農林水産省

行政手続き約3000件のオンライン化を推進。職員自らが申請画面の構築する「職員実装」を実現

Salesforce Platform上に「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」を構築。 SaaSのメリットを活かし、メンテナンスフリーな高いセキュリティと信頼性を 確保したほか、各手続きをSFA案件に見立てプロジェクト全体の進捗を管理。

農林水産省が所轄する行政手続きは多岐に渡り、その数は実に約3000件に上ります。ひとつひとつの手続きで膨大な書類のやり取りが必要で、申請者と審査者それぞれに大きな負担となっていました。そこで、農林水産省ではすべての行政手続きをオンラインで可能にする「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」を構築。Salesforceを基盤とすることで、ノーコードによる職員自らが申請画面を構築する「職員実装」の体制を整えたほか、行政手続きをオンライン化するための進捗管理を行う「eMAFF営業支援ツール」を併せて構築したことで、進度の早いオンライン化を実現しています。
 
 

1. 煩雑な行政手続き解消のためオンライン申請サービスを構築

農林水産省が所管する行政手続きの種類は、農地売買時の申請や経営支援の交付金受給など約3000件に上ります。それらの申請の中には、分厚いファイルで数冊分に達する書類を作成し提出することとなっている手続きもあります。この結果、申請者だけでなく審査者である自治体職員や農林水産省職員も書類の管理・保存に膨大な時間を費やしていました。

「申請書類に記入する項目はいずれも必要不可欠なものです。手間がかかるからといって、単純に減らせるものではありません。とはいえ、本業に支障が出てしまうほどの負荷を、申請にかかわる方々に強いるのは本意ではありません。農林水産業の方々は経営に、自治体職員はその支援に、農水省は効果的政策の実現のために時間を使うべきです。日本の第一次産業発展のためにもテクノロジーを使った手続きの効率化が必須でした」と語るのは、農林水産省 大臣官房 デジタル戦略グループ 課長補佐の畠山暖央氏です。

そこで農水省では、2018年夏に行政手続きオンライン化の情報基盤となる「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」の構築に着手しました。

「オンライン化と一口に言っても、約3000件の行政手続きすべてに関してイチから作るのは、コスト面でも時間面でも現実的ではありません。限られた予算の中で、オンラインへと迅速に移行するためには、職員自らの手でノーコード開発できることが絶対条件でした」(畠山氏)

しかも、手続きに応じて適切に審査経路を定義する必要があります。そのためには、CRMの機能が必要でした。

これらの課題を解決するソリューションとして、農水省ではSalesforce Platformを選択し、その上にeMAFFを構築することにしました。申請システムにはExperience Cloudを活用し、拡張データベース(データレイク)にはHerokuを採用、さらに他システムとの連携のためにMulesoftを導入しています。

 
 
 
 
 

農林水産省所管の補助金申請において提出する書類の例

2. 年間の書類を10分の1に、手続き時間は約50%削減

農水省では2019年から、主な機能を実装する第1期開発に着手します。この際に、Salesforceにはさまざまなメリットを感じたと言います。

1つは、高いセキュリティと信頼性を確保できることです。SaaSなので、ミドルウエア群を農水省の職員がメンテナンスする必要はありません。サポート期限切れや修正パッチの適用遅れが原因でミドルウエアの脆弱性を攻撃されるという心配がなくなります。Salesforceは利用実績が豊富な上に、権限設定(アクセス制御)のしやすさも魅力だったと言います。

また、農水省における手続きの中には、全国3000万区画の水田データに膨大な数の関係者がアクセスする可能性がある、経営所得安定対策といったものもあります。こうしたケースでも、性能の問題が生じないSalesforceのキャパシティの大きさも要件に適合しました。

企画段階から約2年半が経過した2021年4月、eMAFFは本格稼働を開始します。2022年8月の時点で、約2700件の手続きをオンライン化しています。これらの手続きは、農林水産業の従事者がパソコンやスマートフォン、タブレットを使って原則24時間365日申請が可能になっています。もちろん農水省職員や自治体職員などによる審査・承認のプロセスもオンライン上で完結するようになりました。

