理想的な成長速度指標を達成し年間経常収益が100億円に
SaaSビジネスを支える戦略的オペレーション基盤の姿
重視したのは多様なツールと連携して使えること
Sales Cloudと複数のAppExchangeアプリの活用で
精度の高い顧客情報管理と戦略的な営業活動を実現
人事労務クラウド「SmartHR」の提供によって、急成長を続けている株式会社SmartHR。2015年11月にサービスをローンチして約8年で導入顧客数は5万を突破、年間経常収益は100億円に到達しました。同社ではマーケティング/営業を「事業活動の根幹」とみなしており、その基盤をどう確立するかも重視しています。ここで採用されているのがSalesforceです。
その最大の理由は、マーケティングからインサイドセールス、営業、カスタマーサクセスに至るまで、幅広い領域をカバーできる上、AppExchangeによって多様なツールとの連携も容易なこと。その背景には、急成長の中でもオペレーションコストを増やさないため、オペレーション統一が可能なシステムへの先行投資を戦略的に行うべきという、創業当初からの考えがあったと言います。実際にSales Cloud導入の2年後には、Sansan、Mashmatrix Sheet、uSonarなど、複数のAppExchangeアプリが導入・活用されています。またSmartHR自身もアプリストア「SmartHR Plus」を公開、ここでもAppExchangeが参考にされています。
1. Herokuの採用で、”時間を買う”
人事労務クラウド「SmartHR」を提供し、急成長を続けている株式会社SmartHR。2015年11月にサービスをローンチしてからまだ8年しか経過していませんが、この間にSaaSの理想的な成長速度指標と言われている「T2D3※1」を達成し、導入顧客数は5万を超えています。また2023年3月に行われた事業戦略発表会では、年間経常収益が100億円に到達したことも発表されました。
急速な成長を支えたのは、アプリケーション開発のインフラとして採用されたHerokuです。それまで利用していたサービスでは、機能の拡充とともに様々な問題が顕在化してきたため、Herokuを活用しマイクロサービス化によって開発の柔軟性を高め、新規機能開発を加速させました。
マイクロサービス化による可搬性、スケールのしやすさ、インフラ管理工数の抑制、そして軟弱性が発見された際のセキュリティーチームの体制や対応スピードと大きな安心感を評価し、HerokuがSmartHRにとって最適なツールであると判断。検証や本番など、複数の環境を構築するために何度もビルドを繰り返す必要に迫られていた課題を解消し、活用を深めていきました。 同社 COO 倉橋 隆文氏は「基本的に現場が良いと言うものは採用しますが、Herokuは経営側から見ても理にかなったツールだと感じました。私たちのようなベンチャーにとって最も大切なのは時間です。時間を買えると考えれば、合理的な投資になります」と話します。
そして現在ではアプリケーション開発領域でのHerokuの活用だけでなく、マーケ/営業領域でのSalesforce活用がさらに進んでいます。
※1 Triple✕2、Double✕3の略。5年間の年間収益の成長率が、3倍、3倍、2倍、2倍、2倍、合計72倍になることを意味しています。
2. マーケ/営業基盤はSales Cloud 多様なツールと連携できることが重要
「当社のビジネスの主軸は労務管理領域ですが、現在では第2の柱としてタレントマネジメント領域にも力を入れています」と語るのは、SmartHR 業務推進グループでマネージャーを務める新田 昇平 氏。労務管理クラウドは5年連続でシェアNo.1となっており、タレントマネジメントシステムも顧客満足度No.1を獲得しています。「これらのビジネスモデルはSaaS型であるため、お客様のチャーンレート(解約率)をどれだけ抑えられるかが重要です。そのため無理に顧客を獲得するのではなく、より広い顧客層を視野に入れた上で、当社のサービスを本当に望んでいるお客様をリードにつなげるようにしています」。
そのために活用されているのが、Sales CloudとAppExchangeの複数のアプリケーションです。AppExchangeとは、Salesforce向けに開発された専用のアプリケーションストアのこと。あらゆる業種や業務向けのアプリケーションが揃っており、これらをインストールすることで、様々な機能拡張やカスタマイズが可能になります。
SmartHRがSales Cloudを導入したのは2017年9月。この頃はインサイドセールスの立ち上げ期であり、月間200件のリードをスピーディーに対応する必要がありました。ここでSales Cloudが選択された理由について、新田氏は次のように説明します。
「マーケティングと営業は、事業活動の根幹を成す要素であるため、様々なツールと連携して使えることが重要です。その基盤としてSalesforceを利用しているのは、マーケティングからインサイドセールス、営業、カスタマーサクセスに至るまで、幅広い領域をカバーできるからです」(新田氏)。
