100年企業がSalesforceでV字回復、
目指すは全サプライチェーンの製造業DX
Salesforceの活用で情報共有のカルチャーを醸成。
新たなステップとして取引先などとの社外連携を
Manufacturing CloudとB2B Commerceで推進。
2025年に100周年を迎える老舗企業であるMipox。同社は創業から続く箔の製造技術を応用し、「塗る・切る・磨く」のコア技術を磨き上げてきました。さまざまな産業・分野で使用される研磨材の製造から、OEM製品のエンジニアリングサポートや製造さらには、研磨加工装置の研究開発、研磨加工サービスなど行っています。2000年代後半に経営危機に陥った同社ですが、Sales CloudやChatterを活用し情報共有を進めることで、業績の急回復を果たしました。その後もSalesforceを情報基盤としながらManufacturing CloudやB2B Commerceの導入を進め、現在はサプライチェーン全体の製造業DXを実現しようとしています。
Mipoxの業績をV字回復させた軌跡については以下をご覧ください
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1. V字回復からの次なる構想
2000年代後半に業績が大幅に悪化したMipoxですが、巻き返しのために同社が採った戦略は徹底した情報共有と行動の可視化でした。Sales Cloudを導入し顧客情報を社員全員で共有すると同時に、Chatterによるコミュニケーションの活性化にも取り組みました。この変革により、仕事に関連する情報が属人的なものから会社の共有物に変わり、営業活動が大幅に活性化して業績のV字回復につながりました。
「もはやMipoxのカルチャーそのもの」というほどSalesforce活用が進んだ同社ですが、代表取締役社長の渡邉 淳氏が次に狙うのは、サプライチェーン全体のデジタル化です。
「これまでお客様情報などを共有する仕組みを整えてきましたが、あくまでも社内の話です。これからはどれだけ外部とつながっていけるかを考えなければなりません。たとえば、当社には生産拠点でもキャビネットがありません。それだけデジタル化を徹底してきました。ですが、お客様からの注文はFAXや電話という世界。デジタルの力をシームレスに発揮するためにも、サプライチェーンを含めたDXが次のステップです」(渡邉氏)。
もちろん、渡邉氏は当初から、サプライチェーン全体のDXをにらんでいました。「ただし、社内の体制が整わない限り効果は限定的になる」という思いから、まずは社内での徹底した情報共有体制の確立を優先してきました。そのメドがついたところでの次の一手というわけです。
2. “FAXからの脱却” で生まれる次なる一手
現在、同社が進めているのが、顧客の購買にかかわるデジタル化を実現するB2B Commerceの導入です。2022年に検討を開始し、2023年より稼働を開始しています。
同社DX本部を束ねる千野大和氏は、B2B Commerce導入を決めた経緯について、次のように振り返ります。
「注文情報というのは、顧客情報の入り口となる大切な情報です。しかし、これまではFAXや電話やメールといった形が大部分だったため、ERPやSalesforceに取り込むためには人の手を介して変換作業をしている状況でした。これに工数がかかり、結果としてボトルネックとなれば納期の連絡が遅くなるなど、お客様のためにもなりません。この受注のやり方をどうにか変えられないかと検討していました」
すでにSalesforceのライセンスを全社員が持ち、顧客情報を活用している同社では、オンライン受注の仕組みとしてSalesforceを導入することが自然の選択だったと千野氏は言います。
「当社では、Salesforceを利用してお客様情報を起点に業務を進めるカルチャーが醸成されているわけです。そこに注文データという顧客情報の入り口となるデータが増えることで一気通貫の情報共有が実現します。お客様にさらなる最適なアクションを起こせるようになるはずです」
3. プラットフォーム上で生産現場とも情報共有
さらに、同社ではもう一段階デジタル化を推し進める施策を進めています。それがManufacturing Cloudの導入です。千野氏は、これまでの課題を次のように説明します。
「MipoxではSales Cloudを活用して顧客情報や商談を管理していましたが、商材 によっては長期的に継続する案件も多く、Sales Cloudだけでは管理が難しい場面もありました。在庫や生産量などの生産計画とも連携しなければなりません。そのため、個別でExcel管理をする状況が発生していました」
