公式オンラインストアを短期間で全面リニューアル 「顧客の望む商品をしっかり届けられるサイト」を実現
新型コロナ第1波の中、Slackを駆使してプロジェクトを遂行、物理商品とデジタル商品の同時購入可能、アクセス集中時の安定性確保など、Commerce Cloudを活用して計画時の全目標を達成
それらを解決するソリューションとして、同社は2020年、Commerce Cloudを導入。コロナ禍でSlackを中心とする非対面のプロジェクト進行を余儀なくされながらも、予定通りにリニューアルオープンを果たしました。多くの機能追加で生まれ変わった「マイニンテンドーストア」では、どんなことが実現され、顧客にいかなる体験価値を届けられるようになったのでしょうか? プロジェクトに携わった開発メンバーの方々のお話を交えながら振り返ります。
1. 物理商品とデジタル商品の同時購入不可、アクセス集中時のサイトの不安定性が課題
『スーパーマリオブラザーズ』の「マリオ」をはじめ、世界的な認知度を誇るキャラクターIP(知的財産)を多数保有する任天堂株式会社(京都府京都市)は、「任天堂IPに触れる人口の拡大」という基本戦略を推し進めてきました。事業の根幹であるゲーム専用機のほかに、映像コンテンツやテーマパーク、モバイルアプリ、キャラクターグッズなど、さまざまな取り組みによって顧客との接点を充実させ、ニンテンドーアカウントを通じて、顧客との長期的な関係を構築。そこから、事業の中核である「ハード・ソフト一体型のビジネス」を持続的に活性化させることを目指しています。
そうした戦略の一環として、同社は近年、公式オンラインストア「マイニンテンドーストア」における顧客体験の向上に力を注いできました。2017年1月に日本でのサービスを開始した「マイニンテンドーストア」は現在、「Nintendo Switch」本体やデジタルを含むソフト、グッズ、周辺機器等を販売する機能や、ゲームをプレイすることなどで貯まる「プラチナポイント」とグッズを交換する機能などを備えています。
「マイニンテンドーストア」は、もともと「Nintendo Switch」の販売開始に際し、予約受付のためのサイトとして誕生しました。そのため、前述のような複数のサービスで価値ある体験を提供し、顧客接点として重要な役割を担うストアへと成長させるまでには、乗り越えなければならない多くの課題がありました。そしてそれらの大半は、2020年に実施された、Commerce Cloudを利用した全面的なサイトリニューアルによって一気に解決されたのです。
技術開発本部 技術開発部 プラットフォーム技術開発グループ 担当グループマネージャーの山崎順稔氏は、サイトリニューアル前の状況を次のように振り返ります。
「たとえば当時の『マイニンテンドーストア』では、ソフトのパッケージ版やグッズなどの物理商品についてはサイト内で購入できましたが、ソフトのダウンロード版などのデジタル商品を買おうとクリックすると、自社で別に運用しているデジタル販売のサイトへ遷移し、そこで購入する仕組みになっていました。『プラチナポイント』とグッズの交換についても同様に、『マイニンテンドーストア』で直接行うことはできず、別のサイトで『プラチナポイント』を一旦クーポンに変換し、それを『マイニンテンドーストア』で使う形でグッズと引き換える必要がありました。
物理商品とデジタル商品を同じサイトで一緒に購入できるようにしたいというのは、社内でも常々要望がありましたが、システム上の制約などにより実現が難しく、そのような力技で乗り切っていたのです」(山崎氏)
また、同グループの岩本周大氏は、アクセス集中時にサイトが不安定になることも大きな課題だった、と話します。
「当社のビジネスの特性上、人気商品があるとサイトへのアクセスが急増します。『Nintendo Switch』の予約受付や抽選販売などの際には、想定をはるかに超えるアクセスによりサイトが混雑中となり、お客様にご迷惑をおかけすることがたびたびありました」(岩本氏)
2. 連携性・安定性を評価しCommerce Cloudを採用、コロナ禍でもSlackを駆使しプロジェクトを完遂
そうした課題を解決するには、Eコマースのシステムそのものを抜本的に見直す必要があると考えた同社は、内製を含む幅広い選択肢を検討し、最終的にCommerce Cloudの導入を決断しました。その理由について山崎氏はこう説明します。
「オンラインで物理商品を販売するようになったのは『マイニンテンドーストア』のサービス開始以降で、ノウハウがあまりありませんでした。その状況下で、お客様のニーズに応えるサービスをすばやく展開していこうとするなら、もともとノウハウの詰まっている他社ソリューションを利用し、経験のあるパートナー企業に実装していただくほうがいいと考えました。
その上で、製品選定のポイントとなったのが、まず他のシステムとの連携性です。『マイニンテンドーストア』は、アカウントやポイントプログラム、決済など、各種の外部システムと連携しているのが大きな特徴なので、それらと容易に接続できることが第一の条件でした。
また、安定的なサービス提供を可能とする、急激な負荷の増加にも耐え得るインフラであることや、機能の追加やリリースをすばやくできることなども重視して検討した結果、Commerce Cloudの採用を決めました」(山崎氏)
2019年11月から要件定義を始めた同社。2020年2月に開発に着手した矢先、新型コロナウイルスの感染拡大の第1波が押し寄せました。プロジェクト関係者全員が在宅勤務を余儀なくされるという、予想外の状況下での開発スタートでした。
「プロジェクトの初期の段階からリモートで進めていくというのは、それまで経験のないことでした。コロナ禍で『Nintendo Switch』の需要が急激に伸びる中、既存の『マイニンテンドーストア』を手当てしながら運用し、一方では新しいサイトへの乗り換えを準備していく難しさがありました」(岩本氏)
