ワシントンD.C. OAGは、デジタルアプローチで養育費を届けています

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21世紀にふさわしい子育て支援を

子育て支援サービスは、子どもたちの生活水準を維持し、すべての基本的なニーズを充たすことを目的としています。ただ、ワシントンD.C.の子育て支援担当チームは、その役割以上の活動を行っています。支援サービスが確実に提供され、子どもたちが順調に成長できるように、7万5000人の親子を支援するネットワークを管理しているのです。コロンビア特別区の司法長官事務所(以下、D.C. OAG)のCIO Chris Tonjes氏は、次のように話します。「私たちは、極めて重要で注目度の高い公的支援プログラムを管理しています。援助が必要な子どもたちに、支援金やサービスが確実に提供されるよう、他の福祉関連機関と協力しています。また、子育て支援を申請している親権者の状況にも注意を払っています。親権を持つ親が、子育て支援だけでなく、補助的栄養支援プログラム(SNAP)、貧困家庭向け一時援助金プログラム(TANF)、および家賃支援などの援助を受けており、経済的に注意が必要なケースも見られるためです」

その中でTonjes氏のチームのミッションは、子育て支援を必要としている親、支援金を受けている子ども、および支援部門に属する200人の事務所職員らに最良のサービスを届けることです。住民だけでなくシステムを利用する弁護士、司法書士、ソーシャルワーカー、調査官、会計技術者(※1)などのスタッフにも役立つ仕組みです。D.C. OAGはサービスや支援プログラムを通じて責任を持った子育て、子どもの幸せ、良い親子関係、および親の義務の履行を促進しています。

Tonjes氏は、「私たちの目標は、迅速に開発することができ、柔軟に設定変更できるシステムを作り上げることでした。状況の変化に素早く対応でき、他のプラットフォームとの連携が可能で、完成度が高く安定したエコシステムを備えたシステムが必要だったのです」と話します。当時運用していたシステムは、1980年代初頭に開発されたもので、サーバなどのITのキャパシティを考えて設計されたものでした。Tonjes氏とチームは、古いテクノロジーによって提供できる行政サービスに制限があるようなシステムを刷新し、住民の利便性を高めるために新たなテクノロジーを採用することにしました。

重複なく正しいデータ(信頼できる唯一の情報源)を管理できるシステムへの挑戦

Tonjes氏は、「住民の要望は変化し、ワシントンD.C.の法律も状況に合わせて改正されていきます。法律の改正はプロセスの変更につながり、プロセスの変更に合わせてシステムも変更しなければなりません。私たちが役割を果たすためには、最新のニーズに合わせてシステムを変更し続けなければならないのです。公共分野のニーズを満たすことができ、データの中心を明確に規定した設計になっていて、さらに状況の変化にも容易に対応できるプラットフォームを採用する必要がありました」と話します。

紙で管理されしかも複数のレガシーテクノロジーで作成されたシステムにまたがっていた業務プロセスを改革するための解決策を、D.C. OAGは模索することになりました。D.C. OAGでシェアードサービスのチーフ代行を務めるAngelisa Young氏は以下のように話しました。「私たちは、システムを移行しようとしただけでなく、オフィスも移転しました。紙の申請書は、机に山積みされたり、ジャケットのポケットの中に放置されたまま忘れられてしまったりします。私たちは、住民が自宅から24時間いつでもサービスを申請できる方法を必要としていました」。D.C. OAGは、誰でも利用しやすいポータルの構築に取り組みました。目指したのは、ユーザーの負担を最小限に抑えながら、分断された複数のアセット(例えばコールセンタのような)を連携させ、管理する情報のセキュリティを万全に保てるポータルです。さらに、支援の申請段階から支援金が実際に支給されるまでのプロセスをトラックするために、申請者とのコミュニケーションの履歴も管理する必要がありました。

 

ライフサイクル全体を管理するプラットフォーム

D.C. OAGは、養育費に関わるライフサイクル全体を管理する子育て支援システムを開発・運用開始しました。このシステムにより親権者は、自身のPC、タブレット端末、またはスマートフォンからポータルにアクセスし、支援プログラムを申請できるようになりました。以前は、住民がオフィスに来て紙に記入し申請する必要があり、申請してもその後の申請の承認状況は全くわからないという、ユーザ目線には全くなっていないシステムでした。