これを課題と感じていた同社は、製造業界に特化したプラットフォームとして、主に既存顧客が対象となる、長期継続案件に対応し、その販売計画が精緻化できるManufacturing Cloudの導入も進めています。
「従来、お客様と営業担当がコミュニケーションした情報は、生産管理や製造の部門からは見えず、必要に応じて営業と生産計画の担当者がやり取りしなければなりませんでした。Manufacturing Cloudによって、生産計画や在庫量の情報と顧客情報が1つのプラットフォームで利用できるようになれば、無駄なコミュニケーションが減り、業務の効率化が進められます」(千野氏)
これは、社内の効率化のみではなく、顧客にとってもメリッㇳがあります。
「たとえば、顧客の見込み予測が変更になった場合も、営業担当者がManufacturing Cloud上で更新すれば、すぐさま生産管理部門や製造部門が確認することが可能となるため、予測精度は圧倒的に向上するはずです。当然、お客様のニーズに合わせた最適な出荷が可能になります」(千野氏)
B2B Commerceでも、ECサイト上で顧客ごとに注文履歴や新製品情報、価格情報などを表示したり、お客様自身がWeb上から請求書を発行したりできるようになるなど、より一層顧客体験の向上が期待できるとしています。
Salesforceの各サービスが連携し、ワンストップでオープンな情報プラットフォームとして機能することで、注文情報から生産計画や在庫といったERPの領域まで連携してサプライチェーン全体のデジタル化が実現します。
4. 現場を知ってこそDXが実現できる
こうした取り組みを推進しているDX本部では、徹底したデジタル化を推進するためにITリテラシーを向上させる教育を工夫して実施しています。たとえば、Mipoxに入社する社員向けの教育コンテンツを制作しているDX本部 IT2課の中山朋美氏は、情報共有がオープン過ぎることに抵抗を感じる人がいるということを前提にコンテンツを作成し、サポートしています。
「私自身2年前に新卒で入社した当初は、情報がオープンなことに“怖さ”を感じるほどでした。通常は自分のすぐ上の上長にエスカレーションする手順を踏んでいくものですが、Mipoxでは一足飛びに社長とコミュニケーションが取れたり、全く知らない社員の方からもメンションが来たりします。そんなオープンな環境だからこそ仕事が進めやすいのですが、入社されたばかりの方は戸惑うことが多いのも確かです。オープンなコミュニケーションや情報共有にもルールがあることをわかりやすく伝え、Salesforceの活用を身につけられるようにサポートしています」
入社15年になるDX本部 IT1課の和田慎司氏は、2か月前までは反射材の製造保全を担当していました。「現場では当たり前のことが、傍からみると非効率なことが多々あります。どういったデータが集まってきているかを現場にいるからこそ分かるのですが、使いこなせていないことも見えています。だからこそ、このDX本部での自分の役割はデータ基盤を作ることではなく、現場とデータ基盤をつなぐ役割だと思っています」と語ります。現在は、総合的品質管理(TQM)をSalesforce上で実践する構想も温めています。
また、DX本部 IT3課の森谷和哉氏は、2022年に航空機製造企業から転職しDX本部に配属になりました。現在は現場で得られたデータを可視化してアウトプットにつなげるミッションに就いていますが、今後、Manufacturing Cloudが稼働してくると、シームレスな情報共有のために足りなかったピースが埋まってくると感じています。
「生産管理とSalesforceの途中にExcelなどが入って情報が寸断されてしまうと、ミスも起きやすくなります。受注から製造、出荷までをSalesforce上で一貫したプロセスとして管理できれば、現場は大きく効率化するはずです。現場を知っているからこそ、効果的な使い方を提案できます」
社長の渡邉氏はDX本部の役割は大きく、その人材に工場や業務経験者を登用していることも重要な点だと以下のように説明します。
「DXを進める上では、ITを熟知しているかどうかよりも、業務を理解していなければ成功しません。今では学びのハードルは下がっているため、現場を知る人がITを後から学ぶことも十分可能です。世間で言われるように『IT人材がいない』ということはないと思います。テクノロジーはどんどん新しくなります。Salesforceでも生成AIなどの新しい技術についてスピード感をもって取り込んでもらい、意識せずに使えることを期待します」
「変わることを忘れない『100年ベンチャー』」を標榜するMipoxでは、Salesforceをプラットフォームに、次の100年のビジネスを切り開く道を見据えています。