株式会社LIFULL
業務データに、Salesforce Einsteinを適用し、
退会阻止 / 売上向上の取り組みを開始
Salesforceのさらなる活用に向け、
CoEユニットを立ち上げ
同社は約10 年間、Salesforceを利用してきた。当初は売上管理のためだけに活用していたが、さまざまな部署で活用が開始。その結果部門ごとに連携が取れないなどの課題も出てきたが、時間をかけて組織を統合し、いまでは全社のビジネスインフラとしてSalesforce利用を続けている。
2018 年には、Salesforceを使って社内の業務革新を加速していくことをミッションとした「CoEユニット」が立ち上がった。ユニット長 籔田 綾一氏は、「立ち上げから1 年は、全社的な売上向上に貢献することを目指し、主に営業マネジメントの高度化に取り組みました」と振り返る。しかし、売上はアップしたが、現場の力が向上したためなのか、それともSalesforceによる成果なのかを判断するのは難しかった。
「そのため、2 年目からはユニットとしての戦略を練り直し、営業戦略とシナジーを生みつつ、Salesforceによるコスト削減が可能な施策を主体とし、成果を上げることができました」(籔田氏)
その1つの取り組みに、LIFULL HOME'SにおけるSalesforce Einsteinの活用がある。LIFULLHOME'Sは物件を探すユーザーと不動産業者のマッチングサイトで、物件を掲載している不動産業者は、コンテンツの供給元でもある大切な顧客だ。そのため同社では、顧客である不動産業者向けに、Tableauを使って視覚的でわかりやすく、地域のユーザー動向を顧客別にレポートにまとめ、Community Cloudを通して提供するなど、さまざまなアプローチで満足度向上を図っている。
大量データを高速に処理できる
Salesforce Einstein活用の前段階として、開発推進グループ 真柴 翔一氏はCoEユニットの立ち上げ時から、Salesforceのレポート/ダッシュボードをさらに発展させる役割を担った。Salesforceに蓄積されたデータを整理して、より高品質なレポート/ダッシュボードを開発するとともに、Tableauを使った顧客向けレポートも整備した。
「レポートを作るためにはデータが必要で、不足しているものがあれば”レポートを作るために集める”ことになります。Salesforceのレポート機能は社内向け、より視覚的に伝えたいお客様向けにはTableauで作るという切り分けをしながら作業を進め、同時にデータが整ってきました」(真柴氏)
ユニット長の籔田氏はレポート作成で経験を積んでからAIに取り組みたいと考えており、ここまでは目論見どおりだった。しかし、Salesforce Einsteinの機械学習を受注確率予測に適用しようとすると、データが不足してしまいそうな項目があった。同社の営業プロセスは極めて短く、商談は早ければ即日完了してしまう。そのため、成約情報はあるものの営業活動履歴を追える案件数が少なかったのだ。そこでCoEユニットでは、まずはデータがそろっている退会予測分析から試してみることにした。
退会の主要因はROIになる。期待したほどの問い合わせがなく、成約に結びつかなければ契約は継続されない。そこで、解約に影響しそうな要素を50個抽出し、スクリーニングをかけながらモデル作成に取り組んだ。真柴氏にとって、AIに触れるのは今回が初めてだった。
「Salesforce Einsteinには、利用したデータの中から類似した結果を導くものを指摘して”このデータを使うなら、こちらは使わなくてもいいのではないか”と教えてくれる機能があります。また、モデルの精度を数値として示してくれる機能もあります。これらがとても便利で、データを入れ替えながら何度もエンジンを回し、モデルをブラッシュアップできました」(真柴氏)
退会リスクの高い顧客を抽出できるようになったことで、営業担当者が先手を打って適切にサポートできる準備が整った。現在は、データにもとづいてフォローメールを送るプロセスが完成した段階だ。今後はこの仕組みを生かし、現場が積極的に地域の最新状況やユーザー層の詳細情報を顧客に提供し、問い合わせを増やすための掲載方法を一緒に考えるなど、さまざまな施策への展開を考えている。なお、同社では、Salesforce Einsteinを使い、AIモデルを約3 人日で構築できている。
真柴氏は、「弊社では別の部門でデータサイエンティストも活躍しています。彼らはAIの専門家でもあり、解析環境を新規に構築することなく分析を開始できることや、ビルトインの分析手法に加えてRベースのスクリプト言語を用いた拡張性を担保していることなどを評価してくれました」と話す。
受注確率予測もSalesforce Einsteinで
営業の現場には経験則があった。たとえば資本金や免許更新回数などから、「受注できそう」な営業先は肌感覚でわかる。しかし、それが共通言語化されておらず、膨大なリストの中から抽出することは難しかった。そのために現場からは、営業対象リストの優先順位をつけたいという要望があり、現場の感覚も生かしてモデル作成を行った。
2020 年3 月に第1 号モデルが完成。実際に営業プロセスに当てはめた結果、分析結果に対する影響の大きい項目が明らかになった。それらの項目を使ってモデルをブラッシュアップしたことで、アタック対象を分割し、アポイント取得率や受注率を改善。新規受注チームでは、Salesforce Einstein活用を含めたThe Model組織の実現施策を積極的に行い、人員の増加を3 割弱に抑えたまま新規受注会員数を前期対比300%に伸ばすことができた。
籔田氏は、「お客様にとって私たちの最大の価値は、問い合わせ数を返すこと。問い合わせを増やすために必要な手法や、地域内での自社のポジショニングを上げるために有効な情報をお客様向けポータルから伝えて、お客様に反応していただくすべてのプロセスをSalesforceで円滑に回そうとしています。Salesforce Einsteinを適用できる領域は、ますます増えてくると確信しています」と話してくれた。