パイオニア型のThe Modelでサービスビジネスの大幅成長を実現
データにもとづく販売モデルで「モノ✕コト」の価値を提供
重視したのはKGI/KPIを「バトンタッチ形式」で考えること
他チームも視野に入れた情報共有で直販のビジネスを立ち上げ
テレマティクス事業を中心にデータを活用する事業を行い、「モノ✕コト」へのシフトを進めているパイオニア株式会社 モビリティサービスカンパニー。ビジネスモデルの移行は販売方法の変化をもたらしており、これまでとは異なる市場への対応のために、データをもとにしたパイプラインとターゲティングが不可欠になっていました。
これを実現するため、Sales CloudやAccount Engagement、Service Cloudを導入。各チームが自分たちのKGI/KPIだけではなく、他のチームのKGI/KPIを意識できるダッシュボードを提供することで、短期間のうちに直販の実績を高めつつあります。またSalesforceの世界でシームレスな情報連携を行うことで、エンドツーエンドでの情報活用も容易に。今後もこの基盤を活用し、さらなるビジネスの発展を目指しています。
1. 新市場でのビジネス開拓のためにはデータにもとづく販売活動が不可欠
2023年6月に企業の新たなミッション・ビジョン・バリューを策定し、創業からの企業理念「より多くの人と、感動を」を企業ミッション、ありたい姿を示す企業ビジョンとして「未来の移動体験を創ります」を掲げているパイオニア株式会社。 社内カンパニー制を導入し、その1つとしてデータソリューション事業を行う「モビリティサービスカンパニー」があります。その主な役割は、今後成長が見込まれるテレマティクス事業を中心にデータを活用する事業を行い、顧客課題解決型サービスの拡大を図ること。パイオニアがそれまで得意としてきた「モノづくり」に「サービス」を掛け合わせ、企業が保有する車両のテレマティクスサービスを提供する「ビークルアシスト」や、損害保険事業者と共同で開発したテレマティクスサービスなどを手掛けています。
このアプローチに関して「『モノ+コト』ではなく『モノ✕コト』であることが重要です」と語るのは、常務執行役員 モビリディサービスカンパニーCEO 兼 グループCISOを務める細井 智 氏。製造業がこれから長期にわたって発展していくには、この発想が不可欠なのだと言います。「ただし、ハードウェアを主体にしてサービスを付加する、という考え方では、十分な価値を生み出すことはできません。『それだけでもビジネスが成り立つ』サービスを主体とし、これにハードウェアを融合することで、他社にはないパイオニアらしい価値が生み出せると考えています」。
この新たなビジネスアプローチは、販売方法にも大きな変革をもたらす結果となりました。従来の「ハードウェア売り」中心のビジネスでは、自動車メーカーや自動車用品量販店といった、代理店を経由する販売ルートがほとんどでしたが、企業に対して「モノ✕コト」で生み出される価値を提供するには、これまでとは異なる種類のパートナーに加え、顧客企業に直接アプローチする「B to B直販」が不可欠になったのです。
「これまで慣れ親しんできた世界ではなく、まったく新しい世界で販売を行うには、データをもとにしたパイプライン管理と、精度の高い予測が必要です。マーケティングも従来型の広告マーケティングではなく、もっと精緻にターゲティングされた手法が求められます。そのためにはデジタルな基盤を、きちんと整備する必要があると考えました」(細井氏)。
2.MAをAccount Engagementへと移行、他チームを意識できる情報共有へ
この基盤の確立に向け、カンパニーが設置された2019年には、Sales CloudとMAツールを導入。しかし2021年頃までは、これらの活用はなかなか進んでいきませんでした。
「当時はまだ私は入社していませんでしたが、複数のシステムに同じような内容を入力しなければならない状況だったと聞いています」と語るのは、モビリディサービスカンパニー PM&マーケティング統括G マーケティング課 課長の大野 耕平 氏。そのため統合的なデータ活用が難しく、これがデータ活用のモチベーションアップを妨げる要因になり、結果的にデータ入力も進んでいかなかったようだと言います。
その大きな要因として、MAツールがSalesforce以外のものだったことを挙げるのは、カスタマーファースト推進本部 カスタマーファースト推進グループ SaaSカスタマーサポート部 カスタマーサポート戦略室の市川 集 氏です。「SFAとMAがシームレスに連携できていなかったため、エンドツーエンドで顧客の全体像を見ることができませんでした。MAツールに毎月高額な利用料を支払っていたにもかかわらず、十分な活用がなされていなかったのです」。
