NTTコミュニケーションズ株式会社

事業統合で浮上したSalesforceの差異を標準機能で全体最適化
顧客情報の一元化でCX向上を実現

ステアリングコミッティが中心となってグループ全体の意見・要望を吸い上げ、 標準機能でSalesforceを全体最適化。あらゆる顧客接点の情報を一元化する アカウントスコアカードでCX向上を実現するなど、データドリブン文化が定着。

NTTコミュニケーションズ株式会社は、株式会社NTTドコモおよびNTTコムウェア株式会社との事業統合にともない、システム面で大きな課題に直面しました。3社それぞれで長年利用されてきたSalesforceが、各社・各部門のビジネスに部分最適化され、業務システムとしての作りから言語、入力の文化まで、あらゆる点で異なっていたため、3社のシステムを並行利用しなければ業務を進められない状態に陥ったのです。

そこで同社は、法人事業におけるCXのさらなる向上を目指し、Salesforce統合プロジェクトを立ち上げました。そして、構想から約2年、従業員数千人の関わった取り組みにより、Salesforceは、3社で統一的に利用されるシステムとして生まれ変わったのです。Salesforce統合のポイントやその後の成果など、特に大企業におけるSalesforce活用のヒントがちりばめられた同社の取り組みを紹介します。

 
 

1. 事業統合した3社におけるSalesforceの差異が大きな課題に

2022年7月、NTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、株式会社NTTドコモおよびNTTコムウェア株式会社と法人事業を統合し、法人事業ブランド「ドコモビジネス」を立ち上げました。NTT Comはさらに2023年7月、NTTコムウェアの事業の一部等を統合し、ドコモグループ全体の法人事業を一手に担う約1万7800名の巨大組織となりました。

事業統合の目的は、グループ3社のリソースを組み合わせ、法人顧客に対するビジネスのさらなる拡大、および金融やコンテンツといった通信以外のサービスの拡充を図ること。そして、それを推し進める方向性として、業務の生産性を向上させる「DX」、脱炭素社会の実現を目指す「GX」とともに打ち出したのが、顧客体験価値を高める「CX」です。

もちろん、3社はそれまでにも、それぞれのチャネルや業務プロセスを通じてCXの向上に取り組んできました。たとえばNTT Comは、2011年からSalesforceを主に営業プロセスのマネジメントに利用し、CXの改善につなげてきました。同様に、他の2社でもそれぞれSalesforceを導入し、Webサイトやコンタクトセンターなど、さまざまな顧客接点におけるCXの推進に活用してきました。

しかし、世界最大規模の通信事業グループである3社のサービスは多岐にわたります。事業統合したからといって、3社それぞれのチャネルや業務プロセスという“点”で提供されてきたCXが、すぐさまSalesforceでつながり、グループ全体で“線”や“面”として展開できるようになるわけではありません。ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門 担当課長の丸山道生氏は、統合当初の状況をこう振り返ります。

「3社はドコモグループでSalesforceを使ってきたという点では同じでも、企業としての出自や事業、文化という点では大きく異なります。同様にSalesforceの使い方についても、業務システムとしての位置づけから言語、入力の内容や頻度まで、あらゆる点で異なっていました。そのため、事業統合していざSalesforceで新たに業務を始めようとしたところ、3社間で会話がまったく噛み合わない。Salesforceに求めているものが全然違うことに、そのとき初めて気づいたのです」(丸山氏)

3社は事業統合当初、それぞれの社内で利用していたシステムを持ち寄り、並行利用するという形態をとっていました。業務を進めるのに、各社専用のシステムの入ったPCを使い分ける必要があったのです。デジタル改革推進部 DX戦略部門 担当部長のグエン ホウバッ氏はいいます。

「システム開発の観点からいっても、3社のSalesforceは、単に『商談』と『案件』といった用語の違いにとどまらず、業務システムとしての作りからしてまるで違いました。3社それぞれの業務に最適化させるため、かなりカスタマイズされていたのです」(グエン氏)

