秋田の老舗が複数クラウド活用で
完全週休2日、引き継ぎ期間を半減
ビジネス状況・全体像の可視化による経営判断の迅速化、現場作業の効率・正確性向上、マーケティング施策・問い合わせ対応の最適化など、一元化された情報を基盤として各種業務を改革
秋田県に本社を置く株式会社髙田屋は、エネルギー事業を中心とする積極的なビジネス展開によって成長を続け、70年近い歴史を刻んできました。しかし、サービス・顧客の増加にともない、情報の属人化を主な要因とする大きな課題に直面。ついには、仕事内容を把握する唯一の社員の病欠によって一時その業務が立ち行かなくなる、という事態まで発生するようになりました。
そうした状況から脱却するため、Salesforceの導入を決断した同社は、顧客・商談など、あらゆる情報を入力して社内システムと連携。Sales Cloud、Field Service、CRM Analytics、Marketing Cloud Account Engagement (旧 Pardot)、Service Cloudといった複数のクラウドサービスを組み合わせて活用する「マルチクラウド」で、さまざまな業務を改善していきます。その結果、事業の性質上難しいと考えられていた完全週休2日を実現。さらに、Salesforce活用のノウハウをパッケージ化した新事業の創出など、新たなビジネス展開も見えてきたのです。
1. 顧客・商談等の情報が共有されずスムーズな顧客対応や引き継ぎが困難
株式会社髙田屋は、秋田県湯沢市に本社を置き、エネルギー事業をメインにさまざまなビジネスを展開する企業です。1954年、医薬品・農薬を販売する薬品事業からスタートした同社は、その後ビジネスの中心をLPG・灯油の卸売・小売や関連器具の販売、オートガススタンドの運営、ガス関連の設備工事といったエネルギー事業へ移行。さらに、エンドユーザーとの接触機会の増加にあわせて事業領域を広げ、現在では家電製品・生活用品等の小売、ウォーターサーバーのレンタル、LPGハイブリッド車への改造装置の販売なども手がける総合企業となっています。
そうした積極的なビジネス展開によって成長を続け、長い歴史を刻んできた同社。ただ、現在代表取締役副社長COOを務める高橋隆太氏が2014年に帰省し、祖父の創業した同社に入社したとき、社内には事業多角化の副産物ともいえる大きな課題がありました。商材や顧客が年々増加する中、情報管理において、商材や部門ごとに異なるシステムを利用するようになり、管理方法も部門や個人でバラバラになっていたことです。
「まさに典型的な地方の中小企業、という状態でした。お客様への対応履歴や商談などの情報の多くが紙ベース、あるいは担当者の頭の中にしかなく、会社として蓄積・共有されていませんでした。そのため、お問い合わせがあっても担当者不在でその場しのぎの対応しかできない、担当者の定年退職によってお客様との過去のやり取りの内容がわからなくなる、といった問題が多発していました」(高橋隆太氏)
そうした中、高橋隆太氏を含む経営陣が、危機意識を共有するきっかけとなる出来事がありました。LPG容器検査所の業務のすべてを把握している唯一の社員が体調を崩したことで、一時的に業務が立ち行かなくなったのです。
「特定の社員に頼り切りになり、情報が完全に属人化していたわけです。もともと弊社の商材は、LPGをはじめ、お客様との長期にわたる関係の中で継続的に提供していく種類のものが多い。であれば、お客様とどんなつながりがあり、どうおつき合いしてきたかを、会社として把握するのはきわめて重要なことであるはず。ウォーター事業を新たに始めるなど、商材やお客様をさらに増やしていこうとするならなおさらです。情報が属人化している状況からなんとか脱却して、お客様対応や引き継ぎを円滑化・効率化し、お客様の満足度を向上させていかなければならないと真剣に考えるようになりました」(高橋隆太氏)
2. 連携性・カスタマイズ性重視が決定打 社内システムとの接続で業務改善
そうした課題を克服するためのシステムとして、高橋隆太氏はさまざまなソリューションを比較検討した結果、Salesforceの導入を決断します。
「まず重視したのが連携性です。社内にはさまざまなシステムがあるので、それらと容易に接続できること、また連携可能なAppExchangeが豊富にあることが、Salesforceを選定するポイントになりました。
それともうひとつ、カスタマイズ性の高さも魅力でした。やはり弊社のような中小企業は、コスト面の制約があるので、できるだけお金をかけずに内製で開発したい。その点Salesforceは、自分たちで自由にカスタマイズできます。またその際、参考となる活用事例や開発者ブログなどの情報がたくさんあるのも大きなメリットだと考えました」(高橋隆太氏)
