第5章:テクノロジーの活用方法
デジタルファーストで、無駄のない、倫理的な設計を実現
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デジタルファーストの世界に対応するには、会社の本質を根本的に見直す必要があります。
Bank of AmericaのCEO、Brian Moynihaの一言、「私たちは大手銀行の顔をもつデジタル企業です」はそれをよく表していると言えるでしょう。銀行、電話会社、小売業者や医療会社であろうと、ソフトウェア会社が毎日使用するような独自のツールやアプローチを用いて、デジタル企業に変革する必要があります。
つまり、多くの部門別ITから、企業全体規模でデジタルオペレーティングモデルへと移行する必要があるのです。これは、無駄を最低限に抑えた技術スタックへの移行と考えてください。
包括的なデジタルオペレーティングモデルを軸に調整するITとビジネス
まず、デジタルカスタマー戦略を実現するためのデジタルオペレーティングモデルを明確にするところからはじめます。この戦略は、ビジネスリーダーとITリーダーの双方が管理する戦略的な投資計画と連携している必要があります。投資計画は、ビジネス側とIT側の両方が求める新たな機能をしっかりと定義した後に、双方が同意したもっとも重要な成果と測定方法にもとづいて、優先的に策定されなければなりません。
多くの場合、この転換プロセスはまずアプリの数を減らし、さらにできるだけ多くのアプリをパブリッククラウドに移行するといったシンプル化から始まります。また一度作った機能は何回でも再利用できるようにしておきましょう。
こうすることで、チームは共有データ、アプリ、APIを活用して、機能をすばやく作成できます。また、ビジネスを深く理解している「DevOps」チームを利用すれば、開発を俊敏に進めることができます。ローコードやノーコードツールを使えば、ビジネスアナリストは必要な機能を自ら構築することができます。
単一のエンタープライズデジタルガバナンスモデルの構築
次のステップでは、デジタルオペレーティングモデルの土台となるガバナンスモデルを定義します。多くの企業において、テクノロジーをシンプル化する際に一番の課題となるのは、部署ごとにテクノロジーソリューションの理解と使いやすさのレベルが大幅に異なることです。その結果、チームはサイロ化し、顧客データの「信頼できる唯一の情報源」(Single Source Of Truth)を持たず、アプリやその他の開発コンポーネントを再利用しないまま複数のイニシアティブをビジネス全体で実行してしまいます。
Salesforceの顧客の中でも特に成功している企業は、プログラム管理を統括する「デジタル変革オフィス」のようなガバナンスモデルを構築し、テクノロジーを用いた複数の取り組みの調整を行っています。このチームは次の3つの戦略目標に力を入れています。
- シームレスで円滑な顧客体験を提供するために、チームをサポートすること
- 会社のテクノロジーアーキテクチャを全般的に維持し、戦略的な投資計画への取り組み価値の評価を視覚化すること
- ビジネスリーダーが共有プロセス、API、データを最大限に活用し、それらを会社全体で再利用する方法を理解できるように、テクノロジーの専門知識を提供すること
信頼できる唯一の顧客情報に向けた計画的な道を構築
SalesforceがForrester Consultingに委託した(英語)500人のビジネスリーダーを対象とした最近の調査によると、そのうち80%が、顧客に関する単一の情報源は会社にとって「重要」または「不可欠」な価値をもたらすと回答しています。
多くの企業は、タッチポイント全体を網羅した一元的な顧客データを把握していないため、パーソナライズされた体験を提供することができません。
入荷待ちの商品について、顧客がカスタマーサポートへ電話で問い合わせている場面を想像してみましょう。コールセンターの担当者は、顧客が行っているオンライン操作を確認できず、顧客の過去の購買履歴のみ確認できます。その場合担当者は、顧客のカートに追加されている商品について他の選択肢を提示して購入につなげるチャンスを逃してしまいます。さらに通話メモを別のアプリに記録しなければならないとしたら、こうした機会の喪失がさらに積み重なっていきます。お客様が実は何をしようとしているのか、企業に何をして欲しがっているのか、誰も全体像を把握することができず、関係を深めるためのアクションを起こすことができなくなります。