Tonjes氏は、「私たちが望んだのは、迅速な立ち上げが可能で、応答速度が速く、オムニチャネルに対応できるシステムでした」と話します。「設計段階では、残すシステムとの連携やセキュリティだけでなく、データがどのように生成され、どう処理され、システムの中をどのように流れていくのが適切かということも検討しなければなりませんでした。申請者の手続きフローがどの段階であっても、その経緯を速やかに把握し、ユーザーが抱えている問題に対応できることを重視したためです」。

D.C. OAGは、支援申請の申立書類一式やその他の裁判所提出書類の作成を自動化し、養育費の法的手続きのフローを管理する仕組みを開発。申請者、裁判官、および職員がそれらの書類に簡単にアクセスできるようにしました。同時に、レガシーシステムとSalesforceを連携させ、支払金額と支払先を一覧表示できる資金管理モジュールも開発しました。「2つのシステムが蓄積したデータは、完全かつ正確に同期できました。Salesforceを使えば、APIを容易に活用できるため、これまで抱えてきた問題は完全に解決しました」(Tonjes氏)

 

「私たちが望んだのは、迅速な立ち上げが可能で、応答速度が速く、オムニチャネルに対応できるシステムでした」

 
 

子育て支援システムとは

  • 新たなシステムは、Government Cloud Plus 上に構築されているSalesforce Customer 360 プラットフォームを利用して開発しました。コンプライアンスを遵守し、システムへの脅威を最小化できるプラットフォームを採用したことで、ITインフラのスケーラビリティを高め、セキュリティ能力を向上することができました。カスタマイズや機能追加の際には、ドラックアンドドロップだけで開発可能なノーコード環境を利用可能。直感的に操作できるポータルを備えているため、ユーザーとなる親権者のサービス体験をパーソナライズして提供できます。また、システムを利用するすべての関係機関や職員の業務プロセスを最適化することもできました。

    セキュリティ関連では、Salesforce Shieldを導入。プライバシーに関する法律や要件を容易に遵守できるようになりました。
  • ポータル経由でセルフサービスの利用:申請者が利用するポータルは、Experience Cloudベースで開発。直感的に操作でき、セルフサービス方式のものになっています。申請者は、このポータルにアクセスし、申請者自身と子育て支援金の対象となる子どもの基本的な個人情報を入力します。次に、画面の指示に従って予備的な質問に回答し、結婚許可証、出生証明書、政府発行の身分証明書などの必須書類をアップロードします。すると、これらの申請書類はSalesforceのケースポートフォリオに蓄積され、職員による審査プロセスへと移ります。Young氏は、「申請者は、自ら進んで多くの情報を私たちと共有しようとしてくれます。ですから、アップロードされた情報に不足が生じることはそれほど多くありません。私たちが目にするのは、誕生日パーティーの写真や病院で我が子を初めて抱いた父親の写真だったりします。申請者が提供してくれた写真を見ると、私たちは、単に子育て支援の申請を受理しているのではなく、家族としての忘れがたい出来事を重ねながら子どもたちが健やかに成長するために支援活動を行っているのだと実感します」と話します。書類審査により申請が適性であることが確認されれば、その申請ケースは確定します。プログラムが実行に移されてからは、Service Cloud上で、個々のケースが管理され、ケースワーカーはその履歴をたどりながらレビューと管理を行うことになります。「組み込まれたAIのおかげで、私たちは、申請ケースをケースワーカーに割り当てる前に、書類が適正かどうかを確認することができます」オムニチャネルとSMSの統合により、申請者は、申請手続き中いつでも、あらゆるデバイスから、テキストベースのチャットでコミュニケーションをとることができます。これは、申請フローを360度可視性する取り組みにも寄与しています。Tonjes氏は、次のように話します。「最新の音声テキストのシステムを利用したかったのですが、このポータルシステムのおかげで実現することができました。」
  • 基盤にイノベーションを:作成されたケースの基本情報は、多くの場合現場のケースワーカーと彼らの上司によってそれぞれ個別に確認されます。Tonjes氏は、「Lightning Platformによるシステムのおかげで、正確かつ包括的なデータを取得できるようになりました。ユーザーのエンゲージメントが向上し、業務に関する深いインサイトを得られるようになりました」と話します。以前のシステムは、1つのケースに関して15もの画面にわたって入力をしなければならず、そのために長時間のトレーニングが必要でしたが、いまやそれは必要ありません。Webベースの使い勝手の良いGUIで作成された子育て支援システムにより、素早く情報にアクセスし業務を実施することができるようになりました。 Tonjes氏は、次のように続けます。「さらに、Salesforceとオンラインストレージシステム(英語)を連携させたことで、業務効率は飛躍的に高まりました」
  • よりスマートに仕事をするための高度な分析:D.C. OAGは、CRM Analyticsも導入し、さまざまな業務を効率化しました。Salesforceのデータと他のシステムのデータを連携し、可視化することによって、最新のトレンドと業務の現状、および成果についてより深く理解できるようになりました。さらに、Tonjes氏とそのチームは、ノーコードで簡単にセットアップできるAIを利用し、ポータルにバーチャルアシスタントを組み込みました。たとえば、「私の申請状況はどうなっていますか?」、「私の次の支援金の支払いはいつですか?」などのシンプルな問い合わせには、ボットが答えてくれます。さらにAmazon ConnectコールセンターにIVR(自動音声応答)を導入し、申請者が申請状況を電話で問い合わせたり、オペレーターからのコールバックを予約することも可能になりました。
 

