株式会社オンワードパーソナルスタイル

「顧客カルテ」で接客の高品質化・均質化を実現
「ファン化」「EC化」を加速させて次のステージへ

Service Cloudで顧客に関する全情報を一元化・可視化して顧客体験価値を向上、
Marketing Cloudでメール配信を最適化、CRM Analyticsの分析にもとづき迅速に施策を展開

オーダーメイドブランド「KASHIYAMA」を展開する株式会社オンワードパーソナルスタイルは、モノづくりのスマート化を実現する一方で、顧客対応の属人化が顧客体験価値の向上とブランドとしての成長を阻害している状況に頭を悩ませていました。

そうした状況を打破するため、Salesforceで同社が構築したのは、顧客に関する全情報を一元化・可視化し、顧客体験価値を向上させる基盤となる「顧客カルテ」でした。さらに、Marketing Cloudによって顧客ごとに最適化した情報発信や、CRM Analyticsを利用した的確・迅速な施策展開により、ブランドとして一段上のステージへ上がることができたのです。小売業にとって学ぶところの多い、Salesforce各種製品を駆使した同社の成功事例を紹介します。

 
 

1. 顧客体験価値の向上とブランドとしての成長を阻む、属人化した顧客対応

株式会社オンワードパーソナルスタイルは、1世紀近い歴史を誇るアパレル大手・オンワードホールディングスのグループ企業として、オーダーメイドブランド「KASHIYAMA(カシヤマ)」などの衣料品の企画・製造・販売を行っています。

「KASHIYAMA」は、「オーダーメイドスーツ=高価」という常識を打破すべく、「オーダーメイドの民主化」を目指し、全製造工程を抜本的に改革して立ち上げられたブランドです。実店舗・ECサイト・B to B訪問販売の3チャネルで顧客から採寸したデータを中国の自社工場へ送り、完成した商品を直接顧客へ届ける、「Factory to Customer」と呼ばれる体制を確立したことで、従来1か月を要した納期を最短1週間まで短縮するのに成功し、同時に低価格化を実現しています。

売上の約7割を占めるのは、全国62か所の実店舗。当然、そこでスタッフから顧客に1対1で1時間程度提供される、カウンセリングからデザイン選択、会計までという一連のサービスは、同社のビジネスにとってきわめて重要な意味を持ちます。初回の接客内容がよければ、購入や次回の来店につながり、2回目以降に顧客情報や接客履歴を踏まえた的確な対応ができれば、顧客の再度購入する意欲やブランドへの信頼はさらに高まるからです。

しかし、デジタルトランスフォーメーション本部デジタル戦略部の大井綾子氏によると、そうした“次につながる体験価値”を提供できるのは、実力と経験のある一部の店舗やスタッフに限られていたそうです。

「モノづくりはスマート化したのに、肝心の接客については“クラシックなテーラー”のままだったのです。スタッフの頭の中にしかない情報が非常に多く、担当スタッフでなければ、お客様それぞれの特性や過去のやり取りなどを踏まえて接客できない。『前回伝えた要望をまた説明しなくてはならなかった』『好みでない生地を勧められた』といったお声をいただくことがしばしばありました。また購入後、お客様の望まないタイミングや内容のメールをお送りしてしまうこともあったと思います」(大井氏)

営業本部コミュニケーション部の竹田哲哉氏も、そうした状況に危機感を覚えていた1人です。

「会社の荷棚や店舗の受注台いっぱいにお客様情報に関する紙伝票が並んでいて、訪問販売時などにはそれを大量に持ち歩く、というアナログな働き方でした。顧客対応についても非常に属人化していて、各店舗でいわゆる“俺流”のようなやり方が横行していました。

どの店舗でもECサイトでも、あるいはどのスタッフでも、上質かつ均質なサービスを提供できるようになりたい。お客様の特性や嗜好をしっかり理解した上で、的確な対応や情報提供を行える状態にしたい。それを実現できなければ、ブランドとしてこれ以上成長することはない、と感じていました」(竹田氏)

 
 