技術開発本部 技術開発部 技術開発コーディネートグループの斉藤裕紀氏は、リモートでのプロジェクト進行において注意したことについてこう語ります。
「とにかく開発パートナーの方と信頼関係を築くことが大事だと考え、主にSlackを使ってコミュニケーションを密に取ることを意識しました。もともと厳しいスケジュールを組んでいて、正直なところ間に合わせるのは難しいと思うこともあったので、スケジュール通りに最初のリリースまでこぎつけることができたときには、達成感がありました」(斉藤氏)
開発メンバーやパートナー企業のそうした努力と協力によって、2020年10月、「マイニンテンドーストア」は、見事当初の予定通りにリニューアルオープンを果たしたのです。
3. 利便性・安定性が飛躍的に向上、迅速なサービス提供が可能となり技術者が本来の開発に専念
リニューアルされた「マイニンテンドーストア」には多くの機能が実装され、それまで課題とされてきた部分が一掃されました。まず、ソフトのダウンロード版をパッケージ版やグッズと同様にカートに入れて購入できるようになり、結果として「マイニンテンドーストア」で処理する注文の数は大幅に増加しました。
同様に、「プラチナポイント」と交換するグッズについても直接カートに入れられるようになりました。1つのサイトで自由に商品やグッズを選択できるようになり、顧客にとって使い勝手が格段に向上したのです。
また、いわゆる「合わせ買い商品」の陳列内容をCommerce Cloudの管理画面から容易に変更できるようになりました。技術開発本部 技術開発部 技術開発コーディネートグループの松岡健太郎氏は、そのメリットについて次のように話します。
「『この商品とあの商品を一緒に買えば割引します』といった販売施策を行う場合、以前はバンドルという形でセット商品を作り、1つひとつ登録しなければなりませんでした。たとえば特定のソフトとSDカードのセットの場合、SDカード32GB~512GBの5種類とソフトのバリエーション数種類を組み合わせて1つずつ商品を作るので、最新商品の棚がそれらで埋まってしまう、という具合でした。それがリニューアル後、セット商品の設定をサイト運営側で簡単に行えるようになりました。
これまでシステム上の制約でなかなかできなかった販売施策をすばやく実行し、最適なタイミングでお客様に提案できるようになったことは、営業・マーケティング面において大きな前進です。同時に開発側としても、販売施策のための開発といった目先の作業に7割ぐらいの時間を割いていた状況が一変して、お客様と向き合うような本来の開発に注力できるようになり、本当に嬉しく思っています」(松岡氏)
サイトの利便性向上という面では、新たに追加されたタグ機能も大きな役割を果たしています。
「『Nintendo Switch』のソフトは日本だけで数千タイトルあり、本当に欲しいソフトを探しにくいという課題がありました。そこでCommerce Cloudのカテゴリー機能を利用して、サイト運営側で各ソフトに『アクション』『1台の本体でいっしょにあそべる』といったタグを付与できる機能を実装しました。お客様の嗜好や条件に合うソフトを簡単に検索できるようになり、機能追加に関わった者としてとても満足しています」(斉藤氏)
一方岩本氏は、アクセスが集中してもサイトが安定するようになったことが、担当者としてなにより嬉しい、と語ります。
「拡張項目やカスタムオブジェクトをいろいろ使うなど、サイトの裏側では割と複雑なことをしているのですが、それでも安定して運営できています。安定性と拡張性を兼ね備えているCommerce Cloudのおかげで、ようやくお客様を堂々とお迎えできるサイトになった、と実感しています」(岩本氏)
4. 計画時の全目標を達成し、「顧客の望む商品をしっかり届けられるサイト」を確立
そのほかにも同社では、CRM Analytics(旧Tableau CRM)によるCommerce Cloudの各種データの可視化・分析や、Commerce Cloudに標準で搭載されているAI機能Einsteinを利用した商品・検索キーワードのレコメンデーション、Marketing Cloudを使ったメール配信など、Salesforce各種製品を幅広く活用して、「マイニンテンドーストア」における顧客体験の向上や業務改善を進めています。
そうした取り組みの成果や「マイニンテンドーストア」に新たに追加された機能について、同社からアナウンスされることはほとんどありません。しかし、顧客はそうした変化を自然に感じ取り、ポジティブに受け止めているようです。
「たとえば、物理商品とデジタル商品を同じカートに入れて購入できるようにリリース処理したのは、朝6時頃だったと思いますが、すぐにお客様のTwitterで『一緒に買えるようになっている!』という反応がありました。よく気づいていただいたと思いますし、本当にありがたい、嬉しいことですよね」(斉藤氏)
「当社にとっては、やはり商品が命であり、それをお客様の手元へしっかり届けることが一番大事なことだと思っています。その意味で、お客様が買いたい商品をしっかり買える、しっかり予約できるという“当たり前のサイト”を構築できたことが、なによりの成果です」(松岡氏)
山崎氏は、これまでの取り組みと今後の展開について次のように語ります。
「Commerce Cloudは、外部システムとの連携が多い中でもしっかり開発して迅速にサービスを提供できるソリューションだと感じています。サイトリニューアル時に計画していたことはすべて達成できました。今後は、UIを含めたお客様の体験自体の見直しを進め、より使いやすいサイトにしていきたいと思いますし、その中でCommerce Cloudをこれからも活用したいと考えています」(山崎氏)