B2B Commerceで部品販売サイトを構築
部品の在庫管理体制を整え、部品受注の作業時間が半減
B2B Commerceを導入し、部品販売のECサイトを構築。 ユーザーが必要な部品を容易に選択・購入可能とし、管理側の受注作業も大幅効率化。 部品販売データと顧客情報・保有機器情報を可視化して営業部門などと共有化。
そうした状況から脱却すべくアフターセールス強化の全社プロジェクトを立ち上げた同社は、部品在庫管理システムを検討および導入し、さらにSalesforce B2B Commerceを採用してECサイトを構築。部品のオンライン販売を開始しました。
コロナ禍のさなか、2020年7月にオープンした「Shima Parts Site」は、同社のアフターセールスや営業活動にどのような影響を与え、いかなる成果を生み出したのか。製造業における部品販売のEC化の手本となる、同社の取り組みを紹介します。
1. 属人的なアフターセールスが長年の課題、機械の累積販売台数増加で限界に
世界市場においてニットマシン(コンピュータ横編機、ホールガーメント横編機、手袋・靴下編機)などのリーディングカンパニーとして知られる株式会社島精機製作所(和歌山県和歌山市)。同社は、国内外の多くのアパレル・ニットメーカーで採用されている横編機のほかに、アパレル、ファッション、自動車内装部品(カーシートやフロアマットなど)、ワークウェア、産業資材、家具関連など、さまざまな業界の各種素材の裁断に用いられる自動裁断機や、それらの機械を動かすデザインシステム・ソフトウェアなど、幅広い分野で高品質な製品・サービスを提供しています。
同社は1962年、和歌山市において創業しました。手袋編機の開発・製造・販売から事業を開始した同社は、アパレル業界へ進出し、1980年代に世界的な企業へと成長。そして現在では、東京・大阪など国内各地に支店・テクニカルサービスセンターを構えるほか、中国・アメリカ・イギリス・イタリアなど各国に現地法人を設置し、その他の国々では販売代理店を通じてグローバルに事業を展開しています。
そうした同社のビジネスにおいて、世界中で稼働する自社製品の部品の販売や修理といったアフターセールスは、きわめて重要な位置を占めています。単体のビジネスとしての売上だけでなく、そのサービス体制の品質の良し悪しが機械そのものの売上やブランドの価値に大きな影響を及ぼすからです。実際にアフターセールスに携わってきた、営業統括部 企画業務グループ 課長代理の南出善和氏は、同社で長年おこなってきた機械本体販売メインのビジネススタイルから脱却し、顧客における機械の使用・保守までをトータルにサポートするビジネススタイル「サービタイゼーション」を実現する一環として、アフターセールスの改革が重要と考えました。サービタイゼーションとは、製品とサービスを結びつけ、それらにより新しい価値を生み出すビジネスモデルです。
「当社は創業から半世紀以上、機械メーカーとして機械本体の売上向上に努めてきました。しかし近年は、製品のコモディティ化や顧客体験の重要性が高まり、製造業においても製品を単なる『モノ』として提供するのではなく、それに付随する定期メンテナンスや保守サービス、IoTなどのテクノロジーを組み合わせて提供するサービタイゼーションの時代になりました。にもかかわらず当社では、今、どの機械にどの品番の部品が使用されていて、それらの部品の在庫数や販売数がどれぐらいあるのかという、部品管理や受注の作業は完全に属人化していました」
部品受注の担当者が、1名あたり数千品番もの部品の在庫や受注状況を把握しながら、電話・メール・FAXによる注文の情報の大部分を手動で入力し、過去の販売履歴などの情報を随時確認し在庫を予測していた、と南出氏はいいます。
「そのため、受注処理を失念する、部品在庫が不足した結果納品が遅れる、といった事案がしばしば発生し、お客様からお叱りを受けることもありました。そんな中でも、販売する機械本体や機械オプションの種類・販売台数はどんどん増え、それにともなって部品の品番が増加し、確保すべき在庫数が増えていく。結果、部品の在庫数や金額が膨れ上がっていきました。また管理する担当者が徐々に高年齢化してきたこともあって、なんらかのシステムを導入しなければ継続が困難になる、というところまできていました」
2. Salesforce B2B Commerceで部品販売サイトを構築
危機感を募らせた南出氏は、アフターセールスのシステム化の方策について、2017年頃から部品販売の主幹部署の物流部と営業統括部の関係者と協力し独自に調査・検討を開始。その後、アフターセールス強化プロジェクト「全社プロジェクト」を立ち上げました。
そのリーダーに指名された南出氏は、まずは部品の在庫管理体制を整えるべきと考え、システム導入のROI(Return On Investment:投資利益率)を示しながら経営陣に説明。承認を得て2019年に部品在庫管理システムの稼働にこぎつけた上で、部品販売のECサイトの立ち上げに着手しました。
「BtoCでは誰もがEC(サイト)の恩恵を受ける時代なのに、当社の業務(BtoB)では、いまだに電話・メール・FAXを使っているという、あるべき姿との乖離を実感しました。部品のECサイトができれば、お客様がいつでも欲しいものを自身で探して買えるようになります。さらにお客様側で、自動的に蓄積される過去の購入履歴にもとづいて再注文(リピート発注)が可能になります。当社側としては、アップセルやクロスセルを駆使し積極的な提案にもつなげられると考えました」
