顧客理解と業務効率化からさらに踏み出し「顧客と両思い」の関係構築へ
入居者向けポータル上で様々な施策を実施し、デジタルとリアルを融合したQoL向上へ
埼玉県志木市・朝霞市の地場企業として、不動産の賃貸管理や販売仲介などを手掛ける株式会社 登喜和。2011年には顧客情報の管理・活用と業務効率化のためにSalesforceを導入し、リピート紹介による売上比率を大幅に向上させると共に、不動産会社としてはいち早く完全週休2日制を実現しています。
しかし当時の顧客理解は企業側からの「片思い」に過ぎず、新たな体験価値を生み出すには顧客からも理解される「両思い」の関係が必要だと判断。2018年に入居者向けポータル「HOOOP(フープ)」の提供を開始し、ポータル上で様々な施策が展開されています。これによって入居者のQoLを高め、年間平均入居率は97%に。地元店舗との連携や、リアルとデジタルを融合した取り組みも行われており、大手に負けない地場企業ならではの価値を生み出しています。
1. 顧客理解だけでは不十分、顧客からも理解される「両思い」の関係へ
1969年に創業し、埼玉県志木市と朝霞市で賃貸管理を中心とした不動産ビジネスを営む株式会社 登喜和。「この街に住み続けたい」と思ってもらえるように、居住者のQoL(Quality of Life:生活の質)を高めるサービスを提供し続けています。目標として掲げているのは「生涯リピート率100%」の企業になること。大手ではない「地場企業」としての存在意義を追求しながら、地元で唯一無二の「コンシェルジュ」になることを目指しています。
しかし不動産ビジネスにおいて、顧客との長期的な関係を築いてリピート率を高めることは、決して簡単ではありません。特に賃貸管理では、契約・解約時にしか入居者とコンタクトできない「一期一会」的なビジネスモデルになりがちです。
「1回のお取引でお客様との関係が切れてしまう従来のモデルでは、弊社のような地場の不動産会社は大手に勝つことはできません」と語るのは、登喜和 代表取締役の原 英晴 氏。特に近年は人口減が進んでおり、従来のような「売上を新規取引で積み上げる」スタイルは続かないと指摘します。これに加えて、限られた数の従業員でも労働時間を増やさないようにするには、生産性の向上も不可欠だと指摘。「その中でお客様への提供価値を確実に高めていくには、統合的なシステムが必須になると考えました」。
その基盤として2011年にSalesforceを導入。初期はLightning Platformを中心に活用し、段階的に適用領域を拡げながら顧客情報を集約しながら業務プロセスの改善を進めていきます。またリピート率向上のために、顧客の属性や顧客同士の相関に関する情報も蓄積。顧客本人のみならず、家族構成や友人関係などを含む複雑な情報を、ひと目で把握できるようにしています。これらの取り組みによって、2017年度にはリピート・紹介による売上の割合が、前年度比153%となる43%に到達。その一方で、正社員15人合計で2880時間の労働時間を削減し、不動産会社としてはいち早く完全週休2日制を導入しています。
このように、顧客への深い理解と大幅な生産性向上に成功した登喜和ですが、これだけでは不十分だと原氏は指摘します。
「お客様の情報は確かに整理整頓され、お客様理解の『解像度』は上がったのかもしれません。しかしそれは弊社からの一方的な『片思い』に過ぎず、これだけでは十分な価値創造はできないことがわかりました。新たな価値を生み出し事業の安定性を高めるには、お客様にも弊社をご理解いただく『両思い』の関係性を確立しなければならないのです」。
2. 入居者向けポータル「HOOOP」を立ち上げ様々な施策を展開
このような想いから、2017年にはService Cloud、Live Agentを活用したチャット、Chatbotによる入居者とのコミュニケーションの自動化を開始。2018年3月にはCustomer Community上で、入居者向けポータル「HOOOP(フープ)」をスタートさせ入居者1人ひとりにIDを配布し情報発信やFAQの提供などを実施します。しかし入居者はログインが必要なこともあり、当初はなかなかアクセスが伸びなかったと原氏は振り返ります。そこでこのHOOOP上に、様々な施策を矢継ぎ早に展開し、入居者にとってのHOOOPの利用価値を、継続的に高めていく取り組みが推進されることになったのです。
