大手化学メーカーがSalesforce本格活用を決意
部門の垣根を越えた情報一元化で各種業務を改善
CRMチームを立ち上げて活用を推進、
Sales Cloudを利用した営業-工場・開発間の情報共有・案件管理で業務効率化、
Manufacturing Cloudによるフォーキャスト高精度化で先手を打つ施策を展開
大手化学メーカー・旧昭和電工と旧昭和電工マテリアルズの統合により、2023年1月に新たな一歩を踏み出したレゾナックグループ。統合当初から経営基盤強化のためDXを推進し、その一環として両社導入済みのSalesforceの徹底活用を進めてきましたが、なかなか浸透しない問題に直面していました。
そこで同グループは、推進チームを強化、Salesforceの全社的な活用に向けた活動を開始します。Sales Cloudを利用した案件管理に加えて、営業-工場・開発間の情報共有による業務効率化や、Manufacturing Cloudを活用したフォーキャストの高精度化など、業務改善を次々に進めていきました。製造業の企業にとって学ぶところの多い、同グループの取り組みを紹介します。
1.Salesforceを導入するも利用進まず、会社統合を機に本格活用を開始
大手化学メーカーの旧昭和電工株式会社と旧昭和電工マテリアルズ株式会社は、2023年1月に統合し、持株会社・株式会社レゾナック・ホールディングスと事業会社・株式会社レゾナックとして新たな一歩を踏み出しました。統合の狙いは、両社の培ってきた素材技術やアプリケーション技術、評価・解析技術等を融合させ、共創型化学会社として世界で戦える機能性化学メーカーとなること。「化学の力で社会を変える」を新生レゾナックグループのパーパスに掲げ、共創を通じて持続的な成長と企業価値の向上を目指すとしています。
その実現に向けて同グループは、今回の統合以前から、経営基盤強化の重要施策のひとつとしてDXに取り組んできました。その背景には、執行役員でCDO(最高デジタル責任者)の柴田英樹氏が「当グループはデジタルに関しては後進企業」と評するような状況と危機意識がありました。業界内では、DXに関してむしろ先進的なイメージのある同グループですが、内部には多くの課題があり、日本の化学メーカーの中ではいち早くSalesforceを導入したものの、十分に活用できていなかった、と柴田氏はいいます。
「部門やユーザーによって、Salesforceの活用度合いにばらつきがあり、メリットを理解した上で本気で活用するというレベルに至っていませんでした。いかにすばらしいツールを導入しても、成果を出せるかどうかは使う人間や会社の文化次第なのだ、と痛感していました」(柴田氏)
コーポレートマーケティング部 プラットフォームグループリーダーの竹内良一氏は、Salesforceの利活用において抱えていた課題をこう説明します。
「2021年10月に旧昭和電工と旧昭和電工マテリアルズの両社でSalesforceのインスタンスを統合し、営業支援システムとして共同運用を開始しました。しかし、全体からいえば、Salesforceの利活用はまだまだ限定的でした。また、Salesforceを統合したとはいえ、両社の間には依然として“壁”がありました。さらに、Salesforceと受発注システム等が連携されていなかったため、営業のメンバーに二重業務が発生するなど、課題は山積みでした」(竹内氏)
そうした状況から脱却するため、同グループは2022年1月から竹内氏を責任者とするCRMチームを再編。Salesforceの全社的な活用を推進し始めたのです。
2.事業部の課題解決を図る取り組みとして現場ヒアリングから着手
CRMチームは、ヒアリングやワークショップを通じて、各事業・ユーザーの課題を改めて正しく把握するところから利活用プロジェクトをスタートさせました。ビジネスを伸ばしていく上でどんな問題があり、それを解決するにはどんな指標を見るべきか。それをしっかり理解できてはじめて、Salesforceのダッシュボードで必要な指標を可視化し、そこから得た気づきを仕事に活かすという、データドリブンな業務改善が可能になると考えたからです。
同時に、Salesforce活用の“土台”となる人材・文化を育てることにも力を入れました。ワークショップでは、各事業のゴールなどについて参加者同士で議論してダッシュボード案を考え、Salesforceに落とし込んでいきました。Salesforceのユーザーである参加者が、業務を進める上での具体的な目標や、その達成のために見なければならない指標、そしてそこから起こすべきアクションを自ら考える。それによって、Salesforceの利活用を“自分ごと化”してもらうのが目的です。そうした地道な活動を通じて、Salesforceに対するユーザーの理解は社内に徐々に浸透し、当初、セールスフォース・ジャパンのサポートのもとに開かれていたワークショップが、社員だけでどんどん実施されるようになりました。
また、ダッシュボードをより身近に使ってもらうための工夫も凝らしました。Salesforceにログイン後、すぐに見られる画面上の目につく位置にダッシュボードを表示。マネジメント層が、普段から高い頻度でダッシュボードを確認し、重要な指標をもとに迅速に意思決定できるような環境を整えました。
「ダッシュボードを身近な存在にするための工夫は、データを入力する側である営業担当者にとっても重要です。営業担当者は、マネジメント層からパイプラインを管理されるだけだと、『いつも見られている』と感じて、Salesforceの活用に消極的になってしまいます。そうならないよう、予算・実績・達成度といった営業目線に近い情報をダッシュボードに表示することで、自分たちの入力した情報がこういう成果に表れているのだと実感させ、データに親近感を持ってもらえるようにしました」(竹内氏)