それを実現するためのシステムとして導入したのが、Salesforce B2B Commerceです。将来的に基幹システムやCRM・SFAなどの他のシステムと連携させることを考えたとき、APIやCSVといったさまざまな方法で各種システムと容易に接続できてデータのハブとなる、Salesforceの連携性の高さが決め手になった、と南出氏は話します。
そうした紆余曲折を経て2020年7月に誕生した、部品販売のECサイト「Shima Parts Site」。最初に主な利用者となったのは、自動裁断機のユーザーでした。同社の自動裁断機は、横編機のように1つの工場に数台~数百台レベルで導入されるものと異なり、基本的に1工場に1台ないし2~3台の導入が多くを占めています。ゆえに「止まってしまうとその他の多くの工程が止まる」という重大な役割を担い、稼働を維持するための消耗品・メンテナンス品などの需要が特に高い機械です。また、一部の機種に関してはIoTで稼働状況が可視化されているという特性もあります。そこで同社は、自動裁断機のユーザーを「Shima Parts Site」の利用拡大に向けた最初のターゲットとし、一件一件にメリットや利用法などを丁寧に説明。結果、自動裁断機のユーザーが「Shima Parts Site」の利用を開始したのです。
3. 部品の購入・販売作業を効率化、販売データ・部品関連情報を営業部門に共有
Salesforce B2B Commerceで構築された「Shima Parts Site」では、同社の物流部で扱われている大部分の部品が販売されています。そして、画面上で機械の機種および号機情報を選択するだけで、関連する部品の一覧が表示されます。各部品の関連情報については、基幹システムに蓄積された部品のサイズ・重量・画像などのデータを連携させているため、ユーザーは部品の詳細を確認しながら迷うことなく必要なものを選べる仕組みとなっています。
一方、ECサイトの管理側(島精機側)では、注文確定後に担当者に注文情報のアナウンスが届き、各部品の在庫、納期などを確認し、出荷日と荷物の追跡番号などをユーザーに通知するだけで、受注の作業が完了できます。また、部品の販売履歴については、“どの顧客が、どの部品をいつ、何個購入したか”をひと目で確認できます。
さらに、販売データおよび部品関連情報をSales Cloud/Service CloudのDXを通じて、営業/技術部門にも情報を共有化し、ユーザーの状況を社内の部門を超えて「見える化」しました。
「『Shima Parts Site』で購入される多くの部品は消耗品です。消耗品を何度も購入しているお客様の機械状況が今まで以上にわかるようになりました」
4. 受注作業時間50%削減、B2B Commerceが部品販売の回復に貢献
「Shima Parts Site」の立ち上げによる効果は、さまざまな形で現れています。そのひとつが受注業務の効率化です。従来は、電話・メール・FAXで注文を受けた担当者が、顧客名や顧客コード、品番などをそれぞれ手入力しなければなりませんでしたが、CRMと部品情報との連携により、そうした作業の大部分は不要となり、作業時間は50%程度削減されました。
加えて、属人化した電話・メール・FAXであれば受注したこと自体を担当者が忘れてしまう可能性があり、実際に「そういえば昨日……」といった“ヒヤリハット”が発生していたそうですが、ECサイト立ち上げによってそうした問題の発生を大幅に抑えられるようになりました。
「『Shima Parts Site』がスタートし、業務が効率化されたことで、受注からお届けまでのリードタイムは確実に短縮されました。部品購入の利便性が高まったことと合わせて、お客様の満足度向上につながるよう進めてきました。
お客様が導入した機械の稼働状況はコロナ禍で悪化し、比例して部品の売上も落ち込みましたが、近年徐々に機械稼働状況も改善し、それに伴い部品販売に関して前期(2023年度)にはコロナ前の売上と同等のレベルにまで回復することができました。Salesforce単体の定量効果を算出するのは難しいですが、『Shima Parts Site』は、年30%を超える伸び率の売上で推移し、経営陣からも評価をいただきました。Salesforce B2B Commerce と部品在庫管理システムがリンクし、部品販売の回復の原動力のひとつになったといえます」
Salesforce B2B Commerceの活用によって、すでに大きな成果を挙げた同社。南出氏は、さらに次の展開へ向けて動き始めています。
「同じ機種の機械でも、号機が違えば部品の品番が異なることがあります。どの品番とどの品番に互換性があるかがわからないと部品の交換はできません。今後は、さらに各機種/号機ごとのS-BOM(Service Bill of Materials:保守部品表)情報を活用し、それらの情報の集約化を加速していきます。当社の製品の多くは海外にも販売されているため、そうした情報を日本国内のお客様のみならず、海外のお客様、海外現地法人や販売代理店への共有が実現できれば、島精機本社だけではなく海外現地法人や販売代理店への確認や問い合わせをもっと減らせるでしょう。
そして将来的には、お客様に導入された多くのIoT化された機械の稼働状況や、各部品の使用時間、使用回数等々の情報とSalesforce B2B Commerceがリンクし、部品交換時期や注文状況や修理/メンテナンスがどうなっているかがひと目でわかるように進めていきたいと思います」

その他のリソース

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