これらの問題を根本から解決するため、2021年10月にはMAツールをAccount Engagementへと移行し、Sales Cloudとのシームレスな連携を実現。また直販をさらに強化していくため、外部からの人材採用も積極化していきます。さらに、データを活用したマーケティングと営業へとシフトしていくため、大野氏が旗振り役となりシリウスディシジョンズ型の「デマンドウォーターフォール」の考え方を導入。英語で記述された資料を日本語化した上で、社内展開が行われています。
「ここで最も重視したのは、各チームのKGI/KPIを『バトンタッチ形式』で考えてもらうことです」と大野氏。マーケティングはリード数、インサイドセールスは架電数やアポイント数、営業は受注金額など、それぞれ自分たちのKGI/KPIだけに注目しがちになりますが、それだけではなく周りのチームのKGI/KPIにも注目し、役割分担は行いつつも全員が全体的な視野で考えられるようにすべきなのだと語ります。
「例えばマーケティング担当者は、インサイドセールスでのアポイント数や営業の受注金額まで視野に入れることで、自分たちが獲得してきたリードの質がどの程度なのかが理解でき、量だけを追い求めるのではなく質も重視したマーケティングへと前進できます。その一方で、営業担当者がマーケティングやインサイドマーケティングのKGI/KPIを理解していれば、どのようなリードやアポイントがほしいのか、データにもとづいたフィードバックを行うことも容易になります」。
3. 1年で直販の新規受注台数が8倍以上に、今後はピュアサービスの提供も推進
このようなチームを超えたKGI/KPIの共有を行うため、マーケティング・インサイドセールスではSalesforceのダッシュボード機能を活用。ダッシュボードの上部に、各チームのKGI/KPIがメーターの形で、一覧表示されるようにしています。2022年の初頭には、このダッシュボードの運用が本格的にスタート。その活用は短期間で定着し、現在ではダッシュボードを見ながら会議を行うことが、当たり前になっています。
またSales CloudとAccount Engagementの緊密な連携によって、MA活用の幅も広がっていると言うのは市川氏です。メール配信によるナーチャリングはもちろんのこと、展示会で得られた名刺情報などを含むリード全体の管理や、スコアリングによる架電の優先順位付なども行われていると述べています。
さらに2023年1月にはService Cloudも導入、顧客からの問合せ管理やナレッジ管理に活用されています。「Salesforceの世界でシームレスな情報連携を実現したことで、エンドツーエンドの情報活用が可能になりました」(市川氏)。
これらの一連の取り組みは、わずか1年で様々な効果をもたらしています。その代表的な数値を以下に列挙します(いずれも2021年から2022年の変化)。
- リード数:269%
- アポイント数:160%
- 新規顧客導入検討台数:213%
- 新規顧客受注台数:852%
ここで注目したいのが、アポイント数の増加に対し、導入検討台数の増加が大きいことです。これは、1回の引き合いでより多くの台数導入を検討する、規模の大きい案件が増えていることを意味します。また、直販の新規顧客受注台数が8倍以上になっていることも見逃せません。この成果は目標台数達成のために、Salesforceから得られたデータや営業リソースの観点から、マーケティング・営業間で戦略・戦術を都度協議し、注力すべき規模の案件などを調整してきた結果、得られたものだと言えます。
今後は「モノ✕コト」からさらに一歩踏み出し、モビリティソリューションのピュアサービスも進めていくと細井氏。すでに2023年9月にはその第一弾として、スマートフォンベースのナビゲーションアプリ「COCCHi」の配信をスタートした と語ります。
「これはカーナビメーカーが本気で作ったナビアプリであり、非常にきめ細かい情報提供や誘導が行えるようになっています。当初は一般のドライバーや、配送・タクシーなどの個人事業者向けに提供しますが、近い将来にはカスタマイズも含めた企業向けソリューションとしての提供も開始する予定です。さらに将来の機能拡張として、燃費/電費を予測してエコルートを提案し、企業のGX(グリーントランスフォーメーション)を支援する、といったことも視野に入っています」(細井氏)。
このようなピュアサービスが加われば、顧客層はさらに大きく変化していくことになるでしょう。経験則ではなく、データで顧客の全体像を把握するという考え方は、これからさらに重要になっていくはずです。
「当社ではSales Cloudが軸となり、これにAccount EngagementやService Cloudを加える形での導入となりましたが、最終的にこのような基盤にしたのは、Salesforceが掲げる『Customer 360』の考え方に共感したからです。お客様に向き合うすべてのチームでお客様の情報を共有し、それにもとづいてすべてのフェーズを管理することは、変化し続けるビジネスを運営する上での必須条件。今後もこの考え方を中心に据えて、ビジネスを発展させていきたいと考えています」(細井氏)。