3.営業-工場・開発間の情報共有・案件管理で業務を効率化、抜け漏れを回避
そうした活動を行いながら同グループが同時に着手したのは、営業-工場・開発間の情報共有・案件管理ツールとしてのSalesforceの活用です。同グループでは従来、営業のみがSalesforceを案件管理に利用してきました。そのため、工場・開発側との情報連携はメールで行い、案件管理はSalesforceで行うという二重業務が発生してしまい、Salesforce利活用の阻害要因になっていたのです。一方、工場・開発側では、営業からサンプル・見積・技術資料等の依頼が電話やメールでバラバラに寄せられ、対応が属人化し、かつ、重要な情報資産も残らないという問題が発生していました。
この状況を改善するため、同グループは工場・開発側にもアカウントを用意し、新たに部門間の業務基盤としてSalesforceを活用していきます。工場・開発への各種依頼など、新規案件を推進する業務プロセスを一元化した結果、工場・開発側は、Salesforceという1つのシステムだけを参照して依頼の対応やその進捗管理を行えるようになり、業務効率が上がっただけでなく、抜け漏れも回避できるようになりました。
4.フォーキャスト高精度化でギャップを早期に把握し、先手を打つ施策を展開
営業活動におけるSalesforceの活用は、さらに進んでいます。その1つが、MAツールとSales Cloudの連携による新規案件の創出です。メルマガ開封数・率やWeb訪問数・率、資料ダウンロード数など、MAツールによるマーケティング活動で得られる顧客反応を可視化し、データをSalesforceへ連携します。営業担当者はそのデータから、見込み客の確度や優先すべき度合いなどを見極め、効率的かつ効果的にアプローチする、という仕組みです。
また、顧客の潜在ニーズをすくい上げ、ビジネスにつなげるようなSales Cloudの活用も始めました。
「当グループのようなメーカーの場合、お客様のご要望にもとづいて、試作対応をスピーディに進めていくことが重要です。Sales Cloudに蓄積された顧客・案件情報や営業の活動履歴などのデータから、お客様の潜在的なニーズを探り、営業・開発戦略に活かせるようになりました」(柴田氏)
そして、現在まさに進化しつつあるのが、フォーキャスト管理です。もともと同グループにおいて、新規案件の情報は、前述の通り営業担当者によってSalesforceに入力、管理されていました。一方、契約後の販売計画・見込み・実績等の関連情報は、基幹システムやExcelで個別に管理され、必要に応じて事業部・工場が参照する、という状況でした。このように、データがバラバラに管理されていたことによって、総合的な収益やデータ分析から、ものづくりの流れを的確に決めたり、時間をかけずに必要な対策を講じたりすることが困難でした。
そこで同グループは、製造業に必要な各種機能を盛り込んだプラットフォームであるManufacturing Cloudを新たに導入。これまで蓄積されていた顧客・案件情報、営業担当者の日々の活動履歴に加えて、販売計画・フォーキャストに関する情報も集約し、新規案件と既存案件を1つのプラットフォームで業務管理ができる環境を構築しました。
「各種データを分析して、どのお客様からいつ、どのぐらいの注文が来るかという着地予測を高精度化し、最新の情報を工場・開発部門へ連携します。そうして需要と供給のギャップを早期に把握し、目標達成のために先手を打って施策を展開する。そうした取り組みが、これからの当社のビジネスでは非常に重要なポイントになると考えています」(柴田氏)
5.迅速なニーズ把握と顧客へのリーチで「世界で戦える機能性化学メーカー」へ
Salesforceの本格的な活用開始から日が浅く、目に見える成果が出るのはこれからですが、竹内氏はすでにその先の展開を見据えています。
「現在、Salesforceの利活用はまだ限られた事業部のみですが、2025~2026年までには全営業・全マーケターがSalesforce上のデータにもとづいて意思決定して行動し、売上・利益の向上に貢献できるようになることを目指しています」(竹内氏)
柴田氏も同様に、Salesforceに集約されたデータが今後のビジネスの趨勢を決するとした上で、最後にこう締めくくりました。
「当グループは約20の事業部を持ち、グローバルにビジネスを展開しています。それに携わるすべてのステークホルダーが、同じデータを使用して意思決定していくためには、いわゆる『Single Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)』の確立が不可欠です。それを踏まえて今後、データプラットフォームの構築を進めていきたいと考えています。
また、市場のニーズを的確に把握し、顧客にタイムリーにリーチすることは、『世界で戦える機能性化学メーカー』を目指す上で非常に重要です。CRMとしてのSalesforceの活用など、さまざまな活動を通じて、今後も顧客価値の最大化に取り組んでいきます」(柴田氏)
6.【動画で見る】レゾナック社のSalesforce活用事例
レゾナック社はSalesforceを導入した結果、業務効率の向上と精緻なフォーキャストによる市場対応のスピードアップを実現しました。
Salesforceの操作画面イメージとともに、レゾナック社のDX推進の秘訣を探ります。
右記フォームをご記入いただくと、デモ動画をご覧いただけます。