Sales Cloud導入の2年後には、AppExchangeのアプリ導入も開始。これに関しては、SmartHR インサイドセールスグループ IS Opsユニットでチーフを務める中村 祐太 氏が、次のように述べています。なお所属名についている「Ops」とは、各部署でSalesforceを軸にオペレーションを管理・運営するチームを意味しており、IS Opsは「インサイドセールスの生産性を上げる」「戦略立案や意思決定に貢献する」といった役割を担っています。
「Salesforceはカスタマイズ性が高く業務に必要なものを柔軟に独自開発することは出来ますが、初期構築の工数は良しとしても、機能の保守にかなりの社内工数がかかってしまいます。これに対してAppExchangeであれば、カスタマイズの工数をかけることなく、Salesforceの上にスピーディに機能を追加することが可能です。もちろんSalesforceから独立したサービスを導入するという選択肢も考えられますが、Salesforceから認定されているAppExchangeの方が、はるかに大きな安心感があります」。
3. 欲しい機能はAppExchangeで”探す”、 1年間で営業支援アプリを次々に導入
SmartHRが最初に活用を始めたAppExchangeアプリケーションは、2019年12月に導入された「Sansan」でした。これは名刺のスキャンやオンライン名刺の登録、高精度なAI名刺管理などの機能を提供する、名刺管理のリーディングソリューション。以前は他の名刺管理ツールを利用していましたが、これをあえてAppExchangeのSansanへと移行したのです。
「当社では展示会を開催した翌日には、展示会でいただいた名刺に電話をかけています。ビジネス規模が拡大する中でこのスピードを維持し続けるには、Sales Cloudとダイレクトに連携できる名刺管理が必須だと考えました」(新田氏)。
2020年10月には、国内820万件の法人企業データベースと、取引先やリードデータの名寄せ・整備・クレンジングなどの機能を提供する「uSonar」の活用も開始。その最大の目的は、uSonarが採用する「LBC(Linkage Business Code)」によって、法人単位よりも細かい拠点単位の管理を、重複なく行うことだったと言います。
「例えば医療や学校などの特殊法人の場合には、法人単位ではなく施設単位でSmartHRが導入されることがあり、法人番号だけでは管理しきれません。また、展示会などで入手した名刺からの入力データや顧客がWebで入力したデータには記載ミスや表記ゆれがあるため重複が発生しやすく、これらの重複排除も法人番号では困難でした」(中村氏)。
uSonarによって重複した顧客情報の排除が容易になり、管理精度は一気に向上。Salesforceで表示される「重複データ」の警告もゼロになり、警告発生時にデータをマージする作業も不要になりました。以前は重複データが3万件を超えていたこともあり、このマージ作業がなくなっただけでも、1日1人あたり30分以上の時間節約につながっていると言います。
4.精度の高い顧客情報管理を実現、より戦略的な営業活動が可能
これらと並行して、2020年7月には「Mashmatrix Sheet」も導入。これはSalesforceのデータをExcelシートのように閲覧・編集できるツールであり、その効果について中村氏は次のように語ります。
「この頃には社員数が200人を超えるようになり、Salesforceに慣れていない社員も多くなってきました。また各部署のOpsの人数も増えており、できるだけ簡単に運用できる仕組みが求められていました。Mashmatrix Sheetなら簡単に、ユーザーが求める情報をシート型で表示でき、そのシートに入力した内容はすぐにSales Cloudに反映されます。またSales Cloudのレイアウトにシートを埋め込むこともできるので、様々なオブジェクトに散らばったデータをひとつのページにまとめて表示することができ、不慣れなユーザーにとっても確認がラクになります。SmartHRはマーケティングコンテンツが多いのですが、顧客が辿ったコンテンツの履歴をこのシートですぐに見られるようになっています」。
なおSmartHRではこれら以外にも、サブスクリプション管理を行う「Zuora」や、電子署名アプリ「Docusign」などのパッケージを活用しています。事業活動の要として「多様なツールと連携できる営業基盤」が、着々と実現されているのです。また、リードのナーチャリングにはAccount Engagement(旧Pardot)も活用。Salesforceはこれら全体の管理基盤として、重要な役割を担っているのです。
「SalesforceとAppExchangeがなければ、このような強力な基盤は確立できなかったと思います。正確なデータを溜め、活用していくことで、個人が最大限の力を発揮し、中長期的な組織の繁栄と当社のコーポレートミッションである”well working”を実現することができると思います」と新田氏。今後もこれらを積極的に活用すると共に、自社のビジネスでも連携アプリを増やしていく計画だと語ります。
「実は当社でも、数多くのアプリから必要なものを選択し、SmartHRの一部としてお使いいただける『SmartHR Plus』のβ版を、2022年7月に公開しています。これは労務管理やタレント管理を軸に多様なツールと連携できるプラットフォームにしていく予定です。今後もAppExchangeを参考にしながら、このプラットフォームの展開を本格的に進めていく計画です」。