さらにユーザビリティを高めるための工夫もしました。気軽に事前相談や質疑応答ができるように、ビジネスチャットツール「Slack」を導入。農林水産事業者、自治体職員、農水省職員らが組織をまたいで相談が可能になる「eMAFFチャットツール」として活用しています。

eMAFFのメリットを農林水産省 デジタル戦略グループ デジタル企画専門職 共通申請サービス(eMAFF)担当の武田 遼氏は次のように説明します。

「これまでは申請時期に多くの事業者が窓口に集中し、行列ができるような手続きもありました。申請内容に不備や間違いがあれば、一度持ち帰って申請し直す必要もあります。また、職員が紙の書類を確認しなければならないため、テレワークでの業務実施が困難でした。これがeMAFFの活用によって、申請・審査・承認の作業が効率化し、システム上で申請内容の修正・再提出ができるようになったことで、年間で延べ1万2000枚に達していた紙の書類が1440枚に、20分を要していた作業時間が10分程度に短縮しました。さらに審査業務のほとんどがテレワークで対応可能となりました」

こうした成果が評価され、eMAFFを活用した担当部局の取組は、内閣官房の令和3年度ワークライフバランス職場表彰の業務見直し特別賞を受賞しています。



 
 
 
 
 
手続き時間は約50%削減
 

3. 手続きを商談に見立て、SFA的にオンライン化の進捗を管理

農水省では2022年度末までには、すべての手続きをオンライン化する方針です。順調に手続きをオンラインへ移行できている背景には2つのポイントがありました。

1つ目は、職員が自ら手続きの申請画面を構築する「職員実装」を実現したことです。制度を担当する職員が共通部品を組み合わせてノーコードで申請画面を作成するには、Salesforceのカスタマイズが必要でした。そうしたカスタマイズを進めるなかで、デジタル戦略グループは急ピッチでシステム開発を学んだといいます。

2つ目は、約3000件の行政手続きをオンライン化するための進捗管理を行う「eMAFF営業支援ツール」を併せて構築したことです。Salesforceの標準機能を活用したこの仕組みを使うことで、個別の担当者とメールで何度もやりとりすることなく、リアルタイムでオンライン化の状況を確認し、手続きのオンライン化に関するデータを一元管理することを可能にしました。

「システム開発に携わった経験がない状態のままで着任したのですが、Trailheadを使いCRMツールの基本操作を学べたのは助かりました。スコアが上がる度にバッジをもらえるため、自分の進歩を実感しながら取り組めました。Trailheadで学習したコンテンツはeMAFF営業支援ツールの開発に活かすことができています」と農林水産省 大臣官房 デジタル戦略グループ 係員 共通申請サービス(eMAFF)担当の山本貴翔氏は言います。

実は畠山氏もeMAFF担当となるまでシステム開発経験はありませんでした。自らがTrailheadを体験することで、スコア2万点であればSalesforceの標準機能を活用したeMAFF営業支援ツールの開発に役立つ知識が付くと判断。通常業務をこなしながら2週間に満たない期間で2万点を獲得した山本氏や武田氏をはじめ、同省ではすでに6人が2万点に到達しています。

「eMAFF営業支援ツールの仕組みは、手続きのオンライン化に伴う課題を把握するために役立てています。SFA的に利用することで、これまで見えていなかった職員実装の課題が透明化され、効果的な業務改善(BPR)にもつながっています」(山本氏)

 
 
 
 

4. 目指すは「ワンストップ」と「ワンスオンリー」

すでに成果を出し始め注目を集めるeMAFFの「目指すところは『ワンストップ』と『ワンスオンリー』の実現」と畠山氏は強調します。ワンストップとは、申請者が1つの窓口で複数手続きの申請作業を完結できること。ワンスオンリーとは、一度入力した情報は何度も繰り返し入力する必要がない状態を指します。

将来的には、導入した「Mulesoft」を活用して省内のレガシーシステムとも連携することを見据えています。

「古いシステムの中には、APIの吐き出し口がなかったり、閉じたネットワークで運用したりしているところもあります。双方向かつセキュアにデータを相互利用するためには、APIハブが役立ちます」(畠山氏)

加えて、「紙から電子への移行が促進されると、国や自治体におけるデータ活用の機運が高まります」と畠山氏は将来の利活用の姿を語っています。「これまで紙で受理してきた書類を、データとして活用することで、高齢化する農業の現況をいち早く把握し、次の一手を打つ。そうした本来の自治体や省庁の役割に邁進できるはずです」

単なるオンライン申請システムを超え、デジタルガバメントの可能性を追求するeMAFFの成長に、さらなるSalesforceの活用が期待されています。

 
※ 本事例は2022年8月時点の情報です
 

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