 
 

2. 標準機能で全体最適化を図るSalesforce統合プロジェクトを推進

そうした状況を受けてNTT Comは、データ連携によって顧客体験価値の最大化を図るべく、3社のSalesforceの統合を決断しました。もちろんその実現は、膨大な数の従業員を擁し、長年それぞれの方法でSalesforceを利用してきた巨大企業グループにとって、一般的な企業以上に困難なことです。また、高い技術力と豊富なリソースを有する同グループには、新システムの内製や他のソリューションの導入など、さまざまな選択肢があったはずです。それでもSalesforceの統合に踏み切った理由について、丸山氏とグエン氏はこう話します。

「従来、当グループでのSalesforceの使い方は、社内の生産性向上に特化しがちでした。しかし、Salesforceは本来、数あるCRMの中でも、お客様とのさまざまな接点の情報を一元化できるという点で、顧客体験価値の向上という経営課題に対してもっとも強力な武器となり得るものです。それなら、他のシステムに手を出すより、Salesforceに経営資源を集中投下すべきだ、という経営トップの強い思いがありました」(丸山氏)

「開発面では、確かにいろいろな解決策が候補に挙がりました。それでも、使い慣れていてユーザーの学習コストが低い、各種システムとの連携が容易で開発コストを抑えられるといった利点から、Salesforceを統合して継続利用するのがもっとも合理的だという結論に達しました」(グエン氏)

そうした経緯で始まった、Salesforce統合プロジェクト。統合の基本方針は“Fit to Standard”、すなわち3社の業務に個別最適化され乱立していた機能を可能な限り減らし、標準機能で統一して全体最適を図ることでした。ただし、開発側が独断で要件定義を行うのではなく、グループ全体から意見や要望を吸い上げ、最終的な意思決定を下せるようにするため、開発側・業務側の双方のメンバーで構成されるステアリングコミッティ、通称「ステコミ」を設置しました。開発側の参画メンバーの1人であるグエン氏はいいます。

「ステコミでは、プロジェクト開始時から開発側と業務側が密接に連携し、繰り返し意見を交換して解決策を見出していきました。ただ、自分の使い慣れた機能を残したいというのは誰しも思うことなので、利害関係の調整は大変でした。それでも、“Fit to Standard”の観点から、ユーザーと直接交渉して理解を得たり、ユーザー同士で話し合ってもらったりしながら、全体最適化されたシステムの実現を目指しました。もちろん、システムだけを統合しても、各社で業務プロセスが違うままでは仕事を回せないので、業務側と協力しながらプロセスの見直しも同時に行いました」(グエン氏)

一方、業務側としてステコミに参加した丸山氏はこう話します。

「最初のステコミでは、NTT Comの業務側の課題点を挙げて欲しいといわれ、いわゆる名寄せの問題について話しました。大企業向けの部門と中小企業向けの部門とではデータベースが別々だったため、重複して登録されているお客様を別人格として扱ってしまっていたのです。そういう課題がグループ全体でほかにもたくさんあったので、段階を踏んで標準化、解消していくことにしました。たとえば、ある時期までは基本的に各社のシステムや業務プロセス、文化を踏襲するけれども、それまでに最低限、Salesforceの用語や営業のフェーズ分け、評価の指標を統一すると決める、といった工夫で、徐々に標準化を進めていきました」(丸山氏)

 
 

3. 「アカウントスコアカード」であらゆる顧客接点の情報を一元的に可視化

開発側と業務側が“ワンチーム”となったステコミを中心として、最終的に数千人規模の従業員が関わったSalesforce統合プロジェクト。検討開始から2年近くを経た2023年8月、3社で統一的に利用するシステムとして、新たなSalesforceがついにリリースされました。