その1つとして原氏が挙げるのが、「家賃ポイント」の変革です。登喜和では以前から毎月の家賃100円に対して1ポイントを付与し、それを住み替え時の手数料に振り替えることができました。Salesforce導入後はそのデータをSalesforce上で一元管理、HOOOP開始後は入居者がポイント管理やポイント利用を自分自身で行えるようにすると共に、利用領域を大幅に拡大していったのです。
「具体的には、弊社が行うイベントやキャンペーンの参加クーポンや、地元店舗サービスの利用券・商品券との引き換え、地域で行う体験イベントへの参加などに利用できるようにしています」と説明するのは、登喜和 セールスプロモーション 部長を務める藤野 恵理子 氏。スマートフォンにQRコードを表示させ、それを地域の各店舗で読み込んでもらうことで、スタンプラリーが行える仕組みも作り上げていると言います。
「家賃ポイントを地元店舗で使っていただく『地参地消ポイントキャンペーン』は2016年からスタートしていましたが、入居者様にお申し込みいただいて紙のチケットを郵送する方法だったこともあり、当初はなかなか送客数が増えませんでした。HOOOP開始後はこれをQRコードとして発行すると共に、利用していない入居者様への通知なども実施。その結果2022年には2017年に比較し、約2.5倍の送客数を実現しています」。
QRコード発行時には、入居者へのアンケートも実施。住み替えを検討している入居者には、転居先候補などの情報提供を行っています。これに加えて、地元イベントに参加してもらった際には、直接ヒアリングを行い、入居者の住み替え意向などを確認。2022年7月には本社社屋にワクワクする場「HAREL」を併設して、地元の人々と一緒にイベントを行えるようなスペースを設けています。
「『地参地消』などの取り組みによって、地元の協賛店様との接点も増えています」と言うのは、登喜和 セールスプロモーションを担当する小暮 知香 氏。家賃ポイントによる送客によって新たな顧客が増え、感謝されることも多くなったと語ります。「私が入社したときにはHOOOPがすでにありましたが、それをここまで発展させることができたのは、長年Salesforceでお客様の情報をしっかり管理していたからだと思います」。
3. HOOOPへの月間ログイン率は7割を突破、入居率も年平均97%に
HOOOPの活用施策としてもう1つ注目したいものがあります。それは「共用部通知くん」という仕組みです。
「これは建物共用部で発生している問題を、入居者様に写真付きで通知していただくというものです。HOOOPに投稿された通知はすぐに弊社の管理担当者に送られ、3営業日以内に適切な対応を行った上で、通知してくださった入居者様にポイントを進呈します。これによって入居者様の不満が大きくなる前に事象を把握でき、通知してくださった入居者様もポイントが得られるという、Win-Winの関係が作られつつあります」(小暮氏)。
この他にも登喜和は、HOOOPによって以下のような取り組みを行っています。
- 入居者の誕生日にプレゼント進呈のQRコードを配信
- 入居者による入居時の室内セルフチェック
- 入居者にパーソナライズされたハザードマップの提供
- 外国人入居者向けの多言語での「住まい方ガイド」の提供
このような数々の取り組みが功を奏し、現在では月間ログイン率が70~75%へと上昇。入居率も年平均で97%に達しており、入居者の高いQoLを実現していることがわかります。
その一方で、各種イベントで得られた住み替え意向の情報をもとに、潜在的なリードを獲得していくための取り組みも推進しています。「これによって、賃貸住み替えリード獲得数は以前に比べて320%に増大、購入住み替えリード獲得も55倍になりました」と藤野氏。「2023年にはAccount Engagementも導入し、リード対応の効率化に取り組んでいます」。
このようにデジタルで利便性を高めるだけではなく、それをリアルな地元店舗やイベントと結びつけることで、顧客との新たな関係を構築しつつある登喜和。今後も新たなアイディアを具現化しながら、デジタル活用の幅を広げていくと言います。
「以前の取り組みは『デジタル化のためのデジタル化』でしたが、アナログとデジタルの連携をさらに強化することで、新たな価値創造につなげていきます」と原氏。「弊社で活用している数々のSalesforce製品は、そのための『BizOpsプラットフォーム』です。これによって根をしっかり生やしておくことが、ビジネスの幹や枝葉の成長、さらには開花へと結びついていくと考えています」。