そこで、重要な役割を果たすのが、CRMプラットフォームです。なぜならば…
- 従業員の仕事に必要なツールの数を集約し、無駄を減らします
- 顧客にもっとも近い従業員が適切な体験を適切なタイミングで提供できるようにします
- データだけでなく、インサイトとレコメンデーションを提供します
- 顧客データの共有を容易にします
- API、IoT、プラットフォームエコノミーの時代に、柔軟性とつながりを維持することができます
CRMプラットフォーム上でこれまで以上に詳細な顧客プロファイルを入念に作成し、顧客、従業員、パートナーにふさわしいジャーニーをマッピングします。次に、それらのジャーニーに沿って具体的な成果を達成するために必要なデータを探す方法を考えます。さまざまな部署に分散しているデータ群を、再利用可能なAPIを用いて接続します。従業員のデータ入力体験を、目的を反映する形で設計することで、従業員は容易に滞りなく作業を進められるようになります。その結果、従業員の快適さのレベルが向上し、新たなソリューションの受け入れがさらに進みます。最後に、データへのアクセスは、部署ごとではなく社内の役割が似ているかなど、内容を考慮して判断します。
実行すべき主なアクション
- テクノロジーを利用してチームを統合
- ビジネスリーダーとITリーダーを集め、顧客の成功に焦点を当てた1つのチームとして行動します。
- コラボレーションツールを使用し、部門の枠を超えたプロセスを形成しながら、チーム全体で情報を共有してサイロを統合します。
- 再利用可能なAPI、データセット、プロセスを作成
- 共通のデータセットやプロセスをまとめた共有ライブラリを構築し、開発のスピードアップを図ります。
- ビジネスチーム全体でライブラリを共有し、ライブラリの使用方法に関するトレーニングを実施します。
- こうしたベストプラクティスを活用することで、提供速度を速め、システムの柔軟性を向上します。
- APIを利用して付加価値をもたらす
- 社内チーム間での共有に加え、エコシステム全体でAPIを利用できるようにすることで、新たなソリューションをすばやく立ち上げます。
- プロセスや人材およびテクノロジー戦略をスピードアップし、顧客のニーズにすばやく対応できるようにします。
倫理的な設計、開発、テクノロジーの利用を徹底
無駄のないプロセスを確立するには、テクノロジーの倫理的な使用を徹底することも重要です。そうすれば、将来的な開発の問題を回避し、責任を持って、革新的な方法でテクノロジーを利用することができます。
変革そのものと同様に、テクノロジーの倫理はチェックリストを単に実施するのではなく、意識の持ち方が重要になります。人間の心に働きかけなければならないので簡単なことではありませんが、成功すれば全員がテクノロジーの成果を通じて思考する文化が醸成されます。検討すべき要素は次の2つです。
ここで役立つのが、Consequence Scanningという、DotEveryoneが考案したアジャイルな手法です。この手法は新機能をリリースした際に起こりうる予期せぬ結果を想定し、それを軽減するためのプランを社員が決定するというものです。これにより、チーム全体の負担を軽くできます。詳しくは、こちらの記事(英語)からご覧ください。
テクノロジーを利用する際には、常にスピーディなイノベーションが求められます。しかし迅速な行動を求められたとしても、配慮を忘れてはいけません。自由と人権(英語)を念頭に置いて設計することで、顧客からのより大きな信頼、エンゲージメント、そして採用を実現できるのです。倫理的に設計(英語)することをビジネス運営の一部と捉え、それが日常業務であるテクノロジーの設計、開発、導入にとって不可欠なものだと考えるべきなのです。
実行すべき主なアクション
- 多様な視点を養う
- 従業員、顧客、コミュニティからの意見を歓迎し、尊重する意志を示しましょう。
- 多様な経験を備えた機能横断型のグループを連携させて、意思決定や設計に参加してもらい、製品レビューを行います。
- 積極的に耳を傾け、思い込みを疑う
- 社外のパートナーなど多方面からのフィードバックを募り、自社製品やソリューションに潜む意図していなかった結果や先入観、ズレを明らかにします。積極的に耳を傾け、厳しい質問をする(英語)ことから始めます。
- 社員の能力を育成
- 積極的に「なぜ」と問いかける行動規範と構想(英語)を確立します。オフィスアワー(相談の受付時間)や匿名のホットラインなどの複数のチャネルを介して、ステークホルダーや従業員からフィードバックを得られるようにします。