高橋隆太氏によるSalesforce導入の提案に対し、危機感を共有する経営陣からはすぐに前向きな反応を得られたといいます。しかし、社員の理解と協力なくして利用を定着させることはできません。そこで高橋隆太氏は、TeamSpiritを同時に導入し、全社員が否応なく関わる勤怠・就業管理の部分からSalesforceの利用を開始。そこから徐々にSalesforceの利用範囲と利用者数を増やしていきました。そのように慎重に段階を踏んだことで、比較的スムーズに利用が定着したといいます。
その上で同社は、第一の課題だった情報管理の改善に着手します。全社員にSales Cloudのアカウントを付与し、顧客・案件・商談の情報はもちろん、ウォーターサーバーの納入状況やメンテナンスの時期、顧客への年賀状・お中元・お歳暮の送付状況、業務関連の免許・備品の有効期限、求人・採用など、あらゆる情報を入力し、誰もがいつでも全情報にアクセスできるようにしました。
また、帳票クラウドサービスやコンテンツ管理サービス、名刺管理ツール、グループウェアなど、各種外部ツールとSales Cloudを連携させることで、さまざまな業務の効率化を進めていきました。その効果について、サポート本部の髙橋絵理香氏はこう語ります。
「家電事業においては、見積書・納品書・請求書などをその場ですぐに出力できるようになり、非常に楽になりました。また、ウォーターサーバーのメンテナンス業務でも、どのお客様が交換の時期に近づいているか、いつどの部品を交換したかなどの情報をひと目で把握できるようになり、お客様対応の抜け漏れがほとんどなくなりました」(髙橋絵理香氏)
3. 問い合わせへの対応漏れ0件、完全週休2日を実現!膨らむ新ビジネスの夢
続いて同社は、ガス関連設備の保安点検業務の改善を目的としてField Serviceを導入。それによって、担当者のスケジュールや作業の進捗、訪問先の情報、地図などを担当者がモバイル端末でいつでも把握できるようになり、現場の業務の効率と正確性が向上しました。
また、CRM Analyticsを利用して、基幹システムに蓄積されたものを含めた各種データを分析。月1回のミーティングにおいて、経営陣にわかりやすい形でビジネス状況を提示できるようになり、より的確、迅速に経営判断を下せるようになりました。
Salesforce各種製品を活用した同社の業務改革はそれだけにとどまりません。Account Engagementを導入し、Webサイトのフォームからの問い合わせに対するメール配信の自動化や、名刺管理アプリのデータを利用したメールマーケティングなどに取り組み始めました。
さらに同社は、問い合わせ対応の改善を目指し、Service Cloudを導入。それまで同社では、問い合わせの受付者が、担当者に直接その内容を伝えて対応させていたため、受付者と担当者以外には問い合わせの内容や対応の進捗状況を把握できませんでした。そこで、Service Cloudをコールセンターシステムと連携させ、顧客・案件ごとに電話・メールでの問い合わせ内容やその後の対応をケースで管理し、社内で共有。誰でも現状をリアルタイムに確認できるようにしました。その結果、対応漏れは0件になり、問い合わせへの対応時間も約20%削減されました。
そのように、複数のクラウドサービスを組み合わせて活用する「マルチクラウド」で、さまざまな業務を最適化した同社。その成果は、「働き方改革」の上でも明確な形として現れました。事業の性質上難しいと高橋隆太氏が考えていた完全週休2日を実現し、年間の休日を24日以上増やすことができたのです。当然、社内では喜びの声が上がり、求人への応募数も増加したといいます。
また、担当者への引き継ぎが格段にスムーズになり、それに要する時間は従来の3か月から1.5か月に半減。勤怠の事務手続きの時間も7日から0.5日へと大幅に短縮されました。
もうひとつの大きな成果は、顧客満足度の向上です。以前から同社では、顧客からの電話やメール、手紙による感謝や賛辞などの反響を「称賛の声」として集計してきましたが、Salesforce導入後、その数は一気に3倍以上に増加しました。髙橋絵理香氏はいいます。
「各業務においてお客様への対応の質や速度が飛躍的に上がったことが、お客様の満足度の向上に直結していると感じています」(髙橋絵理香氏)
最後に高橋隆太氏は、Salesforceが同社にもたらしたものについてこう語りました。
「以前の弊社は、社員個人の能力や記憶に頼らざるを得ない仕組みの会社でした。それが、Salesforceという情報共有の基盤ができたことで一変しました。社員の数を増やすことなく新しい事業を立ち上げたり、この業種ではなかなか難しかったテレワークを一部の部門で推進したりすることができたのは、Salesforceがあったからこそです。
将来、エネルギー事業などにおいてSalesforceで培ったノウハウやシステムをパッケージ化して販売し、収益化できればいいなと考えています。夢のような話かもしれませんけど、そういうことを考えられるようになったのも、Salesforceの成果のひとつですね」(高橋隆太氏)