Salesforceには、データ入力のルール化により、営業のパイプラインのデータだけでなく、日々の行動データ、たとえば商談における提案内容や途中経過などの定性情報が入力されるようになりました。また、顧客のサービスの利用状況やVOC(お客様の声)などもデータとして一元管理されるようになりました。Salesforce統合の最大の狙いだった、3社それぞれのチャネルや業務プロセスという“点”で提供されてきた顧客体験価値を連携させ、“線”や“面”として展開できる体制がようやく整ったのです。

その中で具体的に、CX最大化に向けて取り組み始めた施策の1つが、「アカウントスコアカード」です。丸山氏は次のように解説します。

「そもそもCXとはなにかと考えたとき、まず必要になるのが、お客様の状況や満足度をデータとして可視化すること。それを可能にしたのが、大企業のお客様に関して、当グループとのさまざまな接点における情報を1枚のカルテのように見られる、アカウントスコアカードという仕組みです。お客様がどれぐらいサービスを利用し、どんなトラブルが発生しているか、どれぐらいセミナーに参加しているか。そうしたリアルの情報とデジタルの情報をアカウントスコアカードで一元的に見られるようになり、CX最大化の土台が整いつつあると感じています」(丸山氏)

実際、Salesforceには、それまで入力される習慣のなかったデータがどんどん蓄積され、連携活用できるようになっています。データ入力の頻度を「1営業日に最低1回」とルール化したことにより、たとえば丸山氏の所属するビジネスソリューション本部では、Salesforceリリース当初1人当たり月間約10回だった入力回数が、4か月後には月間約20回へと倍増しました。丸山氏は、Salesforceの利用が文化として根づいてきた、と評価します。

一方、中小企業向けの部門でも、新たなSalesforceの利用定着化が進んでいる、とグエン氏は話します。

「定着化を図るため、勉強会でのユーザー教育など、さまざまな支援をしています。Salesforceに日々データを入力するとこんなことが見えてくる、というSalesforceのメリットを実感してもらえるようなレポートを作成するなど、地道な活動を続けています。その結果、今まで情報管理にExcelしか使ってこなかった部署でも、Salesforceの利用率は順調に高まっています」(グエン氏)

 
 
 
 

4. データドリブン文化の定着を実感、CXのさらなる向上も視野に

「これまでデータを入力すらしなかった人が、定期的にデータを入れるようになり、さらにそのデータにどんな意味があるのか、どんな行動につなげられるのかを考えるようになった。そのように、皆がデータと向き合い、共通の物差しの中でその質を問うようなデータドリブンセールスの世界が近づいてきたと感じています」(丸山氏)

丸山氏はそう語り、今後の展開について次のように続けました。

「CXのさらなる向上を図るには、“ワンフェース”“マルチソース”“ライトタイミング”という3つの要素、つまりお客様に関するあらゆる情報が一箇所に集まり、それにもとづいて適切なタイミングでお客様にサービスを提供できる状態になるのが理想です。特に近年、生成AIの進化によって、人の話を自動的に文字化したり、要約したりすることが可能になり、データの幅が広がっています。Einsteinなどの機能を使いながら、Salesforceと一緒にCXの未来を切り拓いていきたいと考えています」(丸山氏)

一方、グエン氏は開発者の視点から、今後についてこう語りました。

「これからSalesforceに期待するのは、やはり他のシステムとの連携です。最終的なアーキテクチャとしてSalesforceだけを利用するという考えは全然ないため、AIをはじめ、さまざまなシステムといかにうまく連携できるかが今後のカギになると思っています。もちろん、それによってどのぐらいの費用対効果を出せるかというのも1つの大きなポイントです。ただ、私たちがSalesforceを使っているのは、単にソリューションとして品質が高いからというだけでなく、開発・運用でトラブルなどが発生したとき、非常に迅速で熱い支援をしていただけるからです。その意味で、システム開発者として本当に感謝していますし、先ほど話した期待が裏切られることはないと思っています」(グエン氏)

 
 
 
 
 
 
※ 本事例は2024年1月時点の情報です
 

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