テクノロジーへの投資は、ミッションにコミットすること

システム開発はユーザー中心のアーキテクチャを採用し、すぐに使えるツールを活用し、アジャイルで行いました。その結果、内部と外部の生産性をどちらも高めることができました。Young氏は、次のように話します。「私たちは、完全かつ正確な情報を収集しながら、支援申請をこれまで以上に素早く処理できるようになりました。しかも、コスト効率も維持できています。連邦政府からは、支援申請を受理してから20日以内にその処理と承認を完了するよう指示されていますが、それを可能にした大きな要因がこの新たなシステムです。私たちが申請ケースを素早く処理すればするほど、裁判所の審理を経て、援助を待つ子どもたちに支援金が届くのも早くなります」。1日あたり50を超える申請を受理しながら、チームがミッションを遂行し、理念を守ることができるのは、システムが業務の効率化を支えてくれているためです。

オムニチャネル戦略も正解でした。現在、60%を超える支援申請はスマートフォンからのものです。そして、10%はタブレット端末を通して行われています。Tonjes氏は、「住民が、どのようなデバイスから支援申請を行っても、同じユーザー体験を提供できるように取り組みました。申請者が、どんな場所にいても申請を行えるのは素晴らしいことです。私たちは、これこそが究極のユーザー体験だと信じています」と話します。

D.C. OAGの事例が示唆するのは、クラウドの手法において、何が有効で何が有効でないかを理解した上で、システム上で何を実行し、何を実行しないかを決定すべきだということです。Tonjes氏は、次のように話します。「目標達成への近道として、問題ないと思われるプロセスをスキップするのは簡単なことです。しかし、そのためには、まず、エコシステムの中で何が有効に働くのかを理解しなければなりません。今回のシステム構築で、私たちが順調に成功への道を進むことができたのは、血のつながった親、育ての親そして私たちのスタッフにとって有効に働く強固な基盤とエコシステムを作ることができたからです」。Young氏は、さまざまな世代で構成されるチームを立ち上げるときには、まず、チームメンバーにツールの正しい使い方を教育することに投資すべきだと指摘します。「すべての人が、私たちのようにテクノロジーに通じているわけではありませんし、また、そうなってほしいわけでもありません。したがって、システムを導入する前に、真摯な姿勢でチームのトレーニングを行わなければなりません。また、システムの最適な活用法について、積極的に意見を交わすことも重要です」。

 

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