2. 顧客に関する全情報を一元化・可視化する「顧客カルテ」を構築

そうした中、大井氏は、ある海外アパレル企業のSalesforce導入事例を目にし、衝撃を受けたといいます。

「その事例では、顧客に関する全情報をSalesforceに蓄積し、顧客プロファイルによって店舗とECをつなぐ1 to1エンゲージメントを行っていました。弊社と同じくオーダーメイドスーツを扱う企業でこれほどのことができるのかと驚き、『KASHIYAMA』に必要なのはまさにこれだと確信しました」(大井氏)

同社の社内には、売上伝票を手入力するシステムや会員情報を管理するシステム、MAツールなど、各種システムがバラバラな状態で存在していました。それらをひとつのプラットフォームに統合し、DXを一気に加速させるシステムはSalesforceしかない、と考えた大井氏は、経営陣に導入を提案。2019年に採用が決まったのです。

そして構想から約1年後、リリースされたのが「顧客カルテ」です。顧客属性や採寸データ、購入履歴などの基本情報はもとより、接客を通じて取得した各顧客の特性や嗜好など、顧客に関するあらゆるデータをService Cloudに一元化・可視化した、接客品質の向上の基盤となる仕組みです。

「顧客カルテ」の画面では、各顧客の基本情報に加え、シーズンごとの購入状況や平均単価、購入回数、好みの色・柄の傾向、さらには来店のきっかけやスーツの着用用途といったアンケートデータなどをひと目で把握できます。これを見れば、担当スタッフでなくても、来店した顧客の購買傾向や嗜好を踏まえた的確な商品を提案できるのです。

また、「顧客カルテ」には、過去に対応した店舗・カスタマーセンターのスタッフにしか得られない情報、たとえば悩みごとやクレーム、気をつけるべきことなどもメモとして入力されています。顧客から来店の予約が入ったとき、そうした定性的なデータを事前に確認することで、よりきめ細かな対応が可能となります。

 
 
 
 

3. 当初は社内の反発を受けるも、成功事例の共有や表彰制度の設置で利用が浸透

ただ、「顧客カルテ」の利用が社内に浸透するまでには時間がかかった、と大井氏は当時の苦労を語ります。

「情報の入力やダッシュボードの利用がなかなか進まず、リリース当初の利用者は全体の20%程度でした。『お客様の個人情報と購買履歴さえわかれば、あとは経験と勘で接客できていた。Salesforceなどなくても困らないし、これまでのやり方を変えたくない』と考えるスタッフが多かったのです」(大井氏)

そうした状況から脱却するため、大井氏は、さまざまな利用促進策を実施しました。中でも次の3つの施策は効果が高かったといいます。

「まずは成功体験を共有です。身近なスタッフの成功事例は誰にとっても響きやすく、それをきっかけとして『顧客カルテ』の利用を自分ごととしてとらえ始めるスタッフが増えました。
次に、推進チームのバージョンアップ。それまでは本社側の人間だけでしたが、店長5名を加えました。そのように現場を巻き込むことによって、リアリティと影響力が増したのでしょう。
もう1つは、顧客体験価値の向上に関する指標の表彰制度を設けたことです。リピートしてくれたお客様の数を示す『ファン化』、ECサイトでリピートしてくれたお客様の数を表す『EC化』という指標をスタッフ別に集計して表彰対象とすることで、スタッフの意識が変わり、ダッシュボードの利用が一気に進みました」(大井氏)

 
 

4. 各顧客に最適化した情報発信と正確なデータ分析で「ファン化・EC化」が加速

さらに同社は、購入後の顧客体験価値の向上を目指し、Marketing Cloudを活用。顧客ごとに最適化した情報発信に取り組んでいます。Marketing Cloud導入前の状況について、竹田氏はこう振り返ります。

「以前から10万名以上のお客様に対してメールを定期配信していましたが、セグメンテーションは『男性』『40代』などのざっくりとしたものでした。お客様それぞれについていえば、本当に必要な情報は届いていなかっただろうと思います」(竹田氏)

Marketing Cloudによって、マーケティング施策は劇的に変わりました。顧客の属性や購入回数、購入金額などでセグメンテーションし、シナリオを組んでメールを出し分けられるようになったのです。

