老人ホームの入居者に関しては、病歴などを記載した入居者カルテが必要なのですが、病気や怪我などで病院に行く必要が生じた際には、この入居者カルテをプリントアウトして病院に持参する必要があります。以前はこれもスプレッドシートで作成していましたが、情報が古く提出のタイミングで修正しなければならないことが多々ありました。今では最新情報がSalesforce上にあり、それをFleekformで帳票出力するだけなので、すぐに入居者カルテを持っていけます。当社の社長からも『これはホンマに素晴らしい、しかも安い』と評価されています」(川口氏)。
3. 報告書は日次提出が可能に、渉外業務の効率も2倍以上に向上
各種情報をスプレッドシート+紙からSalesforceへと移したことで、情報管理に必要な時間は大幅に削減されました。以前は残業で行っていた日報の整理や集計の作業も不要になっています。
「Salesforce導入前は月末の他、社長や会社の明生会グループの上層部から言われたタイミングでも、スプレッドシートで報告書を作成していましたが、今ではデイリーで報告書を提出しています。もちろん作成の手間はかかっていません。Salesforceに蓄積された情報を、Fleekformで出力するだけでいいからです」。
しかしSalesforceがもたらした効果は、これだけにとどまりません。社員の意識も大きく変化しています。
「以前は1日8件という訪問目標回数に縛られていたため、とにかく訪問すればいい、という意識でしたが、今では戦略的に訪問先を選定し、適切なタイミングを見計らって訪問するようになっています」と川口氏。他の社員のスケジュールや活動状況を見ることもできるため、社員同士の会話が増え、チームワークで動くようになったことも大きな変化だと言います。「最近では個々の渉外担当社員が、Salesforceのレポートやダッシュボードを自分で作成し、データ分析するようになっています。これらのレポートやダッシュボードも、社員間で共有しています」。
このような意識の変化によって、渉外業務の効率は2倍以上に向上。この4年間で渉外担当社員の数は半減しているにもかかわらず、案件数は以前よりも増えていると言います。他の病院から患者の紹介を受けた際の対応スピードも向上しています。施設情報の1つとして、自グループの病院の状況もSalesforceで管理しているからです。
「最近では高齢化が進んだことで、救急対応をしている大病院からの患者様紹介が増えています。大病院には緊急度の高い患者様の病床を確保するため、緊急度が低くなった患者様をなるべく早く他の病院に転院させたい、というニーズがあります。その依頼に対する回答を迅速に行うことも、医療介護護携の重要な役割です」。
これまでに構築してきたSalesforceの情報基盤について、「すでに完成状態であり現状で満足しています」と川口氏。その一方で、他社の事例やセミナーで新たな発見があれば、機能を追加することもあり得ると語ります。「今かなり気になっているのはAIです。今後もSalesforce Einsteinなどの情報を集めながら、私たちが使えそうな機能があれば、ぜひ追加していきたいと考えています」。