「たとえば、初めて購入した20代のお客様を対象に、『顧客カルテ』の着用データを加味して抽出します。そして、スーツをより身近なものに感じていただけるよう、お手入れ方法や基礎知識などの情報をメールでお送りします。反対に、高級ラインを何度もご購入いただいているお客様に対しては、特別感を持っていただくために有名メーカーの生地などをご案内します。そのように、お客様ごとに最適化した情報発信を行えるようになりました。
セグメンテーションで特に重視しているのは購入頻度で、頻度別に42通りのメールを出し分けています。メルマガでアプローチできているお客様の購入率は、そうでないお客様より約6%高いなど、『ファン化』『EC化』が順調に進んでいます」(竹田氏)

さらに、データ活用に対する社員の意識を高め、行動の変革を促しているのが、BIツールのCRM Analyticsです。大井氏はいいます。

「たとえば購入頻度別に分析し、ある頻度のお客様の来店数が目標に足りていないようなら、来月来ていただけるような施策をすぐに打つことができます。従来は、データの集計や分析に時間がかかり、実際に施策を打てるのは半年後、という感じでしたが、それでは遅いですよね。CRM Analyticsを使うことで、リアルタイムに状況を把握して改善につなげられるようになり、ビジネスが格段にスピードアップしました」(大井氏)

竹田氏も、CRM Analyticsの有用性についてこう続けます。

「これまで、購入頻度に関するお客様の区分は、新規・既存・スーパーリピートというぐらいの大まかなものでした。ところが、CRM Analyticsで分析した結果、実は2回目購入と3回目購入とでは大きな差があって、3回目購入になると『EC化』率が一気に20%程度上がることがわかりました。それによって『フリークエンシー(購入頻度)』という考え方が全社的に浸透したのは本当にすごいこと。CRM Analyticsは、そういう重要な気づきを得られるツールです」(竹田氏)

 
 
 
「顧客カルテ」への入力率(基本情報)
 
 

5. 「ファン化」10%向上、「EC化」23%向上!ブランドとして一段上のステージへ

大井氏や竹田氏ら推進チームの努力もあって、スタッフによる「顧客カルテ」への入力率は、基本情報については96.1%、来店記録については95.3%に到達。全店舗で「顧客カルテ」の利用がほぼ定着しました。

オフラインにおける接客品質の向上、オンラインにおける最適化した情報発信の結果、顧客体験価値の指標として同社が重視する「ファン化人数」は10%向上、「EC化人数」は23%向上という大きな成果を上げています。

また、社員の意識や行動にも変化が見られる、と大井氏は指摘します。

「最初は『顧客カルテ』やダッシュボードなどを推進チーム側が一方的に作っていました。しかし、Salesforceの活用が進み、成果が上がるにつれて、ユーザー側から『ここは使いづらいのでこう直して欲しい』『こんなことはできない?』といった要望が上がってくるようになりました。導入当初の社内の消極的な反応からすれば、本当に大きな前進だと思っています」(大井氏)

竹田氏は、顧客の反応からもSalesforceの効果を感じる、といいます。

「初回とは別の店舗に来店したお客様から、『前の記録を踏まえて提案してくれたので、安心して買えました』といっていただけるようなケースが明らかに多くなりました。属人化していた当時、お客様は特定の店舗やスタッフのファンになってくださることが多かったのですが、先日のアンケートでは、『KASHIYAMA』というブランドのファンになってくださっている方が多いという結果が出ました。店舗やスタッフを問わず、上質で均質なサービスを提供できるようになったことで、ブランドとしてのステージが一段階上がったのだと感じて、すごく嬉しかったですね」(竹田氏)

最後に大井氏は、今後の展望についてこう話しました。

「『顧客カルテ』への入力率は上がりましたが、Salesforce各種製品の活用はまだまだこれから。全社員が使うのが当たり前という環境を整えてお客様の体験価値をさらに向上させ、『KASHIYAMA』のファンをどんどん増やしていきたいと考えています」(大井氏)

 
 
 
 
 
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※ 本事例は2022年11月時点の情報です
 

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